日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第49回日本植物生理学会年会講演要旨集
選択された号の論文の1105件中451~500を表示しています
  • 吉田 拓実, 佐久間 洋, 戸高 大輔, 圓山 恭之進, 秦 峰, 溝井 順哉, 城所 聡, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
    p. 0451
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    植物の生育は熱ストレスによって大きな影響を受ける。シロイヌナズナのDREB2A遺伝子は、環境ストレス応答機構における重要なシスエレメントであるDREに特異的に結合して転写を活性化する転写因子をコードしている。一部のアミノ酸配列を欠失させた活性型DREB2Aを過剰発現させた植物体では、高温耐性が向上した。この過剰発現体中で最も高発現した下流遺伝子としてHsfA3が見出された。HsfA3はシロイヌナズナ中に21種存在するHeat Shock Factor (HSF) の1つであるが、機能についてはあまり知られていない。本研究では、熱ストレス下でDREB2Aによって制御されるHsfA3遺伝子の発現制御機構およびHsfA3の機能解析を行った。
    シロイヌナズナの野生株中のHsfA3遺伝子の発現量は、熱処理後10時間まで上昇し続けるが、dreb2a変異体では発現量の上昇が強く抑えられた。培養細胞を利用したトランジェント発現解析においてHsfA3プロモーター: GUSの発現が、DREB2Aにより活性化されることが示された。また、マイクロアレイ解析により、HsfA3過剰発現体中で多くの熱ストレス応答性遺伝子の発現が上昇していることが明らかになった。さらに、過剰発現体では高温耐性が向上すること、hsfa3変異体では高温耐性が低下することが確認された。これらの結果からHsfA3DREB2Aの下流で機能し高温耐性獲得に関与していることが明らかとなった。
  • 筒井 友和, 加藤 航, 矢元 奈津子, 浅田 裕, 城所 聡, 篠崎 和子, 玉置 雅紀, 池田 亮, 山口 淳二
    p. 0452
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    我々は,FOX Hunting Systemを用いてシロイヌナズナgain-of-function型細胞死形質変異体を単離した.本過剰発現体(DEAR1ox)は,ロゼット葉に過敏感反応様の細胞死が恒常的に引き起こされ,老化が促進される表現型を示した.DEAR1oxの導入遺伝子DEAR1DREB and EAR motif protein 1)は,DREBドメインとEARモチーフを持つ転写抑制因子をコードしていた.
    野生型のDEAR1遺伝子の発現は,低温応答性遺伝子族のDREB1と同様に低温処理によって誘導された.DEAR1oxでは,野生型と比べてDREB1およびRD29Aなどの低温誘導性遺伝子が抑制され,耐凍性が低下していた.つまり、DEAR1は低温応答のホメオスタシスを保つ役割も担っていると考えられた.また,DEAR1の遺伝子発現は病原体感染時において誘導された.DEAR1oxでは,病原体抵抗性遺伝子の発現上昇,SAの内生量の増大や病原体に対する抵抗性が観察された.これらの結果からDEAR1oxが示す細胞死形質は,病原体に対する抵抗性の獲得を目的とした戦略的細胞死であると考えられた.
    以上の結果から,DEAR1は低温応答と病原体応答の両方に関与することが明らかとなった.すなわち,DEAR1は生物的ストレスおよび非生物的ストレスのシグナル伝達経路においてクロストークの鍵となる抑制型転写制御分子と結論した.
  • Khurshida Hossain, Hideo Yamasaki
    p. 0453
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    Arabidopsis thaliana possesses three types of hemoglobin (Hb) gene. The ΔAtGLB3 is a T-DNA insertion mutant that lacks the functional gene of trHb, a homologue of bacterial truncated Hb. We compared non-photochemical quenching (NPQ) of photosynthesis between the wild type and ΔAtGLB3. There is no phenotypic difference between the wild type and ΔAtGLB3. We have found that NPQ of ΔAtGLB3 is severely inhibited at 35 °C where that of wild type is tolerant. Interestingly, there was no substantial difference in NPQ between the wild type and ΔAtGLB3 at 25 °C. Since NPQ mechanism can be inhibited by thiol reagents through the modification of functional SH groups of a NPQ enzyme, we consider that NO may inhibit NPQ mechanism in ΔAtGLB3 due to the absence of trHb, an NO scavenging protein. The results strongly suggest that trHb is required to protect NPQ from heat stress.
  • Josee Nina Bouchard, Hideo Yamasaki
    p. 0454
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    Coral bleaching is a recognized phenomenon of the biological impacts of global warming on marine ecosystems. Currently, the exact mechanism involved in the heat induced-coral bleaching phenomenon is still unclear. A recent study has suggested an implication of nitric oxide (NO) in the mechanism leading to the expulsion of symbiotic algae from the coral host. Here we show that the dinoflagellate Symbiodinium microadriaticum produces NO when supplemented with either nitrite or L-arginine as a substrate. This production of NO was confirmed by electrochemical and fluorimetric techniques. When S. microadriaticum were exposed to an acute heat stress (from 27 to 41 °C), an increase in NO production was observed along with a decrease in photosynthetic efficiency, thereby suggesting that excessive NO production upon heat stress could be detrimental to the cells. The implications of these findings are discussed in the light of the coral bleaching phenomenon.
  • 小松 晃, 三田 紗千恵, 長谷川 久和, 大武 美樹, 寺川 輝彦, 大島 正弘, 若狭 暁
    p. 0455
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    トリプトファン(Trp)、リジン、メチオニン等の必須アミノ酸を高含有化した飼料イネの開発に当たっては、導入形質の安定的な発現をはじめ社会受容の確保、経済性、安全性等様々な要素を考慮することが必要である。我々は、これまでにTrp生合成系のキー酵素であるイネアントラニル酸合成酵素(AS)αサブユニットのフィードバック制御領域を改変した遺伝子(OASA1D)を開発し、これを高発現させた形質転換イネは、遊離Trpを蓄積することを明らかにしてきた。さらに、直接導入法の一つであるウイスカ法を用いることで、ベクター配列を含まないカセット領域のみが導入された形質転換体作出を行なってきた。
    本研究では、イネ由来遺伝子カセット領域のみを持ち、抗生物質耐性マーカーおよびベクター配列フリーの形質転換体系統を作出するために、緑色組織強発現プロモーターであるイネ由来ルビスコアクチベースプロモーター(pRbcAc) と目的遺伝子OASA1D およびASαサブユニット遺伝子(OASA1) のターミネーター領域(asa1T)からなるpRbcAc::OASA1D-asa1T 発現カセットを構築した。本発現カセットをウイスカ直接導入法によりp35S::HPT-nosT 発現カセットと共にco-transformationして形質転換体を作出し、導入遺伝子のコピー数、後代における遺伝分離によってHPT が排除された選抜マーカーフリー系統の出現頻度及び、Trpとそれ以外のアミノ酸含量への影響等について解析した。
  • 宇治 利樹, 三上 浩司, 福田 覚, 大場 利治, 浅田 起代蔵, 北出 幸広, 遠藤 博寿, 朴 恩貞, 加藤 郁之進, 嵯峨 直恆
    p. 0456
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    大型藻類における発生や環境応答の分子レベルでの研究は、遺伝子導入や遺伝子破壊などのreverse geneticsの手法が確立されていないため、緑色植物に比べて遅れている。その克服のため、本研究では紅藻スサビノリにおける一過的遺伝子発現系の開発を行った。その結果、レポーターとして用いるβ-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子のコード領域のコドンをスサビノリのコドン頻度に合わせるように改変したPyGUS遺伝子を作製し、さらにスサビノリ由来のプロモーターを用いることで再現性のある一過的な発現が見られた。これは、CaMV35Sとグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子のプロモーターをそれぞれPyGUSにつなげた場合、前者ではほとんど発現しなかったのに対して、後者では極めて強い発現が検出されたことによる。次に、RT-PCRで発現量に差があることが確かめられているいくつかの遺伝子のプロモーターをクローン化し、それらの解析を行った。その結果、例えばアクチン(PyACT1)遺伝子のプロモーターでは強い発現が、Na‐ATPase(PyKPA1)遺伝子のプロモーターでは弱い発現が見られ、RT-PCRの結果と一致した。以上のことから、本研究で開発された一過的遺伝子発現系は、スサビノリ遺伝子のプロモーター解析に有効であると考えられた。現在、その有効性をさらに詳しく検討している。
  • 蓮沼 誠久, 原田 和生, 大山 陽子, 宮澤 真一, 福崎 英一郎, 三宅 親弘
    p. 0457
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    植物を利用した有用物質生産を目指す際、遺伝子組換えによる代謝系酵素の機能強化は有効な手段となり得るが、効率的な物質生産を行うためには標的となる酵素の選択が極めて重要である。有用物質の生産速度はその代謝系のフラックスに支配されており、代謝系にはフラックスを律速する酵素が存在する。本研究では、糖リン酸代謝系ならびにカロテノイド代謝系における律速酵素の特定を目指し、13Cエンリッチメントにより代謝ターンオーバーを解析するシステムの構築に取り組んだ。定常の光合成速度を示す生葉に13C炭酸ガスをフィードしてin vivo標識を進め、一定時間後に凍結採取した葉切片から得た抽出液を質量分析装置に供することにより、代謝中間体の13C標識化率を測定した。光強度1,000 μmol m-2 s-1、CO2濃度600 μmol mol-1で光合成させたタバコ生葉から抽出した水溶性画分をCE/MS分析に供したところ、Calvin回路に位置する糖リン酸の標識化率は標識開始10分後に飽和値に達した。グルコース1リン酸(G1P)の標識化率はグルコース6リン酸(G6P)のそれと比べて低いことが明らかとなり、G1PとG6Pの変換反応が糖リン酸代謝系の律速段階となっていることが示唆された。
  • 吉積 毅, 近藤 陽一, 栗山 朋子, 川島 美香, 光田 展隆, 瀧口 裕子, 高木 優, 松井 南
    p. 0458
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    シロイヌナズナやイネ等の植物の遺伝子において、他の動物等に比較し、転写因子(TF)の占める割合が非常に高いことが知られている。このことは、植物において転写を介した制御が重要な役割を担っていることを示唆している。そこで、約2000あると想定されるシロイヌナズナのTFの総合的な機能解析を目指して、予測される全てのTFをGatewayベクターへの導入を行っている。これまでに、約1000種類のTFを収集した。これらのTFは、終止コドンが欠落しておりLR反応を用いた種々の融合を可能にしている。
    我々は、これらをグルココルチコイド受容体と結合させた機能誘導型のTF発現系統を作出している。本変異系統は、ステロイドホルモンであるDEX処理により導入された転写因子の機能が誘導される仕掛けになっている。各TFにつきそれぞれ独立に16系統以上の形質転換植物を作成し、現在までに、620系統(合計620遺伝子、計10,000形質転換体)の作成を終了しており、これらを用いて機能誘導後の変異形質を調べている。表現型観察は、10日および17日の芽生えを用いて観察を行い、胚軸長、子葉、本葉の形態、根の形状等に関わる優性変異形質を確認している。
    本発表では作出中の変異系統についての現状と、機能解析の例を示し、本変異系統の有用性を議論する。
  • 風間 裕介, 斉藤 宏之, 大部 澄江, 林 依子, 市田 裕之, 龍頭 啓充, 福西 暢尚, 松山 知樹, 阿部 知子
    p. 0459
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    ガンマ線やエックス線に比べて高い線エネルギー付与(LET)を有する重イオンビームは、低線量で高い変異率が得られ、遺伝子破壊技術として注目されている。理化学研究所のRIBFで発生する重イオンビームのうち、生物照射の実績があるのは、C、N、Ne、Ar、Feである。これらは、レンジシフターを用いてLETの大きさをコントロールすることができる。本研究では、核種やLETの違いが植物に与える影響を調査し、変異誘発に有効な照射条件を決定するため、モデル植物シロイヌナズナを用いて重イオンビーム照射実験を行った。乾燥種子に対し上記5種の核種を5-400 Gy照射し、発芽率、開花率、M2世代におけるアルビノ出現率を計測した。発芽率は照射による影響を受けなかった。開花率の減少効果はArがもっとも高く、アルビノ出現率はNがもっとも高い値を示した。次に、LETを30-640 keVμm-1にコントロールして様々な核種を照射した。核種に関係なく、同じ大きさのLETでは同程度の変異率が得られた。最も高いアルビノ出現率はLET = 30 keVμm-1で得られた。重イオンビーム照射による変異誘発では、LETが重要な因子であることが示唆された。現在、重イオンビーム照射により生じる遺伝子突然変異を調査中であり、その結果も合わせて報告したい。
  • 垣田 満, 村瀬 浩司, 岩野 恵, 柴 博史, 磯貝 彰, 高山 誠司
    p. 0460
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    アブラナ科植物の自家不和合性における花粉-柱頭間の自他識別機構には、柱頭の細胞膜上に存在する受容体型キナーゼSRK(S-locus receptor kinase)と花粉表層タンパク質SP11(S-locus protein 11)のSハプロタイプ特異的な相互作用を介して行われていることが明らかとされているが、自己花粉の吸水・発芽阻害に至るSRK以降の情報伝達系に関しては依然未解明である。近年、我々は自家和合性変異株の解析から、膜結合型キナーゼMLPK(M-locus protein kinase)を同定したが、その機能については明らかとなっていない。
    今回我々は、MLPKが転写開始点の異なる2つの転写産物(MLPKf1MLPKf2)を産生することを明らかにした。また、両者は異なる転写調節を受けていることを明らかにする一方で、双方ともに乳頭細胞で発現し、不和合情報を伝達する活性を有することを明らかにした。さらに、MLPKf1とMLPKf2はそれぞれ異なる機構で細胞膜に結合していること、この膜局在性が自家不和合情報伝達におけるMLPKの機能に必須であることを示した。さらに、MLPKとSRKが細胞膜上で直接相互作用することを示した。以上の結果は、MLPKはSRKと受容体複合体を形成し、自家受粉の際に、不和合反応に至る情報伝達系を活性化している可能性を示唆している。
  • 清水 健雄, 賀来 華江, 澁谷 直人
    p. 0461
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    キチンは糸状菌の分子パターン(MAMPs)であり、その認識機構は植物の基礎的病害抵抗性を理解する上で極めて重要である。最近、我々はイネからキチンエリシターの受容に関わるレセプター(CEBiP)を単離した1)。しかしCEBiPには細胞内ドメインが存在せず、単独ではシグナルを伝達することが出来ないと考えられた。また、架橋剤等で処理した膜画分を可溶化し、電気泳動、抗CEBiP抗体によるWestern blottingを行ったところ、CEBiPより高分子量側にバンドが検出されたことから、CEBiPが受容体複合体を形成していることが示唆された。一方、我々は最近、シロイヌナズナ突然変異体の解析からキチンエリシターシグナル伝達に不可欠な受容体キナーゼCERK1を同定した2)。そこでイネデータベースからCERK1と高い相同性を持つ Os LysM-RLK9を得、この分子がCEBiPと複合体を形成する可能性を検討した。酵母Two-Hybrid法で、これらの分子の細胞外領域をBaitあるいはPreyとして用いた実験から、これらが直接相互作用することが示された。この結果は OsLysM-RLK9がCEBiPと細胞表面で複合体を形成している可能性を示している。1)Kaku et al., PNAS, 103, 11086 (’06), 2)Miya et al., PNAS, in press.
  • 新屋 友規, 長田 友彦, 出崎 能丈, 畠本 正浩, 賀来 華江, 渋谷 直人
    p. 0462
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    植物には、受容体型キナーゼをはじめとする受容体様分子が数多く存在することが示唆されているが、リガンド-受容体の関係が明らかになっている分子は極めて少ない。そこで本研究では特定のリガンドに対する受容体の解析と同定を行う上で、アイソトープを用いる方法より簡便で、non-RIで使用可能なビオチン化リガンドを用いた解析手法の開発を試みた。リガンドとしてビオチン化キチンオリゴ糖(GN8-Bio)を調製し、イネのキチンエリシター受容体であるCEBiPをモデルとして検討を行った。その結果、イネ原形質画分およびミクロソーム画分とGN8-Bioを混合し、グルタルアルデヒドにて親和性標識し、ウエスタンブロティング後、抗ビオチン抗体によりCEBiPを検出することができた。さらにGN8-BioとDTSSPで架橋したイネ原形質膜画分から、アビジンカラムを用いた親和性クロマトによりCEBiPを単離することができた。以上のことから、ビオチン化リガンドを用いた方法は、親和性標識により特定のリガンドに対する高親和性蛋白を同定、特性解析し、さらに目的蛋白を精製するまでの一連の解析を可能とすることが期待される。本方法を未知の受容体に対して適用する場合、架橋剤により修飾された蛋白から構造情報を得る必要があり、現在その検討を進めている。
  • 高橋 史憲, 溝口 剛, 吉田 理一郎, 市村 和也, 篠崎 一雄
    p. 0463
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    MAP kinase cascadeは真核生物に広く保存されているシグナル伝達系の一つであり、高等植物においては環境ストレスや病原菌に対する適応に重要な役割を果たす事が報告されている。20遺伝子存在するシロイヌナズナのMAPKは、4つのサブグループに分類される。中でもDグループには、8遺伝子が分類され最も大きなサブグループを形成している。DグループタイプのMAPKはMAPKKによるリン酸化部位が、高等植物にしか存在しないTDYモチーフを持つ。本研究ではこの中でも、溝口らにより以前から単離されていたMPK8について解析を行った。まず酵母mpk1 mutantを用いた相補実験より、MPK8がMAPKとして機能することが示された。次にYeast two-hybrid法を用いて、MPK8と結合する因子の探索を行った。その結果得られたクローンはすべてカルモジュリンであった。ドメイン解析の結果から、カルモジュリンはC末端、MPK8はキナーゼ領域を介して結合していることが明らかとなった。カルモジュリンはMPK8に特異的に結合し、活性化することがin vitroの実験系から明らかとなった。更にMPK8を活性化するMAPKKを探索した結果、MKK3が特異的にMPK8を活性化することが示された。MAPKKとカルモジュリンの両方で活性化されるMPK8の制御機構について議論する。
  • 西川 大輔, 後藤 真理子, 来須 孝光, 山中 拓哉, 櫻井 康博, 中川 祐子, 片桐 健, 飯田 和子, 篠崎 一雄, 飯田 秀利, ...
    p. 0464
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    植物が機械刺激を感知し応答する過程でCa2+動員の関与が議論されているが、その分子機構は殆ど未解明である。シロイヌナズナで2種同定された機械刺激受容に関与すると考えられるMCAファミリーは、イネゲノム中にはOsMCA1が単一遺伝子として存在する。本研究では、OsMCA1の過剰発現株及びRNAi法による発現抑制株を作成し、表現型や細胞内Ca2+動態の変化を解析することにより、機能解析を進めた。OsMCA1は、酵母の機械刺激作動性Ca2+チャネル候補Mid1の変異株を部分的に相補した。OsMCA1の発現は、植物体の広範な組織で見られた。通常生育下における植物体を観察したところ、抑制株においては生育遅延、穂軸の短化等の明確な表現型が見られた。OsMCA1発現抑制株にアポエクオリンを発現させた培養細胞株を確立し、種々の刺激に対するCa2+動態の変化を解析したところ、エリシター等により誘導されるCa2+動員には、野生型と有意な差が見られなかったが、低浸透圧刺激により誘導される細胞外からのCa2+流入を含む細胞質への一過性のCa2+動員の抑制が見られた。低浸透圧刺激により誘導される下流の反応に対するOsMCA1の発現抑制の影響や、OsMCA1過剰発現株の解析結果も併せて、OsMCA1のCa2+流入制御や浸透圧応答等のストレス応答における役割について議論する。
  • 金 鍾明, 藤 泰子, 川嶋 真貴子, 諸沢 妙子, 木村 宏, 篠崎 一雄, 関 原明
    p. 0465
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    ヒストンN末端の化学修飾に依存したクロマチン構造の変化は遺伝子の転写制御に関与している. 植物においても, 発生や形態形成などにかかわる遺伝子領域の転写制御にヒストン修飾の変化をともなう事が報告されている. しかしながら, 環境ストレス変化に応答する遺伝子領域において, 遺伝子発現とその領域におけるクロマチン構造変化に関する報告はほとんどない.
    我々は, シロイヌナズナを用いてストレス応答時における遺伝子発現制御とヒストン修飾との関連について解析を行っている. 乾燥ストレス誘導性遺伝子であるDREB2A, RD20, RD29A, RD29B およびRAP2.4のプロモーターおよびコーディング領域上における, いくつかのヒストンメチル化およびアセチル化について, 経時的(無処理、乾燥処理2時間および5時間)な修飾状態の変動の検出を行った. その結果、これら全ての遺伝子のコーディング領域で, 乾燥処理にともなうヒストンH3 K4me3の増加が確認された. 本発表では, ヒストンH3の修飾変化を中心に, ストレス誘導性遺伝子の発現制御とその領域におけるクロマチン状態の変化について議論したい.
  • 金森 紀仁, 藤田 泰成, 梅澤 泰史, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
    p. 0466
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    植物は、乾燥や塩ストレスを感知すると植物ホルモンの一種であるアブシジン酸(ABA)を合成し、ABA誘導性のストレス耐性遺伝子群を発現することで環境ストレスに応答し、生育していると考えられている。ABAにより誘導される多くの遺伝子のプロモーター領域には、ABA応答配列(ABRE)が存在しており、ABAによる遺伝子発現に関するシス因子として機能していることが明らかとなっている。この配列に結合するシロイヌナズナのbZIP型転写因子であるAREB1AREB2およびABF3は乾燥、塩ストレスおよびABAにより誘導される。下流の遺伝子群の制御にはAREBの発現のみでは不十分であり、AREBタンパク質のリン酸化による活性化が必須であることが、ゲル内リン酸化法によるAREBのリン酸化実験およびAREBタンパク質アミノ酸置換の実験により明らかとなった。
    本発表では、ゲル内リン酸化法を用いて乾燥、塩ストレスおよびABA処理によるリン酸化活性、リン酸化活性の経時変化および組織特異性について報告し、AREBの活性化機構およびストレス応答に対する役割について考察する。
  • 松倉 智子, 吉田 拓実, 戸高 大輔, 伊藤 裕介, 圓山 恭之進, 篠崎 一雄, 篠崎 和子
    p. 0467
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    シロイヌナズナのDREBタンパク質は、低温・乾燥・塩などのストレス応答に関与する転写因子である。これらの環境ストレス誘導性遺伝子の多くは、そのプロモーター領域にDRE/CRT配列と呼ばれるシス因子を持ち、DREBはDRE/CRT配列に特異的に結合することでそれらの遺伝子の転写を活性化する。DREB1は主に低温ストレス条件下で働き、DREB2は主に乾燥・高温・塩ストレス条件下で働く。イネにおいてDREB2ホモログは4つ存在し、その中で特にOsDREB2Bは他の単子葉植物におけるDREB2ホモログと似た遺伝子配列を持っている。OsDREB2Bは2種類の転写産物を持ち、その配列から一方のみが活性型タンパク質をコードすると考えられた。OsDREB2Bの転写産物は低温・塩などのストレス条件下で蓄積しており、定量的RT-PCRによる解析から活性型タンパク質をコードするmRNAの蓄積の増加率がもう一方と比べてより大きいことが示された。活性型のOsDREB2Bタンパク質は細胞内で核に局在していた。また培養細胞を用いたトランジェント発現解析の結果から、活性型のOsDREB2Bタンパク質はDRE配列に結合し、高い転写活性化能を示すことが明らかとなった。これらのことからOsDREB2Bタンパク質の活性化にはシロイヌナズナのDREB2Aのようなタンパク質レベルでの修飾は必要ないことが示唆された。現在、形質転換シロイヌナズナやイネを用いてOsDREB2Bの標的遺伝子の解析を行っている。
  • 柴坂 三根夫, 且原 真木
    p. 0468
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    植物組織が機械的ストレスを受けた時、細胞膜を横切る水の移動が生じるだろうか?もし、外界からの力による変形が細胞に生じたとき、細胞膜を横切る水の移動が生じなければ、外界から加えられたエネルギーは細胞の変形による力学的歪みにそのまま保存される。一方、細胞膜を横切る水の移動が生じるならば、外界からのエネルギーの一部は物理化学的な水ポテンシャルに変換されて保存される。この違いは外界からの機械的ストレス応答のメカニズムに根本的な違いを生じる。
    細胞膜を横切る水の移動が生じているとすると、細胞膜に存在するアクアポリンの関与が想定されるので、パンジーなど被子植物の葉や茎を機械的に折り曲げた時に生じるストレスの緩和にアクアポリンの阻害剤である塩化水銀の影響を調べた。同濃度の塩化水銀によって、アポプラストの粘弾性に全く影響がないことは確認されたが、塩化水銀は非常に小さいながらも、折り曲げストレスの緩和を遅らせる効果があるように思われる。このことは、植物体が外界からのストレスの一部を水ポテンシャルに変換して耐えていることを示唆している
  • 小阪 梨奈, 明石 欣也, 吉村 和也, 横田 明穂
    p. 0469
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    カラハリ砂漠に自生する野生種スイカ(Citullus lanatus L.)は、乾燥ストレスに応答して地下の根系を発達させ、水分獲得能力を向上させることが知られている。我々はこれまでに、野生スイカの根のプロテオーム解析により、低分子Gタンパク質であるRan GTPase(CLRan)が乾燥ストレスで発現誘導されることを示した(2006年度本大会)。また、CLRan1遺伝子を過剰発現させたシロイヌナズナでは、主根の生長がコントロールよりも促進されることを見出しており、その制御メカニズムに興味が持たれる。
    Gタンパク質は細胞内シグナル伝達の分子スイッチであり、GTP結合型の活性化状態またはGDP結合型の不活性化状態として存在する。本研究では、CLRan1の19位のGlyをValに置換した活性型遺伝子(G19V)および24位のThrをAsnに置換した不活性型遺伝子(T24N)をシロイヌナズナにおいて過剰発現させ、Ranシグナル伝達が根の生長に及ぼす影響について解析した。形質転換体の根の生長をMS培地上で評価したところ、播種後8日目において、G19V植物はコントロールと比較して主根の生長が促進された。一方、T24N植物は主根の生長抑制が見られた。これらの結果から、Ranがその活性化状態の変化を介して、根の生長制御に深く関与することが示唆された。
  • 深谷 文統, Bhuiyan Nazmul H., 山田 奈々, 日比野 隆, 高倍 昭洋
    p. 0470
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    ベタインは植物が塩・乾燥ストレスに曝されたときに作られる重要な適合溶質である。多くの生物ではベタインはコリンの2段階の酸化により合成される。今回、ベタインを蓄積するアマランサスを用い、ベタイン合成の制御におよぼす前駆体とコリンモノオキシゲナーゼの役割りについて検討した。その結果、コリン、セリン、グリシンを培地に加えると、塩ストレス下でのベタインの蓄積量が増加した。isonicotinic acid hydrazideはベタインの蓄積量の増加を阻害した。塩ストレスに伴い、CMOとベタインは、葉で顕著に増加したが根ではそれほど増加しなかった。アマランサスCMOの発現を抑えると、AmCMO蛋白質およびベタインの蓄積量が減少し、コリン含量が増加した。ジェノミックDNAおよびプロモーターの塩基配列を決定した。その結果、ベタインを蓄積する植物のアマランサスにおいても、塩ストレス下においてコリン前駆体の供給が重要になること、また、CMOのプロモーター配列がベタイン蓄積に重要であることが明らかになった。
  • 吉田 尚之, 坂本 敏夫
    p. 0471
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    陸棲ラン藻 Nostoc commune (イシクラゲ)は地球上の陸地に広く分布し,数珠状に連なった細胞が細胞外多糖類に包まれたコロニーを形成している。N. commune は強い乾燥耐性を持ち,乾燥や塩ストレスによってトレハロースを適合溶質として蓄積することが示されている。本研究では,N. commune に近縁で,すでにゲノム配列が解読されている N. punctiforme を用いて,乾燥過程におけるトレハロースの蓄積とその制御機構の解析を行った。N. punctiforme でも乾燥によりトレハロース量が増加し,5 μ mol/g 乾重量以上のトレハロースを蓄積した。トレハロース代謝系酵素の遺伝子は,ゲノム上に近接している。トレハロース合成酵素遺伝子( treYZ ),分解酵素遺伝子( treH )の転写産物量は乾燥処理 1 時間で増加した。N. punctiforme 粗抽出液中のトレハロース合成活性は 0.5 U/g protein,分解活性は 50 U/g protein であった。トレハロース合成活性は 50 mM NaCl を加えても影響されなかったが,分解活性は約 20% まで活性が減少した。Tris バッファーは合成酵素へ影響を与えなかったが,分解活性は阻害された。以上の結果はトレハロースの蓄積は主に分解活性の調節によって制御されていることを示唆する。
  • 武田 幸太, 東 恭平, 五十嵐 一衛, 魚住 信之
    p. 0472
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    <目的>ポリアミンはほぼすべての生物に普遍的に存在している生理活性アミンであり、細胞増殖や各種ストレス適応に関与している。細胞内のポリアミン濃度は、生合成反応における律速酵素であるオルニチン脱炭酸酵素、アルギニン脱炭酸酵素、及び細胞膜輸送系によって調節されている。ラン藻 Synechocystis sp. PCC6803 は比較的高い塩濃度でも生育し昼間は明るいところで光合成を行うなど、変化の大きな環境で生育していることからポリアミンの関与が考えられる。本研究ではラン藻の環境適応に関するポリアミンの役割の解明を目的として、ポリアミンの生合成酵素、及び浸透圧適応について検討した。
    <結果、考察>高浸透圧条件において、培地にポリアミンを添加するとラン藻の生育阻害が緩和され、さらに短時間の浸透圧ショックで細胞内のポリアミン濃度が上昇した。また、ラン藻にはアルギニン脱炭酸酵素をコードすると予想される遺伝子が二つ(adc1adc2)存在する。これらの候補遺伝子のノックアウトもしくはノックダウンしたラン藻変異株を作成したところ、変異株はポリアミン要求性を示した。さらにこれら変異株のアルギニン脱炭酸酵素活性を測定したところ、野生株に比べ活性が低いことが明らかになった。これらにより、ポリアミンは浸透圧適応に関与し、ADC1とADC2はその生合成に関与していることが示唆された。
  • Masatsugu Toyota, Takuya Furuichi, Hitoshi Tatsumi, Masahiro Sokabe
    p. 0473
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Plants sense gravity and regulate their morphology, known as gravitropism. In the process of gravitropism, changes in the gravity vector (gravistimulation) are transduced into certain intracellular signals. Previous studies showed that gravistimulation induced increases in the cytoplasmic calcium concentration ([Ca2+]c) consisting of an initial peak followed by a second one. However, it is obscure whether the dual peak is evoked by gravistimulation and/or rotation, since gravistimulation is generally accompanied by rotation under 1g condition. We analyzed [Ca2+]c in seedlings of Arabidopsis thaliana expressing aequorin under multiple gravitational acceleration conditions created by parabolic flights. The second [Ca2+]c peak was not induced when the seedlings were turned through 180o under microgravity condition, whereas the initial one was often observed. The second [Ca2+]c peak was strongly dependent on the gravitational acceleration. These results suggest that the second peak is induced by gravistimulation, whereas the initial one is induced by rotation.
  • 永島 咲子, 永島 賢治, 嶋田 敬三
    p. 0474
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    チトクロムc8はチトクロムc2同様、光合成の電子伝達系で働く電子伝達体である。R. gelatinosusの可溶性光合成電子伝達体はこれまで、HiPIP、高電位(+295mV)および低電位(+65mV)のチトクロムc8が知られてきた。本研究ではこれら3種類の電子伝達体を欠損させた組み替え株から、光合成条件でも生育速度が野生型に近くなる復帰突然変異体を得た。変異株の可溶性画分には、約10kDaのヘムタンパク質の大量発現が認められ、精製したところ、α帯の吸収ピークが552nm、+280mV付近に酸化還元中点電位を持つc型チトクロムであった。野生型の膜画分との再構成実験により、このチトクロムによる膜結合型チトクロムの再還元も確認された。N末端アミノ酸配列をもとに該当遺伝子を含むクローンを得、一次配列を決定したところ、このチトクロムは。R. gelatinosusの高電位チトクロムc8に最も高い相同性があり、チトクロムc8のイソ型と推定した。これら二つの高電位チトクロムc8は、周辺遺伝子の配列情報から、亜硝酸還元にも関わることが推察された。しかし。R. gelatinosusには硝酸還元能は知られておらず、亜硝酸還元能についても報告例がない。今後は遺伝子欠損変異株を作成し、光合成と他のエネルギー獲得系を含めた電子伝達系のネットワークでの生理的役割について考察する。
  • 小島 幸治, 大下 将, 久堀 徹, 林 秀則, 西山 佳孝
    p. 0475
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    翻訳の伸長反応は酸化ストレスに対する感受性が高い。我々は、ラン藻Synechocystis sp. PCC 6803のin vitro翻訳系を用いた研究で、翻訳伸長因子EF-Gの酸化が翻訳阻害の要因となることを明らかにしている。本研究では、SynechocystisのEF-G (Slr1463)についてEF-Gの酸化的傷害の分子機構を解析した。過酸化水素の存在下ではEF-Gの機能が阻害され、2つのCys残基が酸化した。この結果から、Cys残基のジスルフィド結合の形成によってEF-Gが不活性化することが示唆された。個々のCys残基をSerに改変したところ、C105S改変タンパク質は過酸化水素による酸化を受けなかった。さらに、この改変EF-Gはあらかじめ過酸化水素で処理しても、翻訳系における機能を維持していた。したがって、Cys105が酸化の標的になっていることが推測された。酸化させたEF-Gにチオレドキシンを加えるとCys残基が還元されたことから、チオレドキシンによるジスルフィド結合の還元が示唆された。以上の結果から、EF-GのCys残基の酸化還元状態が翻訳活性の制御に関与していることが推測される。
  • 西山 佳孝, 武田 祐輔, 井出 有紀, 小島 幸治, 林 秀則
    p. 0476
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    翻訳系は酸化ストレスに対してきわめて感受性が高い。近年、ラン藻Synechocystis sp. PCC 6803のin vitro翻訳系を用いた研究から、翻訳伸長因子elongation factor G (EF-G)の酸化が翻訳活性の酸化的傷害の要因になっていることが明らかになっている。したがって、EF-Gの酸化還元状態が細胞全体の酸化ストレス耐性に影響を与えていることが示唆される。本研究では、EF-Gの酸化と細胞の酸化ストレス耐性との関係を明らかにするため、EF-Gを過剰発現させたラン藻の酸化ストレス耐性を調べた。
    EF-G過剰発現株では、過酸化水素存在下においてタンパク質合成が促進された。この結果から、過剰のEF-Gによってタンパク質合成の酸化的傷害が抑制されていることが示唆される。さらにEF-G過剰発現株では光化学系IIの光阻害が緩和された。この株では、強光下で発生した活性酸素によるタンパク質合成の阻害が抑制され、光化学系IIの修復が活性化されていることが推測される。EF-Gの酸化は特定のシステイン残基のジスルフィド結合によることが判明しており、現在、標的システインをセリンに変えた改変EF-Gを発現するラン藻を作製している。この結果と合わせ、翻訳系の酸化ストレス感受性の生理学的意義について議論する。
  • 清野 友里絵, 村松 昌幸, 日原 由香子
    p. 0477
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803において、光化学系I(系I)遺伝子群の転写は弱光下で活性化され、強光下で抑制される。系I遺伝子はゲノム上に分散して存在するにも関わらず、その応答は統一的かつ鋭敏である。これまでに我々は系I遺伝子群のプロモーター解析を行い、いずれの遺伝子においてもコア領域の直上流に位置するATリッチ配列が、弱光下での正の調節に関与していること、強光下で一過的に不活化されることにより、強光応答が達成されることを明らかにした。この強光応答領域には、OmpR型レスポンスレギュレーターRpaB (Rre26、Ycf27)の認識配列が正向きまたは逆向きに存在している。そこで、RpaBをHis-tag融合タンパク質として発現・精製し、ゲルシフト解析を行ったところ、His-RpaBが系I遺伝子プロモーターに特異的に結合することが示された。rpaBのコピー数を減らすと、系Iプロモーター活性が大きく減少することから、RpaBは弱光下で系Iプロモーターに結合し、正の調節を行っていると考えられる。さらに他細菌のUPエレメントとの相同性から、強光応答領域に、RNAポリメラーゼのαサブユニットC末端領域が相互作用する可能性も考えられるため、現在αサブユニットにアミノ酸置換を導入し、系I遺伝子発現への影響を調べている。
  • 石井 愛, 日原 由香子
    p. 0478
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    多くのシアノバクテリアには、C末端側にDNA結合モチーフを持つ推定AbrB型転写制御因子をコードする遺伝子が2コピーずつ高度に保存されている。これらのうちSynechocystis sp. PCC 6803のsll0359とsll0822について破壊株を作製したところ、どちらの破壊株でも生育速度と光合成色素量の低下が観察された。通常培養条件でDNAマイクロアレイ解析を行ったところ、sll0822破壊株では窒素取り込み関連遺伝子、光合成関連遺伝子等の発現量が野生株より減少していた。培地の窒素条件を変えた時のこれらの発現量をノーザン解析で調べると、窒素欠乏条件下の野生株で見られるnrtAurtAの誘導がsll0822破壊株では起こらないことが分かった。Synechocystis sp. PCC 6803の細胞内で、His-tag融合Sll0822タンパク質を過剰発現・精製すると、Sll0359タンパク質が共精製されることをアミノ酸シーケンスで確認した。同様にしてSll0359タンパク質を精製すると、Sll0822タンパク質が共精製されることをHis-Sll0822抗体によるウェスタン解析で確認した。これらの結果から細胞内でのSll0822とSll0359の相互作用が強く示唆される。現在ウェスタン解析により、窒素条件を変化させた場合のこれらのタンパク質の動態を調べている。
  • 高橋 秀行, 内宮 博文, 日原 由香子
    p. 0479
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    シアノバクテリアはオルガネラを持たないため、糖の同化・異化反応が細胞質内で共存している。これらの代謝反応が、異なる栄養条件下でどのように制御されているのかを知るため、光独立栄養条件下またはグルコースを添加した光混合栄養条件下におけるSynechocystis sp. PCC 6803の細胞内代謝産物量を、Capillary electrophoresis mass spectrometry (CE/MS)により検出した。光混合栄養条件下の野性株では、酸化的ペントースリン酸回路および解糖系の活性化、カルビン回路の抑制が示唆されたが、光混合栄養条件下で致死となるpmgA破壊株では、CO2固定活性の抑制が不十分であると考えられた。この変異株では、光混合栄養条件下での増殖遅延に先立ち、1) ATP、NADPH量が低下する、2) 酸化的ペントースリン酸回路、呼吸鎖の活性化が十分に行われない、3) イソクエン酸が異常蓄積する、等の表現型も観察されたことから、栄養条件の変化に伴い、PmgAが糖の同化・異化反応の調節に重要な役割を果たしていると思われる。
  • 鈴木 英治, 佐藤 倫子, 中村 保典
    p. 0480
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    ある種のシアノバクテリアは、塩ストレス時に適合溶質としてショ糖を細胞内に蓄積する。Synechococcus elongatus PCC 6301/PCC 7942 や Thermosynechococcus elongatus BP-1 においては、ショ糖リン酸合成酵素(SPS)とショ糖 6-脱リン酸化酵素(SPP)遺伝子が融合しており、単一のタンパク質として機能すると考えられる。これに対し Synechocystis PCC 6803 や海産性 Synechococcus/Prochlorococcus の数種では、アミノ酸置換により SPP 領域内の活性に必要な残基が欠落している。
    S. elongatus PCC 7942 株の液体培養に各種化合物を加え、ショ糖合成誘導に対する効果を調べた。通常の培養条件では細胞内へのショ糖蓄積はほとんど認められないが、0.2 M NaCl 添加 24 時間後の細胞内ショ糖濃度は、約 160 mM に達した。NaCl と比較して、NaNO3 は同等の誘導効果を示し、KCl、KNO3 の順で効果は低下した。一方 0.2 M ソルビトール存在下、ショ糖合成はほとんど認められなかった。
    S. elongatus PCC 7942 株の SPS-SPP 構造遺伝子内に、カナマイシン耐性遺伝子を挿入した遺伝子欠損株では、塩ストレス条件下でもショ糖は全く検出されなかった。0.3 M NaCl 添加条件で、野生株の生育は非添加条件に比べわずかに遅れる程度であったが、SPS-SPP 欠損株の生育は著しく阻害された。貯蔵多糖グリコーゲンの消長と併せ、塩ストレス下での炭水化物代謝について考察する。
  • Sakthivel Kollimalai, 渡邉 達郎, 仲本 準
    p. 0481
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    低分子量熱ショックタンパク質(sHsp)は、モノマーのサイズが12から43kDaの比較的小さなHspで、alpha-crystallinドメインを有する。すべての生物界に存在する主要Hspの一つである。酸化ストレス下におけるsHspの役割を解明するために、メチルビオローゲンあるいは過酸化水素存在下におけるsHspの構成的発現株あるいはsHsp遺伝子破壊株の表現型を解析した。その結果、sHspがフィコビリソームを構成するフィコシアニンや光化学系などの光合成装置を酸化ストレス下で安定化することが明らかになった。
  • 末岡 啓吾, 山崎 映明, 檜山 哲夫, 仲本 準
    p. 0482
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    2-Cys peroxidredoxin (2-Cys Prx)は過酸化水素などの活性酸素種をS-S/-SHの交換反応を介して還元・無毒化する酵素である。この反応には2-Cys Prxに還元力が供給される必要があるが、シアノバクテリアの2-Cys PrxであるBAS1では未だこの還元剤については不明である。本研究において、我々はtll1454遺伝子産物とtll1924遺伝子産物の複合体を、酸化ストレス時に誘導されるNADPH dehydrogenase活性をもつ酵素として好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus elongatusから初めて精製した。相同性検索の結果、tll1454遺伝子産物はシアノバクテリアSynechococcus PCC7942のBAS1、tll1924遺伝子産物は高等植物のNTRCと相同性があることがわかった。NTRCは構造上peroxiredoxin reductaseの特徴を持ったタンパク質である。Hisタグを付加したThermosynechococcus elongatusのBAS1とNTRCを大腸菌から精製しin vitroでの解析を行ったところ、BAS1とNTRCの混合物はNADPHの還元力を使って過酸化水素を還元した。さらにこの反応にはNTRC、BAS1ともに必須であったことから、Thermosynechococcus elongatusにおける活性酸素種の還元・無毒化の過程で、NTRCがBAS1に還元力を供給していることが示唆された。
  • 岸 菜々美, 鳴海 尚一, 渡辺 智, 吉川 博文, 仲本 準
    p. 0483
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Hsp90は酵母やショウジョウバエにおいて生存に必須なタンパク質である。一方、原核生物のHsp90であるHtpGは、大腸菌や枯草菌でその破壊株において明確な表現型が現れないことから、その機能はわかっていなかった。しかし我々がシアノバクテリアSynechococcus sp. PCC 7942のhtpG破壊株を作成し表現型を解析したところ、致死温度処理後の生存率に顕著な差が観察され、シアノバクテリアにおいて原核生物におけるHtpGの必要性が初めて明らかとなった。本研究では、HtpGとDnaKシャペロン系との相互作用を調べるために、酵母ツーハイブリッド法と免疫沈降法による解析を行った。これらの方法で、シアノバクテリアSynechococcus sp. PCC 7942のHtpGとDnaJ2(Hsp40)が相互作用することが明らかになった。Hsp40はHsp70のコシャペロンであり、シアノバクテリアではHsp70のホモログであるDnaKが存在する。真核生物においてHsp90とHsp70が共同して働くことが明らかにされており、原核生物であるシアノバクテリアにおいてもHtpGとDnaKシャペロン系が共同して働くことが期待される。
  • 皆川 俊, 仲本 準
    p. 0484
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Heat Shock Protein 90(Hsp90)は、真正細菌やすべての真核生物に存在し、真核生物のサイトゾルHsp90は、調べられたすべての条件下で細胞の生存に必須のタンパク質である。Hsp90は、主要分子シャペロンHsp70やHsp60と同様にATPase活性を有している。近年大腸菌のHsp90(真正細菌ではHtpGと呼ばれる)の結晶構造が決定され、ATPaseサイクルに依存したダイナミックな構造変化が明らかにされた。しかし、ATP分解に伴う基質タンパク質の構造変化などのシャペロン作用機構については明らかにされていない。大腸菌や枯草菌などのhtpG破壊株では明確な表現型が現れず、HtpGの機能や標的タンパク質は同定されていなかった。しかし、我々はシアノバクテリアSynechococcus sp. PCC 7942株のhtpG破壊株において、HtpGが熱耐性獲得に必須なタンパク質であり、集光性超分子複合体フィコビリソームの構成タンパク質と特異的に相互作用することを明らかにし昨年の年会で報告した。本発表では、HtpGとの相互作用が顕著に見られたフィコビリソームの30 kDaリンカーポリペプチドを基質タンパク質として、HtpGとの相互作用に及ぼすヌクレオチドやその類似物の影響を調べたので結果を報告したい。このリンカーポリペプチドは45oC、20分の熱処理で凝集塊を形成するが、HtpGを添加するとその凝集は抑制された。ATP、AMP-PNP存在下では熱凝集は強く抑制されたが、ADP、Radicicol存在下では逆に熱凝集量は増加した。
  • 田部井 陽介, 岡田 克彦, 牧田 伸明, 柁原 弘之, 都筑 幹夫
    p. 0485
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Synechocystis sp. PCC6803 は光独立栄養でも従属栄養でも生育が可能であるが、従属栄養的生育では(炭素源となるグルコース存在下で)1日5分程度の光照射が必要である。これまで、従属栄養条件下における光照射の効果を解析し、解糖系酵素の1つであるfructose-1.6-bisphosphate aldolase 遺伝子fbaA の発現に光照射が必要なことと、その発現調節に sll1330が関与していることを報告した(日本植物生理学会年会2007)。光照射の作用を解析する目的で、従属栄養条件下で間欠光照射下または完全暗所に置いた細胞のタンパク質組成を2次元電気泳動により比較したところ、間欠光照射下で多くの種類のタンパク質が誘導されていた。間欠光照射で合成が促進されたタンパク質をTOF-MSで同定したところ、光合成、呼吸、エネルギー獲得反応、他の細胞内反応に関わるものであった。fbaA遺伝子の産物である Fructose-1,6-bisphosphate aldolase (FBA) も間欠光照射で合成が促進されることが確かめられた。
    sll1330はHTH型のDNA結合部位とリン酸化受容部位のモチーフを持ち、レスポンスレギュレーターをコードすると推定されるORFで、この遺伝子の破壊株では間欠光照射下でもFBAのタンパク量が低下していた。これらのことから、sll1330を介したFBAの調節が間欠光照射下の従属栄養的生育に重要な役割を果たしていると推定された。
  • 増川 一, 井上 和仁, 櫻井 英博
    p. 0486
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    シアノバクテリアのニトロゲナーゼ系、光合成系を利用して、水素を大量生産することを目的に、ヒドロゲナーゼ、ニトロゲナーゼ関連遺伝子を破壊した幾つかの改良株を作成した。Nostoc sp. PCC7120株は、取り込み型(Hup)及び双方向性(Hox)の2種類のヒドロゲナーゼを持つが、ΔhupL 、ΔhupLhoxH株で、水素生産活性が野性株に比べて顕著に改善された。野生株のニトロゲナーゼ活性が高い Nostoc sp. PCC7422株のΔhupL株は、水素生産性が高く、Ar気相下で、4-7日間に、水素を約30%に蓄積し、弱光下での光エネルギー変換効率は、3.7%(対可視光)であった。これらの株を窒素を含まない培地に移すと、1-2日後にニトロゲナーゼ活性と水素生産活性が上昇するが、空気中では、高活性時期が10時間程度しか持続しない。気相がArのみの場合は、水素生産生産性の高い時間がより長く続くが、数日後には低下する。低濃度のCO2, N2添加は、水素生産性の持続性維持に有効であった。ニトロゲナーゼの触媒金属クラスター(FeMoS)は、ホモクエン酸が配位している。PCC7120 ΔhupL株から、ホモクエン酸合成酵素遺伝子( nifV1nifV2)の一方、または両方を破壊した変異株を作製した。nifV1破壊株では、水素生産の持続性が向上した。
  • 河野 祐介, 早乙女 敏行, 新谷 哲真, 落合 有里子, 片山 光徳, 池内 昌彦
    p. 0487
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、Thermosynechococcus vulcanus RKNにおいて低温・光培養時の光阻害の回避のため菌体の凝集が起きること(平野ら、植物生理学会1997)、この凝集がセルラーゼ処理によって解消することを報告している(早乙女ら、セルロース学会 2005)。しかし、菌体を高濃度のセルラーゼで長時間処理しても完全消化できず、セルロースの蓄積を検証できていなかった。
    今回、菌体の前処理法を詳しく検討し、エタノール中で超音波処理することが有効であることを見いだした。この前処理によって、短時間のセルラーゼ処理でセルロースを完全消化できるようになった。また、セロビアーゼによっても完全消化された。この方法を用いて低温・光培養におけるセルロースの蓄積を定量した。細胞凝集は従来通り24 h頃から始まり72 h後にほぼ完了したが、セルロースは6 h後に既に蓄積が認められ、72 hまで増加し続けた。一方、対照の45 ℃ではセルロースはほとんど蓄積されなかった。これらの結果はセルロースの蓄積が細胞凝集の原因であることを示唆している。一方、T. vulcanusに近縁なT. elongatus BP-1では低温・光培養時に細胞凝集は生じなかったが、T. vulcanus同様のセルロースの蓄積が確認された。これは、セルロース以外にも細胞凝集に関わる要因があることを示唆しており、今後の検討が必要である。
  • 石川 亮, 永口 貢, 池田 陽子, 倉田 のり, 木下 哲
    p. 0488
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    栽培イネと野生イネを交雑すると雑種が得られないことがあり、胚乳の崩壊が原因のひとつであると報告されている。胚乳は胚に栄養分を供与する組織であることから、その形成異常は自然界において生殖隔離を引き起こすと考えられる。イネを始め、多くの植物で古くから知られている交雑による胚乳形成異常には一般性が見られ、父親ゲノムと母親ゲノムの拮抗関係を担うゲノムインプリンティングがかかわっていることが示唆されている。
    ゲノムインプリンティングは、二つの対立遺伝子が父親・母親のどちらから遺伝したかによって、遺伝子発現のオン・オフを決定される機構である。父由来・母由来のゲノムは、このような仕組みが原因で両者に機能的な違いが生じると考えられている。最近のシロイヌナズナを用いた研究から、ゲノムインプリンティングの分子基盤が明らかになってきており、胚乳におけるゲノムインプリンティングの制御に分子レベルでのアプローチが可能になりつつある。
    本研究では栽培イネ(Oryza sativa )と野生イネ(O. punctataO. australiensisなど)を用いて、それらの交雑後の胚乳について樹脂切片を作成し胚乳発生異常のステージを明らかにした。またイネにおけるインプリント遺伝子の発現解析を行うことにより、胚乳発生異常とゲノムインプリンティングの関連性について報告したい。
  • 小西 左江子, 高橋 宏和, 中園 幹生, 佐藤 豊, 矢野 昌裕, 井澤 毅
    p. 0489
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    イネ脱粒性遺伝子qSH1は、BELタイプのホメオボックス遺伝子をコードし、シロイヌナズナのREPLUMLESS(RPL) 遺伝子と高い相同性を示し、種子の基部の離層形成に必須である。シロイヌナズナの解析より、BELタイプとKNOXタイプのホメオボックス遺伝子がヘテロダイマーを形成し、下流の遺伝子を転写調節することが知られている。分子進化系統解析から、RPLと相互作用するKNOXタイプのホメオボックスであるシロイヌナズナBP遺伝子のイネオーソログはOSH15遺伝子であると考えられた。そこで、OSH15の突然変異体であるd6矮性突然変異体とqSH1の準同質遺伝子系統を交配し後代での脱粒性を調べた。その結果、OSH15遺伝子も脱粒性に影響することが示唆された。さらに、OSH15の相補性試験を行い、矮性と脱粒性に相関が見られたことから、OSH15遺伝子はイネの脱粒性遺伝子のひとつであると結論した。上記の交配後代系統を用いた脱粒性と離層形成の解析から、OSH15遺伝子は離層形成ではなく、主に離層の崩壊過程で機能することを示唆する結果を得た。また、組織学的解析からイネの離層では特異的にリグニンが蓄積しないことを見出したので、現在、Lasar microdisection法で切り出したサンプルから調整したmRNAを用いたマイクロアレイ解析によりイネ離層形成に働く遺伝子の同定を進めている。
  • 宮崎 さおり, 村田 隆, 住川 直美, 長谷部 光泰
    p. 0490
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    我々は遺伝子発現プロファイルの比較により花粉と花粉管に発現する45個のレセプター様キナーゼ遺伝子(RLK)を同定した。機能解析の為にT-DNA挿入遺伝子破壊株を入手し表現形を調べたが、1遺伝子破壊株ではin vivoで顕著な表現形が認められなかったため、18遺伝子について姉妹遺伝子間で2重遺伝子破壊株を作成し解析を進めた。1組のRLK破壊株において、植物体の形や大きさは正常であるにも関わらず、ほとんど種子をつけない植物体を見いだした。相互交雑により機能欠損は雄側にあることを確認した。培地上で、花粉は発芽を始めるものの花粉管の先端が破裂し伸長が阻害される事が分った。また、雌蕊内では、花粉管伸長はパピラ細胞から花柱にかけて止まり、ほとんどが心皮内部まで達せず受精を完了できない事が示された。RLK-YFP融合タンパク質を形質転換すると、偏った分離比や種子の減少、花粉管伸長阻害の表現形が相補されることから、姉妹遺伝子である2つのRLKがその原因遺伝子であると特定した。RLKによって制御される花粉管伸長が受精において果たす役割について考察する。
  • 浜村 有希, 齊藤 知恵子, 金岡 雅浩, 佐々木 成江, 中野 明彦, 東山 哲也
    p. 0491
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    花粉管内にある2つの精細胞のうち一方が卵細胞、もう一方が中央細胞とそれぞれ受精する重複受精は、被子植物に繁栄をもたらした重要な生殖機構である。しかし、受精の舞台となる胚のうは、胚珠組織に覆われていて直接観察することが困難なため、受精の瞬間が捉えられたことはなく、どのようにして2つの精細胞が確実に受精相手の細胞と受精していくのかは明らかでなかった。
    我々は、高感度2色4次元共焦点顕微鏡システムの構築を進めるとともに、シロイヌナズナを用いて重複受精のライブイメージングを可能とする蛍光タンパク質マーカーの開発を進めてきた。その結果、精細胞特異的ヒストンであるH3.3を用いることで精細胞を可視化し、受精相手となる卵細胞、中央細胞を中心とした雌性配偶体の可視化も同時に行うことで、重複受精のライブイメージングに成功した。これにより、花粉管内容物の放出に伴って、精細胞は1分以内に受精の起こる領域に運ばれ、胚のう内を動き回ることなく、中央細胞側が先に受精していくことが明らかになった。最新の映像を紹介し、重複受精機構について考察したい。
  • 澤 真理子, ケイ スティーブ, 今泉 貴登
    p. 0492
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    植物が、栄養成長から生殖成長へと成長段階を変換する最適な時期を選別することは、子孫存続に関わる重要な現象である。シロイヌナズナは体内時計を基に日長の変化を感知し花成時期を決定している。この光周性花成は外的符合モデルにより説明される、体内時計によるCONSTANS(CO) 遺伝子の発現制御と、CO蛋白質の光による安定性及び活性の制御が鍵とされている。今回我々は、CO発現制御においてFLAVIN-BINDING, KELCH REPEAT, F-BOX 1(FKF1) とGIGANTEA(GI)による複合体形成が重要である事を明らかにした。FKF1-GI複合体形成は青色光により促進され、CO遺伝子の発現を抑制するCYCLING DOF FACTOR 1(CDF1)の分解を担う。FKF1及びGIの発現はそれぞれ体内時計の制御下にあり、花成を誘導する長日条件下では同じ時期に発現ピークを迎え、非誘導条件である短日条件下では異なる時間にピークを迎える。このことで長日条件下ではFKF1-GI複合体の形成が明期に十分に起こり、一方短日条件下では複合体の形成が短時間に抑えられる。よって光周性花成の要となるCO発現制御において、FKF1-GI複合体形成におけるFKF1の発現と光という外的符合と、FKF1GIの発現時期における内的符合という二層の分子機構が重要であると考えられる。
  • 高田 直樹, 上村 松生
    p. 0493
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    被子植物における概日時計分子機構は、モデル双子葉植物シロイヌナズナを用いて盛んに行われ、その結果、シロイヌナズナ時計関連因子群の機能解明が著しく進展している。また、システムバイオロジーの観点から、高等植物の概日時計分子機構はMyb型転写因子LHY /CCA1、及び擬似レスポンスレギュレターファミリーPRRsにより構成される3フィードバックループモデルが提唱されている。一方、被子植物において概日時計関連因子群がどのような進化過程を経てきたのかについては未だ明らかになっていない。そこで、被子植物のモデルとして全ゲノム解析が完了したシロイヌナズナ、イネ、ポプラの3種を用いて、概日時計関連因子群の分子系統学解析をイントロン・エクソン構造比較、分子系統樹、染色体シンテニー比較を用いて行った。これらの比較ゲノム解析の結果、概日時計関連因子群には全ゲノム重複による遺伝子重複、及び全ゲノム重複後の重複遺伝子の欠失が頻繁に生じていることを見出した。また、概日時計関連因子群は単子葉植物と双子葉植物が分岐する以前にすでに多様化していたことが示唆された。
  • 伊藤 浩史, 陸田 径典, 村山 依子, 杉田 千恵子, 杉田 護, 近藤 孝男, 岩崎 秀雄
    p. 0494
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    シアノバクテリアSynechococcusはゲノムワイドな遺伝子発現の約24時間周期のリズムがあると報告されている。Synechosystisでは9%の遺伝子が概日振動しているとの報告がある(Kucho et al. 2005)が、よりはっきりした概日リズムを示すと言われているSynechococcusでの報告はない。
    私たちは高密度DNAマイクロアレイを用いて連続明条件下のゲノムワイドな遺伝子発現プロファイルを検討した。その結果、全ORFの約1/3にあたる遺伝子を概日時計に制御される遺伝子として同定した。またそれらの発現のピークをとる時間を調べてみると、2クラス(夕方遺伝子、明け方遺伝子)に分けられることがわかった。さらに、時計遺伝子kaiABC欠失株においては、概日振動は全ORFにわたって全て消失し、先日報告されたKaiCのリン酸化リズムがゲノムワイドな概日発現を制御するというモデル(Tomita et al. 2005)を改めて支持する結果となった。さらに、私たちはkaiC過剰発現株においても同様にマイクロアレイを用いて遺伝子発現を調べたところ、2クラスの振動遺伝子群はそれぞれ異なる振る舞いを示し、全体としては連続明条件下での主観的朝に相当する時間で時計が止まっているようなパターンを示した。以上の結果を踏まえて、概日発現する遺伝子群が織りなすネットワークについて議論したい。
  • 高瀬 将映, 溝口 剛, 塚谷 裕一
    p. 0495
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの概日リズムは、中心振動体を構成するLHY/CCA1とTOC1が相互に転写を制御することで生じている。さらに近年、TOC1と同じ遺伝子ファミリに属するPRR5,PRR7およびPRR9が中心振動体の構成要素であることが報告されている。このPRR5,7,9の三重欠損体の場合、胚軸は赤色および青色、近赤外光に対する感受性を失い、徒長するが(Nakamichi et al, 2005)、葉は光に応答し、恒明条件下では弱い矮小性を、明暗条件下では、葉柄の徒長および葉身の伸長抑制という、避陰応答に類似した表現型を示す(Niimura et al.,投稿中)。そこで、このprr5/7/9について、避陰応答のマーカー遺伝子AtHB-2およびPIL1の葉での発現を解析したところ、明期では野生株と同様に発現が低かったが、暗期では野生株と比較して著しく高かった。以上の結果から、明暗条件下でのprr5/7/9の葉の展開抑制および葉柄の徒長は、暗期では抑制されるべき避陰応答が抑制されなかったためと推測された。また、胚軸の徒長は明暗条件の影響を受けなかったことから、葉には胚軸とは異なる独自の避陰応答制御機構が存在し、それがPRR5,7,9によって制御されていることが示唆された。本発表では以上に加え、避陰応答の制御に関わる遺伝子の発現解析の結果を交えて、葉独自の避陰応答制御機構について考察する。
  • 中道 範人, 伊藤 昭悟, 山篠 貴史, 小山 時隆, 近藤 孝男, 水野 猛
    p. 0496
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    PSEUDO RESPONSE REGULATOR 9(PRR9)、PRR7PRR5は概日リズムを生み出す生物時計の一部として冗長的に機能する。PRR9、PRR7、PRR5はCIRCADIAN CLOCK ASSOCIATED 1 (CCA1)とLATE ELONGATED HYPOCOTYL (LHY)のmRNAの発現を抑える役割をしているが、PRRの分子機能は理解されていない。
    そこで我々は二波長ルシフェラーゼ測定法を用いて、生細胞のプロモーターの比活性を測定する系を構築した。PRR9、PRR7、PRR5のCFP融合タンパクを一過的にT87で発現させると、それらは優先的に核内に存在し、CCA1遺伝子のプロモーター活性を抑制することが見いだされた。またDEX-GRシステムにより、PRRタンパクのCCA1プロモーター抑制能は核局在が必須であることが分かった。さらにPRRと強制的な転写誘導ドメインVP16の融合タンパクは、CCA1プロモーターを活性化した。つまりPRRは直接的にDNAに結合できると考えられた。以上の結果より、PRRタンパクは核局在し、CCA1プロモーターを直接的に抑制化する機能をもつ分子であることが示唆された。
  • 丹羽 悠介, 伊藤 照悟, 中道 範人, 溝口 剛, 新沼 協, 山篠 貴史, 水野 猛
    p. 0497
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    植物は一日の周期や季節変動を予期し、各種の高次機能を統御するための時計機構を備えている。現在、シロイヌナズナにおいてはCCA1とそのホモログであるLHY、及びPRRファミリー因子の一つであるTOC1の3遺伝子産物が、概日時計機構の中心的因子であると考えられている。これら3遺伝子が形成する正‐負の転写フィードバックループにより、基本的な概日リズムが生み出されると考えられている。こうしたシロイヌナズナの時計基本機構は、光形態形成、光周性花成といった高次機能統御に重要であり、また広く高等植物に普遍的である。このような背景において、最も重要な遺伝的解析の一つと考えられるcca1/lhy/toc1三重欠損変異体の解析はまだ報告されていない。
    今回、我々はcca1/lhy/toc1三重欠損株を含む多重欠損変異株セットを作成した。これらに関して、概日リズム遺伝子発現、光周性花成、胚軸伸長といった時計関連表現型の広範な比較解析を行った。そこで得られた結果と、これまでに蓄積されている知見から、時計機構、CO-FTを介した花成制御、光シグナルに応答した胚軸伸長制御の各経路を統一的に理解するための遺伝学モデルを提唱する。
  • 小田 篤, Wenkel Stephan, Konijn Hugo, 吉田 理一郎, 花野 滋, Davis Seth, 溝口 剛, Cou ...
    p. 0498
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    24時間周期の生物の内生リズム(概日リズム/Circadian rhythm)は生物界全般に存在する普遍的な制御システムである。植物は概日リズムを使って、周期的に変化する日長を計測し、花成や茎の伸長などの様々発生現象を制御している。シロイヌナズナにおいてGIGANTEA (GI)は概日リズム制御、花成制御、及び、フィトクロムを介した光応答において重要であることが明らかにされているが、その機能については不明な点が多く残されている。我々はzinc-fingerタンパク質であるDrought induced 19 (Di19)がGIとin vitro及びin plantaにおいて物理的相互作用を持つ事を見出した。di19変異は長日、短日条件においてphyA変異体の遅咲き形質を抑圧した。また、赤色光下においてdi19変異は同じファミリーに属するzinc-fingerタンパク質をコードする遺伝子変異と協調して胚軸伸長を促進する形質を示した。さらに、Di19の機能欠損はGIの発現周期に影響を与えた。以上の結果から、概日リズム制御、光応答、花成制御におけるGIとDi19の相互作用の重要性について議論する。
  • 沓名 伸介, 眞鍋 勝司, 有田 恭平, 佐藤 衛, 清水 敏之
    p. 0499
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    ラン藻Synechococcus elongatus PCC 7942の概日リズムのリセットに関わるPexタンパク質は暗期に蓄積してリズムの位相と周期を調節する。Pexは、概日時計遺伝子kaiAのプロモーターに結合し、その発現を抑制する。KaiAはKaiCタンパク質のリン酸化を促進して概日リズムの周期を促進するので、Pexの作用はおそらくKaiCのリン酸化の速度に作用しているのだろう。Pexの精密な立体構造解析によってαへリックスや、2つのβシート間で正に荷電したループがkaiAプロモーターへの結合に必要である。今回私たちは細胞内におけるPexの分子量を解析した。PexはSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動解析で13.1 kDの分子量を示す。ゲル濾過によってタンパク質間の相互作用を保ちながら細胞抽出を分画してウエスタンブロット法でしらべたところ25 kDの分子量を示した。このサイズはPex2量体のサイズとほぼ一致する。また、立体構造からPex2量体に重要であると考えられるアミノ酸(例えば28番目のイソロイシン)をアラニンに置換したPexを発現するSynechococcus株のリズムを生物発光として解析したところ、Pex欠損株と同じ周期のリズムであった。これらの結果から、Pexは2量体として機能していることが示唆される。
  • 李 立新, 嶋田 知生, 高橋 英之, 西村 いくこ
    p. 0500
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    種子貯蔵タンパク質は,小胞体で分子量の大きい前駆体として合成され,タンパク質蓄積型液胞に輸送されて成熟型になる.最近,我々は貯蔵タンパク質の小胞体からの輸送に異常を示すシロイヌナズナmag2変異体について報告した(1).mag2変異体は,貯蔵タンパク質の前駆体を含む新規構造体を多数蓄積する.MAG2依存的な輸送機構を明らかにするために,我々はmycタグ付きMAG2を発現する形質転換体を作出し,pull down実験を行った.その結果,MAG2と複合体を形成する約84kDaのタンパク質を見出し,MAG2-complex component 1 (MACC1) と名付けた.細胞分画により,MACC1は小胞体に局在することが示唆された。MACC1遺伝子のT-DNA挿入変異体は貯蔵タンパク質の前駆体を蓄積し,細胞内には, mag2変異体と同様に,電子密度の高いコアを含む構造体が多数蓄積していた.以上の結果より,MAG2タンパク質はMACC-1タンパク質と複合体を形成し,貯蔵タンパク質の小胞体からの輸送に関与することが示唆された.
    (1) Li et al., Plant Cell 18: 3535-3547 (2006)
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