目的:心臓超音波断層法は心臓の診断に広く用いられている.心臓超音波検査により心臓の形状を観察することができ,BモードおよびMモード画像に基づいて駆出率など心臓全体としての機能を評価することができる.また,局所の心機能を評価するために心筋ストレインおよびストレインレートを評価する方法も開発されている.さらに最近,心筋の収縮/弛緩時の壁の変位や心臓弁閉鎖により惹起される振動の伝搬の計測が心筋機能や粘弾性の評価に有用であることが示されている.しかしながら,これらの測定方法は従来の超音波診断装置よりもはるかに高いフレームレートを必要とする.本研究では高フレームレート(300 Hz以上)の心臓超音波断層法を実現するため,並列受信ビームフォーミングに基づいた方法を開発した.
方法:フレームレートを高めるために送信角度間隔を6°,1送信当たりの受信ビーム数を16として送信回数を15に減らし,従来のセクタ走査と同等の数および密度の走査線を得られるようにした.さらに,走査線間での送受信感度の差を低減するために,複数の送信をコンパウンドすることによって各走査線を得た.コンパウンドに用いた送信回数は送信ビームの幅を考慮して決定した.送信ビームに関しては,平面波および拡散波について検討を行った.セクタ走査では走査線の間隔がプローブからの距離とともに大きくなるのに対し,平面波の幅は距離とともに増加しないため,距離とともに広くなるセクタ走査における描画範囲に対応できない.一方,拡散波はプローブからの距離とともにビーム幅が広くなるため,平面波よりもセクタ走査における送信ビームに適していることが分かった.
結果:ナイロンワイヤを用いて提案法による空間分解能を評価した.拡散波により得られた点拡がり関数の半値幅は従来のビームフォーミングおよび平面波を用いた並列ビームフォーミングにより得られたものよりもやや大きかったが,従来のビームフォーミングにより得られるものに非常に近い点拡がり関数が,送信拡散ビームとコンパウンドによる並列ビームフォーミングにより実現できた.しかし,平面波および拡散波を用いた並列ビームフォーミングの場合には横方向のサイドローブレベルの上昇は認められた.本研究では,23歳健常男性の心臓についても断層像の測定を行った.
結論:上昇したサイドローブレベルのために,提案法により得られたBモード断層像のコントラストは劣化したが,横方向描画範囲90°のBモード断層像を,従来のセクタ走査により得られる数十Hzよりははるかに高い316 Hzのフレームレートで測定することができた.
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