日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
23 巻, 1 号
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原著
  • 岡野 明美, 上野 昌江, 大川 聡子
    2020 年 23 巻 1 号 p. 4-12
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/28
    ジャーナル フリー

    目的:認知症高齢者の生活支援に向けた地域包括支援センター保健師のコーディネーション尺度を開発することである.

    方法:尺度原案の作成は,地域包括支援センター保健師の半構成的面接からアイテムプールを作成し,認知症高齢者,地域包括支援センター保健師活動,コーディネーションに精通している実務者と研究者に表面妥当性と内容妥当性を確認し57項目を選定した.信頼性と妥当性の検討は,全国の地域包括支援センター414施設499人の保健師を対象に,郵送法による無記名自己記入式質問紙調査を行った.

    結果:372人から回答があり有効回答の314人(有効回答率62.9%)を調査対象とした.項目分析の結果32項目を探索的因子分析し,3因子25項目が抽出された.下位尺度は「認知症症状が生活に及ぼす影響をアセスメントする」「地域のなかで認知症高齢者を支える社会資源を創出する」「認知症高齢者を医療と介護の関係機関につなぐ」と命名した.Cronbach’s α係数は0.90~0.957,再テスト法による相関係数は0.818~0.869で,信頼性が確認された.外部基準尺度との関連ではすべてに正の有意な相関を認め,確証的因子分析による適合度は一定の許容範囲であったことから妥当性が確認された.

    結論:本開発尺度は3因子25項目からなり,一定の信頼性と妥当性を備えた尺度であることが確認された.今後本開発尺度の活用により,コーディネーション力の自己評価と自己研鑽の糸口になることが望まれる.

  • 高林 知佳子, 坪倉 繁美
    2020 年 23 巻 1 号 p. 13-22
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/28
    ジャーナル フリー

    目的:親の介護をしながら働く女性看護師のワーク・ファミリー・コンフリクト(以下,WFC)と,就業継続意思,介護環境,職場環境,家事の協力状況との関連を明らかにする.

    方法:親の介護をしながら働く女性看護師を対象に無記名自記式質問紙調査(郵送法)を実施した.分析対象者は全国の病院に勤務する女性看護師480人であった.WFCは親の介護をしながら働く女性看護師のWFC尺度(FN-WFC)により測定し,FN-WFC得点を従属変数とする重回帰分析を行った.

    結果:対象者の年齢は52.3±6.8歳で,FN-WFC得点は46.8±12.3点(最小値16.0点,最大値68.0点)であった.FN-WFC得点と有意な関連が認められたのは,介護環境では,介護のために夜中に起きる(β=-0.243, P<0.01),受診に付き添う(β=-0.114, P<0.01),職場環境では,職場の労働負荷(β=-0.273, P<0.01),家事の協力状況では,掃除の協力(β=-0.115, P<0.05)であった.

    考察:ケアマネジャーや訪問看護師等は,女性看護師の介護の負担状況をみながら,利用できる介護保険サービス等を紹介し,家族で協力し合えるよう支援していくことが重要である.職場においては,女性看護師の介護の負担状況に応じて,上司等が両立支援制度等の情報提供と利用の検討を行い,仕事量や働き方を調整していくことが重要である.

研究報告
  • 横山 歩香, 田髙 悦子, 白谷 佳恵, 伊藤 絵梨子, 有本 梓
    2020 年 23 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/28
    ジャーナル フリー

    目的:特定保健指導非該当である壮年期事務職男性の健診結果の受け取りにおけるヘルスリテラシーの様相を明らかにし,今後の健診を活用した健康づくりに向けた示唆を得る.

    方法:対象は,首都圏の壮年期男性事務職6人である.リサーチクエスチョンは,「特定保健指導非該当者である壮年期男性事務職は,健診結果をどのように理解,評価,活用しているのか」である.個別の半構造化面接によりデータ収集し,質的帰納的分析法によりデータ分析した.本研究は,所属研究機関により承認を受けて実施された.

    結果:壮年期男性事務職の健診におけるヘルスリテラシーの様相について,理解については,【現在の身体状況を大まかに読み取る】【将来の健康状態をおぼろげに察する】【健診と健康の重要性を改めて知る】,評価については,【日常生活と照らし合わせ意味づける】【自分の健康状態を解釈する情報として意義は認める】【入手した情報を手がかりに自己判断する】,活用については,【疾病リスクへの予防意識を高める】【健康維持・増進の緩めの縛りとして役立たせる】の計8つのカテゴリーが抽出された.

    考察:特定保健指導非該当である壮年期事務職男性の健診を活用した健康づくりの推進に向けては,個別支援として健診結果の通知のあり方や活用を向上すること,環境づくりとして健康づくりを支える人材や体制の整備が必要である.

  • 山縣 千開, 春山 早苗
    2020 年 23 巻 1 号 p. 32-41
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/28
    ジャーナル フリー

    目的:乳幼児をもつ生活困窮者世帯のなかの児童虐待ハイリスクケースを対象とした育児支援における支援課題と活動内容を明らかにし,妊娠・出産・育児を支援し,児童虐待を予防するための市町村保健師の活動方法を検討する.

    方法:質的記述的研究デザインで,研究協力者は乳幼児をもつ生活困窮者世帯に対する支援で成果を上げたと認識できる事例をもつなどの保健師とし,A県内の保護率上位10市町村の統括的立場の保健師に条件に該当する研究協力候補者の選定を依頼した.データ収集方法は,半構造化面接とした.

    結果:9市町村の9人の保健師から聴取した9事例を分析した.乳幼児をもつ生活困窮者世帯への育児に関わる支援課題は9カテゴリー,活動内容は25カテゴリーが生成された.支援課題カテゴリーには【子どものことにお金をかけられずに子どもの成長発達が妨げられる可能性】などがあり,活動内容カテゴリーには《生活困窮者自立支援事業相談員の情報提供により,支援の必要な世帯に家庭訪問でアウトリーチをする》などがあった.

    考察:支援課題の要因である「経済的困難」は,「妊娠中の健康管理力や養育能力の低さ」「生活能力の低さ」「移動手段の欠如」と重なっており,これらが重なることで不適切な養育となる.保健師は,経済的困難に加えて他の要因が重なっていないかアセスメントして支援を判断する必要があり,養育問題の背景に経済的困難がないかを積極的に把握しなければならない.

  • 福田 由紀子, 島内 節, 藤原 奈佳子
    2020 年 23 巻 1 号 p. 42-51
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/28
    ジャーナル フリー

    目的:訪問看護新規利用者の訪問看護開始期における緊急対応が発生する要因を明らかにする.緊急対応の定義は,療養者・家族の要望により,計画以外の緊急訪問看護(緊急訪問)や電話相談で対応(電話対応)したこととした.

    方法:訪問看護開始日~14日間に緊急対応が発生した訪問看護新規利用者の2015年10月~2016年9月のカルテ調査である.調査施設は訪問看護ステーション15か所である.調査内容は緊急対応の内容,社会資源等である.分析方法は,緊急対応の要因を明らかにするため訪問看護開始日から7日(1週目)と8日~14日(2週目)に分け,χ2検定,緊急対応の有無を従属変数とするロジスティック回帰分析を用いた.

    結果:緊急対応した新規利用者は95人(緊急対応発生率16.3%)であり,緊急訪問60人(63.2%),電話対応35人(36.8%)であった.対応時期は1週目に緊急訪問,電話対応とも有意に多かった(P<0.02).緊急訪問に影響を及ぼす要因として1週目では,認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上(オッズ比10.09:95%信頼区間1.27─81.11),2週目は,医療処置の実施(3.87:1.06─14.12)であった.

    考察:緊急訪問の発生要因は1週目では認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上で10倍,2週目は医療処置の実施で10倍のリスク要因であった.認知レベルを評価し早期に情報を共有すること,医療処置については教育・支援を行うことで緊急訪問の発生を減少させることが示唆された.

資料
  • 柴田 滋子, 鈴木 美和, 町田 貴絵
    2020 年 23 巻 1 号 p. 52-58
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/28
    ジャーナル フリー

    目的:訪問看護ステーションでの在宅看護学実習における実習指導者と教員との連携の実態と課題を明らかにすることを目的とした.

    方法:在宅看護学実習を受け入れている35施設の訪問看護師77人を対象に自記式質問紙調査を行った.記述統計量算出後,自由記載については内容分析を行った.

    結果:質問紙の有効回答数は38人(49.4%)であった.実習指導者は,教員との連携を重要であると感じていたが,むずかしさを感じている者も約半数いた.教員との連携に関する自由記載の内容は,【連携の機会】【連携の方法】【連携の内容】【実習の指導体制】【実習指導のメリット】の5つのカテゴリーに分類された.

    考察:実習指導マニュアルがある施設は半分以下であり,実習指導者に実習指導方法を一任している施設が少なくないことが推察された.訪問看護ステーションでの実習においては,実習指導者と教員が直接,学生の情報を共有する機会は少ない.そのため教員は,事前の打ち合わせや事後のフィードバックなどを活用して実習施設との関係性を構築し,連携の機会を広げていくことが重要であると考えられた.また,実習中は指導者と教員のそれぞれの役割や関わりを互いに伝えていく姿勢が必要であると考える.

  • ―2013〜2018年に発表された論文に焦点を当てて―
    吉岡 京子
    2020 年 23 巻 1 号 p. 59-65
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/04/28
    ジャーナル フリー

    目的:保健師が保健医療福祉計画策定(以下,計画策定)の際にどのような方策を用いているのかを解明し,保健師による計画策定を円滑に進めるための示唆を得る.

    方法:2019年5月に医中誌WebとCiNii Articlesの検索エンジンを用い,2013~2018年12月までに発表された文献を「健康増進計画」「がん対策推進計画」「医療費適正化計画」「特定健康診査等実施計画」「母子保健計画」「障害福祉計画」「介護保険事業支援計画」「介護保険事業計画」「医療計画」の各ワードと「保健師」「計画策定」をand検索した.

    結果:収集した29件のうち,事例報告が25件,解説が3件,調査が1件であった.計画策定時に保健師が用いている方策は,1)計画策定を円滑に進めるための体制づくり,2)課題分析,3)データ収集,4)優先課題・ターゲット集団の設定,5)施策の具体化に向けた検討,6)評価を視野に入れた準備,7)その他に分類された.関連計画との整合性の検討に関する記載は乏しかった.

    考察:本結果から保健師は自らの経験知に基づいて計画策定を進めていたと考えられる.保健師が計画策定を円滑に進めることができるようになるためには,その具体的な方策を学ぶための現任教育プログラムの開発が必要と考えられる.

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