日本医療マネジメント学会雑誌
Online ISSN : 1884-6807
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16 巻, 1 号
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原著
  • 合地 俊治, 松本 邦愛, 芳賀 香代子, 北澤 健文, 瀬戸 加奈子, 長谷川 友紀
    原稿種別: 原著
    2015 年 16 巻 1 号 p. 2-7
    発行日: 2015/05/01
    公開日: 2021/09/16
    ジャーナル フリー

     大腸がん(ICD10:C18〜C20)は、本邦において死因の上位を占め、また罹患率および死亡率が増加傾向にある。本研究は、将来的に増加することが懸念される大腸がんの社会的負担をCost of Illness(COI)法によって評価することを目的とした。方法は、官庁統計データを用いて、1996・2002・2008年のCOI推計を行うとともに、2014・2020年の将来推計を行った。分析の結果、COIは、1996年の8,716億円から、2008年の1兆1,603億円と増加傾向にあった。将来推計では、最も信頼できる混合型モデルでは減少することが予想された(2014年1兆575億円、2020年9,411億円)。COIに影響を及ぼす要因は、高齢化、医療供給体制の変化、医療技術の発展向上が考えられ、とくに高齢化に伴う人的資本価値の低下の影響が大きいことが示唆された。本研究の結果は、今後のがん対策等の政策決定に応用できると考えられる。

事例報告
  • 佐野 美和子, 福村 文雄, 林 真由美
    原稿種別: 事例報告
    2015 年 16 巻 1 号 p. 8-11
    発行日: 2015/05/01
    公開日: 2021/09/16
    ジャーナル フリー

     インシデント事例の内容を適切に分析して、対策を実施しその結果として再発を防止することは医療安全対策の要である。これまでの飯塚病院の分析手法は、複雑で多くの時間を要し現場に浸透できなかったため、重点思考およびPDCAの考え方を組み込んだ簡便に行えるAIH-RCAシートを作成した。2012年1月よりこれらを用いて現場の安全推進者へ教育を行い、原則勤務時間内で個別の実践演習を56部署中47部署81回実施した。是正件数は、2011年45件、2012年46件、2013年81件と倍増させることができた。PDCAを組み込んだAIH-RCAシートは、現場で行えるインシデントの改善活動の活性化および現場の安全教育に有用であったと考えられる。

  • 中原 和美, 木山 淳子, 松原 由紀, 田辺 元
    原稿種別: 事例報告
    2015 年 16 巻 1 号 p. 12-16
    発行日: 2015/05/01
    公開日: 2021/09/16
    ジャーナル フリー

     インシデントレポート(以下IR)は、インシデント内容を把握し再発防止策を立案・実践する端緒となるため、インシデントの概要・経過・直後の対応等が的確に記載されるべきである。しかし、IRが理解困難で、初期対応や改善方策の検討に支障を来たす事例が頻発したので、IR記載法の改善を試みた。

     品質管理手法(以下QC手法)を用いて、過去のIRを再評価し、理解困難要因を特性要因図で解析した。その後、方策展開図を用いて改善方策を立案・実施した。IRには、インシデントの概要提示、簡潔性、時系列性、客観性の4項目が重要であるが、過去のIRではそれらの評価が低かった。また、IRの理解困難の重要要因として、記載法が一定でない、記載教育がない、等が挙げられた。上記4項目に留意した新たなIR記載法を例示して周知を図り、不備のあるIRには訂正を促した。その結果、4項目共に有意な改善が得られ、IR訂正件数も有意に減少した。

     以上からIR記載にはインシデントの概要提示、簡潔性、時系列性、客観性の4項目が有用と思われる。

  • 青木 豊, 笠井 幸郎
    原稿種別: 事例報告
    2015 年 16 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2015/05/01
    公開日: 2021/09/16
    ジャーナル フリー

     国家公務員共済組合連合会新小倉病院は、2012年1月よりフィルムレス化への対応と自然災害等による医療情報消失のリスクを回避するために、外部データセンターに医療情報をアップロードし長期保管を開始した。当院では、1990年より地域医療への貢献を目的として、画像診断装置の共同利用を推進してきたが、今般、この共同利用をより迅速に安全に行うためにデータセンターを用いた地域医療連携システム(ひまわりネット)を構築し2012年2月より運用を開始した。ICTを利用したシステムの運用により、地域医療機関との連携改善、共同利用件数の大幅増加等の結果が得られ、放射線専門医の診断能力を地域医療に生かすことが可能になった。さらに画像診断検査に留まらない多機能で地域完結型医療に対応可能なシステム構築の必要性が明らかになった。

  • 小倉 千恵, 外山 比南子
    原稿種別: 事例報告
    2015 年 16 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2015/05/01
    公開日: 2021/09/16
    ジャーナル フリー

     「在宅医療へ移行可能な入院しているがん患者の割合」を以下の手順で推定した。

     先行研究を参考にして、「入院しているがん患者の在宅医療が可能となるための条件」を1 )介護者の条件として、主介護者が女性で、かつ同居、2 )予後の条件として、がん診断から死亡までの期間が2ヶ月以上、3 )疼痛コントロールの条件として、疼痛コントロール良好、と仮定した。この条件と調査データを照合し、その結果と条件の内容を評価した。

     349症例中、介護者の条件を満たすものは157症例(45.0%)、予後条件を満たすものは281症例(80.5%)で、両条件を満たすものは131症例(37.5%)であった。

     介護者と予後条件を満たす131症例のうち、「疼痛コントロール良好」と判断したのは72症例で、半数以上がコントロール良好であった。3条件を全て満たす72症例(20.6%)を「在宅医療へ移行可能な入院しているがん患者」とした。

     「在宅医療へ移行可能な入院しているがん患者」の割合が20.6%という推定値は、条件仮定の際に、「介護者の条件」「予後の条件」「疼痛コントロールの条件」のみを選択して上記3条件としたこと、また、疼痛コントロールを分析する際に「在院日数」や「患者の意識レベル」を考慮しなかったことなどの理由から、やや高い割合になっており、実際には、「在宅医療へ移行可能な入院しているがん患者の割合は20%より低い」と判断した。

  • 灘波 浩子, 若林 たけ子, 小池 敦
    原稿種別: 事例報告
    2015 年 16 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2015/05/01
    公開日: 2021/09/16
    ジャーナル フリー

     看護師の職務満足度が高い施設の看護部長がどのような看護管理方針を持っているのかを調査し、職務満足度が高い施設の看護部長に共通する看護管理上の因子を明らかにすることを目的とした。A県内で看護師の職務満足度が高い病院の看護部長5名を対象とし、看護部長としての看護管理方針について半構成的面接を行い、質的帰納的に分析した。結果、看護師の職務満足度が高い施設の看護部長に共通する管理方針として、【看護の質を保証するための戦略】、【多様な情報源と聞くことの重視】、【充実した教育体制】、【権限の委譲と支援体制】、【ワークライフバランスの取れた労働環境】が抽出された。また、看護部長が管理を行う上での基盤として【良好な人間関係を基盤にした看護部に理解ある病院組織】の存在が抽出された。看護師の職務満足度が高い施設の看護部長の背景として、30年以上の看護師経験と認定看護管理者の取得が共通していた。看護部長たちは「看護師にとって魅力ある病院」になるために、トップマネージャーとしての信念のもと、これまでの看護部のやり方や既存の制度を先駆的に改革しているといえた。これは、社会のニーズを見据えた看護の在り方を常に検討し、追及している先駆的リーダーシップの結果であると推測された。

  • 木戸 倫子, 井上 智子
    原稿種別: 事例報告
    2015 年 16 巻 1 号 p. 34-41
    発行日: 2015/05/01
    公開日: 2021/09/16
    ジャーナル フリー

     本研究は、中堅看護師の看護実践から急性期病院における看護の機能を明らかにすることを目的とした。急性期医療を提供する病院に勤務する看護師長5名と中堅看護師24名を対象として、日々の看護実践の具体的な内容について半構成的な面接調査を行った。看護師長への面接では、所属部署でロールモデルと認めている中堅看護師の看護実践について聞き、中堅看護師への面接では、日頃自分が行っている仕事の内容や工夫について振り返りの形式で聞いた。面接で得られた逐語録を生データとし、類似するものを順次まとめる段階を経てカテゴリー化した。結果、中堅看護師の看護実践は14の役割に分類された。14の役割内容から急性期病院における看護の機能は【診療計画の適用を管理する機能】【人材を育成する機能】【チーム医療を推進する機能】という3つが示された。急性期病院の医療の質を左右するこの機能が果たされるためには役割を分担しながら継続した看護ケアを提供することが必要である。

  • 岡田 みずほ, 小渕 美樹子, 佐田 明子, 斎藤 美保, 岡田 純也, 松本 武浩
    原稿種別: 事例報告
    2015 年 16 巻 1 号 p. 42-47
    発行日: 2015/05/01
    公開日: 2021/09/16
    ジャーナル フリー

     大規模病院を中心に普及しつつある電子カルテは、急性期病院における業務の効率化に貢献するツールと考えられているが、看護においては、電子カルテ導入の結果、新たに発生する事務作業の増大により、直接ケアに十分な時間が確保できないとの指摘もある。そこで我々は、看護業務の課題を抽出するために看護業務の中で最も標準的で共通性が高いと考えられる入院時業務内容を29に類型化しその所要時間を分析した。その結果総所要平均時間は222.5±84.67分と長く標準偏差が大きいことが明らかとなった。その中でも最も所要時間が長いのは看護記録関連業務であった。今後急性期病院は電子カルテ運用が主流となることが予想されるため、電子カルテを前提とした業務の共通化、標準化と看護記録の効率化が看護業務時間を短縮する上で有効と考えられる。

  • 岩手県山田町について
    平泉 宣
    原稿種別: 事例報告
    2015 年 16 巻 1 号 p. 48-52
    発行日: 2015/05/01
    公開日: 2021/09/16
    ジャーナル フリー

     東日本大震災後地域病院が被災し町内に入院病床がなくなった岩手県山田町では、救急搬送の入院受け入れ施設が町外の基幹病院に限られる事態が続いている。震災時期を挟む過去6年間の山田消防署管内救急搬送4,749件のうち救急心肺蘇生処置を受けたのは131件(救急搬送件数の3%)であり、蘇生・生存したのは重症13例中3例のみで、対象者の9割を占める収容時心肺停止例では生存例がなかった。その内訳では震災前3年間は救急心肺蘇生処置対象者77例中66例(86%)が管内の山田病院や診療所へ収容され蘇生・生存3例(蘇生・生存率4%)であったが、震災後は54例中46例(85%)が管外の25km離れた基幹病院へ搬送収容されるようになり、蘇生・生存例はなかった。地域病院のない被災地では救急搬送収容に時間を要する上に救急心肺蘇生処置対象者の8割を70歳以上の高齢者が占めていることもあって往診訪問による在宅救急対応の要望が高い。当院から在宅医療を受ける患者実数は震災後1.5倍となったがその年間死亡率は34%前後で推移しており、年間900件前後であった往診・訪問診療延べ件数は震災後3,800件を超えて在宅看取り率が85%に達した。町内で入院病床が利用できないなか病状急変時の往診訪問対応増加がその要因である。被災地では在宅医療継続により福祉・介護との連携に加え救急隊との協同対応も良好となることから、訪問型地域在宅救急医療のマネジメントが重要となる。

  • 上條 由美, 篠原 徹, 的場 匡亮, 田辺 聡, 小川 秀樹, 有賀 徹
    原稿種別: 事例報告
    2015 年 16 巻 1 号 p. 53-57
    発行日: 2015/05/01
    公開日: 2021/09/16
    ジャーナル フリー

     緊急を要さない軽症患者が、二次・三次救急医療機関を時間外に受診するケースは少なくない。そこで導入された時間外選定療養費による救急外来受診患者数の変化と選定療養費徴収の課題について検討する。

     当院では、2011年10月1日より時間外選定療養費の徴収を開始した。時間外選定療養費導入後1年間において、1ヶ月の平均救急外来受診患者が、2005人から1785人と減少したが、1ヶ月の平均緊急入院患者数は、220人から244人へと増加した。時間外選定療養費の説明を聞いて受診を拒否した患者は、年齢が若いほど多い傾向があった。受診拒否患者のうち患者番号を把握できたのは850人で、125人は翌診療日に当院を受診し、7人(0.8%)が入院していた。

     時間外選定療養費の導入により、救急受診患者は減少したが、緊急入院患者は増加していることより、入院を必要とする比較的重症な患者対応に移行できたことが推測される。これは、急性期病院の本来の役割である急性期医療を推進することができたと考えられる。しかし、症状を悪化させて翌診療日に入院を必要としていた患者が7人存在していたことから、患者に選定療養費を説明する際には、徴収金のみを強調するのではなく、同時にトリアージを行っていることを認識して、丁寧な対応が必要と思われる。

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