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田中 由祐, 大西 美輪, 吉田 勝久, 関口 陽子, 中川 強, 深城 英弘, 三村 徹郎
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0501
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
フリー
フィチン酸(イノシトール6リン酸)は、myo-inositol環に存在する6つのヒドロキシル基全てにリン酸基が1つずつ結合した低分子で、植物では種子におけるリン酸貯蔵物質として知られている。最近、シロイヌナズナのオーキシン受容体であるTIR1の結晶解析により、フィチン酸がTIR1の結晶内に存在する事が報告された。しかし、イノシトールリン酸(IPs)の細胞内生合成過程に関しては、なお不明の点が多い。
私達は、植物細胞におけるフィチン酸の生合成を空間的に解明するために、IPs代謝に関わると考えられる酵素5種それぞれにGFPを繋げた融合タンパク質を、シロイヌナズナ培養細胞Deep株に一過的に発現させた。その結果、今回調べた全ての融合タンパク質は、cytosolに局在している事が観察された。この事から、シロイヌナズナの培養細胞においては、IPs代謝は主にcytosolで行われている事が示唆された。一方、フィチン酸は小胞体や液胞に存在している事が報告されている。そこで、Deep培養細胞でのフィチン酸の細胞内局在を決定するために、液胞を単離し、液胞内のフィチン酸濃度とプロトプラスト内のフィチン酸濃度を比較する事を試みた。さらに、今回調べたGFP融合タンパク質が全てcytosolに局在していた事から、それぞれの酵素間の相互作用について検討しているので、それについても報告する。
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金古 堅太郎, 山田 智恵, 柳田 愛, 北嶋 彩, 伊藤 紀美子, 三ツ井 敏明
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0502
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
フリー
我々は、イネヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ(
NPP)遺伝子の機能について研究を進めている。イネにおいては、6つの
NPP遺伝子が存在し、それぞれ染色体3(
NPP3)、8(
NPP1)、9(
NPP6)、12(
NPP2,4,6)に在位している。NPP1,2,6を精製し、それらのタンパク化学的性質を調べた。その結果、NPP1,2,6はすべて70-74kDaのサブユニットからなるホモオリゴマーを形成すること、コンカナバリンAに認識され、そしてEndo-Hによって切断される
N-結合型糖タンパク質であることがわかった。糖タンパク質は一般に小胞体で合成された後、ゴルジ体で糖鎖修飾を受け、液胞や細胞外へ輸送・分泌される。DNA配列から予測されるアミノ酸配列を調べたところ、予想通り
N-グリコシル化部位とともにNPP1,2,6のN末端にはERシグナルペプチドが見出された。しかしながら、各
NPPと
GFP融合遺伝子をイネ細胞に導入し、共焦点レーザー顕微鏡によりその細胞内局在を観察したところ、NPP1-GFP,NPP2-GFP,NPP6-GFPの蛍光はクロロプラストの自家蛍光と一致し、これら3つのアイソザイムがクロロプラストに局在することが示された。異常の結果から、NPPはERゴルジ体系から葉緑体に輸送され、葉緑体における糖代謝に関わるヌクレオチド代謝に関与するものと考えられる。
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北嶋 彩, 唐橋 あゆみ, 高田 頌, 豊岡 公徳, 浅妻 悟, 松岡 健, 中野 明彦, 三ツ井 敏明
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0503
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
フリー
イネα-アミラーゼI-1(
AmyI-1)は、N結合型糖鎖を有する分泌性糖タンパク質である。しかしこれまでの研究から、α-アミラーゼが発芽時の胚乳のデンプン分解だけでなく、緑葉などの生細胞におけるプラスチドのデンプン分解にも関与することが明らかになった。さらに、タマネギ細胞における解析からAmyI-1-GFPのプラスチドターゲティングにER-ゴルジ間輸送が必要であることが示され、分泌系からプラスチドへの輸送経路が存在することが示された。
AmyI-1のプラスチドへの輸送経路の詳細を明らかにするため、タマネギ細胞におけるトランスゴルジマーカー(ST-mRFP)とプラスチドマーカー(WxTP-GFP)の挙動を観察・解析した。蛍光標識されたトランスゴルジはAmyI-1が構成的に発現する状況においてもっぱらプラスチドと共局在することが分かった。さらに、タマネギ細胞系を用いた3次元タイムラプス解析及びイネ細胞の高圧凍結切片の電子顕微鏡観察から、ゴルジ体がプラスチド包膜に物理的に接触し、AmyI-1を積載する小胞がプラスチドに融合・捕集されることが見いだされた。
これらの結果は、AmyI-1のプラスチドターゲティングには新奇な輸送メカニズムが関わっていることを強く示唆している。
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大島 良美, 神垣 あかね, 真野 昌二, 林 誠, 西村 幹夫, 江坂 宗春
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0504
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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多くのペルオキシソームタンパク質は細胞質で合成され、C末端に存在する局在化シグナルPTS1またはN末端側に存在するPTS2がそれぞれの細胞質レセプターPex5p, Pex7pに認識され、ペルオキシソーム膜上のドッキング因子Pex14pに結合することによりペルオキシソームへ輸送される。ペルオキシソームの主要な酵素であるカタラーゼはC末端またはN末端にPTS1, PTS2がみられず、輸送経路は不明である。カボチャカタラーゼCat1を用いた解析により、C末端より11アミノ酸内部に存在するPTS1様の配列QKLが局在化シグナルとして機能していることが示唆されたが、Cat1とPTS1レセプターPex5pとの結合様式は典型的なPTS1とは異なっていた。そこで、シロイヌナズナのRNAiによるPex5p発現抑制株を用いて、mRFP-Cat1融合タンパク質の細胞内局在を観察した。 その結果、Pex5pの発現を抑制するとカタラーゼのペルオキシソームへの輸送は阻害され、Pex5pがカタラーゼの輸送に関与している可能性が示唆された。Pex5pの下流でPTS1およびPTS2輸送に必要とされるタンパク質Pex14p, Pex13p, Pex12p, Pex10pの発現抑制株や変異株を用いた解析によりこれらのタンパク質もカタラーゼの輸送に必要であることが明らかとなった。
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大川 久美子, 中山 克大, 稲葉 丈人
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0505
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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低温ストレスを受けると植物は様々な遺伝子の発現を誘導することが知られており、それらの遺伝子の中には葉緑体タンパク質をコードしているものもある。そのうちの一つであるシロイヌナズナ
COR413IMファミリーは、
COR413IM1および
COR413IM2の二つの遺伝子から構成され、いずれも複数回膜貫通型のタンパク質をコードしている。これまでの研究により、少なくともCor413im1は葉緑体内包膜に局在することが明らかになっている。本研究では、Cor413im1と高いアミノ酸相同性を持つCor413im2の細胞内局在を調べた。その結果、Cor413im2-GFPの蛍光が葉緑体周辺に観察され、かつCor413im2が
in vitroで葉緑体包膜に輸送されることが新たに明らかになった。また、Cor413imのような複数回膜貫通型タンパク質の葉緑体への輸送機構は現在のところほとんどわかっていない。そこで、葉緑体移行シグナル以外の領域が内包膜へのターゲティングに関与しているかどうかを調べるため、Cor413im1の部分欠失コンストラクトをシロイヌナズナに導入し、形質転換体を用いた生化学的解析を行った。現在、それぞれの部分欠失タンパク質の葉緑体内局在性および膜との相互作用を解析しており、それらについて報告する。
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七宮 英晃, 野澤 彰, 戸澤 譲
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0506
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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植物ゲノムにコードされている全遺伝子のうち、約3割は膜輸送装置を構成する膜タンパク質、および膜結合タンパク質をコードする遺伝子と推定されている。これらの膜タンパク質は生化学的解析が極めて困難であり、ごく一部を除いて、その大半は詳細な分子機構が明らかになっていない。そこで我々は、植物の膜タンパク質に関する汎用的な生化学的解析系の確立を目指し、シロイヌナズナのホスホエノールピルビン酸/リン酸トランスロケーター(AtPPT1)をモデルとして、コムギ無細胞翻訳系を用いた膜タンパク質の可溶化合成試験、ならびに合成タンパク質のリポソーム上への再構成条件の検討を行った。種々の界面活性剤、ならびにダイズのリン脂質より調製したリポソームを用いた可溶化合成試験の結果、無細胞系にて翻訳反応を行う際にBrij35とリポソームを添加することが最適であることを見出した。可溶化合成後、別途調製したリポソームとの再構成条件を検討した結果、合成したAtPPT1がリポソームに取り込まれ、高い酵素活性を有する実験系を見出すことに成功した。加えて、イネゲノムに見出された三種のPPTホモログについて、本手法によりその基質特異性を解析し、これらが確かにPPT活性を有することが明らかとなった。以上のことから、本研究にて開発したコムギ無細胞翻訳系を用いた膜タンパク質の解析系は極めて有用な方法であると考えられる。Nozawa et al. PCP, 48, 2007
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作田 千代子, 土門 英司, 高岩 文雄
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0507
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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双子葉植物の11Sグロブリン型種子貯蔵タンパク質ファミリーは、小胞体で前駆体として合成され、貯蔵液胞内でプロセシングを受けて成熟型として蓄積する。このファミリーではバイキュピン型の立体構造が保存され、自己会合して三量体を形成し、その小胞体からの輸送にはアミノ酸配列と立体構造が関与していることが推定されている(Maruyama
et al., 2006)。イネの11Sグロブリン型種子貯蔵タンパク質であるグルテリンは、ダイズグリシニンと約40%のアミノ酸レベルでの相同性を持ち、イネ種子内で発現させたダイズグリシニンは、グルテリンとヘテロ三量体を形成し、ホモあるいはヘテロ三量体でPB-IIに輸送されプロセシングも受けることが知られている。しかし、グルテリンのホモ三量体の形成の有無、自己会合できるのか、あるいはシャペロン等の関与を必要とするのかは明らかになっていなかった。我々は、ショ糖密度勾配遠心法およびBlue-Native PAGEにより未熟種子中(
in vivo)のグルテリンの三量体形成を明らかにした。また、人工合成したグルテリンがホモ三量体を形成すること(
in vitro)も明らかにした。本報告は、単子葉植物であるイネにおいても、双子葉植物と類似あるいは相同な輸送システムが存在する可能性を示唆している。
*Maruyama
et al. (2006)
Plant cell, 18, 1253
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祢宜 淳太郎, 松田 修, 永澤 隆, 大庭 康裕, 高橋 秀行, 川合 真紀, 内宮 博文, 橋本 美海, 射場 厚
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0508
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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植物の葉面温度は、蒸散率により変化するため、気孔の開度の尺度となる。
cdi3(
carbon dioxide insensitive 3)は、CO
2依存的な葉面温度変化を指標に単離され、高CO
2による気孔閉鎖が阻害された変異体である。その原因遺伝子は、孔辺細胞の細胞膜に特異的に発現する有機酸トランスポーター様のタンパク質をコードしていた。気孔におけるCDI3タンパク質の役割を明らかにするため、野生株と
cdi3変異体の孔辺細胞プロトプラスト(GCP)におけるイオン含量を比較した。その結果、
cdi3 GCPでは野生株GCPと比較して、気孔の開閉に関わるアニオンであるリンゴ酸
2-やCl
-などが高蓄積していた。以上の結果より、CDI3タンパク質は、気孔における細胞膜を介したアニオン輸送に重要な役割を果たしていることが示唆された。また、シロイヌナズナには、CDI3と相同性の高い遺伝子が数個存在するが、それぞれの遺伝子が差次的な組織特異性を示し、とりわけCDI3のみが気孔特異的に発現していた。またホモログ遺伝子を
cdi3変異体の気孔において異所的に発現させると、
cdi3変異体に見られた恒常的な気孔開口とイオンの高蓄積が共に機能相補されたことから、CDI3ファミリーの機能は類似しており、気孔以外の他の組織にも共通したアニオン輸送システムが存在する可能性を示唆している。
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神谷 岳洋, 田中 真幸, 前島 正義, 藤原 徹
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0509
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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生物にとってヒ素は毒である。環境中ではヒ酸と亜ヒ酸(As(III))の2つの形態が主に存在する。ヒ素は必須元素ではないが、植物体内へ輸送体を介して取り込まれることが知られている。ヒ酸はリン酸輸送体により取り込まれることが示されているが、As(III)の輸送経路は分かっていない。そこで本研究では、シロイヌナズナのEMS処理種子を用いたスクリーニングにより、As(III)を細胞内に取り込む輸送体を同定することを目的とした。
As(III)輸送体の機能欠損株はAs(III)耐性になることが予想される。そこで、EMS処理M2種子21000粒を15 μM As(III)を含む培地に播種し、根の長さを指標にスクリーニングを行った。その結果、顕著な耐性を示す株を3株得ることができた。スクリーニングと平行して、他の生物でAs(III)を輸送することが示されているアクアグリセロポリンの植物ホモログNIPの遺伝子破壊株についてAs(III)耐性を検討した。その結果、
nip1;1破壊株のみがAs(III)耐性を示した。そこで、スクリーニングで得られた耐性株の
NIP1;1のゲノム配列を読んだところ、3株とも
NIP1;1に塩基置換が見つかった。以上のことから、シロイヌナズナで植物体内へのAs(III)の取り込みに関与している輸送体はNIP1;1であると推測される。
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山地 直樹, 三谷 奈見季, Xu Xiao-Yan, McGrath Steve P., Zhao Fang-Jie, 馬 建鋒
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0510
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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地下水のヒ素汚染は最も深刻な環境汚染問題の1つであり、世界各地で数千万人に及ぶ人々が慢性中毒と発ガンのリスクに曝されている。またこれらの地域では米などの農作物を介して多量のヒ素が摂取され、問題をより深刻にしている。ヒ素は畑土壌中では五価のヒ酸As(V)と三価の亜ヒ酸As(III)の形態をとるが、水田ではほとんどAs(III)として存在している。植物はAs(V)を高親和性リン酸輸送体を介して吸収するが、As(III)の吸収に関わる輸送体は解明されていない。しかし、最近我々が報告したイネのケイ酸輸送体Lsi1、Lsi2は、As(III)の吸収と排出に関わる細菌の輸送体GlpF、ArsBとそれぞれ類似性がみられた。本研究では
lsi1、
2変異株を用いてケイ酸輸送体のヒ素吸収への関与について検証した。
水耕栽培による短期間のAs(III)吸収実験では、
lsi1、
lsi2変異株ともに地上部へのヒ素蓄積量が野生型の半分程度に低下した。またケイ酸の添加によって野生型のヒ素集積量は減少したが、変異体は影響を受けなかった。これらの結果はLsi1、Lsi2がケイ酸だけでなくAs(III)の吸収にも関与していることを示唆している。Lsi1を発現させた酵母とアフリカツメガエル卵母細胞はAs(III)の輸送活性を示したが、As(V)の輸送活性は認められなかった。現在、卵母細胞発現系を用いてLsi2のAs(III)輸送活性の測定を試みている。
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三谷 奈見季, 山地 直樹, 馬 建鋒
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0511
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
フリー
ケイ素はケイ酸の形態で植物に吸収され、様々なストレスを軽減できる有用元素である。これまでに我々はケイ素集積植物であるイネからケイ酸トランスポーター遺伝子
Lsi1、
Lsi2、
Lsi6を単離してきた。今回は同じイネ科のトウモロコシからそれらの相同遺伝子の単離と機能解析を行った。トウモロコシのケイ酸吸収のkineticsはイネと同様飽和型の吸収パターンを示し、導管液のケイ酸濃度は外液より数倍高かった。イネ
Lsi1、
Lsi6、
Lsi2の相同遺伝子
ZmLsi1、
ZmLsi6、
ZmLsi2をそれぞれクローニングしたところ、いずれもアミノ酸レベルで80%以上の高い相同性があった。アフリカツメガエルの卵母細胞を用いてケイ酸輸送活性の測定を行なったところZmLsi1とZmLsi6はケイ酸の内向きの輸送活性を示した。これに対して、ZmLsi2は外向きのケイ酸輸送活性を示した。部位別の発現量を調べると、
ZmLsi1と
ZmLsi2は主に種子根で、
ZmLsi6は主に地上部で発現していた。抗体染色で局在性を調べたところZmLsi1は根の表皮細胞にZmLsi2は内皮細胞に、ZmLsi6は葉鞘と葉身の導管周辺の細胞で発現していた。これらの結果はZmLsi1とZmLsi2が根からのケイ酸吸収に、ZmLsi6は地上部のケイ酸の分配に関与していることを示している。
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千葉 由佳子, 三谷 奈見季, 山地 直樹, 馬 建鋒
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0512
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
フリー
ケイ素は多くの植物において病虫害や乾燥ストレス,重金属ストレス耐性に関わる働きが示されており,その重要性が見直されている.本研究ではオオムギにおけるケイ酸の吸収に注目し、その機構の解明に向けた植物生理学的および分子生物学的解析を進めている。はじめに根によるケイ酸の吸収量およびシンプラストと導管へのケイ酸輸送のキネティクスを調べた.その結果,吸収量及び導管液中のケイ酸濃度は外液中の濃度の増加に伴って増加した.また,いずれの濃度においても導管液中のケイ酸濃度は外液中の濃度より数倍高かった.これらのことはオオムギがイネと同様に能動的な吸収機構を持つことを示唆している.そこで,オオムギにおけるケイ酸トランスポーターの同定を目指して,イネにおける内向型ケイ酸トランスポーターLsi1のオオムギにおけるホモログHvLsi1と外向型ケイ酸トランスポーターLsi2のホモログHvLsi2を単離した.
HvLsi1と
HvLsi2は根で特異的に発現している.また,HvLsi1はアフリカツメガエルの卵母細胞を用いたアッセイ系で内向きのケイ酸輸送活性を示した.抗体による組織染色を行った結果,HvLsi1は根の皮層組織の外周付近の細胞の遠心側に局在する傾向が観察された.現在、HvLsi2の輸送活性及びタンパク質の組織、細胞局在性を調べているので,その結果もあわせて報告する.
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加登 一成, 田中 亮一, 田中 歩, 保坂 秀夫
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0513
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
フリー
プロトポルフィリノーゲンIXオキシダーゼ(Protox)は、ヘムおよびクロロフィルに共通の合成経路の最終段階を触媒する。これまで、真核生物および好気性細菌は
HemY遺伝子にコードされるおよそ55kDaのProtoxを、大腸菌やサルモネラ菌は
HemG遺伝子にコードされるおよそ21kDaのProtoxを持っていることが明らかになっている。しかし、ゲノム配列の解析されたラン藻の多くの種においては
HemYまたは
HemGのホモログは見つかっておらず、
HemY型のProtox阻害剤であるジフェニルエーテル系除草剤に耐性を示す。また、ラン藻Protoxの解明は、光合成色素系の進化の過程を探る上でも重要である。
本研究ではラン藻
Synechocystis sp. PCC 6803のProtox遺伝子を同定することを目的とした。あらかじめシロイヌナズナ由来Protox遺伝子を導入したラン藻形質転換株(AT株)を作成し、AT株に対してトランスポゾンを用いたランダムな遺伝子破壊を行い、Protox阻害剤に対する感受性を指標に選抜した。その結果、Protox阻害剤の存在下で特異的に死滅する変異株が得られ、トランスポゾンタグの入った遺伝子として機能未知のタンパク質をコードする遺伝子を特定した。本発表では、野生株の同遺伝子破壊株の形質についても報告する。
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伊藤 寿, 横野 牧生, 田中 亮一, 田中 歩
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0514
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
フリー
ジビニルクロロフィル還元酵素(DVR)はクロロフィル合成系の酵素の一つであり、Bリングのビニル基をエチル基に還元する。
我々は以前、突然変異体のスクリーニングによりシロイヌナズナの
DVRを同定したが、ゲノムの全塩基配列が報告されているラン藻のうち、5種の
Synechococcusを除く、多くのラン藻には相同な遺伝子が存在しなかった。
そこで、我々はラン藻の
DVRを明らかにするために、ラン藻ゲノム上の全遺伝子を種間で比較し、シロイナズナタイプの
DVRを持たない種に特異的な遺伝子を特定することを試みた。
Synechocystis sp. PCC6803を解析したところ、
slr1923が
DVRの候補として上がった。この遺伝子はメタン菌のF420ヒドロゲナーゼのβサブユニットと相同性があり、シロイヌナズナの
DVRとはまったく相同性がないものであった。
この遺伝子の破壊株を解析したところ、ジビニルクロロフィルを蓄積していた。この結果は、
slr1923が
DVR(またはそのサブユニット)をコードしていることを示している。また、シロイヌナズナに
slr1923と相同な遺伝子が存在することが明らかになった。この遺伝子のシロイヌナズナにおける破壊株の解析結果についてもあわせて報告する。
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兼松 慧, 櫻庭 康仁, 田中 亮一, 田中 歩
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0515
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
フリー
クロロフィリド
aオキシゲナーゼ(CAO)はクロロフィル
aからクロロフィル
bへの変換を触媒する酵素である。クロロフィル
bの量はCAOタンパク質の蓄積量によって制御されている。クロロフィル
bの合成は植物の光化学系のアンテナサイズの制御に重用な役割を果たすと考えられている。CAOはクロロフィル
b蓄積が引き金となり、ClpCPプロテアーゼによって分解されると考えられている。また、CAOの3つのドメイン(それぞれA,B,Cドメインとよぶ)の内、Aドメインが蓄積制御に関る事が明らかになっている。本研究ではCAO蓄積制御機構の全体像の解明を目的としてCAO蓄積制御機構に変異がある突然変異体の単離と解析を行った。AドメインにGFPを融合させたタンパクをシロイヌナズナで強制発現させた株を作成し、その株にEMS処理によって変異を誘導し、共焦点顕微鏡を用いたGFP蛍光観察によって、Aドメインを介した蓄積制御機構に変異がある突然変異体の探索を行った。3万株のスクリーニングの結果73株の変異体の単離に成功した。73株の突然変異体を共焦点顕微鏡による蓄積パターンの解析、クロロフィル
a/
b比等を基準にグループ分けを行った結果73株の突然変異体は11のグループに分けられることが確認できた。今回は各グループの解析から得られた結果を基にCAO蓄積制御機構について議論する。
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小林 康一, 馬場 信輔, Keranen Mikka, Aro Eva-Mari, 太田 啓之, 増田 建
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0516
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
フリー
光合成に必須の色素であるクロロフィルやその前駆体は、光増感酸化作用を持っているため、転写、翻訳、酵素活性の調節といったさまざまな段階で厳密な合成制御を受けている。これまでの研究から、クロロフィル合成に関わる遺伝子は、光や生育条件に応じてその発現が協調的に制御されていることが明らかになっているが、分子レベルでの発現制御メカニズムはまだ良く分かっていない。そこで我々は、クロロフィル合成遺伝子群の協調的な発現制御メカニズムを明らかにするために、根でのクロロフィル合成に注目して研究を行った。通常、根ではほとんどクロロフィル合成は起こらないが、サイトカイニンを処理した根ではその合成が活性化することが分かった。また、サイトカイニンレセプターの変異体では根の緑化が抑制されたことから、サイトカイニンシグナルは根におけるクロロフィル合成に重要であることが分かった。それに対し、オーキシンシグナルを阻害した根でも緑化の促進が見られたことから、オーキシンシグナルは根の緑化に対して抑制的に働くと考えられた。遺伝子アレイ解析の結果、これらのシグナルはクロロフィル合成遺伝子や光合成遺伝子の協調的な発現誘導を行っていることが示された。さらに、
hy5変異体では、これらの条件下においても根の緑化がまったく見られなかったことから、これらのシグナルはHY5を介してクロロフィル合成を活性化していると考えられる。
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増田 真二, 池田 礼, 増田 建, 箸本 春樹, 土屋 徹, 三室 守, 太田 啓之, 高宮 建一郎
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0517
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
フリー
高等植物において光は葉緑体の形成に必須である. 暗所で発芽した被子植物のプラスチド(エチオプラスト)はクロロフィルを持たず,その前駆体であるプロトクロロフィリド(Pchlide)を多量に蓄積している. PchlideのChlideへの変換は光が必要で,その反応はNADPH-Pchlide酸化還元酵素(POR)により触媒される. この反応により光照射下でのみクロロフィルの合成は進行する.エチオプラスト内でPchlideはNADPH,PORから構成されたプロラメラボディーと呼ばれる構造体を形成している. PORにはいくつかのホモログが存在し,その中のPORAとPORBがそれぞれPchlide
b,Pchlide
aを結合し,5:1の割合でプロラメラボディーを構成するLHPPモデルが提唱された(Reinbothe et al. 1999). しかしながら,そもそもプロラメラボディーにPchlide
bが検出されないことやPORCの存在が明らかになったことなどから,LHPPモデルの再検討がなされている.
一昨年の本学会において,原始シアノバクテリア
Gloeobacter violaceusのPORの酵素学的性質は,他のシアノバクテリアのものよりも高等植物のものに近いことを報告した. 今回,
GloeobacterのPORをシロイヌナズナのPORAノックダウン株に導入し,その表現型を調べた. その結果, 1)
GloeobacterのPORは葉緑体内で機能すること, 2) Chl
bを持たないシアノバクテリアのPORもプロラメラボディーを形成しうること,がわかった. この結果は上記LHPPモデルを支持しない.
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村木 則文, 野亦 次郎, 志波 智生, 藤田 祐一, 栗栖 源嗣
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0518
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
フリー
プロトクロロフィリド(Pchlide)還元酵素は、クロロフィル合成の中間体であるPchlideのD環二重結合を立体特異的に還元しクロロフィリドを合成する酵素で、光依存型と光非依存型(暗所作動型)の2種類が知られている。光非依存型のPchlide還元酵素(DPOR)は、ニトロゲナーゼと類似性を示すBchL、BchN、BchBの3つのタンパク質により構成され、BchNとBchBがヘテロ4量体を形成し触媒コンポーネントNB-蛋白質として作動する。今回、我々は光合成細菌
Rhodobacter capsulatus由来DPORのNB-蛋白質を結晶化し、その結晶構造を2.3Å分解能で構造解析した。得られた構造はヘテロ4量体構造をとり、[4Fe-4S]クラスターがBchNとBchBの間に結合していたが、非常に意外なことにBchNの3つのCysの他にBchBのAsp残基がクラスターに配位していることが確認された。また、Pchlide結合型と非結合型の双方を構造解析し、Pchlide結合に伴ってBchBが大きく構造変化することも分かった。主に疎水的な相互作用によってPchlideは結合しており、BchBのC末端へリックス以外には極性アミノ酸からの直接的な相互作用は存在していなかった。発表では、これら原子レベルの構造情報をもとに、DPORの詳細な反応機構とニトロゲナーゼ類似酵素の構造基盤について議論する。
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野亦 次郎, 江端 梢, 村木 則文, 栗栖 源嗣, 藤田 祐一
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0519
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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光非依存型プロトクロロフィリド還元酵素(DPOR)は、ニトロゲナーゼ類似酵素であり、プロトクロロフィリドのD環の炭素間二重結合を還元しクロロフィリドを生成する反応を触媒する。光合成細菌
Rhodobacter capsulatus の DPORは、還元コンポーネントL-蛋白質と触媒コンポーネントNB-蛋白質から構成される。L-蛋白質がニトロゲナーゼのFe蛋白質と共通した[4Fe-4S]クラスターをもつのに対し、NB-蛋白質はニトロゲナーゼのMoFe蛋白質とは異なる金属中心をもつと推定されていた。NB-蛋白質の結晶構造解析の結果、[4Fe-4S]クラスターがBchNとBchBの間に存在することが確認されたが、このクラスターは、BchNの3つのCys(Cys26、Cys51、Cys112)に加えてBchBのAsp36が配位するというユニークな金属中心であった。本研究では、部位特異的変異導入により[4Fe-4S]クラスターに関与する残基についての一連の変異型NB-蛋白質(C26A/S、C51A/S、C112A/S、D36C/A/S、Cys95A/S)を作成した。これらの変異型NB-蛋白質を
R. capsulatus の
bchN または
bchB 欠損株において発現させ、光合成能の回復を検討するとともに、精製した変異型NB-蛋白質の生化学的解析を行った。これらの結果をもとに各残基の役割に関して考察する。光非依存型プロトクロロフィリド還元酵素(DPOR)は、ニトロゲナーゼ類似酵素であり、プロトクロロフィリドのD環の炭素間二重
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山本 治樹, 久留宮 祥平, 大橋 理恵, 藤田 祐一
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0520
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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被子植物を除く酸素発生型光合成生物は、構造的に異なる2つのプロトクロロフィリド還元酵素を有し、その一つである暗所作動型プロトクロロフィリド還元酵素(DPOR)は暗所でのクロロフィル合成能を決定づけている。DPORはニトロゲナーゼに似た酸素感受性酵素で、ChlL、ChlN、ChlBの3つのサブユニットから構成される。しかし、酸素発生を伴う光合成生物において酸素感受性のDPORがどのように機能しているかは不明な点が多い。今回、私たちはラン藻
Leptolyngbya boryana のDPORの触媒コンポーネントであるNB-蛋白質の
E. coli による機能発現を報告する。
L. boryana のゲノムDNA上において
chlN と
chlB は異なる遺伝子座にコードされる。そこで、
chlN と
chlB を連結したオペロン
chlN-chlB が
tet- プロモータにより共発現する大量発現プラスミドを構築した。このプラスミドをもつ
E. coli の可溶性画分よりStrep-tagを融合したChlNをアフィニティ精製するとChlBが共精製された。これは、
Rhodobacter capsulatus のNB-蛋白質と同様にChlNとChlBもNB-蛋白質を形成していることを示している。精製したラン藻NB-蛋白質は、
L. boryana の粗抽出液のDPORの活性を大きく促進した。このことは、ラン藻のNB-蛋白質が
E. coli において活性型として発現したことを示している。
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宮郷 正平, 原田 二朗, 溝口 正, 井上 和仁, 福山 恵一, 民秋 均, 大岡 宏造
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0521
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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緑色硫黄細菌
Chlorobium(
Chl.)
tepidumはバクテリオクロロフィル(BChl)
cF、BChl
aP、およびクロロフィル(Chl)
aPDの3種類の色素をもつ、酸素非発生型光合成生物である。このうちChl
aPDは、光合成反応中心内において一次電子受容体およびアクセサリー色素として機能する。Chl
aPDは酸素発生型光合成生物がもつChl
aPと同様の環構造を有するが、C-17位に結合した側鎖はphytolと還元状態の異なるΔ2,6-phytadienolである。Phytolの前躯体はgeranylgeraniolであり、その二重結合が順番に還元されることが分かっているが、Δ2,6-phytadienolが合成される反応過程は不明である。
Chl. tepidumのゲノム上には、geranylgeraniolの還元に関与すると推測される遺伝子
CT1232と
CT2256が見出されている。本研究ではΔ2,6-phytadienolの生合成経路を明らかにする目的で、これらの遺伝子破壊株を作製した。その結果、
ΔCT1232株の色素組成には変化は見いだせなかったが、
ΔCT2256株はBChl
aGGとChl
aGGが蓄積していることが判明した。本発表では、geranylgeraniolからphytolとΔ2,6-phytadienolが合成される還元過程に関して議論する。
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高市 真一, 眞岡 孝至, 岩井 雅子, 池内 昌彦
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0522
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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好熱性シアノバクテリア
Thermosynechococcus elongatus BP-1のカロテノイドを分離・精製し、同定した。通常のシアノバクテリアに見られるβ-カロテン(51%, mol% of total carotenoids)、β-クリプトキサンチン(trace)、ゼアキサンチン(8%)ばかりでなく、さらに水酸基の結合したカロキサンチン(6%)、ノストキサンチン(14%)も存在し、またシアノバクテリアに特有なミクソール配糖体(5%)、OH-ミクソール配糖体(15%)も存在していた。ミクソール配糖体の糖としてフコースやラムノースなどが知られているが、分析中である。エキネノンやケトミクソールなどケト化カロテノイドもシアノバクテリアに特有であるが、本菌株からは検出できなかった。
カロテノイド生合成遺伝子として
crtEのみ機能確認されている。ゲノム塩基配列が決定しているので、相同性から
crtB, crtP, crtQ, crtRの存在が示唆され、一方、ケト化酵素である
crtO, crtWの存在は確認できなかった。またゼアキサンチンに水酸基を追加してノストキサンチンなどを合成する酵素に相同性のある遺伝子
crtGが存在するので、機能確認をしている。これらを総合してカロテノイド生合成経路を考察する。(Takaichi, Mochimaru (2007) Carotenoids and carotenogenesis in cyanobacteria: unique ketocarotenoids and carotneoid glycosides, Cell. Mol. Life Sci. 64: 2607-2619)
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新家 弘也, 鈴木 石根, 白岩 善博
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0523
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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円石藻
Emiliania huxleyiは、円石と呼ばれる炭酸カルシウムを主成分とする殻を細胞表面に有している海産性単細胞藻類である。この円石藻は、生育の必須元素としてセレン(Se)を要求する。先行研究より
E. huxleyiにおいて6種のセレノプロテインの存在が見出されている。その中の一つであるEhSEP2はprotein disulfide isomeraseと相同性の高い、新規セレノプロテインであることが明らかとなっている。このことは、
E. huxleyiが他にも独特なセレノプロテインを有している可能性を示唆している。そこで、Seの生理機能解明に新たな知見を得ることを目的とし、EhSEP1の解析を試みた。まずEhSEP1を精製し部分アミノ酸配列を得て、全長cDNAのクローニングを行った。ホモロジー検索の結果、EhSEP1の予想アミノ酸配列は、Thioredoxin Reductase (TR)と高い相同性を示した。そこで、
E. huxleyiの粗抽出液を用いてTR活性を測定した結果、ヒトやラットの精製酵素に匹敵する高い活性が得られた。この活性の維持にはSeの供給が必須であったが、Northern blot解析の結果、Seの有無に関わらずEhSEP1のmRNA量は一定であったことから、SeはEhSEP1タンパク質の合成時に供給されることが重要であると考えられた。
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佐藤 真奈美, 岩本 浩二, 鈴木 石根, 白岩 善博
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0524
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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海産微細藻類である円石藻
Emiliania huxleyi は,細胞内で石灰化を行い,ココリス(円石)と呼ばれる構造体を作って細胞表面に保持する。近年,円石形成促進時に発現量が変動する45遺伝子が同定されたが,その多くが機能未知タンパク質をコードしており,また機能が予測された遺伝子についてもどの様に円石形成に関わるのかは不明である.
我々は
E. huxleyi でリン酸欠乏条件または低温条件で石灰化が促進されるという知見を基に,新規合成タンパク質量に占める割合が,2つの石灰化促進条件で特異的に上昇するタンパク質を探索した。その結果,見かけの分子質量が32-kDaのタンパク質を見出し,そのタンパク質のN末端配列を同定した.ESTデータベース検索の結果,推定アミノ酸配列の分子質量が20.4-kDaのタンパク質の配列と一致することが分かった.このタンパク質は一次配列から,FK506-binding protein(FKBP)と高い相同性を有するドメインとEF-handモチーフを持つ,小胞体局在タンパク質と予測された.また,精製タンパク質と推定アミノ酸配列の分子質量が異なることから何らかの翻訳後修飾がある可能性が考えられた.以上のことから,このタンパク質はEF handを介してカルシウムを結合するか,カルシウム濃度依存的に他のタンパク質の活性制御を行い石灰化に関与する可能性が考えられた.
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小山 陽亮, 太田 にじ
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0525
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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Sec 経路は細菌・植物において主要なタンパク質輸送経路の一つとして知られており、必須成分 SecA とトランスロコン SecYE より構成される。植物において、SecA はチラコイド内腔への前駆体タンパク質の輸送に機能している。ほとんどの生物では
secA 遺伝子は一つだけしか存在しないが、原始紅藻
Cyanidioschyzon merolae では核と色素体の両ゲノムに
secA 遺伝子が存在していた。本研究ではこれら2つの
secA 遺伝子の違いを明らかにすることを目的としている。以前の研究で、これら2つの
secA 遺伝子は共に転写されているという結果を得ている。系統解析を行った結果、2つの
secA で系統関係が異なっていた。
さらに、
in vitro でSecA が持つATPase 活性及び輸送活性を測定するためにこれら2つの SecA タンパク質を精製した。現在、
C. merolae の色素体及びチラコイド膜の単離を進行中であり、また Pull-down assay 等で各々の SecA の基質タンパク質を探索している。精製過程において
E. coli 内で両 SecA タンパク質を過剰発現させた際に、
E. coli の生育に対する影響が2つの SecA で大きく異なったことからも、2つの SecA は異なる機能を持つ可能性が示唆される。
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奥畑 理久, 瀧島 健, 土屋 隆英, 神澤 信行
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0526
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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オジギソウにはADPを分解する酵素活性が存在し、その基質特異性は他の植物apyraseとは異なることが報告されている。しかし、ADP分解酵素(ADPase)の生化学的諸特性はこれまで解析されていない。そこで本研究では、オジギソウよりADPaseをカラム操作により精製し、その生化学的性質を解析した。精製されたADPaseは分子量およそ67 kDaで、糖鎖付加によると考えられるマイナーバンドが数本観察された。ペプチドの部分的なアミノ酸配列は他の植物apyraseと類似性を示した。また阻害剤による解析では、triflupromazine(TFP)によるNTP/NDP加水分解活性の阻害様式からオジギソウ ADPaseはecto-apyraseグループに属することが示された。ADPおよびATPに対する基質特異性を解析した結果、ADPaseはADPに対しATPよりも約4分の1と低い
Km値を示し、高い基質特異性を持つことが明らかとなった。この性質は、他の植物apyraseが、ATPとADPに対してほぼ同じ
Km値を示すことと顕著に異なり、オジギソウADPaseが新奇の酵素であると言える。さらにカラムを用い精製を進めた結果、シングルバンドからなるアイソフォームが単離できた。現在、アミノ酸配列の解析およびアイソフォームの生化学的性質を解析し、ADPaseの生理的機能を明らかにしようと考えている。
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奥田 淳, 横森 真理, 土屋 隆英, 神澤 信行
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0527
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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オジギソウは熱や接触刺激に応答し、葉枕を支点として屈曲運動を行う。この運動は植物運動の中でも極めて素早い運動であり、葉枕の運動細胞からカリウムイオンや大量の水が細胞外に放出され、それに伴う急激な膨圧の低下によって引き起こされている。我々の研究より、チロシンフォスファターゼ (PTP) の阻害剤であるPAO及びNa
3VO
4をオジギソウ生体内にインジェクションしたところ、屈曲運動能が低下したことから、運動にはPTPが関与していることが示唆された。オジギソウが属するマメ科植物のPTPは複数コピーをゲノムに持つことが報告されている。そこでオジギソウのcDNAライブラリーよりPTPをコードするクローンを単離し、サザンブロットを行ったところ、複数のアイソフォームが存在することが明らかとなった。オジギソウPTPs (
MpPTP1,
MpPTP2) を大腸菌発現系で発現させ、活性測定を行ったところ、Tyr残基特異的に脱リン酸化能があった。また、RT-PCRの結果、
MpPTP1は根で、
MpPTP2は全ての組織で発現していることが明らかになった。更に、PAOを含む培地でオジギソウを育成すると、根の著しい伸長が観察された。これらの結果から、
MpPTP1は根に特異的に存在しており、根の伸長抑制に関与する事が示唆された。尚、
MpPTP2は葉枕にも存在するため、屈曲運動への関与も考えられる。
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稲葉 靖子, 飛田 耶馬人
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0528
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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ほ乳類の褐色脂肪細胞BATで発現する脱共役タンパク質UCP1は、ミトコンドリア電子伝達鎖を介して形成されたプロトン濃度勾配を積極的に解消して熱の産生を誘導する。発熱植物ザゼンソウでは、2つのUCP(SfUCPA、SfUCPB)をコードするcDNAが単離されていたが、我々の研究によりSfUCPAが主たるUCPタンパク質であることが明らかとなった。そこで本研究では、本植物の熱産生におけるSfUCPAの役割を明らかとするため、SfUCPAの生化学的解析を行った。本植物からミトコンドリアを単離してSfUCPAの局在を調べたところ、ミトコンドリア内膜局在が明らかとなった。サフラニン蛍光を用いたミトコンドリア膜電位変化の測定により、UCP活性の指標である遊離脂肪酸による膜電位の低下が観察された。異なる組織や異なる分化ステージにおけるSfUCPAの発現解析を行ったところ、転写レベルでは全ての組織およびステージで一様に発現していたが、翻訳レベルでは発熱組織および発熱ステージ特異的な発現が見いだされた。さらにSfUCPAはミトコンドリア全タンパク質の約3%を占めており、BATミトコンドリアで発現するUCP1に相当する高いレベルで発現していることが明らかとなった。現在、SfUCPAをリポソームに再構成してプロトン輸送活性についての検討を行っている。
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長崎 菜穂子, 宮野 雅司, 前島 正義
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0529
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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シロイヌナズナの新規カチオン結合タンパク質AtPCaP1 (
Arabidopsis thaliana plasma-membrane associated
cation-binding
protein 1) はNミリストイル化とPI(3,5)P
2との結合によって細胞膜に局在する。アミノ酸225個で構成され,GluとLysの総含量が約35%と多く,類似する既知タンパク質はない。生理的機能は不明である。本研究では生化学的機能解明の一環として,カチオン結合性の解明を目的とした。
大腸菌発現系をもちいてPCaP1を発現させ,これを高収率で,高純度標品として大量精製した。CDスペクトル解析とDSC(示差走査熱量計)による熱力学的解析より,2価のカチオンを特異的に結合して構造変化する性質が判明した。また,イオンの結合とタンパク濃度の上昇により変性温度が低下するというユニークな特徴も明らかになった。蛍光スペクトルとUV吸収スペクトル,分析ゲルろ過CGを用いた解析により,2価カチオンの中でも,Cu
2+特異的に結合して高次構造変化する性質を見出した。興味深いことに,HisもCysも存在しないタンパクでありながら,10 μMという解離定数をもち,1分子あたり8個のCu
2+が結合するという結果が得られた。その他、詳細な結果も合わせて生理学的役割を考察したい。
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加藤 真理子, 長崎 菜穂子, 井出 悠葵, 前島 正義
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0530
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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当研究室でシロイヌナズナより見出されたAtPCaP2は、アミノ酸168個で構成される親水性タンパク質である。そのN末端にはミリストイル化シグナル配列があり、既知分子には見られない特徴的な繰り返し配列(VEExK)を有する機能未知の分子である。酵素機能を示唆するドメインなど,既知機能ドメインに相当する配列は見られない。リアルタイム-PCRによって
AtPCaP2 の発現部位を詳細に解析したところ、根で特異的に発現することが明らかとなった。プロモーター-GUSの発現によるデータも根特異性を明確に支持した。さらにAtPCaP2は病原菌エリシターペプチド、Fe
2+やMn
2+などの重金属、低温、乾燥、高浸透圧あるいはABAやGAなどのホルモンに対して、mRNAレベルが3倍以上に上昇した。細胞内局在を解析する目的でGFPとの融合タンパク質解析を行ったところ、AtPCaP2が細胞膜に局在することが明らかとなった。さらにAtPCaP2のN端を介してミリストイル化されていること、そして特定のホスファチジルイノシトールリン酸を結合することも明らかにした。これらの性質は、AtPCaP2が細胞膜上で多面的なストレス応答に関与する分子であることを示唆しており、関連するAtPCaP1との相違を考慮しつつ分子機能を議論したい。
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永利 友佳理, 野村 智弘, 中村 達夫
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0531
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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塩化メチル合成に関与する遺伝子としてシロイヌナズナより
AtHOL1遺伝子が単離されている.当研究室ではこれまでに,シロイヌナズナにおいて
AtHOL1の相同遺伝子(
AtHOL2,
AtHOL3)を単離し,3個のAtHOL融合タンパク質の生化学的解析および各
AtHOL遺伝子破壊株(
hol1,
hol2,
hol3)を用いた解析を行っている.3個のAtHOL融合タンパク質はハロゲン化物イオンやそれらと性質の類似したチオシアン酸イオン(NCS
-)およびHS
-に対するS-adenosylmethionine (SAM)依存性メチル基転移酵素活性を持ち,いずれの酵素も塩化物イオンに対する活性は低いことを示した.私達はAtHOL1のNCS
-に対する活性が高いことに注目した.各
AtHOL遺伝子破壊株の解析より,組織の破砕処理により生成したNCS
-が
AtHOL1依存的にメチル化されCH
3SCNが合成されることを明らかにした.シロイヌナズナにおけるCH
3SCNの合成において,NCS
-はインドールグルコシレイト由来であることを示唆する知見を得た.また,その合成はシロイヌナズナ細胞内のSAMが律速であることを明らかにした.グルコシノレイトは防御応答に関与する化合物であり,組織の傷害によって活性化されたミロシナーゼとの接触により生理活性をもつ物質に分解される.インドールグルコシノレイトは,病原菌接種やメチルジャスモン酸処理により細胞内で蓄積量が増加されるとの報告もある.
AtHOL1遺伝子の生理学的役割について考察する.
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小川 貴央, 武智 遼, 西村 慶亘, 伊藤 大輔, 石川 和也, 吉村 和也, 重岡 成
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0532
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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Nudix hydrolase (NUDX)は、酸化ヌクレオチド、NAD(H)、CoAなどの細胞毒性物質、レドックス制御物質および種々の代謝産物が含まれるヌクレオシド-2リン酸類縁体 (
nucleoside
diphosphate linked to some other moiety
X)加水分解活性を有するタンパク質ファミリーである。当研究室ではこれまでに、シロイヌナズナの細胞質型NUDX(AtNUDX1~11, 25)の分子特性を明らかにしてきた(
J. Biol. Chem. 2005, 280: 25277-83,
Plant Cell Physiol. 2007, 48: 1438-49)。そこで本研究では、葉緑体型 NUDX (AtNUDX19~24、26、27)の機能解析を試みた。リコンビナントAtNUDX19はNADPH、AtNUDX 23はFAD、AtNUDX26およびAtNUDX27はAp
nAに対して高い加水分解活性を示した。葉緑体において、NADPHやFADは光合成、レドックス制御、光受容などに関与するため、AtNUDX19および23はそれらと密接に関わっている可能性がある。SALKより入手したAtNUDX19 T-DNAラインは同遺伝子の第4イントロンにT-DNAが挿入されており、mRNAの発現量は野生株の約50 %に減少していた。また、AtNUDX23はRNAi法により発現抑制株を作出した。現在、それらの株を用いてNADPHおよびFADの代謝に及ぼす影響について解析を行っている。
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石川 孝博, 西川 仁, 澤 嘉弘, 柴田 均, 薮田 行哲, 丸田 隆典, 重岡 成
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0533
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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光合成真核藻類ユーグレナのアスコルビン酸生合成は、植物のマンノース/ガラクトース経路とは異なり、ウロン酸を代謝中間体とする経路を辿ることが報告されているが、同経路の構成酵素は未解析である。本研究では、ユーグレナのウロン酸経路構成酵素および関連遺伝子を単離し、同経路の解析を試みた。ユーグレナ細胞から、ガラクツロン酸還元酵素(D-GalUAR)およびL-ガラクトノ-1,4-ラクトン(L-GalL)脱水素酵素(L-GalLDH)を精製した。またEST情報よりアルドノラクトナーゼ(ALase)の全長cDNAをクローン化後、大腸菌で組換え体ALaseを発現・精製した。D-GalUARのD-ガラクツロン酸とD-グルクロン酸に対するKm値は、それぞれ 3.79 ± 0.5 mM と 4.67 ± 0.6 mM であり、組換え体ALaseのL-ガラクトン酸とL-グロン酸に対するKm 値は、1.55 ± 0.3 mMと4.55 ± 0.23 mMであった。一方、ミトコンドリアから精製したL-GalLDHは、L-GalLに対して高い親和性(Km=0.21 mM)を示した。ユーグレナ細胞にALaseの二本鎖RNAを導入したところ通常培地では細胞の生育が抑制されたが、L-GalL添加により生育は回復した。以上の結果より、ユーグレナのアスコルビン酸生合成は、ガラクツロン酸経路が主経路であることが明確になった。
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中井 篤, 鷲見 佐和子, 山内 靖雄, 上中 弘典, 田中 淨
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0534
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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アシルアミノ酸遊離酵素(AARE: Acylamino Acid-Releasing Enzyme)は微生物、動物、植物に広く保存されているプロテアーゼである。AAREはN
α-アシル化オリゴペプチドからN
α-アシルアミノ酸を遊離する活性を示す。
In vitroにおいて酸化タンパク質と、糖化タンパク質の分解活性が報告されている。シロイヌナズナ
AAREノックダウン体と過剰発現体を用いて、酸化タンパク質分解機能の解析を試みた。
35SCaMVプロモーターを用いた
AARE過剰発現体と、RNAiによる
AAREノックダウンシロイヌナズナの作出を行った。抗AARE抗体を用いたウェスタンブロットと、アシルアミノ酸遊離活性の測定によって組換え体の確認を行った。野生型と組換え体で酸化ストレス耐性の比較を行った。また、葉における酸化タンパク質の蓄積量についても比較を行った。
酸化ストレス処理により、
AAREノックダウン体が野生型より酸化ストレス感受性であることを確認した。AARE発現量の違いによって酸化タンパク質量の蓄積に差が生じた。
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矢崎 一史, 小原 一朗, 室谷 歩, 福島 伸弘
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0535
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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プレニル基転移酵素は広く生物界に存在するが、プラストキノン生合成やフラボノイド等のプレニル化に関わるものは膜結合性であり、クローニング例も少なく分子レベルでの機能解明はほとんどなされていない。本研究では、p-ヒドロキシ安息香酸(PHB)とゲラニルジリン酸(GPP)を基質とするプレニル基転移酵素LePGT1をモデルとし、酵素機能に重要と考えられるアミノ酸に部位特異的突然変異を導入し、酵母において変異酵素を発現させた。それらの酵素活性と両基質に対する親和性を調べたその結果、分子内に保存される3つの領域のうち、GPPの結合に関与すると予測されていた領域Iのみならず、領域IIIが協調的にプレニル基質の認識に関わっていることが判明した。同様に、本サブファミリーに保存されるが故にPHBの結合部位と考えられていた領域IIIのみでなく、領域IもPHBの結合に重要であることが示された。そこで、これら生化学的データを説明できる分子モデルを作成した。結晶構造が解析されているFPP合成酵素を元に分子モデリングを行った結果、GPPとPHBが隣接し、さらに、活性に必須なアミノ酸のほとんどが基質結合ポケット内側に配向するモデルが得られた。このモデルでは、基質特異性を担うドメインの解析データもよく説明できるものであり、膜結合型プレニル基転移酵素の3次元構造として信頼性の高いものであると考えられた。
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淡路 恵里子, 竹田 恵美
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0536
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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強光下で生育した植物では、弱光下で生育したものより緑葉中のキサントフィルサイクルに関与する色素総量が多いことが知られているが、その色素合成の調節機構については不明な点が多い。近年、多くの光合成関連遺伝子が葉緑体のredox signalによる発現制御を受けていることが報告されている。そこで本研究では、キサントフィルサイクル色素合成に対する光合成電子伝達系のレドックス制御の可能性について検討した。
タバコ光独立栄養培養細胞に、DCMUを10
-7Mとなるよう培地に添加し、対照の細胞と共に強光で48時間培養し、色素分析を行った。その結果、対照の細胞ではクロロフィルあたりのキサントフィルサイクル色素量が約40%増加していたのに対し、DCMU処理した細胞ではほとんど変化がなかった。一方、通常は培養の際にCO
2濃度を富化しているタバコ培養細胞をCO
2富化なしで培養したところ、キサントフィルサイクル色素量の増加が認められた。光合成電子伝達系のレドックス状態をDCMUによって酸化側に傾けることにより、キサントフィルサイクル色素量の増加が抑制されたこと、逆に、CO
2濃度の低下によってレドックス状態を還元側に傾けることにより、色素量の増加が認められたことから、キサントフィルサイクル色素合成への光合成電子伝達系のレドックス状態の変化による制御が示唆された。現在、カロテノイド合成酵素の発現に対する光強度やDCMU,CO
2濃度の影響について検討中である。
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小林 康一, 望月 伸悦, 吉村 奈穂, 本橋 健, 久堀 徹, 増田 建
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0537
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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クロロフィル合成の第一段階であるMg-キラターゼは、CHLI, ChlD, ChlHの3つのサブユニットから構成され、その反応にはCHLIによるATP加水分解が必須である。シロイヌナズナのCHLIには2つのアイソフォームCHLI1、CHLI2が存在する。CHLI1とCHLI2は非常に似た遺伝子発現様式を示すが、これまでCHLI2はMg-キラターゼ複合体において殆ど機能しないと考えられていた。我々は、シロイヌナズナのCHLI1がチオレドキシン(Trx)の標的タンパク質であり、レドックス制御によりそのATPase活性が調節されることを報告した。今回、CHLI2について解析を行った所、CHLI1よりも低いV
max値および高いK
m ATP値を示すATPase活性を有することがわかった。TrxによるCHLI2のレドックス制御を調べたところ、SH基修飾試薬AMSによるバンドシフトが観察され、また、ATPase活性もTrxにより制御された。
CHLI1変異体(
cs)と
CHLI2変異体(CSHL_GT13937)を交配し、
csホモ接合体と同じpale-green表現型を示す株を選抜したところ、F2は
csと同程度のpale-green表現型を示す株からほとんどalbinoに近い株までの3段階に別れ、分離比はおよそ1:2:0.8であった。PCR解析の結果、
csホモ接合体では
CHLI2変異体は半優性であることが示され、CHLI2が植物体でMg-キラターゼ複合体において実際に機能することが示された。
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櫻庭 康仁, 田中 亮一, 田中 歩
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0538
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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クロロフィリド
aオキシゲナーゼ(CAO)はクロロフィル
aをクロロフィル
bに転換する酵素である。クロロフィル
bの量はCAOタンパク質の蓄積によって制御されている。CAOはA、B、Cの3つのドメインからなる。そのうちAドメインがCAOタンパク質蓄積の制御に関わり、さらにその制御はClpプロテアーゼによるCAOの分解によるものであることがわれわれのこれまでの研究で明らかになっている。私たちは、Aドメイン内の分解に関わるアミノ酸配列を同定するために、シロイヌナズナの形質転換体を用いて解析を行った。その結果、Aドメインの内部に存在する10アミノ酸残基が自身の分解に関わっていることが明らかになった。さらにこの配列を直接GFPに融合すると、葉緑体内でのGFPの蓄積を制御することも明らかになった。このことからこの配列は葉緑体内で一般的に働くシグナル配列であることが明らかになった。このような配列は葉緑体内では初めての報告となる。この配列は大腸菌のClpプロテアーゼのシグナル配列の特徴と類似した点が多い。 また、Aドメインの中にあるこの配列はクロロフィル
b依存的に分解配列として機能するが、このシグナル配列のみだとクロロフィル
b非依存的に機能することがシロイナズナの形質転換体を用いた解析で明らかになった。
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堀江 裕紀子, 伊藤 寿, 草場 信, 田中 亮一, 田中 歩
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0539
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
会議録・要旨集
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クロロフィル
b還元酵素はクロロフィル
bを還元して、クロロフィル
aに変換する酵素である。シロイヌナズナには2種類のクロロフィル還元酵素NYC1とNOLが存在する。NYC1,NOLの機能と役割を明らかにするために、それぞれの遺伝子の発現と変異体の表現型を解析した。
NYC1遺伝子変異体は葉の老化の際に、クロロフィル
bの分解が抑制され、staygreenの表現型になるのに対し、
NOL遺伝子変異体ではクロロフィル
bが分解され、staygreenの表現型にはならなかった。また、成長時と老化時のNYC1とNOLの発現パターンが異なる事がわかった。よってシロイヌナズナにおけるNYC1とNOLは個別に働き、役割が異なると考えられる。また、クロロフィル
b還元酵素の活性はLHCIIの分解に必須であると考えられる。そこで、クロロフィル
b還元酵素がLHCIIの分解機構にどのように関わっているかを解明するために、in vitroで大腸菌を用いて発現させたNOLのタンパク質を用い、LHCIIを基質として反応過程のタンパク構造と結合している光合成色素を解析した。この結果、クロロフィル
b還元酵素はLHCIIに結合しているクロロフィル
bの還元が可能な事が明らかになった。
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後藤 武知, 南崎 啓, 藤田 祐一
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0540
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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コプロポルフィリノーゲンIIIオキシダーゼ(CPO)は、ヘムやクロロフィルに共通の生合成系において、コプロポルフィリノーゲンIIIを酸化的脱炭酸によってプロトポルフィリノーゲンIXに変換する酵素である。この反応にはO
2を電子受容体とするHemFとRadical SAMファミリーに属するHemNという構造的に全く異なる2種類の酵素が存在する。ラン藻
Synechocystis sp. PCC 6803のゲノムには
E. coliの
hemFと高い類似性(55%)を示す
sll1185、
E. coliの
hemNと類似性(49%)を示す
sll1876、
Bacillus subtilisの
hemNと類似性(37%)を示す
sll1917が存在する。本研究では、これらの3つの遺伝子にコードされるタンパク質がCPOとして機能し、環境の酸素レベルに応じてどのように機能分化しているかを明らかにするために、各遺伝子の欠損株の形質を検討した。
sll1185欠損株は好気条件で生育できず、コプロポルフィリンIIIを蓄積した。また
sll1876欠損株は嫌気条件で生育遅延が認められ、5-アミノレブリン酸添加によりコプロポルフィリンIIIを蓄積した。一方、
sll1917欠損株は調べた条件では野生株との違いは認められなかった。これらの結果から
Synechocystis sp. PCC 6803は、好気条件ではSll1185、嫌気条件ではSll1876を主なCPOとしていることが示唆された。
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Md. Rafiqul Islam, Yasuhiro Kashino, Kazuhiko Satoh, Hiroyuki Koike
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0541
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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A mutant (
slr1923
M) of
Synechocystis sp. PCC6803 has been created through inactivation of the gene
slr1923 and was characterized. The chlorophyll of the mutant is replaced from 3-vinylchlorophyll (normal Chl) to 3,8-divinyl chlorophyll. We have concluded that Slr1923 is related with chlorophyll metabolism and the mutant failed to carry out the reduction of 8-vinyl group of 3,8-divinyl(proto)chlorophyll(ide). In the present study, characterization of reaction centers of the mutant was carried out. Absorption spectra of both the isolated photosystems showed that Soret band peak position shifted to longer wavelength significantly. Compared with wild type, the mutant PSII showed a relatively higher fluorescence peak of 685 nm band at 77K. P700 difference spectra indicated that Soret peak is red shifted which is the same characteristics of divinyl-Chl
a absorption spectra. These data confirmed that PSI primary electron donor (P700) is also composed of divinyl-Chl
a. Other features will also be reported.
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原田 二朗, 溝口 正, 伊佐治 恵, 大岡 宏造, 民秋 均
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0542
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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近年単離された紅色細菌
Rhodopseudomonas sp. Ritsは、16S rDNAの系統解析において
Rhodopseudomonas palustrisに近縁な種である。そのために、これらの種は共通の性質を多くもつことが分かっている。まずこれらはLH2とLH4の2種類の周辺アンテナ系を持つ。また、BChl
aの中間産物(C-17位上の長鎖エステル基の還元度が異なる)を蓄積することが分かっている。そしてカロテノイド合成においては、スピリロキサンチンの中間産物であるロドピンと3,4-ジデヒドロロドピンを主成分として持つ。我々は、これらの中間産物(BChl
aとカロテノイド)の組成が、光強度によって変化することを見出してきた[1]。今回は、中間産物の組成が培養期間を通して変化しているかを調べるために、Rits株を用いて培養中の色素解析を行った。BChl
aについては、培養期間中の中間産物の組成変化はほとんど見られなかった。一方、カロテノイドにおいては、培養初期の主成分が3,4-ジデヒドロロドピンであったのに対し、後期ではロドピンに入替わっていた。この変化は培養中のLH2とLH4の合成量の変化に関連していると考えられたので、現在、周辺アンテナタンパク質の解析を進めている。
[1] J. Harada et al. (2007) Photosynth Res.
in press.
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山岸 篤史, 小村 理行, 柴田 穣, 伊藤 繁
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0543
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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従来のフェムト秒領域でのアップコンバージョン超高速時間分解測定系では、集光させた励起光を透明試料に照射して反対側に出る蛍光を検出する。このため、可溶化された透明試料以外の測定は困難であり、生体組織の非破壊測定は難しかった。これを可能にするため、反射型の光学配置を可能とするアップコンバージョン測定系を構築した。
この測定系を用いて、地衣類に共生する緑藻からのフェムト秒時間分解蛍光測定を行った。地衣類は乾燥環境でも生存可能であり、乾燥条件下では光阻害を防ぐために過剰な光エネルギーを非効率よく熱へと変換させる高速蛍光消光機構を持つ。50 psの時間分解能のストリークカメラによる蛍光測定から、乾燥地衣類は10 ps 程度の蛍光消光過程を示すことが報告されている。フェムト秒アップコンバージョン蛍光測定装置を用いて測定した結果、最も速い時定数として20 psを得た。これに対応するほかの成分の立ち上がりは観測されなかった。乾燥状態の地衣類では20 ps程度の時定数で大部分の蛍光が消光することが示された。新開発の反射型測定系の使用により生葉など不透明な生体試料の超高速反応をサブピコ秒の時間領域で測定可能となった。
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高橋 拓子, 岡室 彰, 高橋 裕一郎
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0544
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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ステート遷移は光化学系間の励起エネルギーを再分配し、電子伝達反応を効率化する機構である。PSIとPSIIの間に存在するシトクロム
b6f 複合体が還元されるとステート2となり、PSIに集光性クロロフィルタンパク複合体(LHCII)が可逆的に結合すると考えられている。すでにステート2に誘導したクラミドモナスの細胞から、CP26, CP29, LhcbM5の結合したPSI-LHCI/II 超分子複合体が単離されることを報告した。ここではPSI-LHCI/II超分子複合体に結合するLHCIIの量を求めるため、より完全なステート2への誘導条件の再検討を行なった。プラスシアニン欠損株ac208に光照射するとPSIによる酸化反応が起こらないため、
b6f 複合体がほぼ完全に還元されステート2に誘導される。また、濃縮した野生株細胞懸濁液をglucose/glucoseoxidase存在下で完全な嫌気条件下におき、
b6f 複合体を還元しても同様にステート2に誘導された。この状態の細胞から単離したチラコイド膜を可溶化しショ糖密度勾配超遠心で分離するとPSI-LHCI/II画分(A-3')がこれまでより多く得ることができた。とくにこれまでにわずかであったCP26の結合量が増加した。このようにして得られた標品のCP26, CP29, LhcbM5のPSIあたりの結合量について議論する。
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大西 岳人, 高橋 裕一郎
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0545
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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高等植物や緑藻の光化学系I(PSI)は15のサブユニットとコファクターからなる約700kDaの複合体である。高等植物では全サブユニットが結合したPSI標品が単離され、そこにはアンテナ複合体(LHCI)が4-6種存在する。一方、クラミドモナス(
Chlamydomonas reinhardtii)から精製されたPSI標品にはPsaN/O/Pは失われているが、9種のLHCIが存在する。クラミドモナスには psaN, O遺伝子は存在し、psaPのホモログも見出された。本研究ではクラミドモナスのPsaN/O/P抗体をそれぞれ作製し、PSI複合体内での存在部位の解析に用いた。チラコイド膜をドデシルマルトシドで可溶化しショ糖密度勾配超遠心法で分離すると、PsaN/O/Pは結合が弱くPSI複合体から遊離した。またPsaN/OはPSI欠損株で蓄積量が大幅に減少した。さらにチラコイドタンパクを化学架橋するとPsaF/NとPsaL/Oが架橋した。以上の結果から、PsaNとPsaOはチラコイド膜上ではPSI複合体と結合していると結論した。また、ステート2状態のチラコイド膜から単離されるPSI-LHCI/II超分子複合体にPsaNが結合していることが分かった。PsaNのPSI複合体への結合はステート2状態では安定化されると考えられる。PsaPの存在部位に関しては今のところ不明で、今後の課題である。
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久保田 寿子, 桜井 勇, 水澤 直樹, Zhang Pengpeng, Aro Eva-Mari, 和田 元
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0546
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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光化学系I複合体(PSI)は、複数のカラムクロマトグラフィーなどを用いた煩雑な方法によって精製されているが、今回我々は、Hisタグを付加したサブユニットを発現する
Synechocystis sp. PCC6803を用いた簡便なPSIの精製方法を確立したので報告する。
PSIを構成するサブユニットであるPsaFのC末端、PsaJのN末端にHisタグを付加した株(F-His, J-His)を作製した。これらの株は光独立栄養条件下で野生株と同様の速度で増殖した。光合成活性においても両者間には差が見られなかった。それぞれの株から単離したチラコイド膜をドデシルマルトシドで可溶化したのち、Ni
2+アフィニティークロマトグラフィーを用いることにより、PSIを精製した。さらに、得られたPSIについてグリセロール密度勾配遠心を行ったところ、約1:3の割合で、モノマーとトリマーが得られた。Blue-Native PAGEにおいて、トリマーは1つのバンドとして検出されたが、モノマーは、近接する2つのバンド(モノマー1、モノマー2)として検出された。SDS-PAGEにより構成サブユニットを詳しく解析したところ、モノマー1はトリマーとモノマー2と比較してPSIの一部のサブユニットが欠落していた。これらの結果は、PSIのモノマーには二つの異なるアセンブリー状態があることを示唆している。
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鞆 達也, 加藤 祐樹, 鈴木 健裕, 秋本 誠志, 野口 巧, 土屋 徹, 堂前 直, 渡辺 正, 三室 守
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0547
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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Acaryochloris spp.はクロロフィル
d (Chl
d)を主要色素(> 95%)として持つシアノバクテリアである (Miyashita et al. 1996; Murakami et al. 2004, Miller et al. 2005)。基準株である
A. marina MBIC 11017は最近その全ゲノム配列が公開され、光化学系Iに関してはPsaIサブユニットのみが欠損していることが明らかとなった。このサブユニットの欠損が
A. marina MBIC 11017の光化学系Iの構造・機能に与える影響を調べるために、我々は
A. marinaから光化学系Iを高度に純化し、その性質を詳細に解析した。その結果、複数のPsaKサブユニットの存在と
A. marina特有の新規サブユニットを見いだした。Hu らよる光化学系Iの過渡吸収の解析により (Hu et al. 1998)、初期電子供与体はChl
aでなくChl
dであることが報告されたが、我々は、酸化還元差吸収、FTIRによってそのことを確認した。さらに
A. marina の PS I の初期電子供与体の電位は他の生物とほぼ同じであること(加藤ら、本大会)を見いだし、その反応中心と初期電子受容体の機能と配置について種々の定常および時間分解分光法により解析を行なった。その結果についても併せて報告する。
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加藤 祐樹, 鞆 達也, 仲村 亮正, 土屋 徹, 三室 守, 渡辺 正
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0548
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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Acaryochloris marinaは、クロロフィル
d(Chl
d)を主要色素とするシアノバクテリアである。
A. marinaの光化学系(PS)I、IIはこれまでに機能や構成成分の解析が進められ、反応中心でもChl
dが機能していることが明らかにされてきた。PS Iの一次電子供与体もChl
dとされているが、その酸化還元電位はHuらが1998年に+335 mV(
vs. SHE)と報告して以来、他生物のPS I一次電子供与体(P700)に比べ100 mVも卑と認識されてきた。しかし、その後+425 mV(Benjamin
et al. 2007)あるいは+458 mV(Telfer
et al. 2007)という報告がされており、必ずしも統一的な認識だとは言い難くなっているといえる。そこで我々は、これまでに測定してきた他生物のP700酸化還元電位と同一条件で比較することを目的に、高度に純化したPS I標品を対象に分光電気化学的手法を適用し、
A. marina PS I の一次電子供与体の酸化還元電位を計測した。結果、+439 ± 2 mV(n = 6)となり、これまでに調べたシアノバクテリア
Thermosynechococcus elongatus(+423 mV)や
Synechocystis sp. PCC6803(+455 mV)などとは大きく異ならないことを見出した。
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田中 克幸, 高橋 武志, 澤 加奈, 井上 名津子, 小澤 真一郎, 小池 裕幸, 高橋 裕一郎, 菓子野 康浩, 佐藤 和彦
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0549
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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好熱・好酸性原始紅藻
Cyanidioschyzon merolaeは単細胞の真核生物で、初期の真核光合成生物の特徴をよく保存していると考えられている。また、全ゲノム配列がMatsuzakiらにより既に解読され、報告されている。光化学系I(系I)の遺伝子に注目してみると、
cab や
psaOといった真核生物の系I特有の遺伝子が存在する一方、
psaMといった、これまでラン色細菌の系Iにのみ見られた遺伝子も存在する。このように、系Iの遺伝子構成上は、真核生物型とラン色細菌型の両方の性質を併せ持ったキメラ的な特徴を持つことが示唆される。
C. merolaeの系I複合体の特徴を明らかにするため、系I複合体を高度に精製し、生化学的分析を行った。その結果、遺伝子上で発見されているすべての系Iの遺伝子が発現し、系I複合体に保持されていることが確認された。ラン色細菌にはないが、
C. merolae のゲノム上には3種類の光捕集色素タンパク質LHCの遺伝子が見出される。これらの3種類のタンパク質がいずれも結合していることも確認された。この精製した光化学系I複合体は単量体であった。電子受容体A1はラン色細菌や高等植物の光化学系I複合体で見られるフィロキノンではない可能性が高い。このように、実際に精製した系I複合体は真核生物とラン色細菌の両方の性質を併せ持ったキメラ的な特徴を持っていた。
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上滝 千尋, 石坂 壮二, 野地 智康, 梶野 勉, 福嶋 喜章, 関藤 武士, 伊藤 繁
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0550
発行日: 2008年
公開日: 2008/12/18
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シリカメソ多孔体SMMは、内部にナノサイズの六角柱形状の細孔をもつ疎水性の物質である。大きな表面積と内部容積をもつため、タンパク質のような大きな分子の吸着に適していることがわかった。これまでに、好熱性紅色光合成細菌の光合成反応中心複合体(RC)とLH2複合体をそれぞれSMMへ導入した。SMM細孔内へ吸着したRCとLH2はその構造、光化学活性を維持し、熱耐性も向上した(1)。今回は好熱性シアノバクテリア
Thermosynechococcus (T.) elongatusから単離した光化学系I(PS I)反応中心複合体を直径23.5 nmの口径をもつSMMに導入した。シアノバクテリアのPS Iは3量体を形成しており、分子量1068 kDaの大きな膜タンパク質複合体である。PS Iの色素環境に影響を与えるタンパク質の構造と、光化学活性は、SMMへの導入前後でほとんど変化がないことが、蛍光スペクトルとCDスペクトルから示された。また、SMM内に導入することにより、PS Iの光化学活性とタンパク質の色素環境の熱耐性が向上した。SMMへの導入後もPS Iへの電荷移動が行われていることを確認した。PS IとSMMの複合体は光合成システムを安定化し、太陽エネルギーを人工利用する素材として活用できる可能性を秘めている。
Oda
et al.(2005) :J. Phys. Chem. B 110 (3),1114-1120
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