日本医療マネジメント学会雑誌
Online ISSN : 1884-6807
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ISSN-L : 1881-2503
20 巻, 4 号
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原著
  • 三尾谷 裕実, 斎藤 恵一, 坂本 千枝子, 井野 純
    原稿種別: 原著
    2020 年20 巻4 号 p. 164-168
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2024/11/21
    ジャーナル フリー

     慢性腎臓病患者を対象に、入院時の患者情報をDPCデータから収集し、入院初期段階で退院時期を予測するモデルの構築を試みた。DPC/PDPSが定める入院期間ごとに、退院時期の予測を行うため、入院初期段階に収集可能な「年齢」「性別」「併存疾患」「HファイルのB項目(患者の状況等)」の情報を収集した。入院期間区分を従属変数、患者状況の各項目を説明変数とした順序ロジスティック回帰分析を行った。構築された確率算出モデルは「食事摂取」「年齢」「I63・I69:脳梗塞(後遺症含む)」「N08:糖尿病性腎症」「I50:心不全」の項目の組み合わせであった。入院時の患者状況である5つの項目について評価値を入力し、算出されたパラメーターを適応することにより、5つの該当項目が多く年齢が高いほど入院期間が延長することが示された。さらに、退院確率が一番高い入院期間と実際に退院した入院期間が2期間以上離れる確率は3.3%と低く、このモデルの有用性が示された。入院初期段階で入院期間の予測ができることで、後方連携への貴重な情報となると共に、無駄のない病床管理の可能性が示唆された。

  • 児玉 悠希
    原稿種別: 原著
    2020 年20 巻4 号 p. 169-174
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2024/11/21
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は新人看護師の首尾一貫感覚(sense of coherence,SOC)と性格特性との関連を明らかにすることである。対象は全国の新人看護師1,280名とし、郵送法にて質問紙調査を行った。調査内容は対象者のSOCとその構成概念(把握可能感、処理可能感、有意味感)、性格特性である。測定は13項目SOCスケールとTIPI-J(Ten Item Personality Inventory)を用いて行った。分析は相関分析と重回帰分析を用いて行った。結果として、有効回答数は301であり、有効回答率は23.5%であった。SOCと性格特性との相関関係では全ての性格特性との間に相関関係を認めた(p<0.01)。重回帰分析では神経症傾向がSOCに最も強い影響を示した(β=-0.364)。SOC構成概念への影響では、勤勉性が有意味感に最も強い影響を示した(β=0.288)。さらに協調性、外向性が全てのSOC構成概念に有意な影響を示した。全国の新人看護師のSOCと性格特性との関係では、神経症傾向が低いほどSOCが高く、勤勉性が高いほどSOCと構成概念の有意味感が高いことが示唆された。また、外向性、協調性などのコミュニケーションに重要な性格特性が高いほどSOCが高く、全てのSOC構成概念も高いことが示唆された。

事例報告
  • 近隣医療施設への転送支援システム構築
    古賀 美砂紀
    原稿種別: 事例報告
    2020 年20 巻4 号 p. 175-178
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2024/11/21
    ジャーナル フリー

     全国的に救急搬送される患者は年々増加し、特に高齢者、軽症例が多くなっている。独立行政法人地域医療機能推進機構九州病院(以下、当院)に、救急搬送される患者も増加傾向である。その中で当院入院適応ではない軽症で、身体的、社会的理由により、帰宅困難な患者が増加している。このような患者は、救急外来から直接、近隣医療施設へ転送しており、転送件数も年々増加している。救急外来での転送に伴う業務が繁雑化しているため、転送調整時の問題点を分析し対策を検討した。転送マニュアルを作成することで、業務の効率化、標準化が図れ、転送する患者の救急外来滞在時間短縮に繋がった。さらに患者の生活歴、社会背景等を記載した情報シートを活用することで、院内及び転送先との連携が円滑となった。

  • 関澤 正, 大野 達也, 田中 将之, 原 広司, 中部 貴央, 今中 雄一
    原稿種別: 事例報告
    2020 年20 巻4 号 p. 179-182
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2024/11/21
    ジャーナル フリー

     地方独立行政法人長野県立病院機構は、5つの病院を有し、2010年に地方独立行政法人化した組織である。地方独立行政法人化して数年が経った現在、職員のモチベーションの維持、経営健全化への意識づけといった、組織運営に関わる重要な課題が見えてきた。そのため、より一層魅力ある病院となるための職場環境と組織文化を形成していくこと等を目的として、5病院で同時に、多職種・部門横断プロジェクトチームによる組織文化向上への取り組みである「魅力再発見・組織発展プロジェクト」を特定非営利活動法人日本医療経営機構との協働体制で実施した。当該プロジェクトでは、病院ごとに10〜30名程度の職員によるプロジェクトメンバーが中心となり、病院の外部環境と内部環境を可視化し共有するため、多職種・部門横断のグループワークによるSWOT分析・SWOTクロス分析を行い、自院の強み・弱み・機会・脅威を抽出し、それらの課題解決に向けた対応案の策定を行った。さらに、組織の魅力の深掘りや将来ビジョン等を盛り込んだ魅力再発見・組織発展プロジェクトレポートを作成し、共有を図った。多職種協働による一連のプロセスにより、職員が病院全体に目を向け、課題を共有し、意見を出し合い実践につなげる機会となり、病院が地域にとっても職員にとっても、より一層魅力ある存在となるための職場環境と組織文化を形成していくという意識づけの契機となった。

  • 入職後9ヶ月の実践能力評価
    中野 葉子, 角田 光代
    原稿種別: 事例報告
    2020 年20 巻4 号 p. 183-188
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2024/11/21
    ジャーナル フリー

     看護師は、多様化する医療ニーズそして医療依存度の高い患者に臨床の場で患者の安全・安楽を担保した上で、患者の状態を正しくアセスメントし優先順位を考慮する必要がある。しかしながら、看護の現場において客観的に自己の言動を振り返る機会はほとんどない。そのため多重課題の対応から自己の行動を振り返り課題を明らかにすることを目標に新卒看護師を対象に入職後9ヶ月の看護実践能力を評価する「多重課題」状況を設定したシミュレーション教育プログラムを導入した。本研究では、入職後9ヶ月の状況設定シミュレーション研修による実践能力を明らかにすることを目的とした。2017年4月入職の64名の看護師を対象に準備された状況設定場面において受講者は10分間で多重課題に対応し、11項目からなるチェックリストを用いて自己・他者評価を行った。同時にビデオ撮影し、その動画をもとに受講者とインストラクターによるデブリフィングセッションを実施した。チェックリスト項目の評価では全ての対象者が優先順位を判断することができ、対象者は現場のOn-the-Job-Training(以下OJTとする)と日常的な看護場面での経験学習から優先順位を判断する能力を習得していた。対象者の90%以上が自身の課題における学びを実践に活用したいと回答しており、実践能力を評価し対象者へフィードバックすることができる状況設定シミュレーションは効果的な教育プログラムのひとつであると示唆された。

  • 二艘舟 浩子, 越宗 厚子, 西谷内 由美
    原稿種別: 事例報告
    2020 年20 巻4 号 p. 189-193
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2024/11/21
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、新人看護職員が「急変の予測と看護」について主体的に学べる実践的な集合研修の検討である。A病院では従来の講義や実技演習では実践への学習転移が難しいという課題があった。
     そこで、新人のこれまでの学習や経験を生かせるよう、研修の全体構成を演習、講義、演習の順に変更した。グループ演習では、既習のフィジカルアセスメント I で使用した事例の状態が変化したという想定で、用意した観察カードの中から必要な観察項目を 5 つ選ばせ、それらの観察結果を提供した。新人はその情報を追加し、患者に何が起こっているのかアセスメントしながら、次にどう行動すべきか行動カードの中から優先順位の高いものを3つ選択させた。その後、課題解決のヒントとなる講義を行い、再び同じ課題で演習を行う中で思考を深められるようにした。
     結果、講義前後で選択カードを比べると、呼吸・循環など一次評価に必要な項目を選択したグループが講義後に増加しており、グループ差が少なくなっていた。受講者からはカードがあることで話し合いや振り返りがしやすく、優先度が高いものを絞る過程で理由や根拠をより深く考えることができたなどの回答を得た。
     グループで優先順位をつける過程において、相互に考えを説明し理解を得ながら決定していくため、ノンテクニカルスキルのトレーニングに役立つことが期待できる。また、本研修はカードという簡易なものを使用することから、部署や施設、規模などを問わない汎用性があると考える。

  • 産婦人科病棟
    日沼 ゆかり, 渡部 昌子
    原稿種別: 事例報告
    2020 年20 巻4 号 p. 194-198
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2024/11/21
    ジャーナル フリー

     我々は2015年からバランスト・スコアカード(Balanced Scorecard:以下BSC)を取り入れ医療の質の向上と効率的な病棟運営に取り組んでいる。産婦人科病棟では入院患者への癒しのある療養環境の提供、病棟職員には働きやすい労働環境の確保を年間目標の一つとした。結果、患者満足度は向上し取り組みに対する感謝の言葉が聞かれた。病棟職員は自由な発想で療養環境を改善するためのアイデアを出し合い実現していくことで、職員個々のモチベーションの向上につながった。BSCの導入は、病棟目標と行動プランを系統的かつ正確に病棟職員へ周知することを可能とした。病棟職員が成果を出すことの楽しさを実感できるようになることが、患者への快適な療養環境の提供にもつながっていくと考えられた。

  • 大泉 孝仁, 讃岐 久美子, 梅田 貴祝, 後藤 孝浩
    原稿種別: 事例報告
    2020 年20 巻4 号 p. 199-204
    発行日: 2020/03/01
    公開日: 2024/11/21
    ジャーナル フリー

     手術に関する収支を把握することは、病院経営にとって重要である。宮城県立がんセンター(以下当院)では、2014年の電子カルテシステム導入以降、診療材料の使用データを患者に紐づけて記録しており、過去2年(2016年、2017年度分)について診療材料の使用データと医事システム内の算定データを突合させることで手術に使用した診療材料の材料費比率を可視化させ、(1)科別診療材料費比率、(2)術式別診療材料費比率、(3)診療材料費、(4)麻酔薬剤費比率の4点について検討した。その結果、形成外科と整形外科でインプラント類の診療材料費が増加しており、術式別では鏡視下手術の診療材料費比率が高値になっていた。診療材料費では自動縫合器と超音波凝固切開装置・鏡視下ベッセルシーリング切開凝固器具の診療材料費が全体の約 4 割を占めていた。診療材料費比率を可視化することは、価格交渉すべき診療材料を把握できると共に、使用する診療材料の見直しのポイントを絞ることにつながる。また、これらの情報を院内に継続的に提供していくことで、価格の安い同種同等品への切り換えやシングルユース製品からリユース製品への切り換えの提案など、医療の質を保ちながら診療材料費を少しでも抑えることにつながると考えられた。

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