日本医療マネジメント学会雑誌
Online ISSN : 1884-6807
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18 巻, 1 号
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原著
  • 非イオン性造影剤への全面切り替え提案
    喜田 裕也, 中井 裕士
    原稿種別: 原著
    2017 年18 巻1 号 p. 2-7
    発行日: 2017/05/01
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

     イオン性造影剤が髄腔に流入した場合、Ascending Tonic-Clonic Seizure Syndrome(ATCS症候群)という筋痙攣や意識障害等伴う重篤な病態を起こし、時に死亡することがある。このATCS症候群は、発生頻度は低いが非イオン性造影剤でも発生する。海外では事例収集し検討した報告があるものの国内では見当たらず、今回国内事例を収集したところATCS症候群該当及び関連事例が21件(死亡5件)であった。脊髄造影でイオン性造影剤を誤投与した事例は5件で、ラベル等への警鐘のみでは再発防止としては不十分であった。造影剤管理体制の見直し・検査に関わる医療者への教育・非イオン性造影剤への全面切り替え等の追加対策が必要で、このためには関連学会の積極的な関わりが求められる。

  • 官庁統計を用いた経時分析
    花岡 晋平, 松本 邦愛, 北澤 健文, 藤田 茂, 瀬戸 加奈子, 長谷川 友紀
    原稿種別: 原著
    2017 年18 巻1 号 p. 8-12
    発行日: 2017/05/01
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

     本研究では、わが国の認知症による家族の介護負担(家族等による居宅や地域での日常生活上の「無償のケア」)と介護保険による介護サービスを、官庁統計から貨幣価値として推計し、その経時的変化を明らかにした。2001年から2013年にかけて、認知症が主因となり、居宅や地域で要支援・要介護認定された被介護者数は約25.1万人から81.0万人へ3.22倍に増加した。要介護度は平均3.0から2.3へ低下し、介護時間は平均7.0時間から5.4時間へ減少し、介護単価は1,155円から1,042円へ減額していた(機会費用法)。その結果、介護サービス費用は0.93兆円から1.76兆円と1.88倍に対して、家族の介護負担は0.66兆円から1.49兆円と2.24倍に増加した。介護負担の総額に占める家族の介護負担の割合が41.6%から45.8%へ上昇した。現行の脱施設化政策により、居宅や地域での家族の介護負担が増大したためと考えられる。将来的に新たな介護離職者が増加すると予想されており、機会費用の低廉な「老老介護」による増加分への対応も限界に達している可能性がある。そのため、家族等が受容可能な範囲を超えないように、いかに将来に向けて介護サービスと家族の介護負担のバランスを取るのかが重要な政策課題である。

事例報告
  • 重症低血糖防止のための介入
    片山 初美, 初古 智美, 中村 高秋
    原稿種別: 事例報告
    2017 年18 巻1 号 p. 13-18
    発行日: 2017/05/01
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

     2型糖尿病患者の重症低血糖発症を減らすことを目的に、多職種連携による糖尿病チームを立ち上げ、近江八幡市立総合医療センター(以下当院)医療者と地域診療所医師及び当院糖尿病外来通院患者に対し、低血糖の予防と対処方法についての知識向上を通して重症低血糖の発症を減少させることができるか否かを検討した。

     2010年4月〜2013年3月の3年間において、重症低血糖で当院に救急搬送となった2型糖尿病患者82名において発症時の年齢、HbA1c、e-GFR、治療内容及び季節との関係を検討した。次に当院の医師、看護師及び糖尿病外来患者に対し、低血糖に対する知識調査を行い、正しい答えを伝えることで、低血糖に対する知識の向上をはかった。活動終了後1年5ヶ月間の重症低血糖の患者数の増減を調査した。

     今回の検討の結果、患者の年齢や生活背景、合併症の有無に応じた血糖コントロールを目指すことが重要であることが明確となった。医療者及び患者の知識調査の結果からは、夜間低血糖に対する知識不足が明確になったため、この点の正しい知識の普及に努めたところ、重症低血糖患者数を減少させることが可能となった。

     チーム医療とは、多種職の医療スタッフがそれぞれの専門性を前提に、目的と情報を共有し、業務を分担しつつ、お互いに連携・補完し合い、患者の状況に対応した医療を提供することであり、今回のこのような取り組みを継続させることでよりレベルの高いチーム医療が実践できるものと考えられた。

  • ポリファーマシー対策への課題
    松本 恵, 矢川 結香, 吉国 健司, 小倉 秀美, 末松 文博
    原稿種別: 事例報告
    2017 年18 巻1 号 p. 19-23
    発行日: 2017/05/01
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

     ポリファーマシーとは、高齢者が多種類の薬剤を不適切に服用している状況を指し、薬物有害事象の発生や医療経済の点からも問題となっている。高齢者の多剤処方を見直すタイミングとして、入院はひとつの好機であると言われており、薬剤師は持参薬を含めた内服薬を包括的に管理し、適正化することが求められている。今回、2010年6月から2015年10月に報告されたプレアボイド事例をもとに、入院中の患者において薬剤師の介入により内服薬を減量または中止した事例を分析し、ポリファーマシー対策への課題を検討した。対象事例は488件であり、うち71.9%が70歳以上の症例であった。減量または中止の理由は、腎機能や電解質等の検査値異常が286件と最も多く、ついで重複投与102件等であった。一方で、患者の症状や訴えから有害事象を発見した事例や、漫然とした不必要な薬剤の投与中止を提案した事例は、少数であった。今回の調査により、薬学的介入の現状として、包括的な服薬情報の把握と服薬計画の立案、重複投与の回避等は実践できているが、ポリファーマシーを認識し、積極的に薬剤数を削減する介入は不十分であることが判明した。今後は、ポリファーマシーの状態にある患者を抽出し、ガイドライン等を活用して早期から有害事象のリスクを予測しておくことで、迅速かつ適切な薬学的対応が可能になり、ひいては薬剤数の削減に繋がると思われた。

  • 鈴木 英二, 小林 香
    原稿種別: 事例報告
    2017 年18 巻1 号 p. 24-26
    発行日: 2017/05/01
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

     注射剤払い出し業務は、医師の指示により注射剤が患者へ投与されるため、薬剤師と看護師との異職種間連携を必要とする重要な業務である。日本医療機能評価機構による病院機能評価でも、注射剤を1施用単位で取り揃えて病棟に払い出すことが求められている。長野市民病院では、病院機能評価の受審を契機に、自動化に比べ低コストでの業務改善が見込める、ケースを利用した注射剤1施用払い出しシステムを構築し、全病棟に導入した。看護師に対してその有用性についてアンケート調査を行ったところ、「薬剤が取り出しやすくなった」、「注射剤処方せんと薬剤の確認をスムーズに行えた」、「ケースを利用した1施用払い出し方法が便利である」、および「薬剤の取り間違いが減った」の項目で、それぞれ86.1%、86.2%、86.1%、および74.2%の高い評価を得た。以上の結果より、ケースを利用した注射剤1施用払い出しシステムは、業務の効率化、リスクの低減、および病院経営の改善という面から有用であることが示された。

  • 嶋崎 明美, 佐野 隆宏
    原稿種別: 事例報告
    2017 年18 巻1 号 p. 27-30
    発行日: 2017/05/01
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

     国立病院機構姫路医療センター臨床検査科は、検査室の国際規格であるISO15189の認定を取得したことを契機に、検査技師全員と検査科長が参加する全体会議の項目に、スキルマップ達成報告、スタッフからの改善提案、スタッフ間のポジティブ・フィードバックを追加した。その結果、より多くのスタッフから発言が得られるようになり、各項目とも1会議に平均1件以上が報告された。技師全員が回答したアンケートから、スキルマップ達成報告による個人の自信の獲得、提案した改善事項が実行される成功体験がもたらす改善文化の醸成、ポジティブ・フィードバックによる良好な人間関係の構築が期待できることが示唆された。全体会議はホールシステムアプローチを実践する意義を持ち、活発な検査科を作るのに有用である。

  • 佐藤 耕一郎, 加藤 博孝
    原稿種別: 事例報告
    2017 年18 巻1 号 p. 31-35
    発行日: 2017/05/01
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

     2013年度の岩手県立病院辞職医師に対するアンケート調査では当直(日直を含む)の軽減を望む声が60%を占め、その主な業務である救急の対応について岩手県内の各消防署から2014年1月-12月の救急搬送のデータを入手し、岩手県立病院での救急と当直の現況を以下の項目で検討した。1)2次医療圏別救急搬送数、1・2次患者割合、2次医療圏外からの救急搬送数 2)各病院の2014年の救急患者数、2014年11月当直表より、非常勤医師の当直を除いた常勤医、研修医の①当直回数、②1回の当直で1人の当直医が診る救急患者、救急搬送患者数、③1か月の当直で1人の当直医が診る救急患者数を調べた。その結果、1)県立病院の総病床数は岩手県内全病院の30%であるが、どの2次医療圏でも70%以上の救急搬送が県立病院に行われており、救急患者の80%以上は1次救急患者であった。2)地域病院の常勤医師の当直回数が多く、基幹病院医師の当直医が診る患者数が多い。また、研修医の少ない病院での研修医が診る患者数と救急搬送数が多い。以上より、岩手の県立病院への救急の負担が非常に重く、1、2次救急の分担が重要と思われた。

紹介
  • 特に医療事故調査制度対象事例の判断に関して
    飯田 修平, 小谷野 圭子, 永井 庸次, 長谷川 友紀, 藤田 茂, 森山 洋
    原稿種別: 紹介
    2017 年18 巻1 号 p. 36-43
    発行日: 2017/05/01
    公開日: 2022/07/04
    ジャーナル フリー

     医療事故調査制度は、2014年6月に制定され、2015年10月に施行されたが、医療事故報告は388件に留まり、医療機関及び医療従事者の理解と対応は十分ではない。その要因は、①本制度が医療機関及び医療従事者に周知されていないこと、②本制度の趣旨を理解しても、関与したくないという意識、③程度の差はあるが、法令の条文及び趣旨とは異なる解釈をする医療関係団体・研究グループの複数の指針が現場に混乱をもたらしていることが考えられる。医療機関が本制度対象事例の判断をする場合には法令に沿って行う必要がある。

     本研究では、本制度対象事例の判断に関して、医療関係団体・研究グループから公表されている指針等を対象に比較検討した。本制度の省令・通知の公布後に公表・出版された医療関係団体・研究グループの11の指針を対象とした。「医療に起因する」、「予期しない」に関する考え方、判断基準を比較し、法令との整合を検討した。医療現場では一律に判断することは困難であり、個別性を考慮する必要性があり、境界領域について対象事例か否かを判断する際には、一定数の事例の集積が必要であるとは思われるものの、医療関係団体・研究グループの指針において判断基準の整合を図ることは医療現場の混乱を避け、本制度の信頼性を高め円滑に機能させるうえで有効と考えられる。本制度への適切な対応を図ることは、医療における信頼の創造、 安全確保、医療の質の向上に必須であると考える。

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