超音波医学
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39 巻, 3 号
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総説
  • 江本 精
    原稿種別: 第10回松尾賞受賞記念総説
    2012 年39 巻3 号 p. 251-257
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
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    近年,超音波エネルギーをがん治療に用いようとする研究が進み,低出力超音波による薬物効果増強作用が明らかとなってきた.また,腫瘍の血管新生阻害が新たながん治療の一つとして注目されている.そこで著者らは,低出力超音波エネルギーによる生体作用および薬物効果増強作用に注目し,新たながん治療として期待される血管新生抑制療法に超音波照射を併用した基礎研究を初めて行ない子宮肉腫に対する有用性を報告した.さらに,造影超音波カラードプラ法を用いて抗腫瘍効果および血管新生阻害効果をリアルタイムに評価し,低出力超音波を診断と治療の両面で同時に活用することに成功した.超音波の生体作用についてはまだ十分には解明されていないが,低出力超音波を照射されたがん細胞には一過性の小孔が形成され(Sonoporation),これらの小孔から薬物が細胞内により多く取り込まれることにより,薬物透過作用が促進されると考えられる.また,血管新生阻害剤と低出力超音波の併用療法は,がん細胞が産生する血管新生因子VEGFを阻害し骨髄中の循環血管内皮前駆細胞の誘導を抑制,かつ血管新生抑制因子TSP-1を促進することも明らかとなった.著者らは,近い将来,現行の超音波カラードプラ診断装置が改良され,“診断と同時にがん治療がリアルタイムで行える低出力超音波治療”の時代の到来を予見する.
原著
  • 河合 岳郎, 小林 薫, 廣川 満良, 福島 光浩, 藪田 智範, 太田 寿, 森田 新二, 西原 永潤, 網野 信行, 宮内 昭
    2012 年39 巻3 号 p. 259-269
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
    ジャーナル 認証あり
    目的:甲状腺結節(腫瘤)の診療において超音波検査は最初に行う重要な検査である.結節の診断において良性・悪性の2段階評価の診断基準とそれ以上の多段階評価の診断基準がある.今回,我々は甲状腺結節に対する超音波検査による5段階評価による診断基準を細胞診,病理学的診断と対比して,その妥当性と有用性を検討した.対象と方法:5段階評価の超音波クラスは結節の形状,内部充実性か否か,内部エコーの性状,微細多発高エコーの有無,甲状腺外への浸潤の有無などを観察して5段階に評価した.2008年1年間の初診患者の甲状腺結節に対してこの診断基準を用いて診断し,それぞれの結節の超音波クラスを評価した.結節の超音波クラスの分布,超音波クラスと細胞診の相関,超音波クラスと病理学的診断との相関,超音波クラスごとの悪性の頻度,診断法の精度を検討した.結果と考察:分布では超音波クラス2の結節が最多を示した.超音波クラスと細胞診と病理学的診断の相関においては,超音波クラスが上がるにしたがって悪性の比率が増加した.病理学的診断を標準にして,超音波クラス4,5を悪性と規定すると,感度77.1%,特異度94.7%を示した.甲状腺結節に対する5段階評価による超音波診断法は細胞診,病理学的診断における良性・悪性の診断と相関した.結論:この超音波診断法は甲状腺結節の診療において充分に妥当性が存在し,臨床診断に有用である.
  • 梅津 昭典, 今野 和子, 鈴木 京子, 鵜飼 克明
    2012 年39 巻3 号 p. 271-277
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
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    目的:我々はアルコール性肝硬変と診断された症例に注目し,膵実質超音波像を検証するとともに,その所見がどの程度の頻度で認められるか検討した.対象と方法:2001年11月~2010年9月までに,臨床的あるいは病理学的にアルコール性肝硬変と診断された患者211名のうち,既に慢性膵炎と診断されている症例と膵描出不良例を除く189名 (男性175名,女性14名)を対象とした.平均年齢は61.1歳(32~90歳).評価はルーチン業務10年以上の経験をもつ超音波認定技師3名で行った.結果と考察:(1)膵実質エコー輝度が低エコーレベルである症例71.4%.(2)膵実質内に点状・線状の高エコーを有する症例95.2%.(3)膵辺縁輪郭に高エコーの縁取り様の所見を認める症例72.5%.上記(1)~(3)全ての所見を有する症例70.3%であった.慢性膵炎診断基準の定義では,膵内部の不規則な線維化,細胞浸潤,実質の脱落,肉芽組織などの慢性変化が生じるとされている.今回の検討で認められた特徴的な膵臓の超音波画像と上記のような膵内部慢性変化との因果関係が推察される.結論:体外式腹部超音波検査(以下,US)は簡便で非侵襲的であり,積極的に早期慢性膵炎の評価を行うべきであると思われた.
  • 武藤 はる香, 松下 充, 松本 美奈子, 神農 隆, 村越 毅, 成瀬 寛夫, 中山 理, 鳥居 裕一
    2012 年39 巻3 号 p. 279-283
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
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    目的:低リスクの初産婦において,妊娠中期子宮動脈血流波形異常の頻度を明らかにし,血流波形異常とPIH発症,Light for date(LFD)児出生の関連を検討する.対象と方法:低リスクの単胎初産婦で,2009年4月から2010年4月末に妊娠中期子宮動脈血流波形測定が行われ,当科で分娩を取り扱った137例を対象として,子宮動脈血流波形とPIHの発症,LFD児出生との関連を調べた.妊娠初期リスクスコアで0‐1点のものを低リスクとし,子宮動脈のPI値はMerz Eの基準値を用いて両側の平均値が95パーセンタイル以上を高値とした.結果と考察:子宮動脈血流波形PI値上昇3例中,PIHの発症例はなく(p=0.978),2例にLFD児を認めた(p=0.020).多変量ロジスティック解析では,LFD児出生に関連する因子としてPI値上昇が抽出された.PIH発症に関しては有意な項目はえられなかった.結論:低リスク単胎初産婦に対しても,妊娠中期の子宮動脈血流測定での血流波形異常の出現は,LFD児出生予測に関して有用である可能性がある.
症例報告
  • 宮崎 顕, 吉田 加奈, 古橋 円, 石川 薫
    2012 年39 巻3 号 p. 285-289
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
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    胎児奇形のうち,上肢奇形は比較的まれな奇形であり,その中でもNager症候群,上肢の低形成にTreacher-Collins症候群に類似する下顎低形成を伴う非常にまれな疾患である.Nager症候群の出生前診断例の報告は非常に少なく,本邦での出生前診断の報告例は未だ調査した範囲では認めない.今回我々は,在胎30週にBモードおよび3D/4D超音波法を用いた胎児の詳細な観察を行い,両側の母指欠損を伴う上肢の低形成と小顎症を認めNager 症候群と出生前診断した.しかし,出生直後から遷延性肺高血圧症と著明な播種性血管内凝固を伴い,また喉頭気管食道裂(LTEC)を合併しており救命できなかった症例を経験したので報告する.
  • 仲村 将光, 長谷川 潤一, 真井 博史, 松岡 隆, 市塚 清健, 関沢 明彦, 岡井 崇
    2012 年39 巻3 号 p. 291-296
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
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    本報告は胎盤血管腫の表在血管が胎内において破綻し,胎児貧血を来たした症例の世界で初めての報告である.症例は29歳,0回経妊.他院で妊婦健診を施行していた.妊娠28週の妊婦健診で,羊水過多と胎盤腫瘤を指摘され,精査のため当院紹介となった.初診時の超音波検査で,羊水ポケット87 mmと羊水過多を認めた.胎盤表面にはカラードプラ法で血流が豊富に描出される65×80 mmの有茎性腫瘤を認めたため,胎盤血管腫の診断で入院管理とした.入院時は児の形態学的評価を含め,羊水過多以外に異常を認めなかったが,徐々に血管腫は増大した.妊娠31週6日,超音波検査で児の中大脳動脈血流収縮期最大速度の上昇を認め,また胎児心拍数波形にsinusoidal patternを認めたことから,胎児貧血による胎児機能不全と診断し,緊急帝王切開を施行した.分娩時,羊水は血性であり,胎盤娩出時に血管腫表面の一部破綻がみられた.児にはヘモグロビン8.3 g/dl,アルブミン1.5 mg/dlと,貧血と低アルブミン血症を認め,血小板が19.1×104/μlと正常であったことから,胎児貧血の原因は血管腫の破綻と考えられた.胎盤血管腫の症例に胎児貧血を認めた場合には,血管腫の破綻も鑑別診断すべきと考えられた.
技術報告
  • 金澤 真作, 緒方 秀昭, 三塚 幸夫, 馬越 俊輔, 齊藤 芙美, 伊東 俊秀, 白神 伸之, 根本 哲生, 渋谷 和俊, 金子 弘真
    2012 年39 巻3 号 p. 297-303
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
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    目的:乳腺疾患に対して第二世代超音波造影剤Sonazoid®を用いた造影超音波を行い,その特徴と意味を検討した.対象と方法:造影超音波が行われ,組織診断が確定した乳癌97病変と良性30病変を検討対象とした.Sonazoid®は混濁液として0.0075 mg/kgを静脈内投与し,Pulse Subtraction low Mechanical index modeやMicro flow imagingで観察した.結果と考察:微小気泡の共鳴信号を高い時間空間分解能で画像化する造影超音波により,微細な染影や細かい血管走行の描出が可能であった.染影は病変内部の不均一性を反映し,病変周囲に限局した染影は浸潤性発育に伴う腫瘍血管の存在を示し浸潤癌に特徴的な所見であった.血管走行は病変の発育形態を反映し,良性病変では多数の分枝を持つのに対し,悪性病変では分枝に乏しい走行を示した.結論:乳腺造影超音波では病変の微細な構造を観察することが可能であった.
  • 杉山 高, 中村 元哉, 佐藤 慎祐, 氏次 初枝, 梅原 慶太, 土井 俊
    2012 年39 巻3 号 p. 305-315
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
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    目的:正常肋骨および肋骨骨折の超音波像を検討し,その走査法,走査上のチェックポイントおよび病変部位の新しい表示法を提案する.対象と方法:対象は,2006年8月‐2011年2月までの54ヵ月間に肋骨骨折が疑われエコー検査を実施したもの83名で,この内,肋骨骨折と診断したもの44名(男性24名,女性20名),平均年齢64歳(24‐84歳)を対象とした.方法:1) 肋骨エコーの検査体位と拡大画像による走査法,2) 正常肋骨のエコー像,3) 骨折類似像,4) 骨折所見に基づくチェックポイント,5) 病変部位の新しい表示法を提案した.結果:被検者の検査体位は斜位または側臥位で行った.非骨折部位の肋骨と軟骨ではエコー像に違いがあり走査によっては骨折類似像がみられた.肋骨骨折のエコー所見は,圧痛部位に一致し骨折段差(step sign)と骨表面の血腫が主なものであった.骨折部位の表示は,時計軸を用いたことで,遡及性のある客観的な病変部位の表示が可能であった.結論:肋骨骨折のエコー検査は,拡大画像でリニア探触子を圧痛部位に走査し,step signと骨表面のecho free spaceであり,肋骨骨折の診断にエコー検査が簡便で有用と思われる.今後,肋骨骨折が疑われる場合,積極的にエコー検査の施行が望まれる.
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