日本地域看護学会誌
Online ISSN : 2432-0803
Print ISSN : 1346-9657
19 巻, 3 号
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原著
  • ―ルーブリック開発のためのパフォーマンス評価の規準となる内容の探索―
    牛尾 裕子, 松下 光子, 塩見 美抄, 宮芝 智子, 飯野 理恵, 嶋澤 順子, 小巻 京子, 竹村 和子
    2016 年19 巻3 号 p. 6-14
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,教員が地域診断に取り組む学生のどのような反応をとらえ,どのように評価しているのかを調べることにより,地域診断のパフォーマンス評価の規準となる内容を探索することである.

    方法:研究協力者は,看護系大学で地域看護診断の実習演習に直接携わっている教員12人で,講師3人,准教授8人,教授1人であった.地域看護診断の指導場面を想起し,教育的介入の状況と教員がとらえた学びの反応について,インタビューを実施した.インタビューで得られた語りから,教員が学生に期待したパフォーマンスを解釈・記述し,地域看護診断の過程と4つの評価の観点と照合し,教員の評価視点を分析した.

    結果:地域診断のパフォーマンス評価における教員の評価視点は,「重要な情報の抽出と解釈」「地域・生活の共感的理解」などの思考・判断,「情報収集のためのコミュニケーション」などの技能・表現,「公衆衛生看護の知識・理解の深化」という知識・理解,「保健師の実践へのコミットメント」などの関心・意欲・態度から構成された.

    考察:地域診断のパフォーマンス評価の規準となる内容の要素として,重要な情報の識別と関連づけ,地域・生活のイメージ・共感的理解,コミュニケーションおよび公衆衛生看護の専門職としての価値信念の内面化,が見いだされた.

  • 瀬戸 佳苗, 田髙 悦子, 有本 梓
    2016 年19 巻3 号 p. 15-23
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:地域在住自立高齢者におけるフレイルの実態および関連要因を明らかにするとともに,地域におけるフレイルの一次予防に向けた実践への示唆を得ることである.

    方法:研究対象者は地域在住65歳以上で介護保険の認定を受けていない高齢者であって,A市B区の区役所等において公募に応じた68人を対象に無記名自記式質問紙調査と身体・認知機能測定を実施した.調査項目は基本属性,フレイル指標,個人要因(BMI,FAB,主観的健康感,抑うつ,自尊感情,主観的幸福感),環境要因(つきあいの頻度,地域コミットメント,世代性関心)である.分析方法はフレイル指標と有意な関連(p<0.05)のみられた変数のうち,多重共線性(ρ≧0.65)を考慮し選択された変数を独立変数とし,フレイル指標を従属変数とした重回帰分析を行った.

    結果:対象者の平均年齢は76.3±6.1歳,女性45人(66.2%)であり,フレイルは3人(4.4%),プレフレイルは39人(57.4%),ノンフレイルは26人(38.2%)であった.フレイルに有意に関連していた要因は個人要因の主観的幸福感(β=-0.306,p=0.006),環境要因の世代性関心(β=-0.410,p<0.001)であった.

    考察:地域在住自立高齢者におけるフレイルの一次予防に対しては,高齢者個人の主観的幸福感を高めるとともに,世代性関心を高めるような環境づくりを検討していくことが重要である.

  • 小島 千明, 髙嶋 伸子
    2016 年19 巻3 号 p. 24-32
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:熟練保健師の実践から思考を含む具体的な地区活動展開プロセスを明らかにする.

    方法:方法は質的帰納的記述研究,対象は熟練保健師10人である.半構成的面接でデータを収集しM-GTAで分析した.

    結果:対象は,保健師経験年数を10年以上有し豊富な地区活動を経験していた.また,38の概念と13のサブカテゴリー,2つのカテゴリー『本気の高まり』『本気が住民の主体性を育む』,1つのコア概念【何とかしたい】を抽出した.

    考察:熟練保健師の地区活動展開プロセスは,『本気の高まり』から『本気が住民の主体性を育む』であり,その中心に存在するコア概念【何とかしたい】が地区活動を展開する駆動力になっていた.どうにかして地域をよりよくしたいという本気は,目の前の現象を自己に問うことで発現されていた.【何とかしたい】は,歴史的功績がある保健師の個々の記録にも記述されていたが,本研究にて実証的に明らかにされた.地区活動に関する代表的な理論やモデルには,『本気の高まり』は表されていないが,『本気が住民の主体性を育む』プロセスは,住民主体の行動を引き出し,地域に根づかせる準備をするPDCAサイクルであった.

    結論:実践的地区活動展開プロセスは,【何とかしたい】をコア概念として,本研究で実証的に導出された.【何とかしたい】は,目の前の現象を自己に問う自己内対話で発現されるものであった.また,住民主体の行動を引き出すPDCAサイクルにつながっていた.

研究報告
  • ―病院と診療所における比較―
    岡田 尚美
    2016 年19 巻3 号 p. 33-40
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/12/20
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    目的:分娩取扱医療機関に所属する助産師の保健機関に所属する保健師との連携の実態について,施設形態の比較を通して明らかにすることである.

    方法:分娩取扱医療機関の助産師1,000人を対象に,保健師との連携の有無,必要性,方法,内容などに関する無記名自記式質問紙調査を実施した.

    結果:376人(有効回答率38.0%)から回答が得られ,病院所属が183人(48.7%),診療所所属が193人(51.3%)であった.助産師の88.6%が,保健師と連携を「している」「どちらかといえばしている」と認識していた.また,医療機関の支援に限界があること,ハイリスクの母児が増えていることなどから98.2%が連携を「必要である」「どちらかといえば必要である」と考えていた.連携方法は全体として電話連絡が最も多く,ケース検討会および連絡票などの文書の活用が病院に有意に多かった.連携内容は,全体として情報提供をすることが最も多く,情報提供を受ける,援助の目的を一致させることなどが病院に有意に多かった.また,連携時間は,全体として勤務時間内が最も多く,休暇日の活動が診療所に有意に多かった.

    考察:助産師は保健師との連携が必要であると認識し,連携していた.また,課題を抱える家族に関して意識的に情報の送付・授受を行っていた.ケース検討会や会議などを通して関係を構築する必要性が示唆された.

  • 佐々木 理恵, 大河内 彩子, 田髙 悦子, 有本 梓, 伊藤 絵梨子, 白谷 佳恵, 臺 有桂
    2016 年19 巻3 号 p. 41-49
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,知的障がい者の将来の生活場所を決断する渦中にある母親の思いを明らかにし,知的障がいをもつ子どもの自立や,親のQOL向上への支援の示唆を得ることである.

    方法:方法は質的帰納的研究であり,対象者は親の会に所属する65歳以上74歳以下の母親6人である.

    結果:全対象とも【親・子離れの必要性】【親子の精神的なつながり】【施設入所への不安】【きょうだいへの罪悪感】【生活管理への不安】【仲間の存在の安心感】を感じていた.入所を継続させたい母親(第1群)に特徴的な思いとして【親も子どもも自立に向かうことへの安心感】【施設との関係に対する不満】があり,短期入所し将来は完全入所させたい母親(第2群)では【短期入所への抵抗感の低下】【完全入所後への不安】,将来の生活場所を迷っている母親(第3群)では【入所への抵抗感の高さ】,将来はきょうだいに託したい母親(第4群)では【親,子どもの安心感】【きょうだいに託す見通しのなさ】があった.

    考察:全対象に対して精神的なつながりを尊重した支援と高齢化や重度化に対応した地域資源の充実化,第1群に対して施設への不満軽減と親子関係の再構築促進への定期的な話し合いや情報開示への支援,第2群に対して短期入所の利用継続や完全入所への不安軽減,第3群に対して施設利用者と検討中の親の情報交換,第4群に対して母親の思いの揺れを理解しきょうだいを見守る支援,が必要であると示唆された.

  • 水野 智子, 杉田 由加里, 津下 一代
    2016 年19 巻3 号 p. 50-59
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,自治体における生活習慣病予防の保健指導スキルの向上に必要な条件を,保健指導実施者が実施すべきことと保健指導実施者の取り組みを促進するために所属組織に必要とされる条件の2つの側面から明らかにすることである.

     保健指導スキルの向上に向け,組織的な取り組みがされていると推薦された7市の計15人を研究参加者とし,自治体ごとに半構成的面接を実施した.面接項目は特定健診およびその後の保健指導の実施内容と従事者,保健指導スキルが向上したと思えた事実,保健指導の実施体制,OJTのなかでの保健指導スキルの向上に向け工夫している点等とした.逐語録から保健指導実施者が実施すべきこと,あるいは所属組織に必要とされる条件として要約を作成し,同質性からカテゴリーを抽出した.

     保健指導実施者が実施すべき条件として,<保健指導の事業目的の明確な意識化><対象者を尊重する徹底した姿勢><対象者の反応からの自己の実践の振り返り><得た知識を生かそうとする積極的な姿勢>が明らかとなった.組織の条件として,【保健指導スキルの向上に向けた組織の基盤づくり】【成果を目指した保健指導の実践のなかでの相互支援】【実践を踏まえたスキル向上のための学習時間・機会の保障】が抽出された.

     保健指導実施者の経験学習が促進するよう,所属組織として予算を確保し,OJTが機能する条件,マニュアルや記録の整備,新人の育成体制といった条件整備が必要である.

  • 小山 道子
    2016 年19 巻3 号 p. 60-69
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:地域包括支援センター看護職の社会福祉士,主任介護支援専門員との職種間協働と役割のプロセスを明らかにする.

    方法:関東圏域の直営型・委託型地域包括支援センターの業務経験4年以上の保健師および看護師9人に対して,職種間協働に対する考えや行動について半構成的インタビューを行い,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて質的帰納的に分析した.

    結果:看護職の職種間協働は,【職種間の統合】に始まり,《専門性を生かした相互支援》《教え合い》の【職種間の専門性の融合】へと循環し,〈役割の機能拡大〉する【包括的役割への変容】過程をたどり,その一方で,〈専門性の士気の高揚〉と〈専門性の意識の埋没〉という【専門性の意識の満ち欠け】を生じていた.

    考察:地域包括支援センター看護職の職種間協働は,専門的役割が発揮されていても,専門性の自覚やプライドが高められないことが特徴であり課題である.

  • ―妊娠届出時等の保健師の判断に焦点を当てて―
    中原 洋子, 上野 昌江, 大川 聡子
    2016 年19 巻3 号 p. 70-78
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    目的:保健師が妊娠届出時など妊娠中に把握した母親に対して,支援が必要と考えた理由とその後の支援内容を明らかにすることである.

    方法:母子保健活動の実践経験が5年以上を有する保健師10人を対象に半構成的面接を行い,データを質的に分析した.

    結果:妊娠中から支援が必要であると考えた理由は6の《カテゴリー》,15の〈サブカテゴリー〉からなり,コアカテゴリーとして【生きづらさを抱えていることの察知】が導き出された.母親への支援内容としては7の《カテゴリー》,32の〈サブカテゴリー〉からなり,コアカテゴリーとして【いつもそばにいていっしょに歩み続ける】が導き出された.支援のなかで感じる思いとして,2の《カテゴリー》,7の〈サブカテゴリー〉が抽出された.

    考察:保健師は妊娠中からかかわった母親のようすから【生きづらさを抱えていることの察知】をして支援が必要と考え,常に寄り添い,彼らの思いを重視したかかわりを行っていた.【生きづらさを抱えていることの察知】をした母親への支援は【いつもそばにいていっしょに歩み続ける】という時間をかけた関係づくりが基盤であると考える.保健師は支援において《出産までのタイムリミットが近づくことへの焦り》《子どもの安全が守られないことの危惧》などの思いがあるが,《母親が自分で決めるのをぎりぎりまで待つ》という母親の思いを重視して支援することが彼らの育児の自信を高め虐待予防につながると考える.

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