日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
21 巻, 2 号
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原著
  • ―活動とその成果の因果モデル―
    宮﨑 紀枝, 河原 加代子
    2018 年 21 巻 2 号 p. 4-13
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は,事業化のストラテジーの構成概念間の構造を明らかにすることを目的とした.

    方法:自治体の保健師を対象に,1事例の事業化経験について回答を求める,郵送法・無記名自記式質問紙調査を実施した.事業化のストラテジーの構造を活動とその成果の因果モデルで構築し共分散構造分析で検証した.

    結果:885人の研究協力が得られた.事業化のストラテジーの活動部分と成果部分は,それぞれ5つの構成概念からなった.因果モデルは,3つのフェーズをもった構造となった.モデルの適合度はGFI=0.931,AGEI=0.916,CFI=0.942,RMSEA=0.042であった.フェーズ1は活動部分の≪自主的参加に向けた対象者支援≫≪実施に向けた合意形成≫≪企画メンバーによる全過程の共有≫≪魅力ある事業内容≫≪対象者理解≫であり,フェーズ2は≪よりよい施策化への発展≫≪連携体制の強化≫≪対象者の主体的変化≫,フェーズ3は≪目的に対応した成果≫≪専門性の向上≫で成果部分であった.

    考察:保健師による事業化のストラテジーには,住民の主体的変化を目指すストラテジーと支援体制を強化し施策化への発展を目指すストラテジーの2つがあると明らかになった.

  • 松永 妃都美
    2018 年 21 巻 2 号 p. 14-21
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:乳幼児を養育していた母親が福島第一原子力発電所事故の放射線被ばく回避を目的とした自主避難を実行するまでのプロセスを明らかにする.

    方法:福島第一の事故当時に乳幼児を養育し,A地域での自主避難を継続していた母親21人を対象とした半構造化面接を行い,複線経路等至性アプロ―チを用いて分析を行った.

    結果:研究協力者は,福島第一の事故に関するネガティブな情報を〔インターネット(SNS)を活用した情報収集〕で獲得し,〔SNS情報と現実がスッとつながる感覚〕を経験していた.このことが【避難元の生活で放射線被ばく健康影響が起こると考える】起点となり,{選択的情報収集}や〔放射線被ばく回避行動〕の契機になっていた.また研究協力者は,〔子どもを被ばくさせた罪悪感〕や〔放射線被ばく防護の限界〕を痛感するなかで{自主避難という選択肢の台頭}をしていた.しかし同時にこのことは,夫と築いた〔家族についての熟考〕をすることでもあった.このような熟考と〔避難への交渉と駆け引き〕を行うなかで研究協力者は〔母としての自己役割を優先〕する.そして【築き上げた生活や人間関係を捨てる覚悟】を行ったのち,≪放射線被ばく回避を目的とした自主避難の実行≫をしていた.

    考察:自主避難を継続する母親への支援には,放射線被ばくへの不安や恐怖を和らげること,また避難を実行するまでの苦難や葛藤を理解した対応が重要であることが示唆された.

研究報告
  • ―発達障害の特性を指摘されてから専門機関の継続的な支援を受けるまで―
    伊藤 由香, 小林 恵子
    2018 年 21 巻 2 号 p. 22-30
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:子どもの発達障害の特性を指摘されてから専門機関の継続的な支援を受けるまでの母親の子育てにおける体験を明らかにすることにより,子どもの発達障害の特性を指摘された母親への保健師の支援のあり方について示唆を得ることである.

    方法:A市在住の発達障害のある子どもを養育する母親7人を対象に,子育てにおける体験の具体的内容について半構造的インタビューを実施し,質的帰納的に分析した.

    結果:母親の子育てにおける体験として【発達障害の特性を指摘されたときのどん底への落ち込み】【発達障害が不確かななかでの苦悩】【発達障害への不安を1人で抱える孤独】【これまで行ってきた子育てへの自責】【発達障害の特性への対応の困難さによる心身の疲弊】【発達障害にとらわれて子どもを受け入れられない辛さ】【子どものために発達障害に向き合っていこうとする思い】【専門機関の支援につながったことによる落ち着き】【子どもの成長の実感による子育てへの自負】の9つのカテゴリーが生成された.

    考察:特性を指摘された後,母親はどん底に落ち込み,母子のアタッチメント形成にも影響を与えていたことから,特性の指摘においては母親との信頼関係を築き,親子の伴走者として継続的に支援し,子どもへの対応方法を獲得できるようにする必要がある.これらの支援により母親の苦悩や孤独,アタッチメント形成への阻害も緩和されると考えられる.

  • 松本 恵子, 上野 昌江, 大川 聡子
    2018 年 21 巻 2 号 p. 31-39
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:保健師が地域で生活する未治療・治療中断の統合失調症をもつ人の生活能力に視点をおいた支援を明らかにすることである.

    方法:市町村保健センターで精神保健福祉相談を行った経験をもつ保健師10人を対象に半構成面接を行い,インタビュー逐語録を質的に分析した.

    結果:保健師が行った生活能力に視点をおいた支援として9カテゴリー,42サブカテゴリーが抽出された.保健師は,【安心して相談できる人になる】【家族の危機状況を察知する】【困りごとにとことん対応する】【精神症状の世界を受け止める】という関係づくりを行うなかで,生活能力をとらえていた.そして,生活の場で保健師が継続的に関わるなかで,本人の生活能力として,【暮らしていける能力を見つける】ことを行っていた.そのうえで本人の生活能力に合わせ,【丁寧に医療につなぐ】【安定した在宅生活に向けて治療体制を整える】【途切れないように関わる】【生活の再構築に向けて次の支援者につなぐ】ことを行い,生活能力を見極めたうえで,治療につなげるだけでなく,患者の生活の幅を広げることを行っていた.

    考察:保健師の地域で生活する未治療・治療中断の統合失調症をもつ人に対する支援は,【暮らしていける能力を見つける】という生活能力に着目していることが示された.この暮らしていけるという能力は,彼らが地域で生活していくうえで重要であると考える.

  • 小野 若菜子, 永井 智子
    2018 年 21 巻 2 号 p. 40-48
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究では,死別を経験する家族を支えた地域の人々の関わりがどのようなものかを探索し記述した.

    方法:半構造的インタビューによる質的記述的研究であった.研究協力者は,都市部のA市区町村において,地域活動に携わり,近隣の死別の相談を受け,見守ったことのある住民,もしくは,公的機関等に勤務している職員であった.質的記述的にインタビューの内容分析を行った.

    結果:研究協力者は13人,平均年齢は69.7歳であった.死別を経験する家族を支えた地域の人々の関わりとして,【助けを求められる地域の関係をつくる】【広くみんなの幸せを願いながら人と関わる】という,いざというときに助けを求められる地域の形成に取り組まれていた.そして,【療養者の介護をする家族を支える】【療養者を見送るなかで家族を見守る】という療養から死までの見守りがなされていた.死後しばらくしてからの関わりとして,【家族のその後の生活を見守る】【家族の心情に添って関わる】ことがあった.

    考察:長年の顔見知りの関係性が信頼関係に発展することで近隣の死別を見守るという交流が生じていた.療養や葬儀の見守りを通して近隣の人々がつながる機会にもなる.今後,住民や地域活動に携わるキーパーソンに対して,死別やその支援に対する啓発活動を行い,死別に遭遇する家族を支える地域の育成を促進することが大切である.

  • ―在宅医療連携部署に所属する病院看護師と訪問看護師に焦点を当てて―
    鈴木 優花, 田髙 悦子, 伊藤 絵梨子, 有本 梓, 大河内 彩子, 白谷 佳恵
    2018 年 21 巻 2 号 p. 49-57
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:地域包括ケアシステムの推進に向けた在宅医療における看護職間の「顔の見える関係」評価を把握するとともに関連要因を明らかにする.

    方法:対象は首都圏A県の病院看護師と訪問看護師(ST)計556人であり,方法は無記名自記式質問紙調査(郵送法)である.調査項目は顔の見える関係評価,基本属性,看護職間チームワーク・コンピテンシー等である.

    結果:回答者は238人(病院85人,ST153人),回収率は42.8%(病院37.0%,ST46.9%)であり,有効回答数は234名(病院83人,ST151人),有効回答率は98.3%(病院97.6%,ST98.7%)であった.平均年齢は病院45.8±8.6歳,ST43.1±8.4歳であった.病院看護師,STに共通してコンピテンシーの【他者への波及・拡張を意図した自分の思い,判断,行動の提示】,(病院看護師p = 0.05,ST p = 0.03),【他者の有効活用】(病院看護師p = 0.06,ST p = 0.03),【合計点】(病院看護師p = 0.04,ST p = 0.03)に有意な関連がみられた.

    考察:在宅医療介護従事者における顔の見える関係を推進するためには看護職のコンピテンシーの育成と看護職が育ち合う環境を検討することが必要である.

資料
  • 安藤 陽子, 小川 克子, 河原田 まり子
    2018 年 21 巻 2 号 p. 58-64
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,看護師課程における地域看護学の必要性に関する看護教員の認識と属性との関連を明らかにすることである.

    方法:全国の看護師養成機関である大学・短期大学・専門学校88校に所属する看護教員1,070人を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した.調査項目は,対象者の属性7項目(所属機関,取得資格等),看護師課程における地域看護学に対する認識(地域看護学の必要性,実習の必要性)についてたずねた.看護教員の認識と対象者の属性との関連について,χ2検定を用いて解析し,有意水準5%未満とした.

    結果:回収数422人(回収率39.4%)で,有効回答381人(35.6%)を分析した.看護師課程における地域看護学の必要性は272人(71.4%)が「必要である」と回答し,地域看護実習については240人(63.0%)が「必要である」と回答した.いずれの回答も,「保健師資格あり」「大学等に所属している」「保健師課程に携わっている」教員の必要性の認識が有意に高かった.

    考察:看護教員の属性により違いはみられるが,看護教員の7割以上が看護師課程における地域看護学の必要性を認識していることが明らかになり,今後,看護師課程に地域看護学を位置づけていくための検討が必要である.

  • ―幼少期の愛着形成に関わる経験に焦点を当てた検討―
    田中 陽子, 上野 昌江, 大川 聡子
    2018 年 21 巻 2 号 p. 65-74
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は愛着形成に関わる経験に焦点を当て,乳幼児を育てる母親自身が認識している幼少期の被養育体験を明らかにすることを目的とした.

    方法:乳幼児を育てる母親13人に半構成的面接を行い,データを質的に分析した.

    結果:母親の被養育体験の認識は【被養育体験への満足感】と【被養育体験への未充足感】の2つの側面で構成された.【被養育体験への満足感】は〈私の喜ぶことをしてくれた親の心づかい〉〈認められているという肯定感〉〈親しみに満ちた雰囲気のなかで育った安堵感〉〈見守られ,困っていることに対応してもらえたという信頼感〉〈子育てに前向きな親の姿勢〉が示された.【被養育体験への未充足感】は〈不快な気持ちに気づいてもらうことへの諦め〉〈いつも叱られていたという感覚〉〈私のペースに寄り添ってくれなかった〉〈きょうだいに対する態度への不公平感〉が示された.

    考察:母親自身の愛着形成において満足感と未充足感の2つの側面の被養育体験を認識していることが明らかになった.子育て中の母親が,自らの被養育体験の満足感を認識することは,子どもへの愛情や肯定的な関わりにつながると考えられる.親支援において,母親自身の子育てへの自己肯定感を向上させることが必要である.

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