日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
23 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
研究報告
  • ─子育てを助ける対話への示唆─
    門間 晶子
    2020 年 23 巻 3 号 p. 4-12
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,虐待の疑いで子どもが一時保護となった母親の,保護前後やその後の子育ておよび周囲の人々との関係のなかでの経験を明らかにし,子育て支援における親と支援者の対話や相互作用の示唆を得ることである.

    方法:約1年半にわたるインタビューと参与観察を行った.倫理的な配慮として,研究協力への自由意思を尊重し,研究協力者の都合や体調へ配慮し,プライバシー保護に留意した.所属機関の研究倫理委員会の承認を得て行った.

    結果:子どもを一時保護された母親は児相職員から〔気持ちや状況をしっかり聴いてもらえないまま引き離された〕と感じ,一時保護に憤る気持ちを代弁してくれた民生委員や頼りにしていた保育士の存在から,〔自分に説明する力がないときに自分の気持ちや親子の愛着を代弁してもらえた〕ことに安堵した.また,〔自分たち親子への支援者の印象や懸念が伝わりにくいが,伝えあう場をもてた〕という経験をした.〔子どもの目線に立つのはむずかしく,子どもをつい統制してしまう〕と振り返り,子育てのよりよい方法をいっしょに考えてほしいと願った.一時保護中の親教育を受けるなかで〔以前の子育てを振り返り,他者に頼りながら子どもへの理解を深める〕経験をした.

    考察:支援への示唆として,親の気持ちや状況に焦点を当てて即応すること,当事者と支援者との間で開かれた対話をもつこと,が提案できる.

  • 池谷 実歩, 蔭山 正子
    2020 年 23 巻 3 号 p. 13-22
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    目的:地域で暮らす精神障がい者は今後も増加が見込まれる.本研究は,精神障がいを抱えながら育児を継続している親の経験を明らかにすることを目的とした.

    方法:18歳未満の子どもをもつ精神障がい者である母親8人と父親3人にインタビューガイドに基づいた個別の半構成的面接を行い,精神障がいを抱えながら育児を継続している親はどのような経験をしたかという視点で,逐語録を質的記述的に分析した.

    結果:親は服薬調整や育児の忙しさによって病状が不安定になった.しかし,病状とうまく付き合う方法を模索し,【妊娠・育児中の病状コントロールのむずかしさを乗り切る】ようにしていた.また,家族やママ友などから孤立したり,「病気をもちながらの育児」に対する支援が得られず,【親として孤立を味わうが理解者と出会い救われる】経験をした.親は病気の遺伝や家事がこなせないことなどによる【病気が子どもに与える影響に苦しみながらも自分の経験を生かした育児をする】ようになった.そして【親となり生きることに前向きになる】経験をし,育児をしながらの社会参加を目標とした.

    考察:親は周囲から孤立しがちであるため,他の精神障がいをもつ親や地域とのつながりをもつことが重要であると考えられる.また,支援を得られずに孤立していたことから,支援する際は,自ら支援を求めることを苦手とする親からの相談を待つだけではなく,保健師等から連絡をとっていく必要があると考えられる.

  • ─訪問看護師へのインタビュー調査─
    佐藤 千津代, 鈴木 浩子, 富田 真佐子, 村田 加奈子
    2020 年 23 巻 3 号 p. 23-31
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    目的:在宅における特定行為とその導入に対する訪問看護師の認識を明らかにする.

    方法:A県の訪問看護師8人に対して,半構成的インタビュー調査を実施し,データを質的帰納的に分析した.

    結果:特定行為とその導入に対する訪問看護師の認識は,【特定行為への期待】として≪利用者・家族の負担軽減≫≪タイムリーな特定行為による回復効果の期待≫≪特定行為ができないことによるロス発生の抑止≫≪看護の質向上に貢献≫≪在宅医療体制充足に貢献≫≪医師の負担軽減≫が抽出された.【特定行為への懸念と抵抗感】として≪現状の医療体制で対応可能≫≪看護師の役割を超えた医行為拡大への懸念≫≪制度導入への疑問と抵抗≫≪本来の看護ケアの質低下への懸念≫≪地域医療体制の底上げが優先≫が抽出された.【特定行為運用の課題】では≪看護師の判断力・技術力の担保≫≪特定看護師の負担増大≫≪責任の所在と安全管理の課題≫≪主治医との連絡・意思疎通の課題≫が抽出された.

    考察:訪問看護師は特定行為に対して,肯定的認識と否定的認識の両方をもっていた.そして,特定行為を実践し運用するには課題があると認識していた.この認識は制度に係る理解が十分進んでいないことやその地域の医療の状況に影響されると考えられる.特定行為の導入には,この制度の理解を深め,訪問看護師の特定行為に対する認識を統一させていく方策や課題への取組みが必要である.

資料
  • 須田 由紀, 村松 照美
    2020 年 23 巻 3 号 p. 32-38
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    目的:山梨県下における自治体規模と市町村保健師による発達面で気になる児の抽出割合および親から今までに受けた相談内容との関連について明らかにする.

    方法:山梨県内全27市町村の母子担当リーダー保健師27人と市町村保健師312人に無記名自記式質問紙調査を実施した.調査内容は自治体規模,発達面で気になる児の数,親から今までに受けた相談内容等.自治体規模と保健師による発達面で気になる児の抽出割合との関連にはMann-Whitney U検定,目的変数を自治体規模とし,親から今までに受けた相談内容で自治体規模との関連が示唆された6因子を説明変数として投入し多重ロジスティック回帰分析を行った.

    結果:自治体規模と保健師による発達面で気になる児の抽出割合との関連については,1歳6か月児・3歳児健診ともに有意差はなかった.自治体規模と親から今までに受けた相談内容で有意な関連がみられたのは「児の発達面で気になる点について保育園や幼稚園の子ども達やその親の理解が得られない」(p=0.043),「家事・育児・仕事の両立がむずかしい」(p=0.008),「継続して通える発達支援の訓練の施設が少ない」(p<0.001),「継続して発達支援の訓練に通うための親の時間的負担が大きい」(p=0.021)の4因子であった.

    考察:市町村保健師には地域特性を包括的にとらえたうえで,家族全体を支え続ける支援が求められていると考える.

  • 細谷 紀子, 佐藤 紀子, 雨宮 有子, 石川 志麻
    2020 年 23 巻 3 号 p. 39-46
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    目的:要配慮者を支援する自主防災組織の活動実態を明らかにし,災害に備えて要配慮者を住民相互の助け合いにより支えるための課題を検討することを目的とする.

    方法:要配慮者への支援活動を積極的に行っている10の自主防災組織リーダー18人に半構成的面接調査を行った.聴取内容から自主防災活動開始のきっかけとねらい,要配慮者への支援に関する活動上の工夫,困難に感じていることの語りを抽出してコードを作成し,質的帰納的に分析した.

    結果:要配慮者への支援の工夫として,要配慮者の把握には【全対象への独自調査や訪問】など8カテゴリーが,個別支援計画の策定には【要配慮者と支援者とのマッチングに関する工夫】など4カテゴリーが,避難訓練には【地域住民や中学生・関係機関への働きかけによる訓練実施の協力体制づくり】など5カテゴリーがあった.また,日常の支援活動を災害への備えに連動させる工夫には【普段からの見守り活動による安否確認の継続】他3カテゴリーがあった.困難に感じていることは【支援者不足と負担の増加】や【支援を求めにくい人の把握や関係づくり】他5カテゴリーがあった.

    考察:災害に備えて要配慮者を住民相互の助け合いにより支えるための課題として,「支援を求めにくい要配慮者と自主防災組織とのつながりづくり」「地域に潜在する人材の力量発揮と支援者の作業負担の軽減」と「要配慮者への支援の後ろ盾となる協力関係の確保」が考えられた.

第23回学術集会報告:学術集会長講演
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