超音波医学
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50 巻, 5 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • 小形 幸代
    2023 年 50 巻 5 号 p. 309-318
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/13
    [早期公開] 公開日: 2023/06/28
    ジャーナル 認証あり

    左室肥大は健診などの心電図で偶発的に指摘されることが稀ではなく,心エコー図はその診断や原因検索をするうえで,最も安全かつ有効な検査法である.左室肥大の原因は圧負荷や容量負荷などの外因性,遺伝的な要因,異常物質の沈着など様々である.左室肥大は心血管イベントの発症,予後の予測因子となるため,左室肥大の程度を評価することは臨床的にとても重要である.左室肥大は左室壁の肥厚のみを意味するのではなく,個々の心筋細胞の増大によって心筋全体の重量が増加している状態のことである.この左室肥大の様式は相対的左室肥厚および左室心筋重量係数により求心性肥大と遠心性肥大に分類される.心筋重量係数の測定にはリニア法と断層法があり,左室の形態異常がある場合は断層法が推奨されている.いずれの方法においても,左室壁や左室内腔の計測を正確に行う必要があり,正しい位置で計測することや心室内の他の構造物を誤って計測しないことが基本となる.左室壁の肥厚の程度やその分布から左室肥大の原因を鑑別していくが,心エコー図のみで原因を特定することは困難である.家族歴,身体所見,種々の検査結果と合わせて総合的に判断することが重要である.

  • 奥野 敏隆
    2023 年 50 巻 5 号 p. 319-338
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/13
    [早期公開] 公開日: 2023/07/28
    ジャーナル 認証あり

    乳房超音波検査の基本はBモード法である.Bモード法は超音波組織特性に基づき,組織像を反映した信号を輝度変調して得られた断層像から病理像を読み解く形態診断である.カラードプラ法はドプラ効果を用い,血流から得られるドプラ偏移周波数の情報をリアルタイムにカラーでBモード画像に重ねて表示する血流動態診断である. Bモード法にカラードプラ法を追加して診断能の向上を得るためにはまずBモード法で適正な画像を撮像すること,そして適正な装置の設定と手技でカラードプラ法を行うことが必須となる.さらに造影超音波は低音圧でマイクロバブルを共振させ,得られた2次高調波をもとに画像を得るコントラストハーモニックイメージングである.乳房超音波診断の基本はBモード法による組織型推定とそれに基づくカテゴリー判定であるが,フローイメージングを適切に追加することで乳癌を確実に拾い上げ,良性疾患を良性と判断して無用の生検や経過観察を回避することができる.本稿では超音波ドプラ法と造影超音波の基礎,乳房超音波フローイメージングの歩み,乳腺疾患のvascularityの病理,装置の設定と操作法,そして乳房超音波フローイメージングを診断に活かすコツについて解説したい.

  • 寺田 星乃, 花井 信広
    2023 年 50 巻 5 号 p. 339-346
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/13
    [早期公開] 公開日: 2023/07/28
    ジャーナル 認証あり

    頭頸部領域の超音波検査を施行するにあたり,しばしば判断に迷うものとして嚢胞性疾患あるいは気管周囲における腫瘤性病変がある.嚢胞性疾患では先天性嚢胞性腫瘤や結核などがある.注意が必要なのは甲状腺乳頭癌やヒトパピローマウイルス関連中咽頭癌のリンパ節転移である.好発年齢や治療法が異なるため,適切な診断と対応が必要となる.それぞれの疾患の特徴や鑑別に必要な検査について述べた.気管周囲における腫瘤性病変では甲状腺腫瘍,副甲状腺腫瘍,気管傍リンパ節転移や神経鞘腫といった多彩な疾患が挙げられる.狭い領域に多くの構造物が密集しているため,超音波検査のみでは鑑別が難しいことも多い.臨床所見,画像検査,病理学的検査を含め総合的に判断する必要がある.頭頸部癌根治治療の1つである化学放射線療法は近年増加傾向である.化学放射線療法後の頸部リンパ節転移における治療効果判定にも超音波検査は有用である.治療後の変性は8~16週かけて徐々におこるため,経時的な観察が重要である.治療後の変化として,リンパ節サイズの縮小,エコー輝度の変化,液体成分・血流シグナルの消失が観察される.CTやMRIではリンパ節内の詳細な観察は困難である.超音波検査では,Bモード,カラードプラ,エラストグラフィを用いてリンパ節内の質的変化を観察できる.他の画像検査と併用することで,より精度の高い治療効果判定を行うことができると考える.

  • 関谷 充晃
    2023 年 50 巻 5 号 p. 347-353
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/13
    [早期公開] 公開日: 2023/08/22
    ジャーナル 認証あり

    近年,呼吸器疾患の診断において,救急領域のPoint-of-Care 超音波(POCUS)の一環として肺エコーが普及しつつある.肺は空気を含み,かつ骨性胸郭に囲まれているため,様々なアーチファクトが観察される.肺エコーは実像のみならず,これらのアーチファクトを利用して診断するのが大きな特徴である.そのため,肺エコーはすべての呼吸器疾患に利用できるわけではなく,その適応となる疾患・病態についての理解が必要である.使用する探触子は,リニアプローブ,セクタプローブ,コンベックスプローブのいずれでもよい.POCUSでは主に前胸部を上下左右に8分割し観察する.健常者にみられる所見としてはBat sign,A-line,Lung sliding,Lung pulse,Seashore signがある.正常所見の消失は,呼吸器疾患の存在を示唆する重要な所見であるため,これらの正常像をしっかりと理解しておくことが重要である.肺エコーが診断に有用な代表的な呼吸器疾患としては,気胸,間質性肺炎,肺炎などがある.各疾患において認められる主な異常所見としては,気胸におけるlung point,間質性肺炎にみられるmultiple B-lines,肺炎にみられるsonographic consolidationなどがある.対象患者にみられる異常所見,正常所見の欠如などを組み合わせて,可能性の高い鑑別疾患を絞っていく.

原著
  • 長谷川 英之, 長岡 亮, 大村 眞朗, 茂澄 倫也, 斎藤 こずえ
    2023 年 50 巻 5 号 p. 355-363
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/13
    [早期公開] 公開日: 2023/08/30
    ジャーナル 認証あり

    目的:血流の評価は,超音波画像診断で重要な役割を果たす.カラーフローイメージング法は,臨床で幅広く使用されている方法の1つである.自己相関はエイリアシングの影響を受けるため,超音波パルスの送信間隔は可能な限り短くする必要がある.そのため,カラーフローイメージング法では特定の送受信シーケンス,すなわちパケット送信が広く使用されている.さらに,近年導入された平面波イメージング法は,時間分解能の改善に大きく貢献する.また,特異値分解(singular value decomposition: SVD)クラッタフィルタは,従来型のクラッタフィルタよりも優れていることが示されている.本研究では,パケット送信シーケンスを使用した平面波イメージング法でのSDVクラッタフィルタの実現可能性を検討した.方法:本研究では,ステアリング角を変更する前に,平面波を複数回同一方向に送信することで,平面波イメージング法でパケット送信シーケンスを実現した.1番目の方法では,集束送信ビームを使用して走査線単位で受信信号を取得する従来のカラーフローイメージング法のように,各パケットの超音波RF(radio-frequency: RF)信号にクラッタフィルタを適用した.2番目の方法では,パケットごとの送信回数は2に設定され,クラッタフィルタは,異なるパケットでの1回目または2回目の送信から取得したRF信号群に適用された.結果:ヒト頸動脈でのin vivo計測結果では,SVDフィルタを使用した2番目の方法が,従来型フィルタとして多項式回帰フィルタを使用した1番目の方法に比べて,優れていることを示した.結論:SVDクラッタフィルタは,パケット送信シーケンスを使用した平面波イメージング法に適用可能であり,パケットごとの送信回数を2回に制限することで性能が向上した.

  • 小泉 洋平, 廣岡 昌史, 田中 孝明, 渡辺 崇夫, 吉田 理, 徳本 良雄, 檜垣 高史, 江口 真理子, 阿部 雅則, 日浅 陽一
    2023 年 50 巻 5 号 p. 365-374
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/13
    [早期公開] 公開日: 2023/08/30
    ジャーナル 認証あり

    目的:先天性心疾患に対するFontan術を施行された後に,遠隔期肝合併症(フォンタン術後肝合併症,Fontan-associated liver disease: FALD)として鬱血肝から肝硬変に進展し,肝癌を発症する症例がある.FALDにおいて疾患の進行をリアルタイムで評価するには,肝線維症および心機能を評価するための非侵襲的検査方法の確立が必要である.本研究は,肝静脈(Hepatic vein: HV)波形分析およびエラストグラフィが,FALD患者において心係数(Cardiac index: CI)の代替マーカーとなり得るかどうかを評価し,FALD症例でエラストグラフィ測定に影響を与える因子を明らかにすることを目的とした.方法:全症例で心臓カテーテル検査,腹部超音波検査および肝臓のエラストグラフィ測定を施行した.さらに,肝線維症関連血清マーカーを測定し,ドプラ超音波検査を用いてHV血流を評価した.結果:FALD症例43例を対象とした(年齢中央値:17歳,四分位範囲:12‐25歳,男性:29名,肝生検:6名).Real-time tissue elastography(RTE)値は,Fontan術後7年以上経過した症例で有意に高く,RTE値はFALDが原因の肝線維症を早期の段階から反映している可能性が考えられた.エラストグラフィは,心臓カテーテル検査で得られた血行動態パラメーターと有意な相関が見られなかった.HV波形を使用したCI < 2.2 L/min/m2の診断能は,エラストグラフィの結果および血清線維化マーカーと比較して良好であった.結論:HV波形は,CIの非侵襲的に測定可能な代替マーカーとして有用と考えられた.RTE値は,術後時間の経過とともに上昇し,肝線維症を反映していると思われる.RTEとHV波形の組み合わせは,FALD患者の臨床症状をリアルタイムに評価する上で有用な非侵襲的ツールとなり得る.

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