日本医療マネジメント学会雑誌
Online ISSN : 1884-6807
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14 巻, 4 号
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原著
  • 症例対照研究による有用性の評価と応用
    赤間 紀子, 武田 和憲, 島村 弘宗, 厚谷 卓見, 鈴木 信子, 後藤 興治, 齋藤 泰紀
    原稿種別: 原著
    2014 年14 巻4 号 p. 171-178
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

     転倒転落事故は骨折等重症の事故が多くを占め、解決の難しい課題であることが知られており、事故発生に関与する因子については様々な検討がなされている。リスクアセスメントは解決しうる課題のひとつで、その病院に相応しいアセスメントが行われているかの検証と改善が望ましい。

     国立病院機構仙台医療センターの入院患者に対して、転倒転落事故防止を目的として実施したアセスメントシート41項目の事故発生予測効果を症例対照研究により検討した。3ヶ月間にアセスメントシートを作成した患者中、転倒転落事故発生例82例を「症例」とした。年齢、性別、入院病棟をマッチングし、「症例」に対して各3例を目標に計234例を対照として設定した。転倒転落のオッズ比を算出したところ95%信頼区間の下限値が1を超えた項目は16項目で、99%信頼区間の下限値が1を超えた項目は9項目であった。多重ロジスティック回帰分析では、「衣服の着脱などに介助が必要である」、「過去、入院中に転倒・転落したことがある」、「不穏行動がある」、「車椅子・杖・歩行器・手すりを使用する」、「麻薬を使用中」の5項目が有意であった(p<0.05)。症例対照研究は、比較的少ない作業量で簡便に行うことができるので、実際に使用しているアセスメントスコアの有用性を確認するために推奨しうる方法であり、アセスメント項目の改訂にも有用であった。

事例報告
  • 岩手県立中央病院の取り組み
    望月 泉
    原稿種別: 事例報告
    2014 年14 巻4 号 p. 179-188
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

     地域住民が必要とする病院とは、地域になくてはならない病院である。いつでも診てもらう(24時間救急対応)ことができ、かつ治りが良く、親切であたたかい病院のことを言うのかもしれない。医療の質と経営の質、両者のDouble Winnerが条件となるであろう。岩手県立中央病院は昭和62(1987)年3月、現在地に新築移転、県立病院のセンター病院として高度・先進医療に取り組むと同時に、断らない救急を病院のミッションとしてかかげ、全診療科参加型の救急医療をおこなう(全科オンコール)体制を作り上げてきた。また医師不足が深刻な地域の公的病院へ医師を派遣するとともに臨床研修指定病院として医師の養成や県内医療従事者を対象とした研修・教育にも取り組んできた。一方、累積損益は1998年がピークとなる大きな欠損金をかかえていたが、目標をさだめ全職員が同じ方向を向きトップダウンとボトムアップの手法で種々の業務改善に取り組み、黒字転換した。今後の当院の2大テーマは、ひとつは地域包括連携の構築、病院完結型医療から地域完結型医療への転換である。高齢者の看取り、在宅医療を視野に入れたシームレスな地域包括ケアの構築である。また、すぐ近くにある岩手医科大学付属病院が矢巾地区に移転することが平成30(2018)年に予定されている。盛岡医療圏としての入院体制、通年使用できるヘリポートの整備などを含めた救急医療体制の整備が急がれる。

  • 東北・関東地域のアンケート調査より
    鈴木 保之, 福田 幾夫
    原稿種別: 事例報告
    2014 年14 巻4 号 p. 189-196
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

     震災が手術・手術室へどのような影響を及ぼしたか東北及び関東地域(群馬、栃木、茨城、千葉)の施設にアンケート調査を行った。

     対象は東北6県、関東4県の外科学会指定・関連施設415施設で、213施設(51%)から回答が得られた。アンケートは震災発生時の手術室の揺れ、耐震構造との関連、手術室の被害状況、非常用電源、復旧の過程などに関する33項目で、進行中の手術への影響、手術中止の理由、復旧過程で手術室運営に影響を与えた因子を調査した。

     震災発生時474件の手術(151施設)が行われていた。震災直後222件が中止された。耐震構造の施設71%、耐震構造でない施設22%で、12施設で電源が喪失した。手術継続に障害があった理由は揺れ、スタッフの恐怖、患者の不安、停電等であった。震災後不足したものは一般、特定治療材料で、不足した地域は山形、秋田、青森、茨城に多かった。手術室のインフラの障害は震度と相関を認めた。震災翌日からの手術へ障害があったのは154施設で、特に福島、宮城では全病院で翌日からの手術に支障があった。

     震災により多くの手術室で影響があった。震災中央部、特に震度6以上の地域では手術室のインフラは障害され手術に影響があり、周辺部の日本海側の施設で医療材料などが不足した。今後各病院の備蓄、物流の体制などを検討し、広範囲で震災が生じた時の手術室の運営には周辺の施設の協力体制の構築が必要である。

  • 吉川 博政, 井口 厚司, 冷牟田 浩司, 村中 光
    原稿種別: 事例報告
    2014 年14 巻4 号 p. 197-202
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

     2012年6月にがん対策推進基本計画の見直しが行われ、がん治療における副作用の予防や軽減など、医科歯科連携による口腔ケアの推進、口腔機能管理を専門とする歯科医師との連携強化が明記され、がん周術期の口腔管理がより推進されることになった。国立病院機構九州医療センターでは医科歯科連携を円滑に行うため、独自に医科歯科共通の口腔機能管理計画書を作成した。医師の依頼に基づき歯科口腔外科が口腔機能管理計画書を作成後、実際の口腔管理は地域の歯科診療所で行うシステムを構築し2012年7月から運用を開始した。2013年6月までの1年間に323名(手術前255名、化学療法68名)の依頼を受け、283名に口腔管理を行った。129名(手術前94名、化学療法35名)は当科で管理を行い、154名(手術前139名、化学療法15名)は地域の歯科診療所へ管理を依頼した。依頼内容は歯周病管理が最も多く、当科と地域歯科診療所で行った口腔管理内容に大きな違いはなかったが、当科の処置では抜歯、全身麻酔に関連した歯牙の固定が多く行われていた。

     医科歯科共通の口腔機能管理計画書を作成することで院内の医科と歯科、また地域の歯科診療所との連携を円滑に行うことが可能となると思われた。

  • 小林 利彦
    原稿種別: 事例報告
    2014 年14 巻4 号 p. 203-208
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

     急性期病院における在院日数の短縮などの影響もあり、近年、退院支援・退院調整部門の重要性が増している。しかし、一般市民にとって、当該部門の業務や、そこで働くMSW(Medical Social Worker)、退院調整看護師の存在がどの程度認識されているか不明なため、インターネットアンケート調査を行った。回答者(web入力者)は男性112人、女性188人で、40〜50歳代が全体の69%を占め、続柄としては患者の子供が121人(40%)と最多であった。入院期間が2週間以上の患者が全体の91%であった。疾患として悪性腫瘍、脳卒中、肺炎等が多く、退院の時期に関して「希望より短かった」との回答は、入院期間が2か月以上〜 3か月未満、脳卒中・肺炎患者に多い傾向が見られた。具体的な不安内容や問題項目では、漠然とした不安が最多であり、不安等の程度が比較的高い項目は、症状経過・予後、日常生活の自己管理、退院後の治療、退院の時期などであった。不安の解消や問題解決の相談相手として最も頼りになった人は、主治医(30%)、MSW(25%)、家族等(18%)の順番であり、MSWに比べ退院調整看護師の認識は低い傾向にあった。また、退院支援・退院調整に関し満足度が高い回答者は、病院全体にも好印象を抱いていた。結論として、MSWに比べ退院調整看護師の認識はいまだ低いが、当該業務の充実は病院の高評価につながることが示唆された。

  • 紙屋 めぐみ, 小林 理栄, 新井 亘, 高柳 克江
    原稿種別: 事例報告
    2014 年14 巻4 号 p. 209-212
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

     薬剤師が患者の病態を考慮した薬学的な患者ケアを実践し、薬物療法による副作用、相互作用、治療効果不十分などを回避あるいは軽減した事例を、プレアボイドと称して一般社団法人日本病院薬剤師会(日病薬)に報告する制度がある。上尾中央総合病院は全病棟に薬剤師が2008年から常駐し、プレアボイド報告体制を整備した。今回、当院における2004〜2011年度のプレアボイド報告数の推移、プレアボイド発生時の業務別報告数、当院のプレアボイド報告数と全国の報告数との比較を行った。プレアボイド報告数の推移は、2008年度までの年間平均19.5件に比べ、2009年度以降の平均は469.3件の報告だった。プレアボイド発生時の業務では、薬剤管理指導業務及び病棟業務からの報告が最も多かった。全医療機関の報告18,208件の内、当院の報告数は566件(3.11%)であった。プレアボイド報告数の顕著な増加は薬剤師の病棟常駐を開始したことにより、服薬状況を詳しく観察し検討することが可能になったこと、看護師等から得た情報を契機にプレアボイドとなる事例が増えたことが要因と推察される。また、調剤業務を担う薬剤師が病棟常駐薬剤師を通すことで処方提案を行いやすくなったことも理由と思われる。病棟常駐薬剤師の医薬品安全管理における役割は大きいことが明らかとなった。

  • 東 泰志, 今村 博, 新田 吉陽, 坂元 昭彦, 田辺 元
    原稿種別: 事例報告
    2014 年14 巻4 号 p. 213-217
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

     倫理的配慮に基づいた治療でありながら、出来高算定による診療報酬総額が包括支払制度上の診療報酬総額を超過した額(以下、医療経費)が生じた2症例を経験した。

     症例1は70歳男性。アルコール性重症急性膵炎の診断で緊急入院し、人工呼吸器管理や持続血液透析濾過法(CHDF)による集中治療により一旦は改善が得られたが、再増悪した。倫理的検討に基づき治療を継続したが入院22日目に多臓器不全で死亡した。包括支払い制度上の診療報酬総額は2,380,000円であり、従来の出来高算定による診療報酬の総額は2,870,000円であり、490,000円の医療経費が生じた。

     症例2は53歳男性。骨肉腫による末期状態の診断で緩和ケア病棟に入院した。疼痛管理に大量の麻薬投与を要したが、入院95日目に死亡した。包括支払い制度による診療報酬総額は4,886,780円で、出来高算定による診療報酬の総額は10,137,250円で、主に薬剤費による5,250,470円の医療経費を生じた。2例ともJonsenの臨床倫理的検討で治療方針を検討し妥当性を確認した。しかし、いずれも医療経費が発生し、種々の方策を模索したが適切な対処法はみつからなかった。

     倫理的判断に基づくより適切な診療を行っても、包括支払い制度下では医療経費が生じうる。このような際の公的補助の仕組みづくりが望まれた。

  • 阪口 博政
    原稿種別: 事例報告
    2014 年14 巻4 号 p. 218-222
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

     原価計算システム設計について、10大学病院へインタビュー調査を実施した。情報システム設計に関しては、計算対象は診療科を中心に設定されており、マネジメント対象との適合が進んでいる。また算出規格は、一定レベルで正確性が保たれているものの、取得データ間の単位に差異があり結果が十分に利用されない可能性がある。運用システム設計に関しては、作業負担や関連システムとの連動にまだ洗練化の余地があり、病院経営・運営のトータルな視点で再構築する必要があることが明らかになった。

紹介
  • 高橋 直哉, 武田 真紀, 篠原 さゆり, 山野井 三絵, 林 秀樹
    原稿種別: 紹介
    2014 年14 巻4 号 p. 223-226
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2021/04/01
    ジャーナル フリー

     近年、医療制度改革に伴う社会的要因により医療側は、益々円滑な病床管理を必要とされている。しかし、医療技術の進歩や入院患者の高齢化等の社会的背景によって、種々の問題が生じ、病床管理が困難となっている。 ホウエツ病院は65床の二次救急病院であり、救急患者の病床確保のためには、在院日数の短縮と退院後の生活をサポートする地域の関係機関との連携を密にする必要があった。そこで、院内の地域医療連携室を多職種で構成し、入退院患者の情報交換を毎日行うようにした。また、近隣の医療機関、施設を訪問し、情報交換を行う中で、地域全体としての情報の共有化希望が多く聞かれ、地域連携の会を開催した。その結果、地域の関係機関との連携もより密なものとなり、入院患者へのよりスムーズな退院支援につながった。今後も、地域住民が住み慣れた場所で、安心して生活できるように、地域全体でサポート体制を強化していくことが重要である。

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