日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
21 巻, 3 号
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原著
  • 岡本 優子, 樋口 まち子
    2018 年21 巻3 号 p. 6-14
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:在日フィリピン人女性の肥満に関連する食事・運動・睡眠・ストレス対処の行動とその認識について明らかにする.

    方法:滞日年数5年以上で40歳以上の在日フィリピン人女性10人に半構造化面接を実施し,帰納的記述的に分析した.

    結果:在日フィリピン人女性は,日々の生活で【肥満関連疾患予防や健康維持のために食習慣が変容】し,【肥満関連疾患予防とともに健康維持のための運動習慣の獲得】をし,【健康であるための良眠の確保】や【日々のストレスをやり過ごす工夫】による肥満予防のための行動を認識していた.一方で,在日フィリピン人女性は,【回避できない肥満になりやすい食習慣】や【生活に運動を取り入れることが困難である要因】により運動できないこと,【肥満をもたらす睡眠行動】や,【ストレス対処としての食事】の摂取による肥満予防に反する行動も認識していた.

    考察:在日フィリピン人女性の肥満予防に関する相反する行動と認識は,彼女たちがフィリピンで培った行動と来日を契機に変容した行動を織り交ぜつつ,試行錯誤を繰り返しながら,日本での生活を遂行するなかでもたらされたと考えられる.

    結論:在日フィリピン人女性の食事・運動・睡眠・ストレス対処における肥満予防に関する行動と認識が相反するのは,フィリピンで培った行動と来日を契機に変容した行動を織り交ぜて生活していることによるものであると理解したうえで肥満予防対策を構築する必要性が示唆された.

  • 依田 明子, 佐藤 由美
    2018 年21 巻3 号 p. 15-23
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:禁煙外来受診者が,禁煙を開始し継続するなかでの心理プロセスを明らかにし,禁煙支援への示唆を得る.

    方法:禁煙外来受診者6人に対して,禁煙外来初回受診時から最終受診時の3か月間の各外来終了後にインタビュー調査を行い,得られたデータから修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した.

    結果:外来受診時は【気持ちを整理して準備】し,禁煙開始後【気持ちを意識的に禁煙へ向け】,日々過ごすことで【光がみえ,気持ちが少し楽になる】と感じ,禁煙外来終了時には【気持ちに一区切りをつける】という『禁煙に向かう気持ちが進展する』プロセスであった.並行して,初回受診時の<自分をコントロールできない気がして怖い>という不安が,上記の過程を通して<ここまで来たらたぶん大丈夫>と自信を獲得していくが,<大丈夫と言われるがまだ不安>という『禁煙を決意した自分への不安が小さくなりつつも払拭できない』というプロセスがあり,相互に関係しながら進んでいくものであった.そして,2つのプロセスを家族やスタッフからの【精神的な支えが力になる】思いが支えていた.

    考察:禁煙外来受診者は不安を抱えながら受診し,禁煙を開始し継続するなかで直面する課題を1つひとつ乗り越えていくことで達成感を得て,その結果,自己効力感を獲得し,禁煙行動とともに禁煙に向かう自分への自信が禁煙の継続へと結びついていくという心理プロセスであった.

  • ―都市部・農村部を対照地域として―
    井上 高博
    2018 年21 巻3 号 p. 24-31
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:離島在住の要支援高齢者におけるソーシャル・キャピタルと生活機能について,都市部および農村部在住者との比較により,それらの特徴を明らかにする.

    方法:地域包括支援センター専門職者によって,要支援高齢者741人(離島241人,都市部250人,農村部250人)を対象に,質問紙調査を行った.独立変数は,要支援高齢者の居住地域(離島,都市部,農村部)であり,従属変数はソーシャル・キャピタル(一般的信頼と互酬性の規範,社会的ネットワーク)と生活機能(老研式活動能力指標,JST版新活動能力指標)である.

    結果:離島の要支援高齢者における他者への信頼は,都市部と比べて低かった(離島=1.0,都市部=2.03,95%CI:1.26-3.28,p<0.01).また,離島の要支援高齢者における生活機能は,老研式活動能力では農村部(2.26,1.48-3.47,p<0.01)と比べて低く,JST版新活動能力では都市部(3.04,1.85-5.00,p<0.01)と比べて低かった.

    結論:離島在住の要支援高齢者におけるソーシャル・キャピタルの特徴は,都市部と比べて他者への信頼が低かった.また,生活機能の特徴では対象地域と比べて低かった.

研究報告
  • 坪井 りえ, 赤堀 八重子, 齋藤 基
    2018 年21 巻3 号 p. 32-40
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:市町村福祉部門において精神障害者の個別援助活動に携わる保健師のジレンマについて,ジレンマを構成する要素間の関係性から構造を明らかにする.

    方法:関東地域の市町村福祉部門に所属し,精神障害者の個別援助活動に1年以上従事している保健師11人を対象とした.データ収集は,ジレンマの具体的場面等について半構造化面接を行った.分析は,要素間の関係性をとらえて図解化することを通して構造を把握できるKJ法を用いた.

    結果:市町村福祉部門において精神障害者の個別援助活動に携わる保健師のジレンマは,要素1【保健師という名目だけの職員になる】という保健師活動へのあきらめと,要素2【(保健師だから)自助力がつくように支援したい】という現状への抵抗とを状況に応じて変えながら,要素3【その保健師なりの“福祉保健”をやっている】のように福祉部門と共生し,あきらめや抵抗の状況と共生を相互に繰り返す構造となっていた.

    考察:保健師は,保健部門との理念の相違によるあきらめと,福祉部門では求められていない対象者のセルフケアを促す活動を行うなどの現状への抵抗を,状況に応じて変えていた.そのなかで保健師は,自然に潜在的な能力を発揮して,福祉の場に合わせた活動を行い,共生していた.ジレンマを乗り越えるためには,保健師のリフレクションを通して,福祉部門の保健師活動を顕在化し,職業的アイデンティティの再認識を促す必要がある.

資料
  • ―地域におけるプログラム企画者へのインタビューと参与観察より―
    西山 依里, 渡井 いずみ
    2018 年21 巻3 号 p. 41-48
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:地域で就労妊婦を対象に行われている母親学級等のプログラム内容およびプログラム実施の効果に対する企画担当者の評価を明らかにすることである.

    方法:地域で就労妊婦を対象とした学級を開催する3自治体でプログラムを企画・実施した保健師または助産師に対する半構造化面接と学級の参与観察を行い,質的記述的に分類・整理した.

    結果:プログラム内容として,11サブカテゴリーと5カテゴリー【基本的な妊娠・出産・育児に関する情報を提供する】【夫婦共同での子育て体制を促す】【共働きカップルに起こりやすい葛藤や不安を軽減する】【近隣の共働き夫婦との仲間づくりを推進する】【仕事と子育ての両立を支援する】が抽出された.プログラム企画者による実施効果評価として9サブカテゴリーと4カテゴリー【共働きカップルの仕事と育児の両立に向けた準備が促進される】【多職種・多機関が連携したプログラムをつくる必要がある】【休日開催に伴う利点と課題が生じる】【継続的に実施できる方法の検討が必要である】が抽出された.

    考察:就労妊婦を対象としたプログラムには,共働き夫婦特有の葛藤や不安の軽減や仕事と子育ての両立支援など特徴的な内容が含まれており,企画者も一定の効果があると評価していた.しかし,共働き夫婦の多様なニーズに応えることや継続的に実施することへの困難も明らかとなり,今後の運用方法を検討する必要性が示唆された.

  • 増田 裕美, 西嶋 真理子
    2018 年21 巻3 号 p. 49-55
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:前向き子育てプログラムに参加した学童期以降の発達障がい児の親の子育てについての認知と行動の変化を明らかにする.

    方法:前向き子育てプログラムの参加者の発言を逐語録にし,子育てに関する気づきの発言に注目して意味単位として抽出し,親が自分の認知や行動を変化させていることを意味するかどうかを吟味・検討し,分析する.

    結果:前向き子育てプログラムに参加した学童期以降の発達障がい児の親の子育てについての認知と行動の変化として,【新しく学んだ技術を取り入れる】【いままでの自分の育児行動や考えを振り返る】【自分の感情をコントロールして子どもに関わる】【家族と協力関係を構築する必要性に気づく】の4カテゴリーを抽出した.

    考察:学童期以降の発達障がい児の親は,前向き子育てプログラムを通して子育てに関する知識とスキルを身に付け,【新しく学んだ技術を取り入れる】【いままでの自分の育児行動や考えを振り返る】【自分の感情をコントロールして子どもに関わる】【家族と協力関係を構築する必要性に気づく】ことで子育てに前向きになり,子どもの問題行動や家族の課題に対処することが示唆された.発達障がい児の子育て支援においては親同士が子育ての体験を共有し,共感し合える場の提供と個別の状況を把握したうえでの個別支援および継続支援が必要である.また,学童期以降の発達障がい児の親は家庭内のコミュニケーションが重要な課題であると考える.

  • 小尾 栄子, 村松 照美
    2018 年21 巻3 号 p. 56-63
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:在留外国人の母親が妊娠期から育児期に行政保健師から受けた支援を明らかにする.

    方法:研究参加者は,本研究に参加同意を得たA県内在住の在留外国人の母親6人.2016年12月に半構成的面接法で必要時通訳を介し面接を実施した.録音データを逐語録にし,保健師から受けた支援を意味のあるひとつの文章群として抽出し,質的に分析した.

    結果:母親6人は10~40歳代のアジアと南米出身者であった.保健師から受けた支援は,母親の『妊娠期』『育児期(乳児期)』『育児期(幼児期)』の3つの時期において整理した.『妊娠期』は,《妊娠中の健康管理に必要な知識や情報を分かりやすく伝えてくれた》等の4カテゴリー,『育児期(乳児期)』は,《母親の育児と母国の育児文化を認めながら指導してくれた》等の7カテゴリー,『育児期(幼児期)』は,《母親の心配な思いに寄り添い対応してくれた》等の4カテゴリーに収れんされた.

    考察:在留外国人が保健師から受けた支援は,妊娠期には,母子健康手帳交付時に保健師が妊婦を把握することで在留外国人にとって保健師との信頼関係を構築し安心して支援を受ける機会につながった.育児期(乳児期・幼児期)には,保健師が母親への素早いフォローを病院と連携して行うことで,適時な養育支援に繋がり,また,在留外国人母の情報からの孤立や孤独感に対して継続して相談を行い,安心を与える効果をもたらしていたことが示唆された.

  • 中谷 久恵, 金藤 亜希子
    2018 年21 巻3 号 p. 64-70
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,行政で働く保健師の職場と職場外での情報ネットワーク環境を把握し,ICT活用の現状を明らかにすることである.

    方法:調査対象者は670人の保健師であり,調査内容は属性,職場と職場外の情報ネットワーク環境と検索学習の実態,eラーニング利用の有無を調査した.調査は,無記名自記式で任意の調査票を配布し,研究者宛に個別に郵送で返送してもらった.

    結果:350人から回答があり,常勤317人を分析対象とした.職務上の個人専用パソコンは82.6%が保有し,職場外でネットにつながる私用機器は95.0%が所有していた.職務に関する職場内外での検索学習は92.7%が行っており,職務の個人専用パソコンを保有する保健師は検索学習の割合が高かった(p=0.004).eラーニングの学習は77.9%が希望しており,職場内外の情報ネットワーク環境や年齢区分での有意差はなかった.

    考察:保健師は,個人専用の情報通信機器を8割以上が保有し,インターネットを活用した職務の検索学習を9割以上が実施しており,ICTを活用している実態が明らかとなった.eラーニング利用は約8割が希望しており,保健師はICTを職務の利用に加えて,学習用のツールとしても関心を寄せていることが示された.

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