日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
4 巻, 1 号
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  • 遠藤 寛子
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 10-17
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究では,セルフケア能力は学習によって獲得されるという立場から,セルフケア能力獲得過程を把握して学習援助に役立てることを目的に,糖尿病予防に関するセルフケア能力獲得過程モデルとセルフケア能力獲得過程の到達段階を把握する自記式質問紙を作成した.作成したセルフケア能力獲得過程段階評価のための質問紙を用い,セルフケア能力獲得過程を検討することを本稿の目的とした.本研究では,T市が基本健康診査の事後フォロー事業として保健婦が中心となって実施している糖尿病予防教室と,糖尿病予防教室修了者の継続的取り組みを目的に実施している継続教室を対象とした.調査は,糖尿病予防教室受講者8名の質問紙による自己評価調査と訪問調査,および継続教室受講者52名の自己評価調査を実施した.継続教室受講者52名のデータから,質問紙の内的整合性とモデルのパス解析を行い,また糖尿病予防教室受講者8名のデータからセルフケア能力の教室受講による変化を調べ,セルフケア能力獲得の過程を検討した.その結果,以下の結論を得た.1.セルフケア能力獲得過程段階評価のための質問紙全体のCronbach係数(α)は,0.86〜0.91で,内的整合性が保たれている.2.セルフケア能力獲得の各段階は,相互に関連をもち,【現状を認識する】→【判断する】→【決定する】→【実行する】→【継続する】という段階を踏んで進んでいく過程が示された.3.セルフケア能力は学習によって高められる.自分の健康にとって適切な食事,運動,休養に関する知識を獲得し,自分のからだの状態と生活の送り方の現状を的確に把握してその差を理解することにより,セルフケアの学習は発展する.今後,さらに対象数を増やし,質問紙の構成概念妥当性や基準関連妥当性について検討していく必要がある.
  • 岡本 玲子, 中山 貴美子, 長畑 多代, 鳩野 洋子, 佐藤 由美, 田口 敦子, 岩本 里織, 塩見 美抄, 沖田 裕子, 島田 美喜, ...
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 18-25
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,保健所保健師が関わる難病事例のニーズ(以下ニーズと略す)を明らかにし,それに対するケアマネジメントの展開過程を体系的に整理することである。調査方法は面接であり,熟練保健師13人を対象に,難病事例へのケアマネジメント過程(以下,過程と略す)を詳細に聞いた.分析枠組みには,ケアマネジメント過程活動指標を用い,保健師が語った活動の単位ごとに,そのニーズと過程を読みとった.その結果,ニーズとして,適正な保健医療の整備と利用者の療養生活支援,在宅療養環境整備,長期の総合的ケアマネジメントに関する10のカテゴリーが抽出された.保健師の過程の特徴は,公費負担申請時面接を発端とし,ニーズにサービスが最もフィットするように,本人や家族・専門医・近医・ケアチーム員,および各々の相互関係に対して働きかけていた.また,これから起こる状況を早期から予測しながら,既存のサービス(医療・保健・福祉等,公的・非公的)を柔軟にタイムリーにアレンジし,関係機関のサービス提供体制の改善にも働きかけ,協議を行い,利用者の支援体制強化のための活動を行っていた.特に,生きがいや意欲の確保,残存機能を活かし介護負担を軽減する環境整備,緊急対応や病院のショートステイなどの利用の整備,医師への代弁・通訳,難病保健事業との連結,ケアチーム員の支援などが特徴的であった.
  • 島内 節, 清水 洋子, 友安 直子, 森田 久美子, 川上 千春, 内田 陽子
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 26-33
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:在宅ケアにおける利用者アウトカムに注目し,アウトカム改善をもたらしやすいケア項目,ケア実施度,ケア実施内容を明らかにした.方法:(1)在宅ケアにおいて利用者アウトカム23領域に対応した119のケア項目の精選を目指した.2000年10月に全国訪問看護ステーションの開設主体別に訪問看護ステーション数を算出し,500のステーション所長に調査依頼し220の回答を得た.統計的解析によって60項目に精選した.(2)2000年11月にこの60のケア項目について7か所の訪問看護ステーションの40歳以上の利用者でターミナルを除く2か月間のケア継続者527事例にケア実施度を,必要時いつも実施,必要時時々実施,必要だが実施せず,非該当,で調査した.(3)利用者アウトカムは看護職のアセスメントにより,同年9月と11月の2時点においてADL,IADL,症状等健康状態のアウトカム23領域41項目を用いて2か月間の変化を測定した.(4)アウトカム改善群と非改善群に区分し,上記各ケア項目の実施度との関係をt検定により比較し,アウトカム改善に影響したと考えられるケア項目と実施度を分析した.結果:全体的にアウトカムはケアの「実施が必要時いつもなされる」ほど向上すること,特にケアの評価が有効であることがわかった.ケア効果をみるためのアウトカム23領域のうち改善事例群は非改善事例群と比べて13領域に有意にケア実施が多く,「必要時いつもケアを実施する」ほどアウトカムは向上していた.アウトカム改善をもたらしやすい利用者本人のアウトカム領域は,(1)ADLではJABC自立度・移動,(2)IADLでは食事の準備・交通機関利用・鍵・火災・水道の安全性・冷暖房管理,(3)意欲レベル,(4)尿失禁であった.介護者のアウトカム領域は,(1)身体的疲労感,(2)精神的疲労感,(3)介護知識・技術,(4)介護者の時間的余裕,(5)介護継続意志であった.また,アウトカムの多くに影響していたケア項目は,意欲への働きかけ,飲水の確保と確認,尿失禁等排泄ケア,服薬,睡眠であった.ケア項目ごとのケア実施内容についてみると,アセスメント・プラン・ケア実施・ケア評価のうち,ケア評価が改善群では,非改善群と比較して32項目のうち1項目を除くすべてにおいて有意に高く行われており,評価はアウトカム向上の重要な条件であることが明らかになった.すなわちケア実施度の量的なものとケア提供における評価行為が統合されてアウトカム向上を確実にできるといえよう.一方,実施頻度が第1に高い転倒(予防)ケア,第2の排泄ケアは改善群も非改善群にも同程度なされており,アウトカムに差は見られなかったが,重視されているといえる.これらによってアウトカム改善群も非改善群も転倒の危険から安全を守り,排泄へのケアによって基本的な生活が強く支えられていると考えられる.
  • 有馬 志津子, 伊藤 美樹子, 三上 洋
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 34-40
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:これまで育児は,育児不安,育児負担感などのネガティブな部分に着目・評価されることが多かった.しかし21世紀の育児支援体制には,育児のポジティブな側面を促進する要因の検討が必要であるため,本研究では「親性」という概念に着目し,育児状況を評価する上での有用性を文献的に検討し,尺度の関発を試みた.方法:大阪市T保健センターの母子管理票より抽出した生後1か月〜3歳半までの第1子をもつ母親649名を対象に,無記名の自記式質問紙を郵送し,そのうち397名(61.2%)を分析対象とした.尺度の信頼性にはCronbach α係数,妥当性には表面・内容妥当性,構成概念妥当性,基準関連妥当性を検討した.結果:17項目のうち回答に著しい偏りのあった2項目を除外し,15項目すべてに回答があった368名を対象に因子分析を行った結果,第1因子の寄与率が他因子と比べ大きいため,1因子構造であるとみなした.15項目の信頼性係数はα=0.78であった.親性と母親の年齢,子どもの年齢,子どもの数,母親の就業,父親との関係性の関連を検討した結果,父親との関係性のみに有意差がみとめられた.考察:15項目からなる「親性」尺度を検討した結果,育児状況を評価する指標の1つになる可能性は示唆された.しかし尺度の使用にあたっては,1)父親・母親の比較,2)同一人物による親となる前後での縦断的研究,3)地域間差による交差妥当性などの検討課題が明らかになった.
  • 大須賀 惠子, 若杉 里実, 深澤 恵美, 白石 知子, 泉 明美, 河合 智栄子, 田川 信正
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 41-47
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:われわれは,愛知県渥美半島地域における大腿骨頸部骨折患者の手術後の生活を追跡調査することで,骨折が実際に寝たきりの主原因になっているかどうかを明らかにしたいと考えた.また,退院時・退院後(術後1〜2年)の本人・家族の心配・不安の内容,術後1年6か月〜2年6か月後の自宅生活者に,担当地区の保健婦が家庭訪問し,生活実態や健康状況等を聴取・観察した内容について詳細に検討した.これらの分析から,大腿骨頸部骨折の術後高齢者の中でも特に,自宅生活者への支援方法を検討した.対象と方法:平成10年度に大腿骨頸部骨折のため,愛知県渥美半島地域にあるA病院で手術を受けた患者45名(男7名,女38名)の診療記録および看護記録,A病院主治医による退院時診療記録および看護婦・士によるサマリー,退院後の質問紙郵送調査(術後1年〜2年経過時),自宅生活者26名に対する保健婦による家庭訪問面接調査(術後1年6か月〜2年6か月経過時)を縦断的に分析した.結果:本研究により,以下の点が明らかになった.1)自宅退院事例のうち33.3%のADLが拡大していた.2)退院後患者を介護する家族は,不安・心配・困難感を感じており,地域における継続的な支援が必要である.3)再骨折の予防が保健指導のポイントである.4)大腿骨頸部骨折患者で寝たきりになった事例には,痴呆などの合併症が存在し,それらが実際には寝たきりの主な原因であることがわかった.したがって,大腿骨頸部骨折が「寝たきり」の直接原因とは言えない.5)看護職は退院後の患者の「生活」を見る視点を重視する.そして,病院から地域への継続看護に向けた保健・医療・福祉の連携による,患者の状態や家族の生活条件等個別性に即した支援が不可欠である.
  • 迫田 綾子, 小西 美智子
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 48-54
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,在宅療養において口腔ケアを定着させるため,在宅療養高齢者(以下療養者と略す)の口腔状態および,介護者の口腔ケア行動およびその要因を明らかにすることである.対象は,訪問看護ステーションを利用する日常生活自立度判定基準ランクCの療養者22名,およびその介護者22名である.方法は,療養者に対しての口腔アセスメントを行い,介護者には療養者に対する現在の口腔ケア行動に関する半構成的面接を行った.分析方法は,口腔アセスメントは記述統計を行い,介護者の面接内容は口腔ケア行動および行動に影響を与えている文脈を抽出し,プリシード・プロシードモデルの第2〜4段階に分類した.療養者の口腔状態は深刻であり,う蝕,歯肉・粘膜症状,嚥下障害,口腔内不潔状態の者が80%以上の者に見られた.また肺炎の既柱がある者は3分の1であった.介護者の療養者に対する口腔ケア行動は,1日1回以上しているのは約40%であり,60%は定期的なケアは実施されていなかった.その内客は,義歯の洗浄や含嗽介助が主であり,療養者の口腔状態にあわせて新たなケアを開始している者は少なかった.介護者の口腔ケア行動に影響する前提要因は,「知識」「ケアのきっかけ」「現在の技能」,「口腔への関心や価値観」「家族関係」「介護負担感」,実現要因として「入院中のケア」「訪問看護」,強化要因として「ケアの効果」「支援・励まし」を抽出した。それぞれの要因は,介護者の行動に対しプラスやマイナスに作用し,口腔ケア行動に影響を与えていた.在宅療養を支援する介護者に対し,適切な口腔ケア教育の支援の必要性が示唆された.
  • 細谷 たき子, 吉田 幸代, 別所 遊子, 長谷川 美香
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 55-60
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:訪問看護ステーション(以降,ステーション)における1週間の学生実習において,学生の理解度の高い実習内容を学習の機会の多少との関連で明確化することを本研究の目的とした.短期間に効果的に学べる内容と学内演習やその他の関連実習で補充すべき内容を明らかにし,より良い実習のための実習内容および目標設定に役立てる.方法:対象はF大学看護学科の学生48名と学生の実習指導を担当した6ステーションの看護婦33名であった.実習内容の学生の理解度について学生と看護婦の双方に自記式の調査票で調査を実施した.37調査項目は日本看護協会の「訪問看護評価基準」等に基づき,(1)アセスメント・計画・評価,(2)日常生活・療養生活のケア,(3)医療処置,(4)リハビリテーション,(5)感染処置と予防指導,(6)ターミナルケア,(7)精神的援助,(8)家族支援,(9)関係者との連携,(10)その他の内容で構成された,各37項目について学生の理解度を4段階で尋ね,その他の選択肢として,「関わらなかった」を含めた.実習内容はオリエンテーション,学生1人あたり12〜16件の同行訪問,担当するケースの看護計画立案,計画実施,カンファレンスが含まれた.結果:学生・看護婦ともに「よく理解した」と評価した割合が高かった内容は,訪問看護婦の「仕事の価値」「清潔ケア」「アセスメント」「計画立案」であった.また,学生・看護婦ともに「学習の機会が少ない」と回答し,かつ理解度が低かったと評価したのは,「経済支援」「医療機関連携」「その他連携」「感染症のケア」「緊急対応」「医療機器指導」であった.結論:学生の理解度が高かった実習内容は,短期間の訪問看護実習において必須とし,到達目標に設定するのが適切である.一方,学習の機会の機会の少なかった看護内容は講義・演習・その他の機会に補充して指導することが求められる.
  • 田高 悦子, 金川 克子, 立浦 紀代子, 和田 正美, 中山 真紀子
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 61-68
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は地域虚弱高齢者を対象として,健康チェック,グループ回想法,生活体力づくりを中心とした介護予防のための地域ケアプログラムによる介入を実施し,高齢者の生理的,身体的,心理社会的機能に対する効果を検証することである.研究対象は農村1地域在住の65歳以上高齢者のうち,介護保険制度の要介護認定における自立(非該当)認定者であり,かつ本研究で定めた虚弱判定基準(試案)によって同定された虚弱高齢者全数23名中,研究参加に同意した者18名〔男性7名,女性11名;平均年齢(SD)=80.7(5.8)歳〕である.地域ケアプログラムは研究実施地区内公民館を拠点として,研究実施地域の保健婦等を担当者とし,週1回,連続3か月間実施した.結果,1)生理的機能に対する介入の効果では,女性の最大一歩幅について,介入前に比較し,介入後は歩幅が拡大する傾向がみられた.2)身体的機能に対する介入の効果では,集団では男性,女性ともに有意な変化はなかった.しかし,対象や項目では,効果が認められる可能性が示唆された.3)心理社会的機能に対する介入の効果では,男性,女性ともに介入前に比して介入後に主観的幸福感の有意な向上が認められた.以上より,地域虚弱高齢者を対象とする,包括的な地域ケアプログラムは,高齢者の生理的機能,身体的機能および心理社会的機能の維持,改善に対して有効であり,地域虚弱高齢者に対する介護予防にむけての有効な一方策となる可能性が示唆された.さらに今後の介護予防方策の確立にむけての課題として,介護予防対象の特定,プログラム内容の吟味,評価方法の開発が提言された.
  • 中山 貴美子
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 69-75
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,恒久住宅で一人暮らしをしている阪神・淡路大震災の被災高齢者の,被災4年半後の生活力量を構成する要素を明らかにすることである.10名を対象に半構造化面接を実施した.分析は,質的・帰納的方法にて行った.その結果,被災高齢者の生活力量の要素として,「被災体験を受け入れる」「すべてにあきらめをつける」「被災者同士のつながりと助け合い」「被災地の社会資源を利用する」「被災体験の気晴らし行動をとる」「恒久住宅での生活を受入れる」の6つのカテゴリーが明らかになった.被災4年半後の被災高齢者の特徴として,あきらめをつける,震災体験を受入れる等の生活力量がみられた.また,彼らは被災者同士の仲間意識をもち,社会資源を利用し,助け合いを行っていた.看護職は,被災高齢者の生活力量に着目することが必要であり,力量が発揮できるように,社会資源等の地域の条件を整えていく役割がある.
  • 赤澤 寿美, 岩森 恵子, 原田 能之, 前原 貴美枝, 山村 安弘
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 76-82
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:痴呆性高齢者と家族介護者双方が高いQOLを保つことができるよう支援するために,痴呆性高齢者と家族介護者をとりまく背景事情を調査し,在宅介護が困難になる要因の明確化と今後の看護・介護支援策の検討を行った.対象と方法:以前在宅生活をしていたが現在は療養型病棟に入院している痴呆性高齢者の介護者35人(以下A群),在宅サービス等を利用しながら痴呆性高齢者の在宅介護を継続している介護者30人(以下B群)の計65名を対象とした.要介護者に関しては,年齢,性別,痴呆期間,主たる疾病,副疾病,治療,ADL依存ランクと痴呆ランク,要介護度を診療録から調査し,介護者に関しては年齢,性別,続柄,介護期間,同居人数,介護代替者の有無,かかりつけ医の有無,サービス利用状況,介護負担感を半構成的面接法にて調査してA,B群間で比較した.結果:要介護者のADL依存ランクと介護量は有意に相関しており,同時に負担感とも有意に相関していた.特にトイレ動作,移動補助,入浴で負担感が高かった.逆に,時間の制約は,ADLランクが低いほど負担が大きくなっており,特にA群に著明であった.両群とも代替者あり群のほうが介護負担は小さく,代替者の存在はB群に有意に多かった.両群とも,介護者の大半が何らかのサービスを利用しており,サービス利用数に群差はなかったが,B群はA群に比して,家庭外サービスの利用率が有意に高かった.介護負担感はCCIスコアおよび27項目の合計点数に群差は見られなかったが,27項目のうち制約感はB群に比してA群で有意に高かった.介護期間は個人差が大きかったが,両群とも介護機関と負担との間に相関はなかった.A群の再入院の理由は,要介護者の状態悪化と,介護者の介護限界が多く,介護限界を理由にした者の多くは負担感が高かった.痴呆性高齢者をかかえる家族が在宅介護を中断して再入院にふみきった要因は,(1)介護代替者がいないこと,(2)不十分な家庭外サービスの利用,(3)制約感の強さ,の3要因とその他の様々な要因が複雑にからみあっていることが示唆された.結論:要介護者,介護者双方のQOLと,両者をとりまく環境を十分に把握し,サービス内容の検討と個々人の,その時々の状態に合わせた支援活動が今後重要視されるべきである.
  • 武田 順子, 浅野 智子, 櫻井 尚子, 星 旦二
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 83-87
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    ヘルスプロモーションを展開するにあたって,平成5年度から平成11年度にわたって実践された川崎市多摩区布田・中野島地区の中高年を対象とした住民主体の健康づくり活動,および活動にあって設定された地区評価指標を分析し,その指標にそって効果評価を行い,地区保健活動実践方法の構築を試みた.その過程は4区分され,保健活動を支援する専門家が住民と共に目標を共有し,計画・実施のみならず評価まで含めて,一貫した目標意識を念頭において活動することの重要性が示唆された.
  • 坂本 真理子
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 88-94
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,在宅生活の適応プロセスにおける,要介護高齢者および介護者(以後対象者と略す)と支援者の関わりの過程を,訪問記録における記載内容をもとに質的に分析し,支援者の役割を考察したものである。研究対象は愛知県A市における在宅での3事例である.この3事例は多様な臨床像に加えて,支援の選択や展開においても多様な様相を呈し,容易に解決しにくい,いわゆる「困難事例」であった.研究方法は,研究者が事例の訪問記録から対象者の状況と支援の経過を抽出し,整理した.研究期間は,支援者が初めて事例に関わった時期から平成10年8月までである.分析では,対象者の在宅生活への適応プロセスを,1)在宅生活開始直後から在宅支援の導入期,2)在宅生活の安定期,3)状況の再悪化期に区切り,対象者の在宅生活の適応プロセスと,支援者の関わり方の特徴を検討した.1)在宅生活開始直後から在宅支援の導入期では,対象者は漠然とした不安と期待を抱き,支援を取り込む過程においても多様なストレスが表出されていた.この時期の支援者の関わりは,訪問看護婦,ホームヘルパー,保健婦などの在宅支援者が頻繁に関わり,当面のトラブル対応を行うことで,混乱した事態を落ち着かせていったことに特徴がみられた.この場合,職種としての固定ではなく,特定の支援者が継続的に関わりを続ける支援という部分に特徴があった.2)在宅生活の安定期では対象者が支援者との関係の中で,支援の受け入れに積極的になっていく経過が見られた.これは,対象者と支援者が導入期の困難への対応を通じて,お互いの認識のずれを確認・修正する,すり合わせの作業が有効に働いたと考えられる.安定した在宅生活をできるだけ早く促進することは,次の段階である生活の再編成や創造などの目標,展開の可能性を高めるために重要である.また,3)状況の再悪化期においては,在宅生活の限界を迎える状況に,支援の枠組みの転換を検討する必要性も生じうることが示された.支援者たちは,対象者の在宅生活の適応プロセスを見守りながら,予測される次の段階を常に意識した働きかけを行う必要がある.
  • 浅田 美紀, 成瀬 優知
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 95-99
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:退院2か月後において,発症前との比較の中で生活の変化を把握し,この変化と心理的側面との関連を明らかにする.方法:調査対象者は,脳卒中発作のために入院した患者で,平成12年5月〜9月の間に歩行可能となって,自宅に退院した60歳以上の30名である.そのうち分析対象者は,退院約2か月後の時点において再入院していた者2名,調査拒否1名を除く27名である.調査方法は,退院約2か月後,調査者が自宅に訪問し質問紙による面接聞き取りを実施した.調査内容は,属性,心理項目,生活である.心理項目は,うつ,不安,意欲,満足度,孤独感とした.生活は,家庭生活という場における生活行動としてとらえ,岩崎らの高齢者の日常生活行動を参考にし,家庭内役割,文化的行動(趣味・生きがい),社会的行動(友達付き合い,訪問,外出),仕事とした.分析方法は,うつ,不安,満足度,意欲と,生活の変化との関連は,性・年齢を同時に調整し,三元配置分散分析を行った.孤独感の変化と生活の変化との関連は,性・年齢を同時に調整し,多重ロジスティック回帰分析を行った.成績:発症前と退院後の生活の変化では,家庭内役割,文化行動,社会的行動,仕事において10〜50%の者が減少していた.次に,生活の変化と心理的側面との関連を分析したところ,家庭内役割が減少した者は有意にうつ得点が高く,意欲得点が低かった.趣味・生きがいが減少した者は,有意に満足度得点が低かった,外出行動が減少した者は,有意にうつ得点が高く,意欲得点が低かった.訪問頻度が減少した者は,有意にうつ得点が高く,満足度得点が低かった.友達付き合いが減少した者は,すべての心理的側面との間に関連がみられた.仕事を喪失した者は,有意に意欲得点が低かった.結論:脳卒中を発症し,身体的に影響が少なく歩行可能な状態で退院した患者であっても,退院後,生活の変化と心理面が相互に関連し,一部の人々には生活の縮小をもたらす可能性が示唆された.このことから,歩行可能な脳卒中患者に対して,退院後早期からかかわり,生活が縮小しないサービスの提供や精神的支援が重要であることが改めて確認された.
  • 柳澤 尚代, 吉本 照子, 前川 厚子, 波川 京子, 森下 浩子
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 100-105
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:自治体の介護保険システムの構築過程において,保健婦・士(以下,保健婦とする)と協働した事務職が認識した保健婦の専門能力と活動,および期待する役割を明らかにする.方法:調査対象地域は,人口規模および介護保険システムの特性の異なる4自治体A(人口17万人),B(10万人),C(4万人),D(50万人)を選択した.調査対象者は,各自治体の介護保険システムの構築に中心的に携わった事務職1名と保健婦1名とした.事務職に対する調査項目は,介護保険システムに関する理念および運営方法,システム構築のための組織および過程,事務職が認識した保健婦の専門能力と活動,および期待する役割とした.保健婦に対する調査項目は,介護保険システムの構築の過程で行ったこととその意図とした.各対象者には,研究者グループが個別に半構造化面接調査を実施し(2000年5〜8月),自治体別にまとめて比較した.結果:1)自治体Bでは保健福祉専門職を急激に増員していた.C,Dでは住民活動が比較的活発であり,Dは福祉職および民間事業者の充足度が比較的高かった.2)Aと他の3自治体では,事務職の認識に大きな違いがみられた.Aでは,保健婦の活動が健康診査中心と認識されていたが,保健婦の活動への理解をもとめる保健婦の意図的関わりを通して,事務職は身体的アセスメント能力を認識し,介護保険訪問調査の調査票作成,困難事例や民間事業者の育成支援を期待していた.B,C,Dではこれまでの活動をもとに,ケアアセスメント能力や他職種を含めたコーディネート能力を有すると認識され,高齢者のニーズ把握のための実体調査(B),元気高齢者のための企画(C),サービス基盤のニーズ抽出(D)を期待されていた.特にC,Dでは,Bのように実態調査をする以前に,保健婦は地域のケアニーズを把握しており,それをもとに介護保険システム構築の基盤を構築し(C),他職種に伝えることができる(D)と認識されていた.こうした事務職の認識をもとに,老人保健法関連の事業の見直し(B),介護予防事業(C,D)を期待されていたが,共通して,全体的な視野をもとに活動することへの期待がなされていた(B,C,D).Aでは,明確な保健・介護予防事業への期待は表出されなかった.結論:保健婦には個別の援助技術と地域全体をみた企画調整能力が期待されるが,介護保険システムの基盤となる住民の活動,他職種および民間事業者の充足度によりその役割は異なると考えられた.
  • 中村 陽子, 人見 裕江, 小河 孝則
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 106-111
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    研究目的:今後在宅医療の普及に伴い医療廃棄物の排出量が増大することが予想される.CAPD療養者における,在宅医療廃棄物処理方法の現状と課題を明らかにすることを目的に調査を行った.研究方法:調査対象は全国のCAPD療養者427名である。調査方法は郵送法による質問紙調査とした.調査内容は,本人性別,年齢,CAPD継続年数および入院経験,在宅医療廃棄物の処理方法であり,在宅医療廃棄物処理の方法については自由記述で求めた.結果と考察:回答数は421名であった.回答者の年齢は25歳から94歳までであり,平均年齢は56.4歳±12.6であった.回答者を性別にみると男性53.7%,女性46.3%であった.CAPD継続平均年数は4.07年±3.05であった.入院を40.0%が経験していた.CAPD療養者はCAPD廃棄物の処理に困難を有していた.また近隣者からの苦情を経験していた.CAPD廃棄物処理に対しての指導を看護職から受けていた者は37.8%と少なかった.したがって,CAPD療養者の生活状態に即した看護職の援助は重要である.また,在宅医療廃棄物に対する適正な処理方法を医療関係者,療養者本人および家族に教育,指導することが緊急の課題である.国,地方自治体の指導は急務である.
  • 荒木田 美香子, 青柳 美樹, 梅津 美香, 上野 美智子, 佐々木 美奈子, 榎 悦子, 河野 啓子
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 112-119
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    目的:産業看護活動に活用される情報は対個人に関するものから,所属する職場や組織に関するものまでと幅広い.産業看護におけるケアレベルの向上を目指すためには,対象者と環境の相互作用を系統的かつ包括的にアセスメントできるようなツールが必要であると考え,「産業看護領域におけるアセスメントツール」を開発することとした.方法:ツールの開発にあたっては北アメリカ看護診断協会(North American Nursing Diagnosis Association, NANDA)の「ユニタリーパーソン」の概念に基づくGuzzettaらのアセスメントツールを参考にした.産業看護職としての経験をもつ産業看護研究会のメンバー20名が「ユニタリーパーソン」の9領域を分担し,作成,検討を行った.基本方針は,(1)産業看護領域の対象,特に就労可能な労働者に焦点を当てる,(2)複数の反応領域であげられる項目は,より妥当性の高い一反応の領域で扱う,(3)対象者の上司や同僚からの情報も書き入れられるようにする,(4)改善すべき問題点のみではなく,ケアに活用できるような対象者や環境がもつ"強み"にも目を向ける,の4点であった.第一段階の案を作成後,焦点の異なる5事例に適用し,さらに改良した.結果・考察:Guzzettaらのツールに比較し,人間関係や知識,活動等に関する情報を扱う<関係>をはじめ6領域に職場における特殊性を強調する項目を設けた.一方,呼吸等の主に身体的な項目である<交換>は簡略化した.また,産業看護においては1人の対象者と長期間かかわりを続ける場合が多いという特徴を考慮し,人事・就労に関する情報,健康に関する履歴,看護診断歴の3領域からなる「Face Sheet」を追加した.このツールには,労働衛生5領域の活動やHANASARRI Occupational Modelの5観点がおおむね盛り込まれていると考える.今後,さらに信頼性の検討を重ね,職場集団についてのアセスメントツールの開発を行うことが課題である.
  • 長谷部 史乃, 小原 真理子
    原稿種別: 本文
    2002 年4 巻1 号 p. 120-125
    発行日: 2002/03/01
    公開日: 2017/04/20
    ジャーナル フリー
    本研究は専攻科保健婦・士学生を対象に実施した災害看護論での学生の学びを分析したものである.災害看護論の教育体系は確立されておらず,授業実施にあたり教育の目的・方法・教材を開発する必要があった.今回実施した授業の構成は,(1)VTR「阪神大震災時の保健婦活動」(発生直後から約3か月間の活動記録)を素材にした演習,(2)災害医療・災害看護の基本的事項についての講義,(3)トリアージ机上シミュレーション,(4)「避難所体制づくり」の机上シミュレーションと発表である.これらの内容を2日間,計4コマ(360分)の集中講義で実施した.授業を受けた学生を対象に学生の学びを「授業前」「授業中」「授業後」に自記式質問紙を用いて調査した.調査項目は「既習知識」「保健婦・士の役割の捉え」「トリアージの理解」「社会的態度尺度の変化」「授業の感想」などである.授業による学生の学びは「災害時における保健婦・士の具体的な活動を理解することができた」「平時の保健婦・士活動のあり方を再認識することができた」「平時の活動と災害時の活動を連動してとらえ,災害救護や防災活動を自らの役割であると認識できた」点にあった.保健婦・士基礎教育の中で災害という1事象を考えていくことが,保健婦・士の役割や活動の原理原則的側面をとらえることにつながった.さらに単なる知識習得だけでなく実践活動につながる力を養うために,災害現場を想定したシミュレーション演習は有効であったと考える。災害時の状況を想起できるような視聴覚教材や自ら当事者として体験的に対応を考えるための教材の開発,および教授方法の確立が重要である.
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