日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
26 巻, 1 号
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原著
  • 大川 聡子, 眞壁 美香, 金谷 志子, 上野 昌江
    2023 年 26 巻 1 号 p. 4-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

    目的:10代初産母親のACE(逆境的小児期体験)の特徴と,育児中の自尊心や育児感情,主観的健康感,経済的状況との関連を明らかにする.

    方法:調査項目はACE,育児感情尺度,日本語版ローゼンバーグ自尊心尺度(RSES)10項目,家計の心配等とし,未就学児を育てる初産10代,20歳以上の母親各200人,計400人に調査を実施した.分析は,初産年齢別比較についてχ2検定,10代初産を従属変数とし,ACE項目を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った.さらに初産10代および20代のACE合計値が育児中の自尊心・家計の心配と関連し,自尊心を介して主観的健康感・育児感情と関連するという因果モデルを仮定しパス解析を行った.

    結果:すべての項目に回答した289人を分析対象とした.ACE合計値は10代初産が有意に高かった.多重ロジスティック回帰分析で10代初産と関連がみられたACE項目は,身体的虐待(OR=2.67,CI=1.08~6.58),自然災害や事故によるストレス(OR=2.88,CI=1.33~6.25),家庭外のいじめや差別(OR=0.32,CI=0.14~0.69)であった.パス解析の結果,初産10代のACE合計値と育児中の自尊心(β=-.55),家計の心配(β=.23),自尊心と主観的健康感「健康でない」(β=-.76)に因果関係が認められた.

    考察:10代初産母親はACEをより多く経験していた.ACEは自尊心を介し主観的健康感に影響を及ぼすことから,10代母親においては特に心身の状況に着目し,受容することで自尊心を高める関わりが必要である.

研究報告
  • 山下 清香, 中谷 久恵, 尾形 由起子, 小野 順子, 中山 貴美子, 山口 のり子
    2023 年 26 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

    目的:地域保健活動への住民参加を促進する行政保健師の技術を明らかにすることである.

    方法:文献研究を行った.まず保健師教育の教科書から住民参加の定義を収集し,操作的定義を作成した.次に医学中央雑誌およびCiNii ArticleのWeb版で住民参加に関する研究論文を収集し(検索日2020年7月),保健活動の実施者の活動や技術に関する記述を抽出してコード化し,内容分析の手順を参考に質的帰納的に分析した.

    結果:18文献から177コードを作成し,47サブカテゴリーから5つのカテゴリーを抽出した.地域保健活動への住民参加を促進する技術のカテゴリーは,【地域保健活動への参加の動機づけ】【地域保健活動に参加する住民グループの育成】【地域保健活動に参加できる知識と技術の強化】【住民とのパートナーシップの関係性の形成】【住民が参加する仕組みの構築】であった.

    考察:地域保健活動への住民参加を促進する行政保健師の技術は,住民の地域保健活動への参加を動機づけ,組織的に参加できるようにグループを育成して住民の知識と技術を高め,住民と専門職と行政が対等に協働するパートナーシップの関係性を形成し参加する仕組みを構築する技術であった.保健師は住民の参加を促し,関係者が共通認識をもち,多様な住民の立場を理解して対等な関係性を形成するよう働きかけることが必要である.

  • 森 繁子, 松原 三智子, 和泉 比佐子
    2023 年 26 巻 1 号 p. 22-31
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

    目的:デイサービス(DS)は一次~三次予防まで兼ね備えた介護保険サービスのひとつであり,需要は高まっている.看護職の自律性は,他職種と連携・協働において専門職の役割が認められ,他者から拘束・制限を受けずに行動・判断・選択ができ,意思決定や熟練した技術を実践できることを意味している.本研究の目的は,DSに勤務する看護職の自律性とその関連要因について明らかにすることである.

    方法:全国老人福祉施設協議会に登録されているDS 4,214か所から,1,771か所を無作為に抽出した.1か所のDSにつき看護職1人を対象とし,無記名自己記入式質問紙による郵送調査を行った.調査項目は,個人的要因が基本属性,看護職としての自己実現等,施設の特徴は現在の役職等,組織的要因は労働環境等,看護職としての自律性とした.

    結果:403件の返信があり(回収率22.8%),看護職の自律性を測定する自律性尺度(DPBS)日本語版尺度に欠損がなく,協力の同意が得られた344人(有効回答率19.4%)を調査対象とした.DPBS全体の平均得点±SDは,93.0±14.5であった.ロジスティック回帰分析の結果,個人的要因は看護職としての自己実現,施設の特徴は現在の役職等が,組織的要因は働きやすい労働環境が自律性と有意な関連があった.

    結論:自己実現に働きかける支援等を行うことが,DSに勤務する看護職の実践能力および高齢者支援の質の向上につながることが示唆された.

  • ─質的記述的研究─
    加藤 ねね, 蔭山 正子, 岩崎 りほ
    2023 年 26 巻 1 号 p. 32-40
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

    目的:精神障がいを抱える親の妊娠から子育てにおける支援ニーズを当事者の認識に基づいて具体的に記述することを目的とした.

    方法:質的記述的研究とした.18歳未満の子をもつ精神障がいと診断されている親10人(女性8人,男性2人)に個別の半構造化面接を行った.逐語録から「当事者の支援ニーズとはどのようなものか」という視点でコードを作成し,抽象度を上げて小・中・大カテゴリーを作成した.支援ニーズは妊娠期から学童期までの時期,支援者の違いを検討した.

    結果:精神障がいを抱える親の支援ニーズとして【病気で差別されない・しないようにしてほしい】【妊娠・授乳中に服薬の説明や病状悪化時の備えがほしい】【病状や障がいによる家事や育児のできないところを補う支援がほしい】【障がいを抱えながらでも親であれるように支えてほしい】【連携して親子を支援してほしい】【身近なところで気にかけて話を聞いてほしい】の6の大カテゴリー,《病状悪化時に子どもに当たらないよう支援してほしい》など16の中カテゴリーが生成された.

    考察:当事者が差別や偏見を受けないような対応や配慮,周産期における服薬や病状への支援,家事・育児負担の軽減,病状悪化時も子どもと暮らせるようなリカバリー志向の親支援,当事者自らも子どもに当たらずにすむ支援,親という共通性に立つ支援,支援者間で連携した支援,本人の了解を得た情報提供,相談しやすい相談体制が必要だと考えられた.

  • 岩切 茉祐, 内村 利恵, 小寺 さやか
    2023 年 26 巻 1 号 p. 41-49
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

    目的:発達障害児の家族を対象にした災害レジリエンスを高めるための災害準備指標を開発し,その信頼性と妥当性を検討することを目的とした.

    方法:災害レジリエンスの概念枠組みをもとに,先行研究から項目を収集および精選し,26項目の暫定版災害準備指標を作成した.全国の発達障害児の親の会21か所に所属する6歳以上18歳未満の発達障害児(疑いを含む)の保護者453人を対象に質問紙調査(郵送法)を実施し,指標の信頼性・妥当性を検討した.

    結果:回収数179人(回収率39.5%)のうち,172人から有効回答を得た.子どもの平均年齢は12.48±3.13歳であった.項目分析により2項目を削除し,探索的因子分析を繰り返し行った結果,3因子22項目で最適解を得た.因子は【家族・地域間のリスク共有】【暮らしのリスク低減】【必要物品の準備】と命名した.Cronbach’s α係数は,災害準備指標全体が0.923,3因子は0.814~0.900であり,内的整合性が認められた.災害準備指標と災害準備の自己評価の間には中等度の相関(ρ=0.625)があり,基準関連妥当性が確認された.

    考察:本研究で開発した災害準備指標が,信頼性および妥当性を有することが確認された.本災害準備指標は,発達障害児の家族にとって,災害準備性を振り返り,評価するツールとして有用であることが示唆された.

  • ─乳幼児の健診年齢別の検討─
    明野 聖子
    2023 年 26 巻 1 号 p. 50-58
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

    目的:乳幼児を育てる母親の育児幸福感に関連する要因を乳幼児健診の対象年齢別に明らかにする.

    方法:乳幼児健診に来所した3~5か月児(以下,乳児),1歳6か月児,3歳児の母親1,011人を対象に無記名自記式質問紙調査を実施した.調査内容は,基本属性,父親の育児・家事,育児に関する情緒的サポート,3下位尺度からなる親性,8下位尺度からなる育児幸福感である.健診年齢別に母親の育児幸福感を従属変数とした重回帰分析を行った.

    結果:388人(38.4%)の有効回答を得た.すべての健診年齢において,母親の親性「親役割の状態」が高いほど育児幸福感が高かった.1歳6か月児の母親では母親の年齢が低く,3歳児の母親では出生順位が低いことが育児幸福感に関連していた.また,乳児と1歳6か月児の母親では,「子どもへの認識」が高いほど育児幸福感が高かった.3歳児の母親では,父親の育児に関する情緒的サポートを認識しているほど育児幸福感が高かった.

    結論:母親の育児幸福感を高めるためには,親としての役割に満足感を抱くことが重要であると示唆された.乳児および1歳6か月児の母親では試行錯誤する育児を支えること,1歳6か月児の母親では子どもの成長・発達の様子を理解し,子どもとのよりよい関係性を保ち子どもの特性に応じた柔軟な関わりがもてること,3歳児の母親では子どもの成長・発達に関する心配やしつけにおいて父親の情緒的サポートを促す支援が必要である.

  • ─活動事例における保健師の考え方と働きかけの明確化および看護モデルの前提となる考え方の検討─
    松下 光子, 梅津 美香, 大井 靖子, 堀 里奈, 山田 洋子, 山本 真実
    2023 年 26 巻 1 号 p. 59-68
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

    目的:看護者対対象者の2者関係に基づいて保健師活動を説明する看護モデルの開発を目指して,活動事例における保健師の考え方と働きかけを明らかにし,モデルの前提となる考え方を検討することである.

    方法:4つの活動事例について,実践した保健師への聞き取り,4事例中2事例は保健師が働きかけた対象者への聞き取りも行った.その内容をもとに,当該活動での保健師の判断,働きかけ,対象者の反応,2者関係の変化を構造図に示した.図の作成を通して看護者対対象者の2者関係に基づいて活動展開を説明しようとした際に確認できた保健師の考え方と働きかけを記述し,その内容を分類整理した.

    結果:保健師の考え方と働きかけは,34項目抽出され,「保健師は,目の前にいる1人の住民だけでなく,家族単位で対象を捉えている」等18の分類,さらに,【対象者の捉え方と対象者との関係に関すること】【保健師と対象者との関係からみた活動の展開に関すること】【保健師間の関係に基づく活動の展開に関すること】【活動展開における保健師の判断に関すること】の4大分類に整理された.

    考察:看護者対対象者の2者関係に基づいて保健師活動を説明するとき,対象者を家族や所属組織,住民同士のつながり等の人と人との関わりのなかにいる人と捉えることや,健康課題解決のための仕組みづくりを関係者1人ひとりの変化と関係の変化として理解すること等が前提となる考え方になる.

  • ─母子の個別支援を通して─
    山下 千絵子, 塩川 幸子, 藤井 智子
    2023 年 26 巻 1 号 p. 69-76
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

    目的:新任期保健師研修における事例検討を通して,保健師が行う母子支援に必要と考える情報と判断を問う質問内容の特徴を明らかにし,アセスメント力向上への示唆を得る.

    方法:A保健所管内新任期保健師研修で行われた母子支援の事例検討の質問内容を分析した.事例検討の逐語録から新任期保健師,プリセプター,管理期保健師のグループごとに質問内容を抽出しカテゴリー化した.

    結果:研究参加者は,保健師25人(新任期保健師11人,プリセプター7人,管理期保健師7人)であった.事例検討では,《児の成長発達の経時的評価》《育児に向き合う心のバランス》《母の児に対する関わり方の違和感》《親の人物像や生活歴》《親の育児観》《家族全体の関係性とサポート力》といった【家族の育児力を判断する問いかけ】で情報整理がされていた.また,《家族の育児力に合わせた働きかけ》《介入の手がかり》《専門職の判断を踏まえた課題の見極め》といった【介入の機会と方向性を探る問いかけ】で支援の検討を促していた.

    考察:母の育児力の判断を中心に据えて,発達に合わせた支援経過を時間軸で捉え,家族全体の総合的な育児力の判断を促す特徴が示された.支援では専門職の判断を共有し介入のタイミングと方法を見極め,方向性の検討を促していた.新任期保健師と先輩保健師が共に参加し,保健師経験に応じた重層的な質問でアセスメントを促す事例検討の企画の有効性が示唆された.

資料
  • 酒井 太一, 江口 晶子, 川田 梨絵, 岩清水 伴美
    2023 年 26 巻 1 号 p. 77-83
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

    目的:保健所の地域精神保健福祉業務において暴力予防を行うために,地域精神保健福祉従事者が工夫していることや心がけを明らかにすることを目的とした.

    方法:県保健所に在籍する地域精神保健福祉従事者17人に半構成面接によるインタビュー調査を行った.分析方法は,逐語化したインタビューデータの計量テキスト分析(テキストマイニング)として階層的クラスター分析を用いた.

    結果:分析の結果,9つのクラスターが抽出され,クラスターの意味や内容に基づいて4つのカテゴリー【支援対象者との近接圏でのチューニング】【リスク軽減を主目的にした護身的準備】【家族・スタッフとの協力体制の運用】【移送時の周到な人員配備】に分類された.

    考察:地域精神保健福祉従事者が暴力を予防するための工夫および心がけは,支援対象者との相互の関わりのあり方に注力しながら,個人的・組織的に暴力のリスクを軽減することを重視することであった.

  • 髙木 美歩, 福田 和美
    2023 年 26 巻 1 号 p. 84-91
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/26
    ジャーナル フリー

    目的:精神科訪問看護利用者が希望を語ることにつながった看護師の関わりを,利用者の視点から明らかにする.

    方法:精神科訪問看護利用者3人に,インタビューガイドに基づいた半構成的面接を行い,質的記述的方法にて分析した.

    結果:精神科訪問看護利用者が希望を語ることにつながった看護師の関わりとして{人対人の関係構築}{日常生活全体のサポートとセルフケアの促進}{希望の実現に向けた働きかけ}の3テーマ,【主担当であることの明確な説明】【訪問看護場面に限定されない利用者への継続した関心】【利用者の心情,話す内容や範囲を尊重した態度】【希望を話しやすい雰囲気づくりと会話のテクニック】【利用者の生活全体の理解と気遣いによるセルフケアの促し】【利用者自身の疾病管理を目的とした振り返りの機会の設定】【希望や将来に向けた会話の方向づけと資源の提供】【利用者が語る希望の肯定的な受け止めと理解】の8カテゴリーが抽出された.

    考察:{人対人の関係構築}は希望を表出する対象の選択に影響し,希望の自己開示や会話のなかでの自然な表出につながり,{日常生活全体のサポートとセルフケアの促進}は日常生活活動や精神状態と同様に希望も話したほうがよいことだという看護師に話す内容の選択に影響し,{希望の実現に向けた働きかけ}はより具体的な希望の語りや次の希望の語りにつながることが示唆された.

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