日本医療マネジメント学会雑誌
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15 巻, 1 号
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原著
  • 2004年調査と2011年調査の比較検討から
    伊藤 慎也, 藤田 茂, 北澤 健文, 吉田 愛, 飯田 修平, 西澤 寛俊, 長谷川 友紀
    原稿種別: 原著
    2014 年 15 巻 1 号 p. 2-8
    発行日: 2014/05/01
    公開日: 2021/06/07
    ジャーナル フリー

     種々の施策により医療安全管理体制の整備が進められてきたが、体制の整備状況は明らかになっていない。2回のアンケート調査間の体制整備の進展状況、施策の効果、問題点及び今後の課題について明らかにした。

     全日本病院協会の全会員病院を対象(2004年:2,108病院、2011年:2,290病院)に郵送法による無記名自記式の調査を実施した。300床未満の急性期病院、300床以上の急性期病院、療養型病院に分けて解析した。

     回収率は2004年が24.0%、2011年が27.6%であった。2004年から2011年にかけて、300床以上の急性期病院では専従の医療安全管理者、300床未満の急性期病院、療養型病院では専任の医療安全管理者の配置が進展した。2011年の専従/専任者の配置割合は、300床未満の急性期病院が46.1%、300床以上の急性期病院が92.9%、療養型病院が24.5%であった。急性期病院では専従者の配置、療養型病院では専任者の配置により、活動面が改善することが示唆されたが、300床未満の急性期病院では、専任者の配置のみでは十分な効果が見られなかった。

     300床未満の急性期病院、療養型病院における専従/専任者の配置促進のための更なる支援策と、専任者を対象にした教育研修の充実、報告事例の活用を活発化させる方法、重大な医療事故の減少につながる活動や体制、支援策等を検討する必要があると考えられた。

  • 早稲田 レイ子, 谷口 堅, 柿田 麻衣, 松尾 大輔, 橋本 幸成, 東 尚
    原稿種別: 原著
    2014 年 15 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2014/05/01
    公開日: 2021/06/07
    ジャーナル フリー

     口腔ケアはとくに高齢者で呼吸器合併症予防に有用であるとされる。長崎県島原病院は歯科を標榜していないが、消化器外科手術前に口腔審査を施行し、必要に応じて歯科を紹介し、専門的治療を行うことで周術期合併症の防止を図った。本研究ではその効果を検討した。対象症例は2011年2月より2013年1月までに当院で消化器手術目的に紹介となった169例とした。全例に対して外科初診時に言語聴覚士による口腔検査と口腔ケア指導を行い、専門的治療が必要と判断された場合には歯科開業医へ紹介した。歯科紹介適応と診断された症例は54例であり、内49例が歯科を受診した。術後呼吸器合併症を発症したのは169例中2例であった。一方、本取り組み以前の術後呼吸器合併症患者数は167例中12例であり、有意に術後合併症が減少した。この結果から、本取り組みは当院のような歯科を標榜しない施設における術後呼吸器合併症を予防する手段として有用であると考えられた。

事例報告
  • 飯田 さよみ
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 1 号 p. 15-18
    発行日: 2014/05/01
    公開日: 2021/06/07
    ジャーナル フリー

     糖尿病地域連携クリティカルパス(連携パス)のアウトカムは糖尿病治療中断防止、良好な血糖管理および合併症の発症・進展防止である。2010年5月から2012年12月の期間に運用を開始した連携パスのアウトカムを評価した。連携パス患者総数は70例で男性36例、女性34例であり、平均年齢66.5±0.9歳(平均±SE)、病歴8.4±1.2年、HbA1c(国際標準値)9.3±0.2%であった。アウトカム評価では治療自己中断患者は5例であったが、全員治療を再開した。1年経過した患者56例のHbA1cは各々開始前9.4±0.3%、6ヶ月後6.8±0.1%、1年後7.0±0.1%(P<0.01)であり統計学的に有意な血糖管理改善を認めた。合併症発症・進展のみられた患者は5例であり、いずれも適切な対応により回復した。糖尿病地域医療向上を担う一手段として連携パスは期待される。

  • 地域一体的な慢性期医療の構築に向けて
    伊藤 嘉高, 村上 正泰
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 2014/05/01
    公開日: 2021/06/07
    ジャーナル フリー

     機能分化と連携による医療提供体制の構築が目指されているが、山形県内では依然として療養病床数が不足しており、急性期病院からは療養病床の整備を求める声も強い。本稿では、医療型療養病床を有する山形県内の全ての病院を対象に、入院患者の実態調査を行った。その結果、山形県の療養病床では、医学的必要性を理由としない入院が30%以上見られ、退院可能と判断されたが入院を継続している患者の割合が全体の40%強に達した。医療依存度の高い患者は相対的に低く、一般病床での受け入れが広く見られた。特にケアミックス型の病院では、制度設計上は療養病床に入院すべき患者が一般病床に入院しているケースがあると考えられる。今後、病床機能の分化及び再編を行い、患者及び利用者の流れをスムーズにするためには、地域ごとに、病床の運用実態のみならず、施設及び在宅の状況も織り込んだビジョンを策定し、実行することが必要である。

  • 田原 雅子, 平昭 圭介, 花田 徳子, 玉城 翼, 加野 由希子, 濃沼 政美, 林 宏行, 中村 均
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2014/05/01
    公開日: 2021/06/07
    ジャーナル フリー

     医療法人博仁会福岡リハビリテーション病院薬剤部では、円滑で継続的な医療を提供するため、2001年度より入院中の薬学的管理指導情報をサマリーとして文書化したもの(薬剤添書)を、退院時に転院先の病院・介護施設などへ提供している。薬剤添書の提供開始から10年が経過したことから、薬剤添書を提供している施設を対象にアンケート調査を行い、薬剤添書の必要性などを評価した。薬剤添書の必要性については、回答者の約90%が必要であると回答したが、認知度は約24%と低く、また、今後の普及性については約67%にとどまった。アンケート調査の結果、職種により必要とする情報が異なったことから、職種別の医療従事者のニーズに基づいた新たな様式の薬剤添書を開発した。今後も有効かつ安全な薬物療法を継続するための医療連携ツールとして、新薬剤添書を普及していきたいと考えている。

  • 田積 匡平, 鳥居 行雄
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 1 号 p. 30-34
    発行日: 2014/05/01
    公開日: 2021/06/07
    ジャーナル フリー

     大腿骨近位部骨折患者の入院中合併症として肺炎が多く、近年は嚥下機能評価の必要性が高まっている。岡崎市民病院では大腿骨近位部骨折患者の嚥下障害を感度0.92、特異度0.68で抽出できるスクリーニングシートを作成し、入院後早期に看護師が嚥下障害リスク患者を抽出して言語聴覚士が嚥下機能評価を行うシステムを構築し、入院中の誤嚥性肺炎の予防に努めている。今回、病棟でのシステム運用開始後の結果を後方視的に分析した。対象は2012年10月から12月までの3ヶ月間に大腿骨近位部骨折で入院した60歳以上の患者63例とした。看護師によるスクリーニングの実施率は52.4%、実施された患者の中で嚥下障害リスクに該当した患者の割合は57.6%、実際に嚥下障害を認めた患者の割合は42.4%、期間中の誤嚥性肺炎発症患者は3例であった。スクリーニングを実施した患者の中では、看護師により的確に嚥下障害リスク患者を抽出できていた。一方で、このシステムの運用後も誤嚥性肺炎を発症した患者が存在していたことについては、今後さらに包括的な対策が必要と思われた。

  • 若林 ゆかり, 久保田 早苗, 荒神 裕之, 工藤 貴弘, 室 大輔, 坂井 暢子
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 1 号 p. 35-38
    発行日: 2014/05/01
    公開日: 2021/06/07
    ジャーナル フリー

     病院給食が原因と推測される患者・職員のノロウイルスによる集団食中毒を経験した。2013年2月7日朝、嘔吐・下痢症状が複数の病棟・部署の患者・職員にまたがって発生しているとの報告があり病院給食によるノロウイルス食中毒と判断し、午後に保健所に報告、当日18時30分に厨房閉鎖を行った。また、21時30分より救急車受け入れおよび新規入院を停止、緊急手術を除く手術の中止を決定した。感染対策室を立ち上げ感染の拡大を防ぐとともに、ここが中心となり保健所対応、マスコミ対応の準備も行った。また感染終息まで連日、診療科トップと各部署責任者でミーティングを行い、発生状況の確認と情報の伝達をし、状況を主治医・担当看護師から直接患者に説明するようにした。厨房が閉鎖されたこと、調理担当職員からノロウイルスの排泄が認められたことにより調理・配膳が困難であったため、患者食はあらかじめパックされたレトルト食品を使用した。再発防止のため厨房のハードおよびソフトの問題点を洗い出し、新マニュアルを作成し、栄養科職員の訓練を行った。厨房閉鎖期間中は全入院患者に対して食費の請求は行わなかった。また、発症者に関しては発症から症状消失4日までの診療費の請求中止および見舞い金支給を行った。

  • 大石 貴幸
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2014/05/01
    公開日: 2021/06/07
    ジャーナル フリー

     大崎市民病院では2009年9月日本環境感染学会が発表した「院内感染対策としてのワクチンガイドライン第1版」をもとに、職員を対象とした麻疹、風疹、水痘および流行性耳下腺炎の定期的なワクチン接種を実施している。1,000人を超す職員へ的確なワクチン接種を実施するため、マイクロソフト社 Accessを用いて新たにシステムを構築し、作業の効率化を図った。また、抗体検査とワクチン接種にかかる費用を病院負担とし、接種率向上も目指した。結果、2009年7月〜2012年8月の期間で、すべての疾病に対するワクチン接種率は70%を超えた。今後の課題としては、ワクチン接種後の抗体検査の実施や被検者への抗体価測定値のフィードバック、委託職員へのワクチン接種の更なる勧奨などがある。職員がこれら疾病の抗体を保有することは、業務上の人的損害を防止するだけではなく、患者や第三者への二次感染防止の観点からも重要と思われ、今後も円滑なワクチン接種を推進していく必要がある。

  • 佐治 文隆, 小関 萬里
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 1 号 p. 44-49
    発行日: 2014/05/01
    公開日: 2021/06/07
    ジャーナル フリー

     市立芦屋病院では、職員の意欲を高め、病院の運営・経営に資する目的で、常勤職員を対象として、業績給に反映する人事評価制度を採用している。職場の部署ごとのチーム評価とし、半期ごとの期首に目標設定を行い、期末に評価する目標管理制度を用いている。評価は、目標の難易度×達成度で採点し、結果は5段階評価して、期末・勤勉手当のうち勤勉手当に0%から20%まで5%刻みで加算した。本制度を施行後3年間、6半期の各期平均加算率は6.47〜10.22%であった。

     対象者に対して本制度の満足度をアンケート調査(回収率64.9%)したところ、評価結果が「妥当」「ある程度妥当」が47%で、「妥当でない」「あまり妥当でない」の41%と拮抗した。しかし、評価制度の継続に関しては74%が継続を求め、うち52%は制度の見直しを希望した。なお「今後は個人評価も導入すべきか」の問いには、賛成21%、反対32%で、47%が「わからない」と答えた。当院の人事評価制度は概ね良好と判断されるが、今後は職員の意見を取り入れつつ、制度を継続すべきと考えられる。

  • 里見 ゆか, 世古口 務, 堀畑 利治, 小倉 嘉文
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 1 号 p. 50-53
    発行日: 2014/05/01
    公開日: 2021/06/07
    ジャーナル フリー

     松阪市民病院は、2008年4月より診断群分類別包括払い方式(Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System;DPC/PDPS)を導入している328床の地方公営企業法、一部適用の自治体病院である。全職員の意識改革により、1989年以来の赤字体質から脱却し、大きく経営改善を達成した。さらなる経営改善を行うために、2010年4月に院長直属の「総合企画室」を設立した。その業務の1つとしてDPC/PDPSにおいて最も重要な部門である医事業務を完全委託から脱却させ、直営化に取り組んだので、その効果について報告する。

     自治体病院では委託費、特に医事業務の委託費が大きいのが特徴である。当院も医事業務の委託費用として年間1億4000万円が必要であり、直営化により運営した場合の経費削減の程度、職員のモチべーションについて検討した。

     医事業務直営化前は市からの職員6人(うち診療情報管理士1人)、委託業者から50.5人であったが、直営化後は常勤職員9人(うち診療情報管理士6人)、非常勤職員48人の体制になった。これにより指揮命令系統の一元化、業務への柔軟な対応、病院職員としてのモチベーションの向上、医事業務への専門特化、医事業務職員の満足度向上、の他、年間約3000万円の経費節減を達成することが出来た。なお当院では医事業務を含め、総勢14人の診療情報管理士(院長、看護部長、看護師長各1人を含む)を擁し、経営改善に努力している。

  • 中島 誠, 杉山 正
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 1 号 p. 54-60
    発行日: 2014/05/01
    公開日: 2021/06/07
    ジャーナル フリー

     がん化学療法に関連した処方、監査、混合調製を支援するために構築されたシステムにて支援可能な業務内容を明らかにするために、2001年〜2011年に発刊された医療薬学誌、日本病院薬剤師会雑誌に掲載されたシステムに関する論文を調査した。また、オーダリングシステムとのデータ連携の有無による機能を比較するために、データ連携の有無により論文を2群に分けた。オーダリングシステムと連携した論文報数、連携していない論文報数はともに各21報であった。薬剤師による処方監査の支援システムと抗がん剤の調製の支援システムに関する報告は、オーダリングシステムとの連携の有無どちらにも同等に見られたが、連携していない論文においては、監査時間の短縮をアウトカムとして示した論文が多く見られた。一方、処方支援に関しては、オーダリングシステムと連携した支援システムが多数報告されており、医師業務を支援するためにはオーダリングシステムと連携した支援システムを導入する必要があることが示唆された。

  • 奥 依子, 鬼川 ちひろ, 森田 眞照
    原稿種別: 事例報告
    2014 年 15 巻 1 号 p. 61-64
    発行日: 2014/05/01
    公開日: 2021/06/07
    ジャーナル フリー

     腹腔鏡補助下直腸低位前方切除術後の腕神経叢障害と推察される症例を経験した。手術体位により神経障害を引き起こしたと考えられ、その原因追及と今後の対策を検討した。患者は60歳代、男性。直腸癌及び胆石症と診断され、腹腔鏡補助下低位前方切除術および胆摘を施行した。体位は左上肢を体側に付け固定板で保持、左肩は固定器を使用した。術中頭低位は最大20度傾斜し、約4時間であった。帰室直後より左手の第1指から3指の手掌側に痺れと知覚鈍麻、左上肢屈曲時の脱力感を訴え、術後3日目まで症状が持続した。本症例の神経障害は、術中頭低位と肩固定器による腕神経叢の損傷と推察された。その原因として、肩固定器で腕神経叢が鎖骨と第一肋骨に挟まれ圧迫される事と、頭低位により、頭部の重みにより頚部がより牽引され、腕神経叢の過伸展となることが考えられた。術直後の左指の手掌側の痺れと左上肢の屈曲時の脱力感出現は、本機序により、鎖骨下部の外側神経束を通る正中神経領域に症状が出現したと考察し、今後の対策を検討した。補助具は体圧分散型マットに変更し、頚部の過伸展を避けるため、頭頂部も固定した。術前体位固定後に頭低位で受圧測定を実施した。本症例を機に、外科医、麻酔科医、看護師で良肢位を保持するための協力体制をより図れるようになった。今後も手術室での危機管理には、チーム全員で共通の問題意識を持ち続けることが重要である。

紹介
  • 加納 由香, 近藤 泰三, 山形 和也
    原稿種別: 紹介
    2014 年 15 巻 1 号 p. 65-68
    発行日: 2014/05/01
    公開日: 2021/06/07
    ジャーナル フリー

     小牧市民病院では、電子カルテ導入時にPHSベースの PDA(Personal Digital Assistant)端末を導入せず、Bluetooth によるバーコードリーダを利用したノート端末を導入した。点滴、輸血の認証でノート端末を必ず必要とするため不便な点がみられた。スマートフォンが普及し、軽量であり速い無線LANモードを利用できるためPDAに代わる端末としての利用を検討した。他病院のアンドロイドスマートフォン導入を検討したが、データ構造が異なることと7年前より使用している当院の無線LAN環境では、ローミングがうまく働かず使用困難であった。そのため、無線LAN接続ボタンを画面上に用意し、使用者の移動時に必ずボタンを押すことで接続状態を続ける使用方法を取ることとした。また、使用開始時に使用者のID入力、パスワードのバーコード読み込みを行うことで、患者と点滴及び輸血等2点の認証で作動する環境を構築した。観察項目の入力、異常時指示の参照等も可能とした。殆ど全ての点滴を2次元バーコードとすることにより、認証時間は短くなり、通信速度も十分速く実用に問題なかった。病棟内に通信困難な箇所も殆どなく、80%以上の看護師が使用している。貧弱な無線 LAN 環境下でも使用可能なアンドロイドスマートフォンは、看護師のみでなく全ての医療者に有用なツールとなり得る。

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