目的:脈波速度(pulse wave velocity: PWV)は心拍に起因する動脈に沿った圧力波の伝搬速度である.PWVは動脈硬化の進行に伴って上昇するため,動脈硬化の診断指標として用いることができる.PWVの測定は動脈硬化の診断に対する非侵襲的アプローチとして知られており,臨床の場で広く用いられている.従来のPWV測定法では平均PWVは2点間,すなわち頸動脈と大腿動脈の間の数十cm 間隔で算出する.しかしながら,PWVは動脈系の部位に依存する,すなわち遠位部動脈のPWVは近位部動脈のものよりも速くなる.したがって,局所PWVを測定する方がより好ましい.
方法:本研究で局所PWVを評価するために,3,472 Hzの高時間分解能で位相差トラッキング法により動脈の長軸方向の0.2 mm間隔72ヵ所でヒト頸動脈壁の微小振動速度を測定し,これらの波形にヒルベルト変換を適用することによってPWVを推定した.
結果:本研究では3名の健常被験者の頸動脈を
in vivoで測定した.動脈長軸方向の14.4 mmという短区間におけるPWVはそれぞれ5.6,6.4および6.7 m/sと推定され,文献値とよく対応していた.さらに,被験者の1人に関しては,末梢から心臓の方向に伝搬している成分が認められたが,これはすなわち末梢動脈により反射された成分として知られているものである.我々の提唱した方法を用いて,反射成分の伝搬速度は-8.4 m/sと推定された.反射成分のPWVが高い原因は,進行波および反射波到達時の血圧の差であると考えられた.
結論:このよう方法は(異なる部位の動脈を含む平均PWVではなく)特定の動脈で局所PWVを測定することにより,動脈硬化の進行による弾性の変化をより鋭敏に検出するのに有用であると考えられる.
抄録全体を表示