日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
20 巻, 1 号
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原著
  • ―Yokohama Locomo Study―
    白谷 佳恵, 田髙 悦子, 伊藤 絵梨子, 有本 梓, 大河内 彩子
    2017 年 20 巻 1 号 p. 4-12
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:都市在住自立高齢者におけるロコモティブシンドローム(以下,LS)の有症率ならびに男女における関連要因を把握し,健康長寿に向けた健康づくりへの示唆を得ることを目的とした.

    方法:横浜市在住の65歳以上の高齢者より無作為抽出された者へ無記名自記式質問紙調査および身体機能検査を実施した.主な測定変数はLSの有無,人口学的特性,生活習慣,改訂PGCモラール,前頭葉機能検査(FAB)等とした.分析はLSの有無を従属変数とし,ロジスティック回帰分析により検討した.

    結果:質問紙調査・身体機能検査をともに受けた302人を分析対象とした.対象者は,年齢71.7±5.2(範囲65~88)歳,男性168(55.6%)人であり,LSの有症者は155人(51.3%)であった.ロジスティック回帰分析の結果,男性では,暮らし向きにおいて「経済的に厳しい」(OR=13.15,95%CI:1.00~172.57),治療中の病気あり(OR=2.60,95%CI:1.16~5.82),改訂PGCモラール得点(OR=0.81,95%CI:0.71~0.91),前頭葉機能検査(FAB)得点(OR=0.79,95%CI:0.65~0.96),が影響し,女性では有意な要因がみられなかった.

    考察:高齢者のLS発症のリスク軽減については,運動機能とともにモラールおよび認知機能の低下予防にも着眼した健康づくりが必要である.

  • 岡本 玲子, 関 裕子, 合田 加代子, 岩本 里織, 小出 恵子, 芳我 ちより, 福川 京子
    2017 年 20 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,保健師の研究成果活用力尺度を開発することである.

    方法:原案15項目は,文献検討と研究者間の協議により作成され,予備調査を経て修正された.調査対象は中国地方で保健師が勤務する全行政機関184施設の常勤保健師約2,000人の2分の1であり,調査方法は郵送による自記式質問紙調査であった.倫理的配慮は文書で説明し,調査票の回収をもって同意を得たものとした.

    結果:調査票の配布数は1,094,回収数614(56.1%),うち有効回答604(55.2%)であった.項目分析の結果5項目を削除し,10項目に探索的および確認的因子分析を行ったところ,2因子の最適解を得,構成概念妥当性が確認された.下位尺度名は「問題解決に向けた研究成果の探索」「研究成果の吟味・適用・評価」とした.折半法奇偶2群の相関は0.91であり,クロンバックα係数は尺度全体で0.92,各下位尺度も0.8以上と信頼性(内的整合性)が確認された.外的基準とした専門職務遂行能力尺度と本尺度得点との相関係数は0.4~0.5, 基準関連妥当性(併存妥当性)が確認された.既知グループにおける群別の平均値比較においても有意な関連がみられ,既知グループ妥当性が確認された.

    結論:結果,10項目,2つの下位尺度からなり,一定の信頼性,妥当性を有する研究成果活用力尺度が開発された.今後,保健師の能力開発と評価に本尺度の活用が望まれる.

  • ―リフレクティブスキルの質評価に向けて―
    田中 美帆, 岡本 玲子, 小出 恵子
    2017 年 20 巻 1 号 p. 22-30
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,保健師学生が日常生活実践を通して行ったリフレクションの内容を質的記述的に分析し,概念化することであった.

    方法:分析対象としたデータは保健師学生20人が約8週間リフレクティブ・プラクティスの期間中に5回記述したリフレクティブジャーナルのうち,選定基準により内容がリッチだと判断した6人分であった.分析方法はSteps for Coding and Theorizationである.

    結果:分析の結果,自分を客観的に知るための道具である【自己理解のものさし】【比較】【行動目標】【コミットメント】等のリフレクションを構成する概念が抽出された.

    考察:分析により抽出された概念はAtkins & Murphyの5つのリフレクティブスキルの枠組みで解釈することができた.これらの概念は段階をもつことから,個々のリフレクションを評価する際の指標に活用できる可能性が示唆された.

研究報告
  • ―日常生活指導の実施とその関連要因―
    梅津 千香子, 福井 小紀子
    2017 年 20 巻 1 号 p. 31-40
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:HOT導入患者に対する病棟看護師の退院指導の実施内容とそれら関連要因を検討することを目的とした.

    方法:首都圏内の地域医療支援病院において,HOT導入患者の退院指導を実施した病棟看護師を対象とした質問紙による郵送調査を行った.HOT導入患者の退院指導の実施内容を因子分析にて,また,これらの関連要因を重回帰分析で明らかにした.

    結果:21施設の病棟看護師86人(回収率62.3%)からの回答が得られ,有効回答数は68人(79.1%)であった.HOT導入患者の退院指導の実施は,「食生活と栄養」「移動方法」「生活環境」「日常生活の工夫」「清潔保持」の5因子が抽出された.「食生活と栄養」「移動方法」に関する退院指導の実施に関連した要因は,退院支援学習会へ参加していること,HOT導入患者プライマリー担当件数がより多いことであった.「生活環境」に関する退院指導の実施に関連した要因は,日常生活自立度が自立またはほぼ自立していること,「日常生活の工夫」に関する退院指導の実施に関連した要因は,HOT導入患者のプライマリー担当件数であった.「清潔保持」に関する退院指導の実施に関連した要因は,勤務している病院においてHOT学習会が開催されていることであった.

    考察:退院指導の実施には,日ごろから退院指導の実績を積むとともに,専門的知識を高める学習会等の教育機会の確保や外来部門との連携が必要である.

  • ―乳幼児期に焦点を当てて―
    守村 里美, 吉田 礼維子, 針金 佳代子, 白井 英子
    2017 年 20 巻 1 号 p. 41-50
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:NICUを退院した脳性まひがある幼児を在宅で育てている母親の育児上のニーズを乳児期から明らかにする.

    方法:3歳以下の脳性まひ児(超低出生体重児4人・重症新生児仮死2人)を第1子として育てている母親6人に半構成的面接を行い,インタビュー内容を質的記述的に分析した.

    結果:脳性まひ児をもつ母親の育児上のニーズは,9つの大カテゴリーで構成された.《ミルクやごはんを十分に食べさせたい》《泣きやませて楽にしてあげたい》《筋緊張を和らげ,安全にお風呂や外出をしたい》は,食や睡眠・安全等の養育に関するニーズで,退院後に中枢神経系の症状が徐々に顕在化することで生じる特徴があった.障害がありながらも,療育施設の効果的なリハビリにより児の発達を実感すると,《子どもの成長のために母親としてできることはする》気持ちへ変化した.児の《成長を実感し,将来の見通しをもちたい》思いは,出生後から現在も続いていた.《家族から,育児の大変さの理解と協力を得られる》《安心して相談や治療が受けられる》医療,他の母親等と子どもの《障害の悩みを共有できる》《子どもや家族の状況に合ったサービスが受けられる》の養育環境に関するニーズがあった.

    考察:低出生体重児や重症新生児仮死は,脳性まひのリスクを予測して早期介入と児の成長発達をみながら継続した支援が必要であり,臨床看護職と地域看護職との連携した看護アプローチが求められる.

  • 頭川 典子
    2017 年 20 巻 1 号 p. 51-61
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は,保健師が運営するグループ支援を利用した母親を対象として,子どもへの接し方に悩んでいた状況が改善していく過程で,どのように子育てに対する考えや気持ち・子どもへの接し方が推移していくのかを明らかにすることを目的とした.

    方法:A市で実施していたグループ参加者(2008年度6人,2009年度4人)を分析対象とした.参加中の話し合いの録音と参加毎の感想文の記入,参加初回・終了時・終了半年後の3時点で質問紙調査と面接調査を実施し,「子どもへの接し方を振り返っての気づき」を抽出し,質的記述的分析を行った.

    結果:「子どもへの接し方を振り返っての気づき」から抽出された<カテゴリー>は各時期で特徴がみられた.参加中に<いままでの子育てや自分の子ども時代を内省しながら子どもへの接し方が改善するように努める>ようになり,終了時には<子どもへの接し方が改善したり周りを頼ることができるようになったと感じる>ようになり,終了半年後には<子育てや家事に対する新しい価値観を得ることで子どもに不必要にイライラしなくなる>ことを実感していた.一方で,子育てについての悩みや不安は各時期に存在していた.

    考察:母親はグループ参加を通じて子どもへの接し方を変えていく努力を積み重ね,新しい価値観の獲得に至っていた.保健師が安心して話せる場を提供し内省を促すことにより,母親の成長を支える一助になると考えられた.

地域看護活動報告
  • 室岡 真樹, 平澤 則子, 飯吉 令枝, 高林 知佳子
    2017 年 20 巻 1 号 p. 62-68
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:保育所における感染症対策強化のため,幼児が感染予防のための手洗いを習得できることを目指し,保育士の意識と幼児や保護者へのかかわりが変化する過程と保健所保健師の支援のあり方を検討する.

    方法:現場の変化を目指し介入していくためアクションリサーチを用いた.現場の変化および計画の実践状況をみながら1~2か月に1回程度の検討と介入を繰り返し,保育士の意識とかかわりの変化を分析した.子どもの手洗いの習得状況は手洗い評価基準により確認した.

    結果:7回の検討会により,子どもの手洗い指導等が計画・実施された.この結果,保育士の意識とかかわりは7段階で変化し【子どもの手洗いと保育士のかかわりの変化に向けた取組の開始】【子どもの手洗いの変化に向けた“個人”の取組】【“個人”の取組から“園全体”の取組へ】【子どもの変化に即した取組へ】【子どもの手洗いの定着に向けた取組】【取組の評価と今後の取組への意欲】【地域への広がりを考えた取組の検討】に整理できた.また,子どもの手洗いは研究終了時点の手洗い評価基準点数が研究開始前と比較し有意に高かった.

    考察:本研究における保育士の意識とかかわりの変化は,検討会等によりリフレクションが繰り返されたことによって促されたものと考えられ,この変化が子どもの手洗いの変化につながったと考えられる.また,保育所の感染症対策強化のため,現場への教育的支援と協働で取組を行うことの必要性が保健師の役割として示唆された.

資料
  • ―精神保健福祉業務経験年数による比較―
    吉岡 京子, 黒田 眞理子, 蔭山 正子
    2017 年 20 巻 1 号 p. 69-78
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:精神障害者に関する近隣苦情・相談への保健師の対応の実態と困難について精神保健福祉業務の経験年数別に解明することである.

    方法:53市区町村で精神保健を担当する659人の常勤保健師を対象に自記式郵送調査を2015年に実施した.調査項目は保健師の属性,最も対応が困難だった近隣苦情・相談について,苦情・相談を寄せた者とその内容,保健師の対応と感じた困難をたずねた.保健師の精神保健福祉業務経験年数が10年未満の者を「10年未満群」,10年以上の者を「10年以上群」の2群に分け,各調査項目についてt検定,χ2検定,Kruskal-Wallis検定で比較した.統計解析にはIBM PASW Statistics 22.0(Windows)を使用し,有意水準は5%未満とした.

    結果:有効回答の264人(40.1%)のうち10年未満群は159人(60.2%),10年以上群は105人(39.8%)であった.近隣苦情・相談は住民や行政機関内外の職員から寄せられ,精神障害者の入院を要求する内容が最多だった.精神保健福祉業務経験年数と近隣苦情・相談で感じた困難との間には有意な関連は認められなかった.10年以上群の方が10年未満群よりも近隣苦情を寄せた者に「精神疾患について理解を深めてもらう」対応をしていた者の割合が有意に高かった.

    考察:10年以上群の保健師は,近隣住民と精神障害者の双方が互いに生活しやすい地域づくりを目指して,近隣苦情・相談を寄せた者に精神疾患について理解を深めてもらうための対応を行っていた可能性が考えられる.

  • 永井 眞由美, 東 清己, 宗正 みゆき
    2017 年 20 巻 1 号 p. 79-85
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/04/20
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    目的:本研究では,訪問看護を利用している高齢者を在宅で介護している高齢介護者の社会的孤立の実態とその関連要因を明らかにすることを目的とした.

    方法:65歳以上の介護者313人に無記名自記式質問紙調査を行った.調査内容は,被介護者および介護者の特性,介護者の生活状況,日本語版Lubben Social Network Scale短縮版(以下,LSNS-6尺度)であった.

    結果・考察:調査票の回収数は116(37.1%),有効回答数は104(89.7%)であった.介護者の平均年齢は74.2±6.3歳,LSNS-6尺度で社会的孤立とみなされる「12点未満」の割合は37.5%であった.被介護者・介護者の特性,介護者の生活状況とLSNS-6尺度得点の関係をχ2検定で分析した結果,家族の支援,近隣の支援,経済的自由,地域活動への参加,家族以外との電話・メールの頻度において有意差がみられた.ロジスティック回帰分析の結果,家族の支援に不満足(OR=4.55,p<0.01),家族以外との電話・メールの頻度が少ないこと(OR=3.03,p<0.05)が社会的孤立に有意に関連していた.訪問看護師は,高齢介護者の社会的孤立予防において,家族のサポートに対する介護者の満足度や非対面的方法を含めた家族以外とのコミュニケーション状況を把握することが重要と考えられる.

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