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小林 啓子, 久野 恵三, 川畑 万寿代, 松岡 健, 中村 崇裕
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0351
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
フリー
高等植物のオルガネラは独自のゲノムを持っているが、その遺伝子の発現は核コードの因子によって大きく制御される。オルガネラ遺伝子は、RNAの切断、編集、安定化や翻訳などの様々な転写後段階で制御を受けることが知られている。最近このような制御に、植物のみで大きなファミリーを形成するPentatricopeptide repeat (PPR)蛋白質が主要な役割を担うことが明らかになってきた。通常PPR蛋白質は約10個の連続したPPRモチーフで構成される。PPR蛋白質はそれぞれが異なるRNA分子の切断、編集、安定化、翻訳などに関わるが、PPRモチーフ自身に酵素的な活性は見いだせないことから、その分子実体は配列特異的なRNA認識アダプターだと考えられている。この配列特異的なRNAの認識は、PPR蛋白質を構成する約10個のPPRモチーフの種類と組み合わせに依存すると考えられているが、その機構は全く明らかでない。
我々は標的RNA分子がすでに特定されているいくつかのPPR蛋白質を用い、全長及び部分長蛋白質のRNAとの結合様式を解析した。さらにPPR蛋白質の立体構造予測を基にアミノ酸変異を導入し、RNAとの結合に働くアミノ酸を探索した。その結果、いくつかのアミノ酸がRNA結合に深く寄与していることが示唆された。
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田崎 瑛示, 香村 吉洋, 青木 良晃, 大谷 祥太郎, 永島 はるか, 杉田 護
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0352
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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植物のオルガネラRNAの転写後制御やミトコンドリアの細胞質雄性不捻にpentatricopeptide repeat (PPR)タンパク質が関わっていることが知られている。我々はヒメツリガネゴケに存在する104個のPPRタンパク質のうち、DYWドメインをもつ10種類のPPRタンパク質とNYNドメインをもつ3種のPPRタンパク質それぞれの遺伝子破壊変異株を作製しその表現型の解析を行った。その結果、DYWドメインをもつPpPPR_56、PpPPR_71、PpPPR_77とPpPPR_91はミトコンドリアの部位特異的RNA編集に働くこと、PpPPR_43は数種類のミトコンドリアmRNAの蓄積に関与していることを明らかにした。またNYNドメインをもつPpPPR_63は原糸体の側枝の形成に関与することが示唆された。残り数種のPPRタンパク質の機能解析の結果についても合わせて報告する。
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奥田 賢治, Hammani Kamel, Peng Lianwei, 深尾 陽一朗, 明賀 史純, 本橋 令子, 篠崎 一雄, Small ...
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0353
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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陸上植物においてRNA編集は葉緑体とミトコンドリアで高頻度に行われており、それらほとんどはシチジンからウリジンへの塩基置換である。オルガネラRNA編集に異常を示す変異株の遺伝学解析から、編集サイト認識にPPR蛋白質が関わることが明らかになっている。しかしながら、編集機構の詳細やRNA編集の意義については未だ不明な点が多く、RNA編集に関わるPPR蛋白質のさらなる同定がこれら疑問の解明を促進するものと考えられる。そこで我々は、植物特有のPPR蛋白質ファミリーに焦点を絞り、これら変異株の網羅的解析を行っている。本大会では、その中でも特に
otp82変異株の解析について報告する。
otp82は葉緑体ndhB-9とndhG-1サイトのRNA編集を特異的に欠損している。しかしながら、
otp82において葉緑体NDH複合体の活性、安定性、光化学系Iとの相互作用に異常は見られなかった。この結果は、これらRNA編集はアミノ酸置換を引き起こすにも関わらず、蛋白質の機能には不必要であることを強く示唆している。また野生株ではこれら編集サイトは部分的に編集を受けていることから、一遺伝子から機能的に等価な二つの蛋白質が生じている可能性が考えられた。これら結果に基づいて、植物RNA編集の生理学的意義についても考察したい。
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小林 勇気, 華岡 光正, 田中 寛
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0354
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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植物細胞において、核DNA複製(nuclear DNA replication: NDR)とオルガネラDNA複製(organelle DNA replication: ODR)を協調させる機構については殆ど明らかにされていなかった。近年、我々は単細胞紅藻
Cyanidioschyzon merolaeおよびタバコ培養細胞BY-2においてNDRがODRによって制御されていること、そしてオルガネラから核へDNA複製の開始を伝えるシグナルとしてテトラピロールの一種であるMg-ProtoIXが働いていることを明らかにした。NDRはMg-ProtoIXの蓄積によってCDKAが活性化される事によって行われる
1。しかし、Mg-ProtoIXによるCDKAの活性化がどのような分子機構によって行われているかは不明であった。今回我々はCDKAの活性化はCyclin Eのプロテアソームによる分解がMg-ProtoIXによって阻害されるために起こる事を明らかにしたので報告する。さらに、我々はMg-ProtoIX受容体の同定を進めておりMg-ProtoIXによるCyclin Eの分解阻害機構のモデルを提示する予定である。
1 Kobayashi, Y.
et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106, 803-7 (2009).
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華岡 光正, 加藤 麻衣子, 東 美由紀, 田中 寛
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0355
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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葉緑体は独自のゲノムとその発現系を有しており、分化や環境応答に際した転写制御の解析が広く展開されてきたが、その多くは生化学、遺伝学的手法をベースとしている。しかし、前者では
in vivoでの機能の説明が難しく、また後者では転写因子の直接の制御の理解が難しい。さらに、必須遺伝子の場合や重複機能を持つ遺伝子が存在する場合は欠損の影響が明確ではなく、解析困難なケースも実際に多く見られた。これら問題点を解決する技術が、クロマチン免疫沈降(ChIP)法である。この手法は、細胞中のDNA-タンパク質間の結合を固定し目的のタンパク質の抗体で免疫沈降することで、
in vivoでの転写因子の結合状態をモニターすることのできる画期的な解析法である。
我々は、このChIP法をシロイヌナズナの葉緑体転写制御研究に導入し、従来の手法では見えてこなかった新しい制御系の理解を目指している。実験系の有効性を検証するため、ストレス応答シグマ因子SIG5とそのターゲット遺伝子との関係をChIP法により解析した。その結果、
psbAや
psbD BLRPなどのプロモーター特異的に、また強光などのストレス依存的にSIG5の結合が検出された。この結果は、ChIP法が葉緑体転写制御系の解析において有力なツールとなることを示唆しており、欠損株のアレイ解析では同定されなかった新規ターゲット遺伝子の有無についても報告する。
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山田 浩史, 丸山 和之, 鈴木 信弘, 坂本 亘
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0356
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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植物細胞は核DNA以外に色素体とミトコンドリアにオルガネラDNAを保持している。花粉の発生過程において、栄養細胞(後に花粉管に分化する細胞)と雄原細胞(後に精細胞に分化する細胞)の形成時にオルガネラDNAが劇的に減少することが知られているが、その分子機構は明らかにされていない。昨年度の本年会で、我々は花粉の発生過程においてDPD1(オルガネラDNAヌクレアーゼ)がオルガネラDNAを分解する現象を明らかにして報告した。オルガネラDNA分解の意義については今のところ不明である。今回はDPD1の発現と機能を詳しく調べるために、CaMV35Sプロモータによる
DPD1過剰発現個体と
DPD1 プロモータ:
GUS発現個体によるDPD1の組織特的発現を解析した。過剰発現個体では個体ごとのDPD1発現レベルにばらつきがあり、安定してDPD1を過剰発現することはできなかった。またGUSレポーターを用いた実験では、
DPD1が花粉特異的に発現するRT-PCRの結果とは相反して花粉以外の組織でも転写されていることが明らかになった。以上の結果から、我々はDPD1が転写後制御により花粉特異的に発現すると推測した。これらの結果と関連して、DPD1をターゲットとするmiRNAがいくつか得られたので、それらの関与について現在解析を進めている。
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Cai Wenhe, Peng Lianwei, Okuda Kenji, Shikanai Toshiharu
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0357
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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PGR3 is a pentatrico-peptide repeat (PPR) protein containing 27 PPR motifs and belongs to the P-subfamily. Previous studies have suggested that PGR3 functions in stabilization and translation of
petL operon RNA in chloroplasts, and is also required for the accumulation of chloroplast NAD(P)H dehydrogenase (NDH). To gain new insights of multiple functions of PGR3, polysome assembly of 11
ndh transcripts was compared between the wild type and
pgr3-3 that was suggested to be specifically defective in translation. The majority of
ndhA and
petL transcripts were detected in the non-polysomal fractions in
pgr3-3, suggesting the translational defects in both genes. Comparison of the 5 UTR sequences of two genes identified two conserved sequences as candidates for target sites of PGR3. These results suggest that PGR3 is involved in the translation of
ndhA and
petL, as well as stabilizing
petL operon RNA, by binding to these putative
cis-elements.
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楠見 健介, 坂田 知佳子, 溝山 泰徳, 射場 厚
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0358
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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分化初期の葉緑体では、色素体遺伝子発現装置の構成や色素体コード遺伝子の発現パターンが成熟葉緑体と大きく異なっていることから、この時期に特異的に機能する遺伝子発現制御メカニズムが存在すると考えられる。イネNUS1タンパク質は約30kDaの分子量を持つ色素体タンパク質で、イネ幼苗の未抽出葉で大量に蓄積し、成熟葉では消失する。NUS1のC末端側には大腸菌のRNA結合型転写調節因子と似た構造の領域(NUSドメイン)があり、ゲルシフト解析により16S rRNAの5'上流領域を始め、複数の色素体RNAと結合することが分かった。また、BN-PAGEにより、100 kDa程度の大きさの複合体に含まれることが示唆された。NUS1を欠失した突然変異株v1の葉細胞では、色素体コード遺伝子の発現制御が損なわれ、葉は顕著なクロロシスを引き起こすことから、NUS1は分化初期段階の葉緑体遺伝子発現制御に重要な役割を持つと考えられる。また、NUS1と同様にNUSドメインを持つもう一つの色素体タンパク質NUS2の解析結果も合わせて報告する。
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西村 芳樹
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0359
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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ミトコンドリア(mt)や葉緑体(cp)の遺伝子は、多くの生物で母親のみから子孫に伝えられる。従来、この現象は配偶子(精子・卵子)の大きさが雌雄で異なるためであると考えられてきた。しかし実際には、雄mt/cpDNAは、受精の過程で積極的に分解され、これが母性遺伝の引き金となるらしいことが、藻類、高等植物、粘菌、さらにメダカ等の脊椎動物において明らかになってきている。
雄mt/cpDNAはどのようにして選択的に認識され分解されるのか。この疑問を解くために、我々は緑藻クラミドモナスの葉緑体母性遺伝変異体を探索してきた。そのうちの一つ
BiParental(BP)31では、雌雄配偶子の融合は正常に起こるものの、雄cpDNAの分解、ペリクルの形成、接合胞子形成といった接合子成熟過程全般が完全に停止してしまう。遺伝子発現をみてみると、
BP31では窒素飢餓応答遺伝子や細胞融合に関わる遺伝子の発現は野生株と同様であったが、接合子特異的遺伝子(
ezy,zys,zsp遺伝子群)は発現せず、さらに雌配偶子特異的遺伝子(
gsp1)も発現しなかった。
GSP1は、接合子形成の際に雄配偶子特異的なホメオドメイン蛋白質
GSM1と複合体を形成し、接合子成熟プログラムを開始することが報告されており、
gsp1の発現抑制がBP31における接合子成熟プログラム異常を引き起こす一つの鍵であるらしいことが示された。
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八木 祐介, 下谷 紘司, 中平 洋一, 椎名 隆
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0360
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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Cf9-interacting thioredoxin(CITRX)は、トマト葉かび病菌(
Cladosprium fulvum)のAvr9に対応するトマトの抵抗性遺伝子Cf9の細胞質側ドメインに結合するタンパク質として報告されている。しかし、ゲノム情報やプロテオーム解析の結果はCITRXが緑藻から高等植物にまで保存された葉緑体局在性のタンパク質であることを示唆している。そこで、CITRXの細胞内局在を調べるため、GFPを融合させたAtCITRXをシロイヌナズナプロトプラストに一過的に発現させ観察した結果、葉緑体に局在することが分かった。また、T-DNA挿入変異体の解析から、AtCITRXの変異は葉の白色化を示すこと、また色素体内の光合成遺伝子群の転写量の大幅な減少を引き起こすことが分かった。CITRXは、シロイヌナズナとシロガラシの色素体転写活性画分(pTAC: plastid transcriptional active chromosome)に存在していることが報告されており、これらのことからもCITRXの主要な役割は葉緑体遺伝子発現制御にあることが示唆された。現在、Yeast two hybrid法によるCITRX結合因子の探索を行なっており、他のpTACタンパク質や色素体分化に関わるタンパク質が同定されている。本発表ではそれらの解析も含め報告する。
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西郷 浩司, 坂本 亘
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0361
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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葉緑体はシアノバクテリアの細胞内共生に由来するために2重の包膜に囲まれ、その中に内膜系としてチラコイド膜が存在し光依存的にグラナを発達させる。グラナチラコイドの発達は集光アンテナや光化学系装置の合成と密接に関わる。さらに、チラコイド膜は内包膜に由来すると考えられているが、それを確証する結果は得られておらず、チラコイド膜形成の初期過程については今も不明の点が多い。Vipp1(vesicle-inducing protein in plastids 1)は葉緑体で巨大な複合体を形成し、チラコイド膜形成に関わることが推察されるタンパク質の1つである。本研究ではチラコイド膜形成過程を可視化して解析する試みとして、Vipp1-GFP融合タンパク質を過剰発現させたトランスジェニックシロイヌナズナを作製して葉緑体を観察することにした。作製した個体では、Vipp1-GFPが大きな顆粒として葉緑体内に観察されたが、興味深いことにGFPシグナルが非常に速い速度で葉緑体内を移動するイメージを頻繁に得ることができた。Vipp1複合体は包膜だけでなく、ストロマ、チラコイド膜に局在することが生化学的にも示されており、Vipp1の挙動は複合体の膜間移動を反映したものと考えられる。Vipp1-GFPのライブイメージングと、変異型Vipp1-GFPの解析についてもあわせて報告したい。
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藤原 誠, 関根 康介, 山本 義治, 阿部 知子, 佐藤 直樹, 伊藤 竜一
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0362
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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葉緑体は植物細胞内で対称二分裂によって増殖する。葉緑体分裂の初期イベントはチューブリン様タンパク質FtsZが重合して出来るZリング形成であると考えられており、我々はこれまでにZリング形成の空間的制御にはストロマタンパク質MinDとMinEの活性のバランスが重要であることを示してきた。しかし、FtsZタンパク質が葉緑体内の特定の位置で凝集、重合し、さらに高次リング構造を形成する
in vivoの過程については、未だ不明な点が多い。今回、我々はFtsZ1とGFPとの融合タンパク質(FtsZ1-GFP)を発現するシロイヌナズナ
MinE(
AtMinE1)過剰発現体及び変異体を用いて、生体葉緑体内におけるFtsZ1の構造と挙動を詳細に観察した。
経時観察の結果、
AtMinE1過剰発現体及び変異体いずれにおいても、ドット状及び短いフィラメント状のFtsZ1構造が存在し、無秩序な運動性を示すことが明らかになった。短いフィラメント状のFtsZはしばしばドット状のFtsZから伸張しており、別のフィラメントに組み込まれ太いフィラメントを形成した。
AtMinE1過剰発現体では伸張した葉緑体を巻く螺旋状のFtsZが観察されたほか、
atminE1変異体では巨大葉緑体のストロマ中に浮かぶ直径2μm以下のリングが検出された。
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安座間 康, 石井 忠, 田幸 正邦, 小西 照子
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0363
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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UDP-アラビノピラノースムターゼ(UAM)は、UDP-アラビノピラノース(UDP-Ara
p )とUDP-アラビノフラノース(UDP-Ara
f )の相互変換を触媒する酵素である。UAMはUDP-グルコース(UDP-Glc)と可逆的に複合体を形成するタンパク質であるReversibly Glycosylated Polypeptides (RGP)と同一のタンパク質であり、イネUAMはRGP活性を示すことが観測された。UAMは単子葉、双子葉植物から微細藻類まで広く分布しており、イネには3つ、シロイヌナズナには5つ、またクラミドモナスには1つのホモログが存在する。藻類におけるUAMの役割については未だ解明されていないことから、今回我々は、クラミドモナスcc125(mt
+)野生株からUAM遺伝子を単離し、大腸菌で組換えタンパク質(rUAM)を調製し、その酵素の特性について検討した。その結果、本酵素は UAM活性及びRGP活性を示した。サイズ排除クロマトグラフィー(sephacryl S-300カラム)を用いた分子量測定より、rUAMの分子量は~720kDaであると推定され、UAMは複合体を形成していることがわかった。
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岡部 耕平, 下田 良平, 小竹 敬久, 松岡 浩司, 小山 哲夫, Dupree Paul, 円谷 陽一
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0364
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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アラビノガラクタンプロテイン(AGP)は高等植物の細胞間マトリックスや細胞膜に存在している。AGPの糖鎖の基本骨格はβ-3,6-ガラクタンで、側鎖を構成するβ-1,6-結合したGal残基にα-L-Ara
fやウロン酸等が分岐結合している。しかしながら、糖鎖構造とAGPの様々な生理機能の相関性は不明のままである。我々は今回、AGPのL-Ara残基の存在様式に着目し、その糖鎖構造を調べた。
ダイコン成根AGPにエキソ-β-(1->3)-ガラクタナーゼを作用させて糖鎖を断片化し、生じたオリゴ糖をクロマトグラフィーで分画した。オリゴ糖の構造をMALDI-TOF/MS、MS/MS解析、NMR、メチル化分析、逐次酵素分解、等で調べた。L-Araを含むオリゴ糖の中で最も含量が高いのは、1分子のL-Araと2分子のGalと1分子の4-
O-メチル-グルクロン酸(4-Me-GlcA)から成る酸性4糖であった。その構造はβ-4-Me-GlcA-(1->6)[α-L-Ara
f-(1->3)]-β-Gal-(1->6)-Galであった。酸性5糖は、酸性4糖のL-Ara残基に、L-Araがもう1残基(1->5)-結合で連続して付加した構造であった。一方で、2つのGal残基にそれぞれ1残基のL-Araが結合した構造も認められた。
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佐々木 大樹, 原 吉直, 上垣 陽平, 斎藤 圭, 横山 隆亮, 西谷 和彦
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0365
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
フリー
キシログルカンは双子葉植物の細胞壁において、セルロース微繊維を架橋する主要なマトリックス多糖の1つである。エンド型キシログルカン転移酵素/加水分解酵素(XTH)はこのキシログルカンの切断、繋ぎ換えを触媒する酵素であり、細胞壁構築と再編において重要な役割を担っていると考えられている。
XTHはシロイヌナズナやイネ、ヒメツリガネゴケ等の陸上植物に普遍的に存在し、何れも30前後のメンバーから成る遺伝子ファミリーによりコードされている。しかし、単子葉植物のイネ細胞壁では、キシログルカンは主要な成分ではない。また、ヒメツリガネゴケのキシログルカンの構造は種子植物のそれとは大きく異なる。これらの事実は、陸上植物界のXTHが従来考えられている以上に多様な機能を持つ可能性を示唆している。
我々は陸上植物界のXTHの機能を解明するために、組換えタンパク質及び形質転換体を用いて、これらの植物のXTH機能を解析した。これまでの解析により、イネのOsXTHは細胞伸長域で発現し、キシログルカンを基質として加水分解酵素活性、あるいは転移酵素活性を示すことを明らかにした。またヒメツリガネゴケには、シグナルペプチドに相当するアミノ酸配列を欠くために、細胞壁中には分泌されないXTHが存在することを見いだした。ヒメツリガネゴケの非分泌性XTHの酵素機能については現在解析中である。
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本郷 祥子, 佐藤 香梨, 横山 隆亮, 西谷 和彦
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0366
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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細胞壁のマトックス高分子であるペクチンは複数のドメインから構成され、ホモガラクツロナン(HG)はその一つである。HGは高度にエステル化された状態で細胞外へ分泌された後は、細胞壁においてペクチンメチルエステラーゼ(PME)によって脱メチルエステル化される。脱エステル化したHGはCa
2+架橋によりペクチンのゲル化を調節し細胞壁の物性の制御に関与すると考えられている。これまでの網羅的解析により、我々はシロイヌナズナのPMEファミリーの1つである
AtPME61が花茎基部において二次壁肥厚に関与する遺伝子と共発現している事を見出した。PMEが一次壁に作用し二次壁肥厚には関与しないとすれば
AtPME61は二次壁肥厚以外の過程を通して花茎支持に寄与している可能性がある。そこで
AtPME61の支持組織形成における役割について解析を行い、次の結果を得た。
AtPME61は花茎中部から基部でPME活性があり同部位の維管束間領域に隣接する皮層で特に強く発現していた。また
AtPME61の機能を欠損したT-DNA挿入変異体(
pme61)は花茎基部の皮層のペクチンの脱メチルエステル化率が少なく、花茎は細く倒伏しやすいという表現型を示した。これらの結果より
AtPME61は二次壁肥厚を伴わない皮層細胞壁においてペクチンを脱メチルエステル化する事によりゲル化を調節し、花茎支持に必須の役割を担っていることが示唆された。
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國枝 正, 深澤 美津江, 西村 幹夫, 西村 いくこ
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0367
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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シロイヌナズナの種皮は,細胞壁と細胞膜の間に“ムシラーゲ”と呼ばれるペクチン性多糖を大量に蓄積する.吸水によって膨張したムシラーゲは,細胞壁を突き破り,種皮から放出される.放出されたムシラーゲは,種子の周りにゲル状のマトリックスを形成することで,発芽時の乾燥から種子を保護している.我々は,種皮形成を制御する植物特異的なNAC転写因子NARS1およびNARS2が,ムシラーゲの蓄積に関与することを明らかにした(1).
nars1 nars2二重変異体において顕著に発現が低下する因子の中で,ペルオキシダーゼ(PER)に着目した.
PERは,種子形成過程において,ムシラーゲ蓄積細胞に特異的に発現する.PER-GFP融合タンパク質のムシラーゲ蓄積細胞での挙動を観察したところ,PER-GFPはムシラーゲの放出時に破壊される細胞壁に限定して局在していた.一方,
PER遺伝子のT-DNA挿入変異体では,吸水処理によるムシラーゲ放出に異常を示した.この
per変異体のムシラーゲ放出異常は,細胞壁を緩める作用をもつEDTAやNa
2CO
3によって種子を処理することで回復した.これらの結果は,PERがムシラーゲ蓄積細胞の細胞壁の分解に関与することで,ムシラーゲ放出を促進する役割を担うことを示唆している.
(1) Kunieda et al., Plant Cell, 20, 2631-2642 (2008).
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安益 公一郎, 平野 恒, 永松 志朗, 佐藤 豊, B.A. Antonio, 並木 信和, 長村 吉晃, 松岡 信
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0368
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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二次細胞壁は主にセルロース、へミセルロース、リグニンから構成され、これら生合成遺伝子の発現制御にはいくつかのMYB型やNAC型転写因子が階層的に機能することが明らかにされている。さらにシロイヌナズナを用いた包括的なマイクロアレイ解析により、これらの転写因子とセルロースやリグニンの二次細胞壁生合成遺伝子が高い共発現性を示すことが報告され、実際に複数の関連因子が単離された。そこで本発表では、新農業展開ゲノムプロジェクトにより行なわれたイネの各組織における164個のマイクロアレイデータを用いて細胞壁形成過程での共発現ネットワークを構築し、シロイヌナズナの発現ネットワークと比較した。その結果、構築したイネの発現ネットワークは一次壁と二次壁生合成遺伝子を明確に区別し、シロイヌナズナで予想されている二次壁形成のマスター転写因子のオーソログと考えられる遺伝子群が二次壁生合成遺伝子群とのみ共発現性を示した。さらに糖代謝関連酵素であるGH やGT ファミリーの発現様式は両植物種での細胞壁組成の違いを反映しており、解析手法の正当性を示していた。また共発現解析から、二次細胞壁形成過程で働く新たな転写因子を見いだしており、これらの関与も含めてイネの細胞壁形成過程の全体像について考察を行なう。本研究は農林水産省・新農業展開ゲノムプロジェクト(IPG-0003、RTR-0002)の助成を受けて行なわれた。
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米田 新, 伊藤 卓也, 桧垣 匠, 朽名 夏麿, 斉藤 臣雄, 石水 毅, 馳澤 盛一郎, 長田 裕之, 松井 南, 出村 拓
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0369
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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表層微小管は細胞壁のセルロース微繊維の配向を制御することで、細胞の伸長方向を制御すると言われている。しかし、表層微小管がセルロース微繊維の沈着方向を規定する機構については未だ不明な点が残されている。私たちはこれまでにケミカルバイオロジーの手法を用い、表層微小管とセルロース微繊維の平行性を乱す新規阻害剤コブトリンを発見し報告して来た。本研究では、そのコブトリンの標的因子を探索することを目的に、シロイヌナズナFOXライブラリから抵抗性変異体の探索を行った。その結果、レクチン様タンパク質、ポリガラクロナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼの3遺伝子を単離した。特に、後者2つはペクチン分解酵素であり、コブトリンとペクチンの関連性が伺われる。逆に、ペクチン合成酵素の過剰発現はコブトリンに対する感受性を高めることも分かった。また、培地中へポリガラクツロナーゼを添加することによりコブトリンの表現型が回復することも見出した。さらには、コブトリン処理によりメチルエステル化されたペクチンの局在が乱され、細胞表面に一様に広がってしまう様子が観察された。これらの結果は、コブトリンがペクチンかペクチン関連因子を標的にしている可能性を示唆していると考えられる。これらの結果から、表層微小管によるセルロース微繊維の配向制御におけるペクチンの役割について議論する。
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明賀 史純, 流水 利恵, 本橋 令子, 黒森 崇, 篠崎 一雄
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0370
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
フリー
我々はシロイヌナズナの核コード葉緑体タンパク質の機能解析を目的に、葉緑体タンパク質をコードする遺伝子に
DsまたはT-DNAが挿入したタグラインの大規模収集を行った。表現型観察により得られた約200ラインの表現型異常変異体の表現型情報は、データベースを作成し一般に公開した(Chloroplast Function Database <http://rarge.psc.riken.jp/a/chloroplast/>)。それ以外の可視的な表現型が野生型と比べて異常がないホモタグラインは1,290ラインを得た。この収集したホモラインは、葉緑体タンパク質の機能解析のためのスクリーニングを行う上で、強力なツールであると考えられた。そこで本リソースを用いて、様々な濃度の試薬を加えた育成プレート上で生育させた生化学的測定スクリーニングにより、薬剤に対して感受性または非感受性のいくつかのストレス関連の変異体の候補を単離した。その中から、酸化ストレスや浸透圧ストレス環境下で感受性が異なる6つの変異体を同定した。それらの多くが、光合成時に細胞質や細胞膜への損傷を引き起こす活性酸素を産出させるパラコートに対して異常な応答を示した。このスクリーニング結果から、ホモタグラインは、異常なストレス応答を示す葉緑体タンパク質変異体スクリーニングを行うためのツールとして有用であることを示すことが出来た。
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加藤 裕介, 坂本 亘
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0371
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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光合成において過剰な光エネルギーは光化学系IIに障害をあたえ、光合成機能の低下を引き起こす。これを回避するため、光化学系IIでは障害をうけた反応中心D1タンパク質を直ちに分解/修復し、系全体の機能維持を行う。高等植物でのD1分解には、チラコイド膜に局在するATP依存型メタロプロテアーゼFtsHとルーメンに存在するDegプロテアーゼの関与が示されている。一方、D1を含む幾つかの光化学系IIタンパク質が光によってリン酸化される。しかしながら、リン酸化の意義について、意見の一致は未だ得られていない。本研究ではin vivoでのD1分解におけるリン酸化の影響をFtsH及びリン酸化酵素STN8を欠損する突然変異体を用いて解析した。FtsHプロテアーゼ複合体を欠損したシロイヌナズナ変異体
var2とリン酸化酵素STN8を欠損してD1リン酸化が起きない変異体
stn8をかけ合わせた
var2 stn8二重変異体の光合成機能を検討した結果、強光照射下でのFv/Fmの低下が
var2に比べて緩和されていた。この結果はFtsHによるD1分解とリン酸化の間に何らかの関係性があることを示唆する。
var2 stn8二重変異体ではリン酸化が起こらないために、FtsH以外のプロテアーゼが関わるD1分解が容易に行われ、D1ターンオーバーが早まることでFv/Fmの低下が緩和されたと考え、現在、解析を進めている。
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得津 隆太郎, 皆川 純
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0372
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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植物が吸収した光エネルギーは、チラコイド膜中に存在する2つの光化学系(PSI及びPSII)において化学エネルギーに変換されている。自然界のように様々に変化する光環境下では、光合成効率を最適に維持するために、2つ光化学系間を集光アンテナタンパク質(LHCII)が移動する事が知られている(ステート遷移)。これまで、ステート2遷移の際、PSIとLHCIIの結合には、LHCIIのリン酸化が必須であるとの仮説が報告されているが、いまだ直接的な証拠は報告されていない。本研究では、単細胞緑藻クラミドモナスのLHCIIリン酸化酵素欠損変異体を用い、ステート遷移におけるLHCIIリン酸化の寄与について解析した。変異株における蛍光測定の結果、ステート2誘導条件下では、PSII-LHCIIの解離には変化が見られなかったにも関わらず、PSI側の励起状態の上昇が観察された。また、この変異体では野生株と同様のPSI-LHCI/II超複合体が形成され、超複合体中にはリン酸化LHCIIが含まれていないことが明らかとなった。これらの結果を合わせ、ステート遷移中のLHCIIのリン酸化及び移動について、最新のモデルを報告する。
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星安 紗希, 吉田 和生, 上妻 馨梨, 深尾 陽一朗, 横田 明穂, 明石 欣也
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0373
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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チラコイド膜の光合成装置は、過剰な光エネルギーによる傷害を回避するために、環境に応答してその構成因子の活性や蓄積量が巧妙に調節されていると考えられているが、その全容については不明な点が多い。この分子挙動を解明するために、強光乾燥ストレス耐性能が高い野生種スイカ葉を用いてプロテオーム解析を行った。その結果、葉緑体ATP合成酵素εサブユニットの遺伝子は1コピーであるのにも関わらず、等電点が大きく異なる2分子種のεタンパク質が検出された。また、逆相HPLCにより2分子種のεタンパク質を分離精製し、質量分析に供したところ、2分子種のεタンパク質間で有意な分子質量の差が検出された。葉緑体ATP合成酵素εサブユニットは、チラコイド膜ルーメン側からストロマへのプロトン放出とATP合成との共役に機能する重要サブユニットである。興味深いことに、強光乾燥ストレス条件下において、2種のεタンパク質のうち塩基性側のεの蓄積量がより速く減少することが見出された。また、ストレス下の野生種スイカ葉において、εタンパク質を選択的に分解するプロテアーゼ活性が検出された。これらの結果から、εサブユニットが生体内において翻訳後修飾を受けており、その修飾とεの減少が相互関連している可能性が示唆された。
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中根 健, 吉田 賢右, 中西 華代, 原 怜, 久堀 徹
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0374
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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葉緑体ATP合成酵素のγサブユニットのチオール調節は、光合成条件でこの酵素が効率よく働くために重要な調節であると考えられている。実際、JuneschとGraeberは、還元型酵素の方が酸化型酵素よりも低い膜ポテンシャル差によってATP合成を開始できることを報告している。ところが、自然界において葉緑体ATP合成酵素がどのような条件で実際に還元されるのかをきちんと調べた例は、実はこれまでなかった。そこで、私たちは屋外のホウレンソウ緑葉中でのγサブユニットの光還元の様子を、γ特異的な抗体とチオール標識による酸化還元状態の定量法を用いて直接調べた。その結果、この酵素の酸化還元調節は、明所での酵素活性の上昇のためというよりは、暗所で酵素を止めるために重要であることを見出した。葉緑体内がどのような状態の時にγサブユニットが還元されるのかを含めて、ATP合成酵素の酸化還元調節の仕組みを報告する。
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鈴木 健策, 大森 幸美
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0375
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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イネ(あきたこまち)幼苗では「高地温」に依存した低温障害が起こる。すなわち、幼苗全体を10℃(L/L処理)に1週間曝しても葉に可視的な障害は認められない。しかし地下部を25℃に保ったままで地上部だけを10℃で低温処理(L/H処理)すると、光の有無に関係なく24時間以内に光化学系IIとIの間の電子伝達が遮断され、光化学系Iの循環的電子伝達能力が失われる。さらに半日以上処理を続けると、光に依存した脱色が葉に広がり、常温(25℃)に戻すと脱色が更に広がりその部分を中心に枯死する。このような障害が硝酸存在下でのみ起こることをこれまで明らかにしてきた。今回、この「高地温依存性低温障害」と硝酸の関係解明の手掛かりを得る目的で、硝酸飢餓状態の幼苗を新しい水耕液に移すと共に低温処理し、水耕液、根、第3葉における主要無機イオン濃度の経時的変動を比較検討したところ、(1)高地温依存性低温障害は硝酸飢餓状態の幼苗でより顕著、(2)根では初期から急速に硝酸が蓄積、L/Hでは常温時とほぼ同じ、L/Lではその半分程度、(3)葉への硝酸蓄積は、常温では処理24時間頃まで根の半分程度で推移するのに対し、L/Lではほとんど蓄積せず、L/Hでは初期に急速に蓄積し、その程度は処理12時間頃まで常温時の数倍、(4)L/Hの葉でのみ亜硝酸が検出される、等の結果を得た。また、光合成特性についても新知見を得たので報告する。
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真野 純一
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0376
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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過酸化脂質の分解により生じるα,β-不飽和アルデヒド(活性アルデヒド種;RAL)は強い細胞毒性をもつ。RAL消去酵素2-アルケナールレダクターゼを過剰発現させた組換え植物の環境ストレス耐性から,さまざまな環境ストレスによる細胞障害へのRAL種の関与が示されている。本研究では,葉緑体で生成するRAL種を同定し,それらが葉緑体の各種酵素に及ぼす阻害効果を評価した。葉緑体の三価不飽和脂肪酸合成を欠損したシロイヌナズナfad7fad8変異株と野生株Col-0の葉のアルデヒド組成を比較し,前者で少ないアクロレイン,(E)-2-ペンテナール,マロンジアルデヒド(MDA)がリノレン酸由来であることを明らかにした。C1-C9のさまざまなアルデヒドをストロマ画分,チラコイド膜に添加すると,ホスホリブロキナーゼ,デヒドロアスコルビン酸レダクターゼ,グルタチオンレダクターゼが強く阻害された。アルデヒドの中ではアクロレインがもっとも強く,(E)-2-ペンテナールなどRAL種も強い阻害をしめした。MDAはいずれの酵素にも強い阻害は示さなかった。チラコイド電子伝達系,スーパーオキシドジスムターゼ,アスコルビン酸ペルオキシダーゼはアクロレインによっても阻害されなかった。すなわち葉緑体のリノレン酸から生成するRAL種は,特異的な標的分子を失活させることで細胞の機能障害を引き起こすことが示唆された。
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後藤 栄治, 後藤 光太, 津山 孝人
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0377
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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連続光消灯後、クロロフィル蛍光強度は一過的に変動する。この変化は、連続光照射下で蓄積した還元力NADPHによりプラストキノンPQが光消灯後に再び還元されることによる。プラストキノンの還元はNAD(P)H dehydrogenase (NDH)複合体によって触媒される。本研究では、連続光消灯後の蛍光の一過的変動を解析した。シロイヌナズナ変異株
ndhMおよび
pgr5を用いることで、NDH依存のPQ還元に加えて、Fd/PGR5依存のPQ還元もクロロフィル蛍光の一過的変動に寄与することが分かった。いずれのPQ還元が起きるかは、リニアー電子伝達の制限の程度に依存した。また、蛍光の一過的変動は、カルビン回路酵素のフルクトース‐1,6-ビスホスファターゼ(FBA)の阻害により大きく促進された。これらの結果は、1)蛍光の一過的変動はチラコイド膜における電子伝達とカルビン回路の活性のアンバランスを反映し、2)アンバランスの程度に依存してNDH経路またはFd/PGR5経路のPQ還元が誘導されることを示唆する。
ndhM pgr5、
fba ndhM、および
fba pgr5二重変異株における連続光消灯後のクロロフィル蛍光強度の一過的変動の観察から、一過的変動に基づく光合成制御の解析ついて議論する。
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石川 直子, 塚谷 裕一
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0378
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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シロイヌナズナ
BLADE-ON-PETIOLE1 (
BOP1),
BOP2は、若い葉原基から成熟葉の向軸基部領域で発現し、先端基部軸及び向背軸にそった葉の正常な分化に必要である。また
bop1bop2機能欠損型二重変異体では、葉柄に異所的な葉身が形成されると共に、葉の形態形成が野生型よりも長期間継続する。これまで我々は、
BOP1, BOP2には葉の有限成長を司る何らかの働きがあると考え、そのメカニズムを解明すべく解析を行ってきた。
その過程で今回我々は、
bop1bop2の各葉位で、腋芽形成異常が見られることを見いだした。長日環境で生育させた野生型では、栄養成長期のロゼット葉の腋芽成長は抑制され、第一葉など低位葉の腋芽は全く成長しない。一方
bop1bop2では第一葉から腋芽が発達し、さらに後位葉では腋芽発達に伴い葉柄上の葉原基形成が活発になる。これより少なくとも
bop1bop2の葉柄における葉身形成の一部は、腋芽形成に伴う異常である可能性が考えられる。また
bop1bop2の葉柄での葉身形成は、ジベレリン投与で抑制された。現在、
bop1bop2の葉と腋芽の発生異常の関連を解明するため、
bop1bop2と腋芽形成能が低下した変異体との多重変異体を作成している。上記結果を中心に、
bop1bop2における腋芽形成の異常と、葉柄上の異所的葉身形成、葉の有限成長を司る機構の関係を議論する。
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南澤 直子, 上田 貴志, 佐藤 真由子, 豊岡 公徳, 堀口 吾朗, 中野 明彦, 塚谷 裕一
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0379
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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シロイヌナズナのANGUSTIFOLIA (AN)は、動物のCtBP(転写抑制因子)/BARS(ゴルジ体の維持因子)のホモログに相当する。ANは微小管の配向を介して、葉の細胞の横方向への極性伸長に関わる可能性が示唆されている。ANはそのクローニング以来これまで、転写抑制因子として機能すると考えられてきた。しかし近年、その見方に否定的な知見が多く報告されている。例えば我々自身、AN-GFPの細胞内局在性を再検討したところ核局在性は認められず、また、ANがショウジョウバエのCtBP変異体の表現型を相補しないことも明らかになった。さらに、植物型に固有のC末端に重要な機能があるとも考えられてきたが、それについてさえも否定的なデータが出つつある(本大会、樋口ら)。ANの分子機能を解明するためには、改めて、動物のホモログに関する知見とは独立に、予見なく機能解析を行なうことが重要である。我々は、AN-GFPがゴルジ体近傍のドット状の構造に局在することを見出している。今回は、その細胞内局在性のより詳細な観察結果と、
an-1変異が膜構造に及ぼす影響について報告する。さらに、ANの相互作用因子の探索も行なっており、これらの結果を合わせてANの分子機能について考察したい。
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山口 貴大, 塚谷 裕一
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0380
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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一般に葉は,向背軸の極性に依存する仕組みによって平面成長し,光受容に適した平たい構造になると考えられている.一方,背軸面に相当する組織だけで葉身が構成される「単面葉」を持つ植物においても,平たい葉身を形成する種が多くみられる.したがって,このような植物においては,葉の向背軸極性に依存しない独自の機構により葉身の平面成長性が制御されており,平たい葉身は両面葉と単面葉で収斂進化したと考えられる.
我々は,単面葉における葉身の平面成長機構を解明するために,2 種の近縁なイグサ属植物,平たい単面葉をもつコウガイゼキショウと,丸い単面葉をもつハリコウガイゼキショウを用いた比較分子遺伝学的解析を行い,まず遺伝子発現解析により,その制御に深く関わる 2 つの遺伝子を同定した.次に種間雑種を用いた遺伝解析により,これらの因子が 2 種間の葉身の平面成長性の差を直接的に制御するか否かを検証するとともに,葉が丸くなるコウガイゼキショウの突然変異体を用いた発生遺伝学的解析等により,それら遺伝子間の遺伝的制御関係を解析した.本報告では,これらの解析により得られた,単面葉における葉身の平面成長制御に関する遺伝学的モデルを提唱する.またこれらの研究過程で,葉の中央―周縁の極性制御機構に関して新規な知見を得ることに成功したので,あわせて報告する.
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中山 北斗, 山口 貴大, 塚谷 裕一
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0381
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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アスパラガス属(
Asparagus)は葉が鱗片状に退化し、本来は側枝が発生する葉腋の位置に、擬葉と呼ばれる葉状器官を形成する。擬葉は主たる光合成器官としての役割も担っており、形態学的および生理学的に葉との類似点を有する。擬葉は古くから形態学者の興味の対象であったが、分子遺伝学的背景はおろか、その詳細な発生過程も未だ明らかとなっていない。属内においてその形態は多様化しており、アスパラガス属の擬葉は、植物におけるシュート構造の多様化の過程を、発生学的および進化学的観点から明らかにすることが可能な、独自性の高いモデルである。そこで本研究では、特異なシュート構造である擬葉の発生、およびその多様化機構の理解を目的として研究を行った。これまでに私たちは、属内の系統関係において基部に位置し、擬葉の形態が広卵形の
A. asparagoides を用いて、擬葉は葉とも茎とも異なる独自の内部構造を有すること、擬葉では葉の発生に関わる遺伝子群のオーソログが発現することを明らかにしてきた。また、擬葉の形態が棒状の
A. officinalisではこれらの発現パターンが変化していることを明らかにし、現在その原因についても解析を進めている。加えて、これらの遺伝子の擬葉における機能を解析するために形質転換系の構築を行っており、本発表ではそれらを含めた現時点でのデータに基づき、擬葉の進化発生機構について考察する。
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黒木(藤本) 理恵, 横山 講平, 仁田坂 英二
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0382
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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アサガオの
ac(
acuminate)変異体は、通常葉が複葉状になり、葉縁が背軸側に反る。また花弁も葉と同様に反っており、細かいヒダ状の花弁をつける。この変異体の表現型から、向軸側の器官の運命を決定する
HD-ZIPIII遺伝子や、これらの発現を増加させる
AS1または
AS2遺伝子の変異体である可能性が考えられた。そのため、アサガオにおけるこれらのオーソログ遺伝子と
ac変異形質の連鎖を調べたところ、
AS1オーソログと強固に連鎖していた。また
ac変異体の
AS1オーソログ遺伝子1.9 kb上流に3 kbの大きな欠失があり、転写産物量も著しく減少していた。ac変異を持つ22系統は全てこの欠失を保持していたことからも、
ac変異体の原因遺伝子は
AS1のオーソログ遺伝子であると考えられる。この
as変異体と他の形態変異の2重変異体を作製した結果、
WOX1遺伝子の変異体である
m-w(
maple-willow)または
py(
polymorphic)変異体との2重変異体では著しく表現型が亢進された。そのため、向軸側の器官分化を制御している
AC遺伝子は中央側方軸方向の分裂制御に関わっている
MAPLE遺伝子とも連携しながら器官形成を行っていることが示唆された。また、
pyの原因遺伝子はまだ明らかではないが、やはり向軸側の器官形成に関わる遺伝子に対応する可能性が考えられる。
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田中 悠里, 山村 智通, 寺川 輝彦
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0383
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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ABCモデルにおけるCクラス遺伝子の
AGAMOUS(
AG) は、雄ずいおよび雌ずい(心皮)形成に関わる転写因子をコードし、花器官形成のメカニズムを明らかにする上で重要な因子である。シロイヌナズナのCクラス突然変異体である
agamousは、雄ずいが花弁に変換し、雌ずいの代わりに新たな花が形成される八重咲きの表現型を示す。一方、シクラメン(
Cyclamen persicum Mill.)はサクラソウ科の多年生植物で主要な園芸鉢花であり、我々は花器官の形成制御によるシクラメンの花形改変を目的として研究開発を進めている。そのためにはシクラメンの花器官形成に関わる因子の解明や形態形成メカニズムを明らかにすることが重要である。しかし、シクラメンにおいてAGが単離されたという報告はなく、またその機能については知られていない。そこで本研究では、シクラメンにおける
AG相同遺伝子の単離を行い、その機能解析を行った。その結果、シクラメンで2種類のAG転写因子の存在を明らかにし、それぞれについて各組織および突然変異系統を用いた発現比較を行ったので報告する。なお本研究は「生研センターイノベーション創出基礎的研究推進事業」によるものである。
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寺川 輝彦, 山村 智通, 田中 悠里, 杉山 正夫, 光田 展隆, 高木 優
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0384
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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シクラメン(
Cyclamen persicum Mill.)はサクラソウ科に属する花き園芸植物で、冬を代表する鉢花である。なかでも花色や花型は重要な形質であり、古くから交配や突然変異育種により品種改良が行われてきたが、シクラメンは他殖性が強いため新しい形質の付与や安定化が難しく、また多大な時間と労力が必要であった。一方、CRES-T法(Chimeric REpressor gene-Silencing Technology)は任意の転写因子に転写抑制ドメインを融合させたキメラリプレッサーを発現させる方法で、標的遺伝子の発現を抑制し機能欠損の表現型を引き起こすことができる。我々は花器官形成のABCモデルにおけるクラスC遺伝子のAGAMOUS転写因子をシクラメンから新たに単離し、その機能解析を行っている。そこで本研究では、CRES-T法を利用してシクラメンのAGAMOUSの機能抑制による花器官の改変を行うために形質転換シクラメンの作出を試みた。各キメラリプレッサーはCaMV35Sプロモーターと連結させ、選抜マーカーとしてハイグロマイシン耐性遺伝子を持つ発現コンストラクトを作製し、アグロバクテリウム法によりシクラメンに導入を行い、形質転換植物を得た。その後、これら植物体の栽培形質評価と各種解析を行った。なお、本研究は「生研センターイノベーション創出基礎的研究推進事業」によるものである。
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小山 知嗣, 関 原明, 篠崎 一雄, 高木 優
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0385
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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高等植物は発生期間を通じて繰り返し器官を形成する。そのためには、分化あるいは未分化の細胞運命を適切に調節することが重要である。本研究では、葉における細胞分化の調節を遺伝子レベルで明らかにするために、シロイヌナズナTCP転写因子の直接的な標的遺伝子を同定し、それら標的遺伝子の機能を明らかにすることを目的にする。まず、TCP3を含むCINCINNATA様TCP遺伝子の多重変異体を作成したところ、異所的にシュート形成すること、葉の縁で過剰に細胞分裂すること、および葉においてCUP SHAPED COTYLEDON (CUC)遺伝子群が異所的に発現することが認められた。これらの表現型は葉の分化が阻害されためと考えられた。次に、TCP3の直接的な標的遺伝子を同定するために、マイクロアレイ、クロマチン免疫沈降、プロモーターレポーターおよび一過的な遺伝子発現などの解析を行った。同定された標的遺伝子を過剰発現するとCUC遺伝子群の発現が抑制されること、一方で、これら標的遺伝子を機能破壊するとCUC遺伝子群が異所的に発現誘導することが認められた。これらの結果から、TCP3の直接的な標的遺伝子はCUC遺伝子の発現を葉で抑制すると考えられた。本研究により、葉の細胞分化において、TCP転写因子を情報伝達ヒエラルキーの上部に置く遺伝子制御ネットワークが明らかになった。
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菅野 茂夫, 嶋田 知生, 今井 悠, 森 正之, 玉井 淳史, 大川 克也, 西村 いくこ
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0386
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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ガス交換を担う気孔の密度の適切な制御は,植物の生存に必須である.昨年度の本大会では,気孔の分化を促進する新規のペプチドの同定について報告した.今回は,そのペプチドをstomagenと命名し,生化学的解析と遺伝学的解析を行った.
Stomagenは前駆体として合成され,その後プロセスされ45アミノ酸からなるペプチドに変換する.タバコ培養細胞BY-2で発現・精製したstomagenおよび化学合成したstomagenは,双方とも濃度依存的にシロイヌナズナの葉の気孔密度を増加させる活性を示した.この45アミノ酸の機能ドメインは他のドメインとは異なり,シダを含む多くの植物で高度に保存されていた.遺伝学的な解析により,
STOMAGENの機能発現には,正常な気孔分化に必要なLRR型受容体様遺伝子
TOO MANY MOUTH(TMM)が必要であることが分かった.
TMMは気孔分化の抑制遺伝子
EPIDERMAL PATTERNING FACTOR(EPF)1と
EPF2が働くためにも必要である.したがって気孔密度は促進ペプチドstomagenと抑制ペプチドEPF1・EPF2の拮抗的な作用により制御されている可能性が浮上した.また,
STOMAGENは葉肉組織で発現し,
EPF1・
EPF2は表皮組織で発現するという結果は,葉肉-表皮の組織間シグナリング依存的な新しい気孔密度決定メカニズムの存在を示している.
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田畑 亮, 軸丸 裕介, 勝又 卓己, 黒森 崇, 和田 拓治, 神谷 勇治, 山口 信次郎, 中村 研三, 石黒 澄衞
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0387
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
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花は植物にとって生殖器官であり、確実に子孫を残すために、各花器官が開花時に協調的な発達、成熟をして効率の良い受粉を達成している。特に雄しべと花弁の協調的な発達は重要であり、花弁の伸長によって花が開き、同時に伸長、成熟した雄しべが露出することで受粉可能になる。この雄しべと花弁の同調した伸長および葯の裂開には、ジャスモン酸(JA)の働きが重要である。我々は、雄しべと花弁の伸長の同調性が乱れる、つまり野生型と比較して雄しべの伸長時期が早まり、花弁の伸長が抑制される
defective coordination1 (
deco1)突然変異体を単離した。活性型ホルモン一斉解析をおこなったところ、花序におけるJA量が野生型の約30%に減少していることが明らかとなった。さらに、JAおよびJA中間産物、代謝物の一斉測定の結果、
deco1突然変異体の花序ではβ酸化以降の経路が抑制されていることがわかった。ポジショナルクローニングをおこなったところ、
DECO1は機能未知のシトクロームP450モノオキシゲナーゼをコードしていることが明らかになった。また、
PDECO1-GUSは開花時の花糸に特異的な発現パターンを示した。以上の結果より、開花時の花糸において
DECO1依存的に合成されるJAが花弁へ移動し、開花(花弁伸長)をうながしていることが示唆された。
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東 克也, 朝比奈 雅志, 山崎 貴司, 高木 優, 光田 展隆, 田坂 昌生, 森田 美代, 山口 信次郎, 神谷 勇治, 南原 英司, ...
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0388
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
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以前の我々の研究から、水平方向に直径の約半分まで切断されたシロイヌナズナの花茎では、主として髄組織の細胞が切断3日後から細胞分裂を開始すること、および細胞分裂の誘導にオーキシンが必須であることが明らかになった。マイクロアレイ法を用いた解析から、癒合部では切断1日後から3日後において、植物ホルモン関連遺伝子や転写因子の発現が特異的に上昇することが示された。これらの遺伝子の発現に対するオーキシンの影響を調べたところ、オーキシンによってAP2型転写因子の一種は負に、NAC型転写因子の一種は正に制御されていた。また、オーキシンのシグナル伝達に関わるAUX/IAAの機能が抑制された形質転換体では、癒合部における細胞分裂が阻害され、AP2型転写因子およびNAC型転写因子の発現に変化が生じた。さらに、エチレン合成に関わる
ACSや、ジャスモン酸合成に関わる
LOXも、癒合部特異的な発現量の上昇を示した。化学物質や変異体を用いた実験から、AP2型転写因子はエチレンによって負に、ジャスモン酸によって正に制御されることが示唆された。CRES-T法を用いてAP2型転写因子またはNAC型転写因子の機能を抑制した形質転換体で癒合部における細胞分裂の阻害が見られたことから、花茎切断によって生じたオーキシン・エチレン・ジャスモン酸のシグナリングが、癒合部の細胞分裂に必要な転写因子の発現を制御していると考えられる。
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小牧 伸一郎, 阿部 竜也, Coutuer Silvie, Inze Dirk, Russinova Eugenia, 橋本 隆
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0389
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
会議録・要旨集
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微小管のプラス端に集積するタンパク質は+Tipsと呼ばれ、微小管の動態に大きな影響を与えることが知られている。その内の1つであるEB1は酵母から動物にいたる幅広い生物に存在し、他のタンパク質と機能的複合体を形成することで、微小管の配向や安定性に関与することが多くの実験より示されている。アラビドプシスには3つのEB1ホモログ(EB1a, EB1b, EB1c)が存在するがその機能の違いは明らかになっていない。
本研究では植物に特有のサブタイプに属する
EB1cが分裂領域において主に発現し、またそのC末に核局在シグナルを持つことを明らかにした。
eb1c変異体の根の分裂領域を調べたところ細胞分裂に関わる微小管構造物である紡錘体やフラグモプラストに異常な形を示すものや正常な分裂面に対し傾いているものが有意に高い割合で見られた。微小管重合阻害剤であるオリザリンを
eb1c変異体に処理したところ高感受性を示し、根の伸長が抑制された。さまざまな断片のEB1配列を用いて行った相補試験より、
eb1c変異体の表現形の回復には
EB1cのC末が必要であることがわかった。またタバコBY-2細胞においてRNAi で
EB1cを抑制したところ染色体の分離に異常が観察された。以上の結果より
EB1cは分裂期の微小管構造(特に紡錘体の構造や動態)を制御ことで分裂面の規定や染色体の分離に関わっていることが示唆された。
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朽名 夏麿, 剱持 雅則, 佐野 俊夫, 馳澤 盛一郎
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0390
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
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表層微小管は植物細胞に特徴的な細胞内構造の一つで,細胞壁の構成成分であるセルロース微繊維の沈着方向を制御することで細胞の形態を決定する.表層微小管はM期の開始とともに消失し,G1期の開始とともに再構築するが,その制御機構については未だ不明な点も多い.我々は,細胞周期の高度な同調が可能であるタバコBY-2細胞に,GFPと微小管プラス端結合タンパク質EB1(End Binding protein 1)の融合タンパク質を発現させたBY-GEB1細胞を確立し,微小管プラス端の挙動を可視化した.そしてM/G1境界期において表層微小管の配向が整っていくメカニズムを明らかにするため,表層微小管の伸長過程の連続撮影と,画像解析およびシミュレーション実験を行なった.画像処理手法に関しては,細胞内の微小管の配向や密度を巨視的に捉えるアプローチと,微小管プラス端の挙動を個別に追跡するアプローチを併用することで,従来は主観的に把握されていた特徴を定量的な指標として測定した.シミュレーションに関しては,細胞形状を円柱に近似し,表層微小管を円柱表面に分布する線分としてモデル化し,時間経過にともなう微小管の相互作用や細胞形状の影響を検討することを可能とした.これらの結果,表層微小管の伸長に対して細胞形状が及ぼす影響が,表層微小管の配向にも関与することが示唆された.
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湖城 恵, 桧垣 匠, 朽名 夏麿, 林 朋美, 佐野 俊夫, 馳澤 盛一郎
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0391
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
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アクチン繊維は細胞周期や環境の変化に伴ってその構造を劇的に変化させ、植物細胞の分裂や成長に重要な役割を果たす。特に、細胞分裂期に入るとアクチン繊維は太い束から細いメッシュ状へと劇的な構造変化を遂げるが、その詳細な機能については明らかではない。そこで本研究では細胞分裂期におけるアクチン繊維構造の役割を明らかにすることを目的とし、タバコBY-2細胞の同調培養系を用いてアクチン重合阻害剤Latrunclin B (LatB)と束化誘導剤TIBAが細胞分裂装置の動態と構築に及ぼす影響をライブイメージングと画像解析により検証した。GFP-EB1により微小管プラス端が標識されたタバコBY-2細胞の形質転換細胞(BY-GEB1細胞)を用いて、紡錘体微小管とフラグモプラスト微小管の重合速度を評価したところ、TIBA処理により重合速度が低下したが、LatB処理では大きな変化は認められなかった。一方で、G1期における表層微小管の重合速度はLatB処理によってのみ低下した。以上の結果から、アクチン繊維構造が細胞周期依存的に微小管の重合に関与する可能性が示唆された。現在、アクチン繊維の崩壊や束化が紡錘体の構造や細胞分裂面の決定に与える影響についても調べており、本発表ではこれらの結果も併せて議論したい。
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上田 晴子, 横田 悦雄, 朽名 夏麿, 田村 謙太郎, 嶋田 知生, 新免 輝男, 馳澤 盛一郎, 西村 いくこ
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0392
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
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ミオシンは,アクチン繊維上を滑る分子モーターである.植物は独自のクラス(ミオシンVIII,XIおよびXIII)を進化させ,その中のミオシンXIは植物に特徴的な原形質流動を引き起こすと考えられている.われわれは,13種類のアイソフォームから成るシロイヌナズナのミオシンXI の中から,小胞体流動に関わる主要な因子としてXI-Kを同定している.XI-Kを含むミオシンXIの多重変異体では,小胞体流動の抑制に加えて小胞体の形態や分布に異常が観察された.興味深いことに,この異常はアクチン脱重合剤で処理した細胞の小胞体と酷似していた.そこで,これらの多重変異体におけるアクチン繊維束を野生型と比較した.野生型の子葉葉柄細胞では,アクチン繊維束が細胞の長軸方向に発達し,そのアクチン繊維束に沿って小胞体の活発な流動が観察された.一方,多重変異体の細胞では,アクチン繊維束の配向がランダムで長軸方向に沿っておらず,小胞体の分布とも相関がみられなかった.以上の結果から,ミオシンXIは細胞内におけるアクチン繊維束の正常な配向に必要であることが示された.ミオシンXIによって駆動される小胞体流動とアクチン繊維束の配向の関係について議論したい.
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Kong Sam-Geun, Suetsugu Noriyuki, Wada Masamitsu
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0393
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
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Chloroplasts exhibit light-directed movement in plant cells to optimize their photosynthetic ability. Phototropins (phot1 and phot2 in
Arabidopsis) relay light-intensity information to chloroplasts, which move toward weak light and avoid from strong light. Chloroplast-actin (cp-actin) filaments are vital to chloroplast photorelocation movement. To understand the mechanism by which the chloroplast movement is regulated, we observed cp-actin filaments visualized by expressing GFP-tagged talin in different genetic backgrounds using confocal microscopy. Our observation reconfirmed the cp-actin filament behaviors reported by Kadota et al (1) and further validated the functions of phototropins in reorganization of cp-actin filaments. Furthermore, observation of cp-actin filaments in several chloroplast movement mutants suggested that factors such as CHUP1, JAC1, PMI2, etc play a role in cp-actin filament dynamics, respectively. Functional roles of the factors will be discussed in cp-actin filament dynamics.
(1) PNAS 2009 Aug 4;106(31):13106-11.
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末次 憲之, Peremyslov Valera V., Dolja Valerian V., 和田 正三
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0394
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
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葉緑体運動は葉緑体の正常な機能を行うために必須である。多くの植物で、葉緑体運動はアクチン繊維に依存している。我々は、シロイヌナズナにおいて、葉緑体の細胞膜に接する部分に存在する短いアクチン繊維(cp-actin 繊維)が、葉緑体光定位運動と葉緑体の細胞膜へのアンカーを制御するという新しいメカニズムを発見した。青色光照射によって葉緑体運動を誘導すると、cp-actin 繊維は葉緑体が動き出す前に移動方向の前端側に偏在し、このcp-actin 繊維を利用して葉緑体は移動する。定位した葉緑体のcp-actin繊維は弱い光によって増加し、葉緑体の運動を減少させるが、強光下では偏在化の前に一過的に消失し葉緑体の運動は増加する。これらのcp-actin 繊維の光による消長はフォトロピンによって制御されている。しかし、cp-actin 繊維が葉緑体運動を推進する動力を発生させる機構は明らかになっていない。ミオシンはアクチン繊維のモータータンパク質として知られ、cp-actin 繊維依存の葉緑体運動の動力発生因子の第一の候補である。我々はシロイヌナズナのミオシン破壊株における葉緑体光定位運動を調べた。
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飯田 有希, 小田 祥久, 福田 裕穂
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0395
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
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道管を構成する管状要素には特徴的な二次細胞壁(二次壁)がある。分化の過程において表層微小管とアクチン繊維はこのパターン制御システムの中心を担うと考えられており、我々はそれぞれの配向について着目し研究をおこなった。
管状要素のうち、とくに後生木部は壁孔タイプの二次壁というユニークな細胞壁をもつ。そこで、後生木部細胞のマスター因子
VND6発現による細胞分化誘導系を用い、分化過程での表層微小管とアクチン繊維の局在を詳しく解析した。その結果、表層微小管はいくつかの異なる配向変化を経て二次壁の沈着パターンを制御することがわかってきた。一方、アクチン繊維は二次壁や表層微小管との共局在は見られず、二次壁のパターン形成の制御に直接には関与しない可能性が示された。
表層微小管は、通常では細胞の長軸方向に対して垂直に並んでいるが、分化の過程では配向がランダム化し、その後二次壁の沈着に先行して穴あき型の配向を形成した。一方、表層微小管安定化剤処理をすると、表層微小管がランダムに配向することなく、通常の表層微小管の配向を保った。そのためこれに沿った二次壁パターンが形成された。これらの結果から、分化過程での表層微小管の一連の配向変化が、適切な二次壁パターンの形成に必要であることが示唆された。
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小田 祥久, 飯田 有希, 福田 裕穂
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0396
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
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植物細胞は、分化に伴って細胞壁および細胞形態を劇的に変化させ、高度な機能を獲得する。このような現象は、セルロース微繊維の方向と部位を制御する表層微小管に大きく依存している。さまざまな形態をもたらす柔軟かつ正確な表層微小管の編成はどのようにして実現されているのであろうか。本研究では、規則的な二次壁肥厚を引き起こす道管分化をモデルとして、表層微小管の制御機構の解明に取り組んでいる。我々が開発した細胞分化誘導系は、後生木部道管のマスター転写因子VND6を発現させることで80%以上の細胞が同調的に壁孔型の二次細胞壁を形成し、道管に分化する。この分化誘導系を用いて分化に伴う表層微小管の分布を解析したところ、壁孔が形成される領域において局所的に微小管が消失する様子がみられた。この領域の表層微小管の動態を解析した結果、微小管の伸長速度、脱重合速度は通常の表層微小管と大きな差が見られなかったが、通常の表層微小管よりもカタストロフィの頻度が高く、レスキューの頻度は低かった。このことから、この領域では微小管が脱重合されやすい状態にあると考えられた。マイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析に基づき、このような局所的な微小管の動態制御を引き起こす分子機構について考察する。
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佐藤 良勝, 杉本 渚, 長谷部 光泰
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0397
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
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多細胞生物の発生過程において細胞間のコミュニケーションは重要であることが知られる一方で、リプログラミング過程におけるその役割はほとんど知られていない。そこで我々は、切断刺激により分化細胞が頂端幹細胞へと運命変換するヒメツリガネゴケのリプログラミング過程での細胞間コミュニケーションの役割を、レーザーアブレーション装置を用いて解析した。単離1細胞処理をした場合、約80%という高頻度で幹細胞化したことから、葉細胞は等価な細胞グループとみなすことができると考えられる。次に隣接した2細胞を単離した場合には、これら2つの細胞は異なる細胞運命を示し、一方は幹細胞化したがその隣接細胞の幹細胞化は抑制された。さらに、1つの破壊細胞によって隔てた2細胞を単離した場合には、両方ともに幹細胞化された。これらの結果から、葉細胞のリプログラミング過程において、幹細胞化運命を獲得した細胞は隣接細胞の幹細胞化を抑制することが示唆された。
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青山 剛士, 日渡 祐二, 執行 美香保, 伊藤 元己, 林 謙一郎, 長谷部 光泰
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0398
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
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幹細胞は自己複製を行ないながら分化細胞を作り出す細胞である。多細胞生物が正常に発生するためには、多様な幹細胞の形成・維持が適切に行なわれなければならない。コケ植物セン類ヒメツリガネゴケの発生過程では、原糸体幹細胞(クロロネマ幹細胞、カウロネマ幹細胞)、茎葉体幹細胞が形成される。我々は、このヒメツリガネゴケの幹細胞形成過程に着目し、幹細胞制御機構のモデル系として解析を進めている。
我々は、AP2/ERF転写因子ファミリーに属する
PpAPB遺伝子の四重遺伝子破壊株では茎葉体幹細胞が形成されない事を発見した。また、ヒートショックプロモーターによる
PpAPB遺伝子の条件的発現誘導体を作成したところ、茎葉体形成が促進された。これらの表現型から、
PpAPB遺伝子は茎葉体幹細胞形成に必須な制御因子であると考えられる。従来、茎葉体幹細胞形成はサイトカイニンによって促進されることが知られていた。しかし、
PpAPB遺伝子は、サイトカイニンではなくオーキシンによって発現誘導される事が分かった。この事は、
PpAPB遺伝子を介したオーキシンシグナル系とサイトカイニンシグナル系の和として茎葉体幹細胞形成が制御されている事を示唆している。現在、
PpAPB遺伝子の下流因子の探索を行なっており、その結果を下に、茎葉体幹細胞形成過程における
PpAPB遺伝子、オーキシン、サイトカイニンの役割について議論したい。
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今井 章裕, 小栗 康子, 秋田 朝日, 石川 雅樹, 白須 賢, 笠原 博幸, 浅見 忠男, 近藤 陽一, 松井 南, 佐藤 良勝, 長谷 ...
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0399
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
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ヒメツリガネゴケの葉を切断すると、48時間以内に切断面の細胞が原糸体頂端幹細胞へと変化する。このように容易に幹細胞化が起こる本系は、植物の分化全能性の仕組みを探るうえでよいモデルになり得る。私たちはこの分子基盤に迫るため、ケミカルジェネティクスにより新奇の幹細胞化制御因子を同定することを目指している。まず、約12,000種の天然および合成化合物を含むライブラリーから、幹細胞化阻害化合物の同定を試みた。切断した葉からの原糸体形成を幹細胞化の指標にして、この過程を阻害し、かつ原糸体の生育に対しては阻害効果の低い化合物の絞り込みをすすめた結果、20種の化合物を単離した。さらに、ヒメツリガネゴケの幹細胞化過程において細胞周期再開時に発現誘導される
CYCD;1遺伝子、および原糸体特異的に発現する
RM09遺伝子の発現を抑制する4化合物を選抜した。これらのうち、RIN16と名づけた化合物の構造類似体であるRIN16Bはシロイヌナズナにおいて
de novoの幹細胞を形成する側根形成過程を顕著に阻害することがわかった。これを利用してシロイヌナズナFOXラインを用いてRIN16Bの耐性植物を選抜し、シロイヌナズナおよびヒメツリガネゴケの双方においてRIN16Bの標的あるいは下流で機能する候補因子の解析を進めている。
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貴舩 永津子, 出村 拓, 福田 裕穂
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0400
発行日: 2010年
公開日: 2010/11/22
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植物細胞の分化過程におけるクロマチンの動態および遺伝子の発現変動に関する新たな知見を得るために、ヒャクニチソウ単離葉肉細胞培養系を用いて、培養開始後時間の経過に伴うヒストン修飾の変動を調べた。その結果、ヒストンH3のアセチル化レベルは培養開始後に上昇し、分化の方向性が決定づけられると考えられる時期に下がることがわかった。また、管状要素分化に対するヒストン脱アセチル化酵素阻害剤TSAの与える影響を観察したところ、阻害剤の濃度および添加のタイミングに依存的に分化が抑制され、特に分化の方向性が定められると考えられる時期に添加したとき最も分化が抑制された。これにより、管状要素分化過程におけるヒストンアセチル化/脱アセチル化の制御の重要性が示唆された。さらに、ヒャクニチソウジーンチップを用いて、TSA添加が遺伝子発現に与える影響を網羅的に調べた。その結果、TSA 添加から6時間後に約500の遺伝子が、阻害剤未添加のコントロールと比較して5倍以上の高発現を示した。また、63の転写因子が2倍以上の高発現を示した。これらの結果を基に、管状要素への分化過程における遺伝子発現の制御とクロマチン修飾の関連について考察する。
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