超音波医学
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38 巻, 3 号
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総説
  • 近藤 隆, 古澤 之裕, Mariame Ali Hassan, 小川 良平, 趙 慶利, 田渕 圭章, 高崎 一朗
    原稿種別: 第9回松尾賞受賞記念総説
    2011 年 38 巻 3 号 p. 221-230
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/16
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    放射線や磁場とならび画像診断に必須の手段として発達してきた超音波であるが,近年の分子生物学やマイクロバブル製剤技術の発展と共に,分子診断や分子標的治療に向けた新たな視点から,超音波の応用が期待されるようになってきた.超音波の主な生体作用についても,一過性の小孔形成が明らかとなり,アポトーシス誘発も知られるようになってきた.また,遺伝子発現が変化することから,骨折治療への超音波治療が注目されるようになってきた.この総説では,超音波治療応用を目指し,当研究室で行われた研究成果をもとに,超音波の生体作用に関する最近の知見,1)超音波による遺伝子導入,2)アポトーシス,3)遺伝子応答,4)遺伝子発現の制御,5)薬物治療への展開などについて概説する.
  • 尾辻 豊
    原稿種別: 第9回松尾賞受賞記念総説
    2011 年 38 巻 3 号 p. 231-242
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/16
    ジャーナル 認証あり
    虚血性僧帽弁逆流の基本機序は,左室拡大により外側へ変位した乳頭筋が弁尖を異常に強く牽引しその可動性を低下させ(テザリング),弁尖閉鎖不全を来たすことである.弁輪拡大や左室機能低下は,中心的な機序ではないが,テザリングがあると弁逆流悪化に寄与する.乳頭筋機能低下は,僧帽弁逆流の原因であると考えられた.しかし,乳頭筋機能低下では僧帽弁逆流が出現しないことが何度も確かめられ,最近の研究では乳頭筋機能低下は僧帽弁逆流を弱める因子であることが確認された.外科的弁輪形成術は虚血性僧帽弁逆流に有効であるが,しばしば逆流が再発する.弁下部テザリングを治療する手技が求められている.僧帽弁テザリングは症例により多様であり,個々の症例の病態に応じた治療が望まれる.
  • 余田 篤, 青松 友槻
    原稿種別: 第9回教育セッション(小児科)
    2011 年 38 巻 3 号 p. 243-254
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/16
    ジャーナル 認証あり
    小児の腹痛における画像診断として第1選択肢は単純X線写真であったが,超音波検査の方が情報量も診断率も高い.小児の急性腹症の中で頻度の多い疾患として,腸重積,急性虫垂炎などがあり,頻度の少ない疾患として,胆道拡張症,中腸軸捻転などがある.また,Henoch-Schönlein紫斑病と出血性腸炎は急性腹症として受診することもある.乳幼児では正確な問診や身体所見を得られないこともあり,腹痛を主訴に受診する乳幼児の診断に際して,超音波検査 は有用である.小児の急性腹症の中で超音波検査の感度と特異度の高い疾患は腸重積,急性虫垂炎,中腸軸捻転,胆道拡張症などで,超音波検査だけでこれらの四疾患の確定診断や除外診断が可能である.Henoch-Schönlein紫斑病と出血性腸炎では,急性腹症として誤って開腹術になることがあるが,これらの二疾患の超音波検査の特徴は小腸や大腸の腸管壁の肥厚である.超音波検査で肥厚した腸管壁が観察され,同時に虫垂炎と腸重積を否定すると開腹術を回避でき,これらの二疾患が鑑別に挙げられる.小児の急性腹症の代表的な疾患で,超音波検査が確定診断に最適である腸重積,急性虫垂炎,中腸軸捻転,胆道拡張症と,確定診断は困難であるが超音波検査が有用なHenoch-Schönlein紫斑病と出血性腸炎について疾患の特徴,超音波検査の描出法そして診断について解説する.
  • 瀬本 喜啓, 岸本 郁男, 大辻 トミ子
    原稿種別: 第9回教育セッション(整形外科)
    2011 年 38 巻 3 号 p. 255-265
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/16
    ジャーナル 認証あり
    超音波検査法は,手軽で非侵襲的に軟部組織や骨組織の診断が行える方法として,整形外科領域における有用な補助診断法となった.肩関節や乳幼児の股関節はもとより,軟部組織の損傷や腫瘍などの領域では,広く日常の外来診療に使用されている.2006年には日本超音波医学会専門医に整形外科領域が設けられた.最近では人工股関節置換術や脊椎の手術時に起り易い深部静脈血栓の術前・術後診断にカラードプラ法が用いられるようになり,またリウマチ性疾患の診断基準や薬剤の効果判定にパワードプラ法が用いられるなど,学会・研究会などで血管外科や内科など他科の医師と論議することも多くなっている.整形外科領域における超音波検査の歴史は他科と比べればまだまだ浅く,今後各部位や疾患の検査目的に適した超音波機器の開発が望まれる.現在の所,超音波画像は1枚の静止像としてみればやや不鮮明である感は免れない.しかし,実際には患部を種々の角度から,また筋肉や関節を動かしながら観察するものであり,これによって診断に役立つ多くの所見が得られる.今後,超音波診断法は,X線やMRIに変わるものとしてではなく,それらとは質の異なる検査法として,外来診療に手軽に用いることの出来る診断法として益々発展するものと考える.
原著
  • 道倉 雅仁, 柏瀬 一路, 平尾 円香, 佐藤 まり恵, 黒田 暁生, 苅田 真子, 田邊 淳, 佐藤 秀幸
    2011 年 38 巻 3 号 p. 267-272
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/16
    ジャーナル 認証あり
    目的:粥状動脈硬化病変(Plaque)は,比較的大きな血管の分枝部など特定部位に好発する特性がある.しかし,左右頸動脈洞(CS)の一方のみにPlaque形成を認めることは,臨床現場にてしばしば遭遇する.我々は,血管径などが一方のみにPlaqueを形成させている要因と推測し,それらの因子がPlaque形成に与える影響について研究した.対象と方法:2009年4月から2010年3月までに医療法人生登会寺元記念西天満クリニックにて頸動脈超音波検査を実施した外来患者の内,左右一方のCSのみにPlaque形成を認めた100例(男性68人,女性32人)を対象とした.頸動脈超音波検査にて,左右両側の総頸動脈(CCA)とCSの接合角,各血管径,血管径比(CS/CCA),平均内膜中膜複合体厚及び流速を求めた.Plaque形成を認めた側をP側,認めない側をN側として,各因子を比較検討した.結果と考察:接合角,CS径とCS/CCAは,P側の方がN側に比較して有意に高値を示した.本研究結果より,血管径や接合角は血管内皮へかかるずり応力に影響し,Plaque形成の重要な因子になると推測された.結論:血管径や接合角がPlaque形成の要因であることが示唆された.
症例報告
  • 若杉 聡, 平田 信人, 小宮 雅明, 北浦 幸一, 山崎 智子, 神作 慎也, 本間 善之, 加納 宣康, 成田 信, 星 和栄
    2011 年 38 巻 3 号 p. 273-282
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/16
    ジャーナル 認証あり
    胆嚢壁内に類円形高エコー結節を認めた胆嚢疾患3例の臨床的特徴,画像,病理組織所見を検討した.全例に腹痛ないし背部痛など胆嚢炎に関連する症状を認めた.結節を胆嚢全体に認めた症例が2例,体部のみに認めた症例が1例だった.全例結石を認めなかった.CTは全例で行われ,単純CTでは3例中2例で結節は軽度高濃度だった.MRIは全例で行われ,結節はT1強調像で高信号を呈した.病理組織診断は,全て慢性胆嚢炎を伴う胆嚢腺筋腫症だった.拡張したRokitansky-Aschoff sinus(以下,RAS)周囲の線維化が強く,最近の炎症の存在が推察された.1例は胆嚢底部に膿瘍も形成していた.この膿瘍部分は超音波検査で境界不明瞭な淡い高エコー結節だった.壁内の類円形高エコー結節は,RAS内に充満した濃縮胆汁,結石,膿瘍に相当すると思われた.胆嚢腺筋腫症に炎症が加わるとRASの出口が浮腫,線維化で狭窄し,RAS内の胆汁の流出障害が生じ,濃縮胆汁,結石などが形成される.その過程でRASが破綻した場合,膿瘍が形成されると考えた.破綻していないRASは境界明瞭な高エコー結節を呈するが,破綻し膿瘍を形成したRASは境界不明瞭になると考えた.黄色肉芽腫性胆嚢炎は,破綻したRASや胆嚢粘膜から壁内に胆汁が流入し,膿瘍が形成され,吸収される過程で生じる.大部分は結石が原因であるが,結石を伴わない症例も存在し,今回提示した3例は結石を認めない黄色肉芽腫性胆嚢炎の原因を推察する上で重要と思われた.
  • 早田 桂, 小松 玲奈, 関野 和, 辰本 幸子, 依光 正枝, 舛本 明生, 石田 理, 野間 純, 吉田 信隆
    2011 年 38 巻 3 号 p. 283-289
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/16
    ジャーナル 認証あり
    骨系統疾患は100種類以上存在するが,個々の疾患頻度は低く診断に苦慮することが多い.中には予後不良な疾患も含まれ,正確な出生前診断を要する.今回,骨系統疾患を同時期に2例経験したので報告する.症例1は24歳.妊娠29週に大腿骨短縮を指摘され紹介.四肢全て短縮のため全肢節短縮型骨系統疾患と診断.胎児頭蓋内構造は明瞭に描出され,超音波プローブで胎児の頭蓋を圧迫すると骨変形を認め,hypophosphatasia(低フォスファターゼ症)を疑った.3D-CTでは頭蓋骨や椎体,両手足指の描出は骨化不良のため困難であった.出生児は生後20分後に死亡し,臍帯血ALP 5IU/Lであった.症例2は31歳.妊娠20週に大腿骨短縮を指摘され紹介.四肢全て短縮のため全肢節短縮型骨系統疾患と診断.大腿骨の短縮と骨幹端の末広がり,胸郭低形成より予後不良な四肢短縮症を疑い,正確な出生前診断には至らずも,同意のもと中期中絶を行った.後日死産児の全身X線写真よりhypochondrogenesis(軟骨低発生症)と診断した.2症例とも一般的に生命予後不良な四肢短縮症である.超音波補助診断として,近年3D-CTの有用性が報告され,胎児超音波によりスクリーニングを行い,3D-CTで確定診断を行う方法が適切との見方もある.3D-CTでは長管骨の計測に加え,細かい形態の変化や骨化の程度といった超音波では描出し難い所見を得ることが可能とされるからである.大腿骨短縮を認めた場合は四肢全ての計測を行い,胸郭低形成の有無を確認し,重症度の鑑別診断が重要である.
  • 山口 実紀, 小原 正巳, 磯部 幸子, 小川 ゆかり, 加藤 寿美子, 本間 加奈子, 里見 理恵, 若杉 聡, 戸崎 光宏
    2011 年 38 巻 3 号 p. 291-296
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/06/16
    ジャーナル 認証あり
    症例は51歳,女性.右乳房腫瘤を主訴に2007年5月に他院を受診した.細胞診でclassVと診断され,同年に当院を紹介受診した.視触診で右CD領域に円形,表面不整,可動性のある硬い腫瘤を触知した.マンモグラフィで境界不明瞭な腫瘤を認めた.超音波検査で2.5×2.0 cm大,境界明瞭粗糙,内部不均一な分葉状腫瘤を呈し,ドプラ法で辺縁に豊富な血流を認めた.MRIではT2強調像で2.6 cm大の高信号腫瘤を認め,病変は辺縁のみが造影された.内部に広範な壊死を伴う腫瘤,もしくはmatrix-producing carcinoma(以下,MPC)が疑われた.針生検でMPCと診断され手術となった.MPCは,乳癌のmetaplasic carcinomaの一亜型であり,比較的稀な腫瘍である.本症例では超音波像と病理組織像を一対一で対比した.腫瘤辺縁部の癌腫上皮成分は低エコーであった.基質に富み癌細胞の少ない領域は,音響学的には一様なため,超音波像では内部のきわめて低エコーないし無エコーの領域に相当すると考えた.粘液腫様基質で癌細胞の多い領域では,癌細胞が基質の中に浮かぶように存在するために後方散乱を来し,高エコーに描出されると推測した.これまでMPCの超音波所見についての報告は少ないが,MPCの内部組織構造の把握には超音波が有用である可能性があると考えられた.
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