日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
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13 巻, 1 号
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  • 本田 光, 宇座 美代子
    原稿種別: 本文
    2010 年 13 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    これまで保健師は,住民相互による関係性の再構築によって地域の健康を支える活動を展開してきたが,これら保健師活動の対象であるコミュニティーをアセスメントするためには,従来の保健統計指標だけでは十分ではない.人への信頼について,昨今の先行研究を踏まえつつ議論を深めることによって,保健師による地域活動の根拠となる新たな指標を提供したい.そこで本研究では,人への信頼の性質と程度を測定するための尺度開発と,その理論的検証を目的とした.まず,文献による「信頼」の仮説的枠組みに沿って質問項目を作成し,概念的妥当性の検討として因子分析を行った.次に,地域へのコミットメント,およびSOC(首尾一貫感覚)との関連性の検討を行った.分析対象者は,沖縄県の離島A市における3歳児健康診査対象児の保護者338人であった.分析の結果,男女とも次の3因子が抽出された.第1因子「絆を築くための戦略的信頼」,第2因子「社会一般の人に対する信頼」,第3因子「特定の人に対する信頼」.地域へのコミットメントのうち,地域参加の頻度との関連において,第2因子と第3因子に相関が認められた.地域への誇りや愛着との関連には,すべての因子において正の相関が認められた.SOCとの関連は,すべての因子において正の相関が認められた.6項目のα係数は男性.737,女性.774であった.以上の結果から,人との信頼を測定する尺度は一定の妥当性と信頼性が得られたと判断した.
  • 大野 美賀子, 西嶋 真理子, 矢野 知恵, 藤田 みどり, 井出 彩子
    原稿種別: 本文
    2010 年 13 巻 1 号 p. 44-51
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:家族の保健機能の中心的存在であり,子どもの社会的自立を支える大きな役割を果たしている子育て中の母親へのサポートの方向性を探るため,社会的健康度尺度の開発を試みた.方法:A県B市における1歳6か月児健診対象者の母親743名を対象に無記名の自記式質問紙を郵送し,そのうち214名を分析対象者とした.結果:社会的健康度質問紙を作成し,23項目で調査を行った.調査の結果,天井効果のみられた1項目を除き,22項目で因子分析を行い,Promax回転による因子分析を繰り返し,4因子19項目を採用した.4因子のCronbachのα係数は,すべての因子において.70以上であった.社会的健康度尺度の「子育てに伴う制約感(逆)」と母性意識尺度MP(肯定的意識)との間には正の相関,MN(否定的意識)との間には負の相関が認められた.考察:19項目からなる社会的健康度尺度を検討した結果,子育て中の母親の役割受容に対する意識や社会との関わりを評価する指標の1つとなりうることが示唆された.
  • 桑原 ゆみ
    原稿種別: 本文
    2010 年 13 巻 1 号 p. 52-58
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:健診受診者における運動の行動変容ステージとその関連要因を,生活習慣,健診結果およびQOLに焦点を当てて明らかにする.方法:対象者は,北海道A町の2006年度集団健康診査を受診した20〜64歳,396人のうち,自記式質問紙に回答可能で研究参加に同意した人とした.データ項目は,運動の行動変容ステージ,属性,保健事業の利用,生活習慣,健診結果,SF-36とした.自記式質問紙と健診結果からデータを収集した.χ2検定,一元配置分析,Kruskal-Wallisの検定および共分散分析にて検定した.本研究は倫理委員会の了承を得て実施し,プライバシーの保護に努めた.結果:363人が回答し(有効回答率:91.7%),平均年齢50.2歳,72.5%(263人)が女性だった.運動の行動変容ステージは,無関心期54.0%,関心期15.7%,準備期7.2%,実行期6.9%,維持期16.3%だった.無関心期で男性が多く,実行期・維持期で年齢が高いなどの結果から,性別に年齢を共変数として共分散分析にて解析したところ,行動変容ステージ別に生活習慣,健診結果には有意な差はみられなかった.女性のみにSF-36との関連がみられ,関心期・準備期で実行期・維持期よりも8下位尺度中6下位尺度の得点が有意に低かった.考察:行動変容ステージとその関連要因の把握は,個人への特定保健指導時および,特定健診・特定保健指導の計画と評価時への活用可能性が示唆された.
  • 田村 須賀子
    原稿種別: 本文
    2010 年 13 巻 1 号 p. 59-67
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    保健師が行う家庭訪問において,その看護実践過程における保健師の意図と行為を記述することにより,障害者および神経難病療養者等の専門的・技術的な支援が継続的に必要になる,対象本人・家族に対する看護援助の特徴を明確にし,その質向上の方向性について検討することを目的とする.研究対象は,保健所保健師による家庭訪問3事例である.調査項目は,保健師の意図,保健師の行為である.情報提供保健師には家庭訪問援助の過程を詳細に記述できる能力がある者とした.障害者および神経難病療養者への家庭訪問における保健師の意図233件と行為942件を分析対象とした.保健師の意図と行為を事例ごとに概観し,特徴を取り出した.保健師は,(1)対象との信頼関係を形成.維持する,(2)対象の家庭・地域生活状況も視野に入れる,(3)『本人・家族が望む生活』の継続を支える,(4)家族による介護を尊重し充足させ,介護能力を高められるようにする,(5)対象の能力,援助ニーズに見合ったサポート体制の組み方を検討する,(6)対象自身の存在とこれまでの人生を肯定的に受け止められるようにする,ことを基盤におき,家庭訪問援助の専門的・技術的な特徴として,(1)生活上の困難の可能性,再発の兆候・病状悪化を視野に入れる,(2)必要時に対象と連絡を取り合えるようにする,(3)他職種の判断・意見を取り入れ,保健師の援助目標・方法の適切性と修正を検討する,が付加されうると考えられた.
  • 吉岡 京子, 荒井 澄子
    原稿種別: 本文
    2010 年 13 巻 1 号 p. 68-75
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:治療中断のおそれのある精神障害者を医療につなげる際に用いられている保健師の技術を明らかにし,今後の支援のあり方について示唆を得ることを目的とした.方法:治療中断のおそれのある精神障害者を医療につなげた経験のある都道府県型保健所に勤務する保健師5人に,半構造化面接を用いてデータを収集する質的帰納的研究を行った.結果:分析対象とした4人の保健師のデータから,治療中断のおそれのある精神障害者を医療につなげる際の技術として,542個のコードを基に意味内容の類似性を考慮し,43個のサブカテゴリーと10個のカテゴリーを作成した.また,これらのカテゴリーを保健師による対象への個別支援の展開過程に着目して検討した結果,共通の段階が抽出された.すなわち,第1段階は『本人の病状を把握し,本人と家族への支援の必要性を探る段階』,第2段階は『本人の病状と支援の方向性について仮の見立てをする段階』,第3段階は『精神科医の見立てに基づき,本人が医療を受けられるように下準備する段階』,第4段階は『家族と本人が一緒に受診できるように後押しする段階』であった.結論:保健師は,精神障害者の病状や生活能力を見立て,将来彼らが地域で安定して生活できるようになることを目指して支援する重要性が示唆された.
  • 植村 直子, 畑下 博世, 金城 八津子
    原稿種別: 本文
    2010 年 13 巻 1 号 p. 76-82
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:自主グループが形成され,継続するプロセスを,住民と保健師の相互関係から分析し,保健師の支援のあり方を考察することを目的とした.方法:対象は65歳以上の一般高齢者向きの,保健所の筋力トレーニング教室の参加者が立ち上げた自主グループとした.データ収集は(1)事業記録,(2)参与観察,(3)インタビューとし,得られたデータを「住民の視点」,「保健師の視点」に整理した.分析には複線径路・等至性モデル(TEM)を用いた.結果:プロセスは4期に整理され,住民と保健師の相互関係で重要な場面であるOPP(必須通過点)は,第1期,第3期の2場面であった.第1期では,筋力トレーニング教室修了後も運動を続けたいという参加者のニーズを把握した保健師が,グループワークを設定し,グループでニーズを共有できる場を設定していた(OPP1).第2期では,保健師がサポートを申し出たことにより,グループ活動経験がある参加者が興味をもち,自主グループをつくることが決定された.第3期では,世話役の参加者から相談を受けた保健師が,自主グループで話し合う場を設定し,参加者どうしで世話役の交代について取り決めをした(OPP2).第4期では参加者はグループの課題について積極的に話し合うようになっており,保健師のサポートを必要としなかった.考察:保健師は住民との相互関係を保ちながら,足場づくりを行うファシリテーターとして機能していたことが見出された.
  • 明野 聖子, 澤田 あずさ, 工藤 禎子, 竹生 礼子, 佐藤 美由紀
    原稿種別: 本文
    2010 年 13 巻 1 号 p. 83-90
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:1歳6カ月児の父親の育児サポートに関する母親の認知とそれに関連する要因を明らかにすることを目的とした.方法:A市の1歳6カ月児健康診査を受診した児の母親323人を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した.郵送回収法により,有効回答の得られた161人(有効回答率49.8%)を分析対象とした.調査項目は,基本属性,父親の育児サポートに関する母親の認知尺度10項目,父親の帰宅時間,労働時間,父親の育児参加状況,育児協力者,母親の育児幸福感尺度39項目であった.分析は,父親の育児サポートに関する母親の認知と各項目を2区分し比較を行った.結果:父親の育児サポートに関する母親の認知において,8割以上の母親が父親の情緒的サポートについて肯定的に回答していた.父親の育児サポートに関する母親の認知得点が高いことと有意な関連がみられた項目は,「母親の職業がある」,「子どもが第1子」,「一番の育児協力者が父親」,「父親の帰宅時間が21時前」,父親の育児参加時間が「平日1〜2時間以上」「休日半日以上」,「父親に任せて外出できる時間が1〜2時間以上」,母親の育児幸福感の合計点と下位尺度「希望と生きがい」「子どもから必要とされること」「夫への感謝の念」など5因子の得点が高いことであった.考察:母親が父親からの育児サポートを期待できると捉えることには,父親が育児に関わっていると母親が感じていること,出産や子育てを通して親や家族としての実感や喜びを感じていることの重要性が示唆された.
  • 村山 洋史, 戸丸 明子, 奈良部 晴美, 兒島 智子, 村嶋 幸代
    原稿種別: 本文
    2010 年 13 巻 1 号 p. 91-99
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:地域包括支援センター職員が,民生委員,町会・自治会,ミニデイ・サロン,高齢者クラブといったインフォーマル組織とのネットワークを構築していくうえで活用可能なチェックリストの作成を目的とした.方法:地域包括支援センター職員へのインタビューによる予備調査の結果と,インフォーマル組織とのネットワーク構築を促進するためのプログラムで実施したグループワークで出た意見を基に,チェックリストのアイテムプールを作成した.アイテムプールの中から項目を選定し,チェックリストを作成した.チェックリストの内容と使用方法は,3つの方法を経て地域包括支援センター職員に確認してもらい,妥当性の確保に努めた.結果:予備調査の結果,インフォーマル組織とのネットワーク構築過程には3つの段階性があると考えられた.予備調査とグループワークの結果を基に作成されたチェックリストは,4つのインフォーマル組織ごとにStage I〜IIIの3段階とし,それぞれ17〜23項目が含まれた.結論:今後,チェックリストの実用可能性や妥当性の検討を十分に行っていく必要があるものの,実践活動上の意義が高いチェックリストが作成された.
  • 渡邊 輝美, 宮﨑 美砂子
    原稿種別: 本文
    2010 年 13 巻 1 号 p. 100-110
    発行日: 2010/10/15
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:活動の企画運営および評価に保健師が関与している,地域住民を対象にした実践報告事例を通して,ポピュレーションアプローチの展開方法の特徴に関する仮説的な枠組みを帰納的に提示することを目的とする.方法:学術誌等に公表された実践報告8事例の記述内容から地域住民の健康支援への保健師の判断や行為を抽出し,実践報告事例において用いられていた方法の特徴を分析した.さらに活動の目的,複数の方法の組み合わせ方,活動による住民の反応に着目してポピュレーションアプローチの展開方法のパターンとしての特徴を検討した.結果:展開方法のパターンとしての特徴は,『健康に関心のある住民がグループ活動によって,決定要因をもつ住民へ活動参加を促すことを通して,住民全体へ活動の普及を図る展開方法のパターン』『決定要因をもたない住民が決定要因をもつ住民の協力者となるように,特定の住民が決定要因をもつ住民にももたない住民にも同時期に働きかけることを通して,住民全体へ活動の普及を図る展開方法のパターン』『地域の健康課題の意識化および適切な行動の習慣化を促すように,地域と家庭へ一斉に働きかけることを通して,住民全体へ活動の普及を図る展開方法のパターン』『決定要因をもつ住民への働きかけにより,その住民の実態を把握し,決定要因をもたない住民へ,決定要因をもつ住民の実態を伝えることを通して,住民全体へ活動の普及を図る展開方法のパターン』の4つが見出された.考察:活動の目的によって,ポピュレーションアプローチの展開方法の特徴が明らかになった.展開方法のパターンとしての特徴は,今後の実践への適用可能性を示唆するものであった.
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