日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
22 巻, 3 号
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研究報告
  • 渡邊 輝美, 小尾 栄子, 村松 照美
    2019 年 22 巻 3 号 p. 6-16
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:地域の健康課題を解決するための移住者と先住者の協働を推進する保健師の実践方法を明らかにすること.

    方法:移住者と先住者が混在した別荘地であり,高齢者のなかの移住者の割合が大きい自治体において,地域の健康課題の解決のために移住者および先住者の協働を推進した保健師の実践事例を,研究対象事例とした.調査方法は保健師との面接である.調査内容は,実践の準備から現在までの保健師の実践過程である.保健師の実践過程を経時的に複数の「方法」で表し,これらの「方法」を,実践活動の内容の転換時を境として「段階」に区分して分析した.

    結果:31年間の保健師の実践過程は,33の「用いた方法」と5つの「段階」で表された.5つの段階は,経時的な順序で,「A自治体内の高齢者の生活の定期的な把握」「地区組織で活動できる人材の発掘等」「地区組織に参加した者同士の関係の構築」「地区組織の活動の自立前における他者への働きかけへの支援」「地区組織の活動の自立後における他者への働きかけへの支援」として表された.

    考察:結果の5つの段階を移住者と先住者の協働を推進する観点から一般化すると,保健師の実践過程は,4つの段階として「移住者と先住者に関わる地域の健康課題の明確化」「地域の健康課題の解決に向けての移住者と先住者からの人材の発掘,および,関係機関への協力要請」「地域の健康課題の解決に向けた核となる地区組織をつくるための移住者と先住者の関係の構築」「地域の健康課題の解決を共通目的とした移住者と先住者による他者への働きかけへの支援」で表された.

  • 前田 明里, 永田 智子
    2019 年 22 巻 3 号 p. 17-25
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:外来看護師が患者の在宅療養支援ニーズに気づくためにどのような情報収集を行っているかを明らかにすることを目的とした.

    方法:外来患者の在宅療養支援ニーズを把握し,在宅療養支援を行った経験を有する全国15病院の外来看護師18人を対象として,外来で在宅療養支援ニーズを把握した事例への支援内容について半構造化面接を実施し,在宅療養支援ニーズに気づくために収集していた情報を質的帰納的に分析した.

    結果:外来看護師が患者の在宅療養支援ニーズに気づくための情報収集の内容として,【患者の治療や病状】【患者の受診行動のとり方】【同行者の来院時の様子】【患者の自宅での様子】【患者・介護者の自己管理やセルフケア状況】【患者・介護者の在宅サービスへの認識・申請状況】の6つのカテゴリーと41のサブカテゴリーが抽出された.

    考察:外来看護師は,患者の在宅療養支援ニーズに気づくために外来患者や同行者の変化について観察し,聞き取り等の看護実践から自宅での様子を推測していることが明らかとなった.今後は,これらの情報収集の実施により,在宅療養支援ニーズをどの程度把握できているかを明らかにし,適切な支援の提供のためのシステム構築に向けて検討する必要があると考える.

  • ―里親からのアプローチと家族の反応―
    石井 陽子, 富田 早苗, 波川 京子
    2019 年 22 巻 3 号 p. 26-33
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:里親家族への理解を深め,看護介入や支援の示唆を得るため,里親家族の始まり部分に焦点を当て,里親になるために里親が家族に行ったアプローチとそれに対する家族の反応を明らかにすることを目的とする.

    方法:1年以上養育里親をしている7人を対象に半構成面接を実施し,質的記述的にインタビュー内容を分析した.

    結果:里親が行った家族へのアプローチは,【里親になるという事実を共有する】ことであり,アプローチに対する家族の反応は,【里親家族になることを前向きに受け入れる】と【不安をもちつつ里親家族になることを受け入れる】の2つであった.

    考察:里親家族は「養育里親になる」という事実を家族全体で受け止め,家族として里子を支えていこうという決意のもと成り立っている家族であった.里親が安心かつ自信をもって里親家族を継続できるよう,児童相談所との連携強化等,里親家族が市町村の母子保健サービスを活用しやすい仕組みをつくり,里親支援に保健師が積極的に関与することが有効と考える.

  • 西嶋 真理子, 西本 絵美, 齋藤 希望, 柴 珠実, 増田 裕美, 達川 まどか, 仲野 由香利
    2019 年 22 巻 3 号 p. 34-43
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:療育機関に通所している未就学の発達障害児の親が感じている困りごとおよびペアレント・メンター(以下,メンター)への相談希望とその関連要因について明らかにする.

    方法:3歳から就学前の発達障害またはその疑いのある児を育てている親を対象に自記式アンケート調査を行った.内容は,発達障害の診断の有無,児の行動上・生活面での困りごと,親自身の困りごと,メンターの認知度や相談希望,メンターになる意志等である.児の年齢別・相談希望の有無別にχ2検定を行った後,相談希望に関連する要因を検討するためにロジスティック回帰分析を行った.

    結果:児の行動上・生活面・親自身の困りごとは各80%以上の親にみられた.メンターへの相談希望は82%,自身がメンターになる意志がある親は42%であった.メンターへの相談希望がある者は,発達障害の診断がある,相談相手と人間関係の不安がある,メンターとなる意志がある者に有意に多く,ロジスティック回帰分析の結果,メンターへの相談希望はメンターとなる意志ともっとも大きく関連した.

    考察:療育機関に通う未就学の発達障害児の親の多くは児と親自身の困りごとを感じ,メンターへの相談希望があった.メンターへの相談希望はメンターとなる意志ともっとも関連したことより,親が安心してメンターへ相談できるよう,将来メンターとなることも視野に入れて支援する必要性が示唆された.

  • 小林 愛, 丸尾 智実, 河野 あゆみ
    2019 年 22 巻 3 号 p. 44-53
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:訪問看護ステーションのスタッフが,新卒者の就職後1年間の成長をどのようにとらえ,どのような支援をしているかを明らかにすることである.

    方法:新卒者を初採用した2か所の訪問看護ステーションに勤務するスタッフ12人を対象に,新卒者の就職直後・単独訪問開始後・就職1年後に半構造化面接を行い,データを質的に分析した.

    結果:スタッフは,看護実践における新卒者の成長過程として,就職直後は【緊張があるが,基本的な態度や観察力を備え,利用者に自然に寄り添う】,単独訪問開始後は【不安や焦りがあるが,看護師としての自覚が芽生え,限られた訪問看護実践を行う】,就職1年後は【状況に左右されるが,責任感をもち,基礎的な訪問看護実践を行う】ととらえていた.スタッフは新卒者の成長を促進するために,就職直後,【環境を整え,みせながらいっしょに実践する】ことを中心に支援しており,単独訪問開始後は【思考を引き出しフィードバックし,補いながら実践させる】支援を,就職1年後は【課題を明確化し,確認しながら実践を積ませる】支援を中心に行っていた.

    考察:スタッフの認識から,新卒者は就職1年後には基礎的な訪問看護実践ができるまでに成長していることが示され,スタッフは新卒者の成長過程に応じて,自らの実践を「みせる」関わりから新卒者の実践を「補う」関わり,「確認する」関わりへと方法を変化させながら支援していることが明らかとなった.

資料
  • ―A市中堅保健師へのインタビューをとおして―
    後迫 由衣, 上月 悠衣, 和泉 比佐子
    2019 年 22 巻 3 号 p. 54-61
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/20
    ジャーナル フリー

    目的:保健師が新任期に感じた,地域で生活する統合失調症の母親に対する支援の困難とその対処を明らかにする.

    方法:地域で生活する統合失調症の母親の個別支援活動経験のある中堅保健師3人に,半構造的面接を実施し,データを質的記述的に分析した.

    結果:新任保健師が感じた地域で生活する統合失調症の母親に対する支援の困難として,【訪問前に抱いていた事例やその支援への否定的な感情や悩み】【経験のないなかでひとりで支援することへの自信のなさや不安】【統合失調症特有の症状に対する支援のむずかしさ】【母子共に生活するための支援を遂行するむずかしさ】の4カテゴリー,その対処として,【前向きな姿勢で事例と直接会い支援を積み上げていく】【事例と信頼関係をつくり,事例と児と共に歩む姿勢をとる】【疾患の管理と育児の両立を目標に個別的・具体的な支援を行う】【職場内の先輩・上司・同僚・他機関の職員の協力や支援を求める】【支援の予測や事例検討会などをとおして他機関と連携する】の5カテゴリーが抽出された.

    考察:新任保健師は,支援時だけでなく支援開始前から困難を抱えており,疾患と育児の支援の両立に困難を感じていたことから,保健師自身が対処方法を模索するだけでなく,上司や同僚も新任保健師が抱える困難を把握し,フォロー体制を整える必要があると考えた.

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