日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
21 巻, 1 号
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原著
  • 春日 美穂, 錦戸 典子
    2018 年21 巻1 号 p. 4-13
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:産業保健師が保健事業評価を行う際に必要な専門能力を明らかにすることを目的とした.

    方法:産業保健師経験をもつ看護系大学教員10人に,「実践で行っていた保健事業評価の内容や流れと留意点および必要と感じた専門能力」「教員の立場で保健事業評価に必要と考える専門能力」をたずねた(以下,教員インタビュー).教員インタビューの結果について,実践を行っている産業保健師7人にフォーカスグループインタビュー(以下,FGI)で,実践の立場からの妥当性・追加意見をたずね,最終結果に反映させた.

    結果:教員インタビュー対象者の産業保健師経験は平均10.4年,教員経験は平均9.0年,FGI対象者の実践経験は平均18.4年であった.分析結果から《現状把握に基づく評価計画の立案》《評価に活用するための情報収集》《多角的なデータ分析と事業成果・健康施策全体を結びつけた意味づけ》《関係者へのわかりやすい成果の提示とモチベーション向上支援》《評価活動全体の基盤》の5つのカテゴリーが作成された.《評価活動全体の基盤》には,費用対効果や経営の認識が含まれた.

    考察:産業保健師が保健事業の成果や意味づけを人事・労務担当者等の職場関係者に伝えることで,関係者の動機づけが強化され,活動の推進につながると考えられた.また,費用対効果や経営の観点を認識することで,それらを踏まえた評価活動が可能となり効果的な評価が実施できると推察された.

研究報告
  • ―フォーカスグループディスカッションにより得られたデータの質的記述的研究―
    永田 千鶴, 清永 麻子, 堤 雅恵
    2018 年21 巻1 号 p. 14-22
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:地域密着型サービス(以下,地域密着型)における看取りの実践内容を筆者らの先行研究結果と比較し,看取りの実現に向けての行動や認識の変化を明らかにする.

    方法:A市の29か所の認知症対応型共同生活介護(グループホーム)および小規模多機能型居宅介護のうち,フォーカスグループディスカッション(以下,FGD)を主体とする研修に参加した8事業所の職員13人と,BおよびC市のグループホーム職員で話題提供者2人の合計15人が研究参加者である.研究デザインは,質的記述的研究であり,FGDでの発言内容をデータとし,2014年に実施した先行研究の分析結果と比較した.

    結果:地域密着型での看取りを実現するための行動として,《看取りの土台づくり》《医師との連携体制》《夜間の看取り体制》《看取り介護加算体制》《緊急時の体制》《住民との協力体制》《法人の方針に沿った看取り》といった【体制づくり】が強化された.また,〈医療機関とは異なるよい看取りをしている〉〈こんな看取りもあると気づいた〉という《肯定的な認識の変化》を認めた.そして《看取り経験による職員の成長》《介護職主体の看取り》を認め,職員は看取りの【力量】を向上させていた.

    考察:地域密着型での看取りを実現するために,体制づくりを強化して看取りの実践を積み重ねることで,地域密着型での看取りを肯定的に認識し,医療がない地域密着型だからこそ介護職が力を発揮して看取りを実践していた.

  • 二村 純子, 坂本 真理子, 若杉 里実
    2018 年21 巻1 号 p. 23-31
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:健康推進員活動における男性健康推進員の体験の特徴を明らかにし,男性健康推進員への支援方法の示唆を得ること.

    方法:A県下において健康推進員組織等を設置している自治体にて2年以上の健康推進員活動経験を有している男性12人に,半構造化インタビューを行い,質的帰納的な内容分析を行った.

    結果:健康推進員活動における男性健康推進員の体験の特徴は【女性が多い推進員活動への入りづらさ】【活動を前進させる力の自負】【責任を重んじる姿勢】【男女の強みを生かす活動運営】【行政とともに活動する意識】【推進員活動を通して生じる課題への直面】【人々が参加したいと思える活動の模索】【メンバーとのほどよい距離感】【人々との交流が健康に結びつく実感】【生活の変化の体感】【地域づくりに向けた視野の広がり】の11カテゴリーで構成されていた.

    考察:男性健康推進員は,女性が多い推進員活動への入りづらさを感じながらも責任をもって活動を前進させる力を男性の強みととらえ,男女の強みを生かす活動運営のなかで発揮していた.男性目線で活動を模索し,人々との交流を通して健康を推進していけるという気づきを得ていた.推進員組織を支援する保健師は,男性健康推進員のもつ体験や思いを理解し,男性健康推進員のもつ強みが効果的に発揮できるよう,メンバー同士のよい関係づくりの促進や活動の原動力となる体験を意識化できるようなかかわりを意図的に行う必要がある.

  • 小林 紗織, 白谷 佳恵, 田髙 悦子, 伊藤 絵梨子, 大河内 彩子, 有本 梓
    2018 年21 巻1 号 p. 32-39
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:高齢夫婦のみ世帯において認知症高齢者を介護する配偶者の経験を質的帰納的に記述し,今後の支援への示唆を得ることを目的とした.

    方法:研究参加者は,首都圏在住の高齢夫婦のみ世帯において,認知症高齢者を在宅介護している配偶者であり,本研究の趣旨を理解し,研究協力への同意が得られた5人である.方法は,質的帰納的研究であり,インタビューガイドを用いた半構造化面接および認知症カフェでの参加観察によりデータを収集し分析した.なお,本研究は横浜市立大学医学研究倫理委員会の承認を得て実施した.

    結果:高齢夫婦のみ世帯において認知症高齢者を介護する配偶者の経験について,【義務と恩返し】【翻弄と当惑】【新たな関係づくり】【模索と獲得】【悲嘆と適応】【孤独と支え】【世界観の広がり】の7つのカテゴリーが抽出された.すなわち高齢者のみ世帯において認知症高齢者を介護する配偶者は,自身の老いとつきあいながらも介護者として生き,介護を取り巻く社会問題について関心をもって活動し,介護を通して自身の世界観が広がっていく経験をしていた.

    考察:高齢夫婦のみ世帯において認知症高齢者を介護する配偶者への支援として,介護者の介護経験,すなわち翻弄や悲嘆にとどまらず新たな関係づくりや模索を通して介護生活に適応し,さらには社会に向けて活動を広げていくという経験を重んじた,介護者の気持ちに寄り添うかかわり,また介護者をサポートするための地域における体制づくりが必要である.

  • ―ステッピングストーンズ・トリプルP(Stepping Stones Triple P)実施前後比較より―
    西嶋 真理子, 柴 珠実, 齋藤 希望, 増田 裕美, 西本 絵美, 松浦 仁美
    2018 年21 巻1 号 p. 40-49
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:発達障害児の親を対象に前向き子育てプログラムのひとつであるステッピングストーンズ・トリプルP(以下,SSTP)を実施し,その効果と地域での導入について検討する.

    方法:地域の保護者会の協力のもと,3~12歳の発達障害児の親27人に対して筆者らがSSTPを実施し,介入前後の親の子育て場面でのふるまい(Parenting Scale;PS),児の行動の難しさ(Strength and Difficulties Questionnaire;SDQ),親の抑うつ・不安・ストレス(Depression, Anxiety, and Stress Scale;DASS),親としてどう感じるか(Parenting Experience Survey;PES)について比較し分析した.

    結果:介入前はPSやSDQのすべての下位尺度は臨床範囲あるいは境界範囲であったが,介入後はPSの親の多弁さと過剰反応,SDQの児の難しい行動の総合スコア,感情的症状,行為問題,交友問題,DASSの抑うつ,ストレスが有意に改善した.PESでは,得られた助け,パートナーとのしつけの一致度等が介入後に有意に改善した.7歳以下ではPS,SDQ,DASSのすべての下位尺度が有意に改善した.

    考察:地域の発達障害児の親を対象に行ったSSTPは,親の子育て場面でのふるまい,児の問題行動,親として子育てにストレスを感じる等に有意な改善効果が確認できた.特に児の年齢が7歳以下の家庭への改善効果が大きく,地域でSSTPを導入することが発達障害児と親の支援に有効であると考えられた.

資料
  • 中谷 久恵, 金藤 亜希子
    2018 年21 巻1 号 p. 50-55
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,行政保健師が行う家族への援助技術を明らかにし,保健師の学習ニーズを把握することである.

    方法:調査対象者は670人の行政保健師で,調査内容は保健師の属性(年齢,経験年数,所属,基礎教育,看護師経験の有無),家族への援助技術とその学習ニーズである.援助技術は筆者らが既存文献を検討して18項目を作成し,これらに対し「高めたい技術」があると回答した場合を学習ニーズありとした.調査方法は,統括保健師を介して無記名自記式で任意の調査票を配布し,個別に郵送で返送してもらった.

    結果:350人から回答があり,正規雇用者で属性に欠損値がない317人を分析対象とした.「高めたい技術」がある保健師は63.4%(201人)で,新任期(p<0.01)や4年制教育(p<0.01)および看護師経験がある保健師(p<0.05)に多かった.学習ニーズの項目数は平均が6.53±4.87で,20歳代(p<0.01)や新任期(p<0.01)の保健師および看護師経験がある保健師(p<0.05)に多かった.

    結語:看護師経験がある保健師や新任期の保健師は有意に学習ニーズが高かったことから,保健師の家族援助は行政機関での実務経験により習得される専門的技術であることがうかがえた.大学での基礎教育や現任教育での家族看護に関する教育の重要性が明らかとなった.

  • 横堀 花佳, 大河内 彩子, 田髙 悦子, 伊藤 絵梨子, 有本 梓, 白谷 佳恵
    2018 年21 巻1 号 p. 56-62
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,発達上の課題がある子どもとその養育者に対し,保育所看護師の支援内容の実際を明らかにし,役割や今後の活動における示唆を得ることである.

    方法:質的記述的研究であり,保育所において発達上の課題のある子どもとその養育者に対する支援を行った経験を10例以上もつ看護師5人を対象とした.半構造化面接を実施し,得られた逐語録からカテゴリーを作成した.

    結果:保育所看護師が行う支援は4の【カテゴリー】,21の《サブカテゴリー》からなり,カテゴリーとして【看護専門職としての時期に応じたアセスメントと児の発達促進】【養育者と関係性を構築したうえで行う発達上の課題への看護師としての対応】【職員間の共通理解と対応の検討を助ける】【専門機関と保育所をつなぎ専門機関から学んだ内容を園内に広める】から構成された.

    考察:保育所看護師は,診断の有無にかかわらず児への対応を行っており,同時に養育者に対して長期的にかかわることでニーズを把握し,園内の多職種,地域多機関連携につなげていた.また,保育士に対して,対応方法の支援と連携を行い,保育所全体の支援体制を確立することで,児と養育者への一貫したかかわりを行うことができると考えられた.一方で,園内で看護師として活動することや,関係機関への連携に課題が挙げられ,保育所看護師の専門性を生かした,さらなる園内と地域における連携が望まれる.

  • ―被災高齢者の語りより―
    佐藤 美香子, 張 平平
    2018 年21 巻1 号 p. 63-69
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/04/20
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    目的:東日本大震災を経験した漁村に暮らす高齢者の想いを明らかにすることを目的とした.

    方法:東日本大震災の被災地域の漁村に暮らす高齢者5人を対象とし,半構成面接にて聴取しデータの分析は質的統合法(KJ法)を参考に分析した.

    結果:5人の被災した対象者への個別インタビューから得られたすべての記述データを,KJ法を参考に分析した.その結果,311枚の元ラベル,36枚の表札,8つの最終表札を作成した.

     『東日本大震災を経験した漁村に暮らす高齢者の想い』の主題に基づいて【大津波による翻弄と悲嘆】【被災後の窮乏と苦悩】【心身機能低下への悔恨】【健康回復への願望】【公的扶助の恩恵と失望】【相互扶助によるつながりへの信頼】【再建の重圧と意欲】【地域で生きる希望】が抽出された.

    考察:東日本大震災を経験した漁村の高齢者は,悲嘆,苦悩,悔恨,願望,失望,信頼,意欲,希望等のさまざまな想いをもちながら状況に対応していた.支援にあたっては,高齢者自身が生きる目標をもてるように支援するとともに,漁村という地域を中心とした相互扶助を重視し,災害というリスクと共に生きる漁村の高齢者の背景を理解しながら高齢者の生きることを支援する必要があることが示唆された.

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