日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第51回日本植物生理学会年会要旨集
選択された号の論文の1055件中401~450を表示しています
  • 得平 茂樹, 大森 正之
    p. 0401
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    100を超す栄養細胞が一列に連なった糸状体を形成するシアノバクテリアには,数種類の分化細胞を形成するものがいる。窒素欠乏により誘導されるヘテロシスト(異質細胞)は窒素固定に特殊化した分化細胞であり,10から15細胞おきに1個の割合で形成される。嫌気的環境を必要とする窒素固定を行うため,ヘテロシストの内部では呼吸活性が増強され,また酸素を発生する光化学系IIが不活性化されている。さらに,酸素の流入を妨げる膜系が細胞壁の外側に形成される。窒素固定に必要なATPと還元力は,栄養細胞から受け取った多糖の代謝により作り出され,そしてヘテロシストにおいて作り出された窒素化合物は栄養細胞へと送り返される。これら2種類の細胞は,糸状体の中で相互に依存した関係を作り上げている。ヘテロシスト分化は,バクテリアにおけるパターン形成と細胞分化のモデルとなっている。
    ヘテロシスト分化は培地から窒素源を除いた後24時間で完了する。その間に,全遺伝子の1割を超す遺伝子の発現が,時間的,空間的な制御を受けながら変動する。これまでの解析により,NtcA, NrrAそしてHetRの3個の転写因子がネットワークを形成し,遺伝子発現制御に中心的な役割を果たしていることが示された。今回,詳細なマイクロアレイ解析により新たな制御因子の同定を試みたので報告する。
  • 東 克己, 永山 陽一, 深川 朝美, 岡村 祐香, 小島 浩輝, 大熊 健志, 横須賀 義教, 鎌田 博
    p. 0402
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    ニンジンの不定胚発生は,最初に報告された不定胚発生現象であり,現在でも最も不定胚の誘導し易い植物種のひとつとして研究に用いられている。我々はこれまで,ニンジンの不定胚発生メカニズムに関する研究を行ってきているが,その過程で不定胚誘導時の環境要因が不定胚形成に与える影響について興味を抱いたため,その影響を明らかにするために実験を行った。ニンジン(Daucus carota L. cv. US-Harumakigosun)の播種後9日目の実生胚軸に,合成オーキシンである2,4-dichlorophenoxyacetic acid(2,4-D)を4.5x10-6 M含む改変MS固型培地上で培養し,その後植物ホルモンを含まない改変MS培地上に移植し,不定胚を誘導した。この不定胚誘導系において,少なくとも22˚Cから28˚Cの温度範囲で,温度上昇に比例して不定胚形成率が変化することを明らかにした。一方,光条件については,2,4-D処理時,2,4-D除去時とも,光を与えた処理区において不定胚形成率が高くなることを見出した。一方,ニンジン茎頂部からの2,4-Dによる不定胚誘導においては,光の効果は見られなかった。これらの環境要因がニンジンの不定胚形成にどのような影響を与えているのか,胚発生能獲得や,胚形成にどのように結びついているかについて,得られた結果を基に議論する。
  • 中島 一雄, 藤田 泰成, 金森 紀仁, 片桐 健, 梅澤 泰史, 城所 聡, 圓山 恭之進, 吉田 拓也, 石山 賀奈子, 小林 正智, ...
    p. 0403
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    シロイヌナズナの3種の相同性が高いABA活性化型SnRK2タンパク質リン酸化酵素SRK2D/SnRK2.2、SRK2E/SnRK2.6/OST1、SRK2I/SnRK2.3の種子成熟・発芽における機能を調べた。種子成熟・発芽時に、これらは主に核に局在していた。srk2dsrk2esrk2i一重変異体、二重変異体種子に比べ、srk2d srk2e srk2i三重変異体では、種子成熟期に生育阻害や乾燥耐性の低下が見られた。三重変異体種子では、休眠能の低下、穂発芽、極めて強いABA非感受性、ABA量の増加も見られた。三重変異体種子では、ABI5を含むbZIP断片のゲル内リン酸化が見られなくなった。マイクロアレイ解析により、abi5種子、abi3種子で発現レベルが低下している遺伝子のうち、48%、30%の遺伝子の発現レベルが三重変異体種子でも低下していることが示された。さらに、三重変異体種子では、ABA誘導性発現を示す遺伝子の発現レベルの低下や、ABA抑制性発現を示す遺伝子の発現レベルの上昇といったグローバルな遺伝子発現の変化が見られた。以上の結果から、これらのタンパク質リン酸化酵素は、広範囲にわたるABA応答性遺伝子の発現制御を通じて、種子成熟、発芽をコントロールしていることが示唆された。
  • 金井 雅武, 西村 幹夫, 林 誠
    p. 0404
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    種子休眠は多くの種子植物にとって発芽時期を制御するために必要である。シロイヌナズナにおいて、ペルキシソーム膜に局在するABCトランスポーターであるPED3の欠損株は発芽不能に陥る。我々は変異体種子を用いたトランスクリプトーム解析を行った。ped3変異体種子において発現が増加している遺伝子の上流1500kbのコンセンサス配列を抽出したところ、得られた全てのコンセンサス配列にABA responsive element (ABRE)が含まれていた。さらにped3変異体ではABREに結合する転写因子であるABI5の発現が増加していた。ped3abi5二重変異体では発芽率の大幅な回復が確認された。これより、ped3変異体における発芽不全はABI5が関与することが示された。さらにABI5の制御下において発芽を制御する因子を明らかにするために、ped3変異体とped3abi5二重変異体のトランスクリプトーム解析を行った。ペクチン分解を阻害するタンパク質、PGIP1PGIP2ped3変異体において強く発現しているものの、ped3abi5二重変異体ではWTと同程度であった。さらにペクチナーゼ処理はped3変異体種子の発芽率を回復させた。以上より発芽にはペクチンの分解が必要であり、ped3変異体の発芽不全はABI5制御下にあるPGIP1, 2、の異常な発現増加によることが示唆された。
  • 高橋 美智子, 臼田 華奈子, 草野 都子, 及川 彰, 斉藤 和季, 平井 優美, 西澤 直子
    p. 0405
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    植物の健全な生育、生殖生長および種子成熟には鉄、亜鉛、マンガン、銅が必須である。また、これらの金属元素の輸送や制御に関わる化合物やタンパクも重要と考えられる。我々はこれまでに、イネにおける鉄や亜鉛の輸送に関わる、トランスポーターやニコチアナミン、デオキシムギネ酸の生合成経路上の遺伝子の生殖生長および種子成熟期における発現部位の解析を行ってきた。ニコチアナミンは2価の鉄や3価の鉄、亜鉛、マンガン、銅のキレート能をもち植物体内を移行する金属のキレーターである。デオキシムギネ酸は3価の鉄のキレート能をもち、植物体内を移行するだけでなく根から分泌されるキレーターである。これらのキレーターが金属ストレス条件下のみでなく、生殖生長および種子成熟にも重要な役割を果たすことが明らかとなった。本研究ではこれらのキレーターのみでなく、他の化合物の種子成熟期における関わりを明らかにすることを目的とし、イネ種子の登熟過程におけるメタボローム解析を行った。
    解析はキャピラリー電気泳動―質量分析装置(CE/MS)により行われた。また、イネの登熟過程を12段階(stage1~12)に分けて子房、未熟種子、完熟種子をサンプリングし、この過程における代謝産物を網羅的に解析した。その結果、代謝産物量の変化は主として次の3パターンに分けられた。これらの結果とトランスクリプトーム解析をあわせて考察する。
  • 川勝 泰二, 山本 将之, 東野(百瀬) 悟, 保田 浩, 高岩 文雄
    p. 0406
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    植物の種子貯蔵タンパク質(SSP)は種子成熟過程特異的に合成され、発芽時の窒素源として種子中に高蓄積する。SSP遺伝子は種子成熟過程の種子内で極めて高発現することから、SSP遺伝子発現制御機構を解明することで、種子中におけるさらに効率的・自在な有用組換えタンパク質の生産が可能になることが期待される。
    イネのbZIP型転写因子RISBZ1およびDOF型転写因子RPBFはイネSSP遺伝子発現をin vivoで相乗的に制御することが明らかになっている。これらの転写因子のin plantaにおける機能を明らかにするためにそれぞれのノックダウン(KD)系統および二重KD系統を作出・解析した。それぞれのKD系統ではもう一方の転写因子の蓄積が登熟後期において野生型よりも増加しており、RISBZ1とRPBFはお互いの減少を補償し合うことが示唆された。それぞれのKD系統においてほとんどのSSPの蓄積量は減少しなかったが、ダブルKD系統では顕著に減少していた。また、RISBZ1とRPBFはイネプロトプラスト核内で複合体を形成した。
    以上のことからRISBZ1-RPBF間の冗長性および補償効果によって正常なイネ種子発生が維持されていると考えられる。また、RISBZ1とRPBFの物理的相互作用がその制御をより強固なものにしていると考えられる。
  • 濱崎 英史, 吉積 毅, 樋口 美栄子, 高橋 直紀, 黒森 崇, 井村 優子, 島田 浩章, 松井 南
    p. 0407
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    エンドリデュプリケーションとは、M期の細胞分裂が起こらずに連続的にDNA複製が起こる特殊な細胞周期である。植物ではDNA含量の増大に相関して細胞の体積も大きくなるため、植物の器官サイズの決定に関与していると推測されている。この制御機構を明らかにするため、トランスポゾン挿入変異系統から、暗所で胚軸の核相が減少して胚軸伸長が抑制される変異株sd3を単離した。この変異の原因遺伝子産物を相同検索した結果、ミトコンドリア内膜に局在するトランスロケーターTIM23複合体のサブユニットであるTIM21と高い相同性を示した。GFPとの融合タンパク質を用いて細胞内局在を調べたところ、ミトコンドリアでの局在が観察された。これらの結果からsd3変異体では、ミトコンドリアの活性低下によって引き起こされるATP量の減少がエンドサイクルを介した細胞成長の抑制につながると推測された。そこで、sd3変異体のATP蓄積量を測定したところ、ATP量の減少が認められた。一方、SD3過剰発現体では、核相の増大と器官の大型化が観察された。また、SD3過剰発現体において、複数のATP合成に関与する呼吸鎖複合体III/IVのサブユニットの発現量が上昇していたことからATP量が核相増大に関与することが示唆された。本発表では、ミトコンドリアによるATPを介したエンドリデュプリケーション制御機構の存在を議論したい。
  • Kumar Shailesh, Hongo Hiroaki, Yoshizumi Takeshi, Hara Hiroko, Shimada ...
    p. 0408
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    Endoreduplication is a kind of cell cycle that increases nuclear DNA content without cell and nuclear division and is important for plant development.Here we screened mutants showing increased polyploidy from RIKEN Arabidopsis full length cDNA Overexpressor lines (FOX lines) and found that one of the FOX line F07144 showed increase in polyploidy in darkness and the corresponding gene encoded a homologue of mitochondrial translocator subunit TIM50.Tim50 maintains the permeability barrier of mitochondria by closing the translocation pore in presequence regulated manner.We checked sub-cellular localization of F07144 protein using GFP markers and found that this protein was localized in mitochondria, so this F07144 protein can be designated as AtTIM50. GFP fused AtTim50 degrades rapidly and this degradation was stabilized by MG132.Loss of function mutant (SALK059376) showed decrease in polyploidy, reduced plant growth and also low ATP levels than that of wild type plants. Histochemical analysis using GUS reporter gene showed expression pattern in leaves, cotyledons, roots and hypocotyls. Here, we demonstrate that AtTIM50 regulate endoreduplication through cellular ATP-levels.
  • 高橋 直紀, 松井 南
    p. 0409
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    細胞の増殖は生命の基本的な要素であり、この制御システムである細胞周期の基本骨格は多種多様な生物において類似している。DNA複製を中心とする分子メカニズムは、細胞の複製や個体の複製に密接に関わっており、すべての生物にとっての根幹をなす。現在までに、DNA複製に関与する多くの因子が単離され、その分子メカニズムについて多くの知見が得られている。しかしながら、その全体像の理解には未だ多くの謎が残存する。さらに、その謎の解明に必須である複製制御因子が、今もって多数単離されていないと考えられている。
    我々は、DNA複製の分子機構の総合的な理解を目的とし、DNA複製を制御する新規遺伝子の探索を行なった。DNA複製に関わる遺伝子と共発現する遺伝子の探索を行なった結果、CDR1COEXPRESSED WITH DNA REPLICATION 1)遺伝子を単離した。この遺伝子の発現は、細胞周期のG1/S期への進行を統制するE2F転写因子により制御されることから、DNA複製への関与が示唆された。また、CDR1遺伝子の機能を欠損させた植物体では、細胞数及び、器官サイズが増大することから、DNA複製のみではなく細胞分裂への関与も認められた。さらに、CDR1はE3であるSINAタンパク質をコードすることから、このタンパク質は細胞周期遺伝子を分解することで、細胞周期の進行を円滑に進行させていると考えられる。
  • 田島 直幸, 藤原 誠, 佐藤 直樹
    p. 0410
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    細胞あたりの葉緑体数は葉緑体の分裂頻度と細胞分裂に伴った葉緑体の分配によって決まり、ほぼ一定に維持されているが、葉緑体の分配機構は詳しく分かっていない。ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)の原糸体は先端成長または枝分かれにより成長する。先端分裂時には43~55%、平均して47%の葉緑体が頂端側の細胞に分配される。分配率の内訳を調べると、細胞分裂時の葉緑体の大きさと関連しており、葉緑体分配率が低い細胞では基部側の葉緑体が先端側と同じくらいの大きさであるのに対して、葉緑体分配率が高い細胞では基部側の葉緑体は成熟した葉緑体と同じ大きさであった。大きな葉緑体は基部側に集まり、小さな葉緑体は先端側に集まるという可能性を連続観察により検討した。その結果、細胞内での葉緑体の相対的な位置関係はほとんど変化しないことが分かった。また、細胞分裂後2時間位から次の細胞分裂までの約10時間後までの間、核と葉緑体の相対的な位置関係は大きく変化しないことが分かった。これらのことから、葉緑体は細胞分裂後の早い時期に次の細胞分裂で先端側と基部側のどちらに分配されるかが既に決まっていると推定された。
  • 石川 雅樹, 秋田 朝日, 小栗 康子, 長谷部 光泰, 久保 稔
    p. 0411
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    ヒメツリガネゴケは、胞子から発芽後、細胞が一列に並んだ原糸体を経て、茎と葉からなる茎葉体へと発生していく。葉を茎葉体から切り離すと、切断面に面した葉細胞が細胞分裂を再開し、原糸体細胞へとその細胞運命を変える。我々はこれまでに、この過程においてAタイプサイクリン依存性キナーゼの活性化が細胞周期G1期からS期への移行だけでなく、葉細胞から原糸体細胞への細胞運命転換にも必要であることを明らかにした。このことは細胞周期G1/S期移行と細胞運命転換が連動していることを示唆している。そこで我々は、シロイヌナズナ等でG1/S期移行で機能することが知られている転写因子E2Fに着目した。ヒメツリガネゴケのゲノムには、典型的なE2Fをコードする遺伝子が4種類(E2F;1 ~ E2F;4)存在しており、そのうち一つのE2Fについて機能獲得型変異体と思われる形質転換体を単離した。その表現型について調べたところ、茎葉体につく葉の枚数が多くなり、また葉の一部で異所的な細胞分裂が起こったことによる突起した葉が観察された。さらにその葉を茎葉体から切り離すと、切断面に面した葉細胞だけでなく、突起した葉の先端部にある葉細胞からも原糸体が再生した。本大会では、これらの結果をふまえ、E2Fによる細胞運命転換の制御機構について考察する。
  • 小林 耕介, 伊藤 正樹
    p. 0412
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    植物の細胞周期中でG2/M期に発現する遺伝子群は、プロモーター領域にMSAエレメントを持ち、そこに結合するR1R2R3-Mybにより転写調節を受けている。シロイヌナズナにはR1R2R3-Mybをコードする遺伝子が5個存在しているが、これらのうち3個(MYB3R1, 3, および5)は転写抑制因子としての機能を持つことをこれまでに報告している。これら転写抑制型Mybの遺伝子破壊株で見られるG2/M期遺伝子の発現の上昇は、増殖の盛んな若い組織よりも、発生が進み細胞分裂活性の低下した組織において顕著に見られることが明らかになった。また、CYCB1;1やCYCB1;2のデストラクションボックスにGUSを融合したマーカーの発現を調べたところ、野生型ではG2/M期細胞に特異的なパッチ状の発現が見られるのに対し、転写抑制型Mybの遺伝子破壊株では、パッチ状発現は同様に見られるが、分裂組織全体でGUSの発現が一様に増加していることがわかった。このような結果から、転写抑制型Mybの機能は、細胞周期を停止した細胞ではG2/M期遺伝子の転写抑制状態を維持し、増殖中の細胞ではG2/M期以外の細胞周期のステージにおいて転写を抑制することであると考えられた。このような転写抑制型Mybの働きと、転写活性化型Mybによる周期依存的な転写活性化の組み合せによりG2/M期特異的転写が実現していると考えられる。
  • 中村 康平, 石川 雅樹, Sakata Yoichi, Ralph S. Quatrano, 日渡 祐二, 長谷部 光泰, 藤田 知道
    p. 0413
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    多細胞生物は、異なる運命をもつ娘細胞を生み出す不等分裂と同じ運命をもつ娘細胞を生み出す等分裂により、細胞数や種類を適切に制御している。これらの細胞分裂は発生段階や環境変化に応じて、厳密に制御されていなければならないと考えられる。
    ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)の原糸体は頂端幹細胞の不等分裂により、分裂能を維持した頂端幹細胞と分裂能が低下した次頂端細胞を生み出す。この原糸体にABA処理を施すと、頂端幹細胞、次頂端細胞が分裂し、娘細胞は共に分裂能を維持してゆっくりとした分裂を続けた。ABAは環境ストレス応答の鍵を握っており、成長に抑制的に働くことが知られている。シロイヌナズナ等の先行研究から、ABAはサイクリン依存性キナーゼ阻害タンパク質(CDKI)を誘導することで細胞分裂を負に制御することが知られているが、 今回ヒメツリガネゴケのCDKI遺伝子破壊株を用いた実験結果から、ヒメツリガネゴケにおけるABAによる分裂の制御はシロイヌナズナ等の制御とは一部異なると考えられた。また、分裂によって生み出された娘細胞のサイズがほぼ等しく、分裂能を同程度に維持していたことから、ABAは不等分裂から等分裂への切り替えを誘導しているのではないかと考えられ、いくつかの不等分裂関連タンパク質や細胞骨格因子の局在の変化を観察し、ABA誘導の細胞分裂の詳細な解析を行っている。
  • 大林 祝, 杉山 宗隆
    p. 0414
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞の多くは分化全能性を長く保持しており、比較的容易にこれを発現する。分化全能性発現において最初の鍵となるのは、脱分化から細胞増殖再活性化に至る過程である。胚軸片からの不定根形成の温度感受性を指標として単離されたシロイヌナズナの変異体root initiation defective 2rid2)は、カルス形成初期段階に関しても強い温度感受性を示し、脱分化・細胞増殖再活性化の分子機構を探る糸口になると期待される。また細胞構造レベルでは、核小体の拡大という特徴的な異常を示す。これまでの解析から、RID2はメチルトランスフェラーゼ様の核小体タンパク質をコードしており、その機能はrRNAプロセッシングに必要であることがわかっている。
    一方でRID2関連因子を遺伝学的に突き止めるために、rid2抑圧変異体を単離し、解析を行っている。抑圧変異体suppressor of rid two 1sriw1)は、NAC転写因子をコードするAt5g09330内に、rid2抑圧に関わると思われる変異を有する。sriw1変異がカルス形成に異常の見られる他の変異体の表現型をも抑圧したことから、SRIW1は細胞増殖制御において重要な役割を担っていると推察される。本発表では、rid2sriw1の解析を中心に、脱分化・細胞増殖再活性化の分子機構について考察したい。
  • 鈴木 孝征, 高原 詠子, 松嶋 千幸, 町田 泰則
    p. 0415
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    植物細胞の細胞質分裂は細胞分裂後期に形成されるフラグモプラストの遠心的な発達により行われる。これまでの研究からMAPキナーゼ経路がこのフラグモプラストの発達を制御することが示されている。MAPキナーゼ経路の下流に微小管結合タンパク質であるMAP65が存在することが明らかにされ、その活性を調節し微小管の再構成を通じてフラグモプラストの発達を制御していると考えられている。しかしそのほかのMAPキナーゼの標的となる分子は明らかになっていない。そこでリン酸化タンパク質の網羅的な解析を行い、植物細胞質分裂を制御するMAPキナーゼの標的の同定を試みてきた。一連の解析の結果SEC14ドメインを持つPATL2がMAPキナーゼによりリン酸化されることが分かった。SEC14ドメインの機能は明らかとなっていないことが多いが、リン脂質の代謝や結合を通じて小胞の形成または融合に関わると考えられている。PATL2はリン酸化ホスファチジルイノシトールに結合するが、それがMAPキナーゼによるリン酸化で制御されていることがわかった。これらのことからMAPキナーゼ経路はリン脂質の代謝を通じ小胞の輸送を制御している可能性が考えられた。リン脂質に結合したPATL2により制御される小胞の形成または融合を明らかにするためタンパク質複合体の解析を行っており、それについても報告する予定である。
  • 大島 良美, 四方 雅仁, 大坪 憲弘, 光田 展隆, 高木 優
    p. 0416
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    地上部の表皮細胞表面を覆っているクチクラ層は、主に脂質性のクチンポリマーとワックスからなり、水分の損失を防ぐとともに、病原菌や昆虫に対する防御の役割を果す。ワックスは長鎖脂肪酸、アルコール、ケトンなどの混合物で、成長段階や環境変化によって多くの生合成遺伝子が制御されている。これまでに、シロイヌナズナのAP2/ERFファミリー転写因子WAX INDUCER1(WIN1)がクチン及びワックス合成を正に制御することが知られているが、その他の制御因子は明らかになっていない。本研究では、CRES-T法の適用によりワックスが減少して器官が接着する表現型を示す転写因子を探索し、MYB転写因子を同定した。この転写因子をWAX REGULATOR1(WAR1)と名付けた。WAR1キメラリプレッサー(WAR1-SRDX)発現植物の茎表面をSEMで観察したところ、エピクチクラワックスの結晶が減少していた。さらに、マイクロアレイ実験によるWIN1-SRDX発現植物とのトランスクリプトーム比較において、高い相関がみられた。以上の結果より、WAR1はWIN1同様にワックス生合成を制御していることが示唆された。現在、WAR1、WIN1と機能重複している転写因子についても解析を進めている。
  • 山田 昌史, 福田 裕穂, 澤 進一郎
    p. 0417
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    CLAVATA3(CLV3)ペプチドは茎長分裂組織の大きさを制御するペプチドとして知られている。CLV3ペプチドはCLV1、CLV2などの受容体を介しWUSCHEL(WUS)遺伝子を負に制御する事によって茎長分裂組織の大きさを制御している。CLV3などのCLEペプチドは茎長だけでなく根端分裂組織の発生を制御している事が示唆されている。CLE遺伝子の過剰発現あるいは高濃度のCLEペプチド投与により根の伸長は著しく阻害され、根端の分裂組織の縮小が見られる。また、茎長分裂組織で受容体として働くclv2突然変異体はCLE遺伝子の過剰発現やCLEペプチドの投与に強い耐性を示し、根の伸長阻害が起きない。これらの結果から根端においてもCLEペプチドがCLV2などの受容体を介して根端領域の制御している事が示唆されていた。しかし、CLEペプチドがどのような遺伝子を制御する事によって根端領域の制御をおこなうか未だに良く分かっていない。根端分裂組織の形成にはオーキシンやサイトカイニンなどの植物ホルモンやその下位にある遺伝子が必要である事が知られている。本研究ではそれらの遺伝子とCLEペプチドの関係を調べた。その結果、CLEペプチドはサイトカイニンよりもオーキシンに関係する遺伝子の発現制御している事が明らかになった。
  • 岡本 圭史, 上田 晴子, 田村 謙太郎, 嶋田 知生, 豊田 正嗣, 鈴木 友美, 長谷 あきら, 田坂 昌生, 森田(寺尾) 美代, 西 ...
    p. 0418
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    植物の細胞内では様々なオルガネラが恒常的に流動している.この原形質流動は古くから研究されており,細胞骨格のアクチンとミオシンが重要な働きをしていることが知られている.しかし,個体レベルにおける原形質流動の意義はいまだに不明である.そこで我々は,シロイヌナズナのミオシン遺伝子欠損変異体を作出した.特にそしてミオシン二重変異体が,葉柄・花茎・胚軸・根という様々な器官において,光と重力に対して過剰な屈性応答を示すことを発見した.今回新たに,花茎重力屈性も過剰になることを見出した.この結果は,ミオシンが光と重力に対する環境応答を抑制するブレーキとして働くことを示唆している.さらに,このミオシン二重変異体の花茎の細胞の原形質流動を観察したところ,ミオシン遺伝子が特異的に高く発現している維管束において野生型に比較して原形質流動が遅いことを見出した.維管束の原形質流動についてはこれまでほとんど知見がなく,その生理学的な役割も全く明らかではない.過剰屈性応答と維管束の原形質流動異常は他のミオシン二重変異体では見られなかった.従って,この2つの現象が密接に関連していること,即ち,原形質流動の意義の1つが屈性応答の調節機構にあるという考え方が浮上してきた.
  • Breuer Christian, Kawamura Ayako, Ichikawa Takanari, Tominga-Wada Rumi ...
    p. 0419
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    Leaf trichomes in Arabidopsis develop through several distinct cellular processes, such as patterning, differentiation and growth. Here we report a novel trichome mutation in Arabidopsis, which in contrast to previously identified mutants, increases trichome cell size without altering its overall patterning or branching. We show that the corresponding gene encodes a GT-2-LIKE1 (GTL1) protein, a member of the trihelix transcription factor family. GTL1 is present within the nucleus during the post-branching stages of trichome development and its loss of function leads to a ploidy increase in trichomes that have completed branching. Our data further demonstrate that the gtl1 mutation modifies the expression of several cell cycle genes and partially rescues the ploidy defects in the cyclin-dependent kinase (CDK) inhibitor mutant siamese. Taken together, this study provides the genetic evidence for the requirement of transcriptional regulation in the repression of ploidy-dependent plant cell growth as well as for an involvement of GT-2-like trihelix proteins in this regulation.
  • 鎌田 直子, 米田 好文
    p. 0420
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    シロイヌナズナacaulis1 (acl1)変異体は、花茎伸長に欠損のある変異体として単離され、花茎長が短い他にも葉が小さく縮れるなどの形態異常を示す。acl1表現型の特徴として、通常の生育温度である22℃よりも高温の26℃以上で育てた植物体では変異表現型が抑制されること、培地中の窒素栄養条件により植物サイズが変化することが挙げられる。
    acl1同様に、高温下で形態が回復する変異体では、サリチル酸を介した病原菌抵抗性経路の活性化が引き起こされている例がある。acl1変異体での抵抗性に関わる遺伝子の発現レベルは、形態異常が顕著に現れる生育条件下では高く、高温や窒素栄養により表現型が抑制されている条件下では、表現型の抑制の度合いに応じて低いことがわかった。また、抵抗性経路で重要な役割を担うPAD4遺伝子の変異によりacl1表現型は抑制される。これらの結果から、acl1変異に起因する温度・窒素栄養依存的な植物の形態異常は、温度・窒素栄養条件により制御を受けるサリチル酸を介した病原菌抵抗性経路の遺伝子の機能・活性に依存する事が示唆される。
  • 村瀬 雅彦, 高橋 征司, 須藤 剛, 解良 康太, 古山 種俊, 中山 亨
    p. 0421
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    ポリプレノールやドリコール等のZ,E混合型ポリイソプレノイドは全生物種内に普遍的に存在し、主に糖鎖生合成における担体脂質として不可欠な役割を担う。一方、高等植物の色素体中に存在するC50-60Z,E混合型ポリイソプレノイドはその生理的意義が不明であった。我々はこれまでに、シロイヌナズナ由来AtCPT4が色素体に局在し、C50Z,E混合型ポリイソプレノイド生合成を触媒することを明らかにした。そこで本発表では、色素体におけるZ,E混合型ポリイソプレノイドの生理的意義の解明を目標に、AtCPT4の生理機能解析を行った結果について報告する。
    AtCPT4は長日条件下において光周期応答性の発現パターンを示した。長日条件下において、AtCPT4の遺伝子挿入変異体は野生型に比べ葉柄と胚軸が長い表現型を示したが、暗所下では野生型との差異は観察されなかった。また、この表現型はオーキシンの輸送阻害剤を処理することで抑圧された。さらに、atcpt4ではIAA6などのオーキシン誘導性遺伝子の発現が有意に増強されていた。これらの結果より、AtCPT4によって色素体で生合成されるZ,E混合型ポリイソプレノイドが、光応答性の生長制御に関与していることが示唆された。
  • 吉本 光希, 軸丸 裕介, 神谷 勇治, 草野 都, 大隅 良典, 白須 賢
    p. 0422
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    オートファジーは、オルガネラを含む細胞質成分を液胞に輸送して分解する真核生物に普遍的な細胞内分解システムである。これまでの研究から、植物はオートファジー能を欠損すると、栄養状態が良いにも関わらず、老化が早まり、病原菌感染時に防衛反応として引き起こす細胞死を過剰に発生することがわかっていた。しかし、なぜオートファジーが不能となると、このような表現型を示すのか、そのメカニズムはこれまで謎であった。
    最近、私たちはオートファジー能欠損植物(atg mutants)における細胞死促進の原因が、過剰なサリチル酸(SA)シグナリングであること、またそのシグナルによってオートファジーが誘導されることを発見した。atg mutantsの早老化による細胞死あるいは病原菌感染時に引き起こされる過剰な細胞死はSAシグナリングを阻害することで抑制された。一方、老化に関与しているといわれている、植物ホルモンのジャスモン酸やエチレン関連のシグナリングを阻害しても、細胞死促進は抑制されなかった。さらに興味深いことに、オートファジーはSAシグナルによって直接誘導されること、その誘導はSAシグナル伝達タンパク質NPR1に依存していることが明らかとなった。これらの結果から、オートファジーは、植物においてSAシグナリングの絶妙なバランスを取るための、ネガティブフィードバックループとして機能していると推測される。
  • 高橋 和馬, 浅田 裕, 山本 宏子, 高林 厚史, 田中 亮一, 田中 歩, 山口 淳二
    p. 0423
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
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    植物の免疫活性化は、防御関連遺伝子の発現のみならず細胞死を伴うことがある。この細胞死には、病原体の全身感染を抑制する働きがあり戦略的細胞死と考えられている。このような細胞死形質を恒常的に示すシロイヌナズナ突然変異体nsl2necrotic spotted leasion 2)を単離した(cad1を改名)。nsl2変異体では、病原性細菌に対する抵抗性を獲得していたことから、この変異体の細胞死形質は免疫機構に関与することが明らかとなった(Plant Cell Physiol. 2005, 46: 902-912)。
    nsl2変異体では病原体抵抗性の亢進に加え、暗処理によりchlorophyll分解が促進するという表現型が確認された。この結果はNSL2がchlorophyll代謝に関与することを示唆している。HPLCでの解析により、nsl2変異体で、pheophorbide aなどのchlorophyll分解産物の顕著な蓄積や、chlorophyll合成の中間産物の減少が確認できた。また、western blotting解析により、暗処理を行ったnsl2変異体でRubiscoなどの光合成に関与するタンパク質の減少も確認できた。本発表では、NSL2とchlorophyll代謝および老化との関係を中心に議論したい。
  • 中村 歩, 天野 晃彰, 高林 賢吾, 田中 淨, L. Dangl Jeffery, 上中 弘典
    p. 0424
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのLSD1とホモログLOL1はそれぞれ負と正の細胞死制御因子であり、細胞死の誘導に関わる同じ転写因子と”GxP”モチーフを介して相互作用することを明らかにしてきた。LSD1とLOL1 はどちらも相互作用に関わるジンクフィンガーモチーフをもつが、LSD1のみがC末端領域に他の植物のLSD1ホモログにおいても高度に保存されている領域をもつ。そこで、この領域(LSD1C)に特に注目してLSD1とLOL1の機能解析を行うことで、これらによる細胞死の制御機構を明らかにすることを目的として研究を行った。lsd1-2LOL1、又はLOL1+LSD1Cを導入した形質転換体を作出したところ、LOL1単独では相補できない細胞死の表現型が、LOL1+LSD1Cにより相補されたことから、LSD1Cの有無が細胞死の制御機構におけるLSD1とLOL1の機能決定に関わることが明らかとなった。他の植物のLSD1ホモログも”GxP”モチーフを介してシロイヌナズナと同じ転写因子と相互作用することから、他の植物においても同じメカニズムによりLSD1ホモログの機能が制御を受けている可能性が示唆される。また、LSD1タンパク質の分解がプロテアソームの阻害剤により抑制されたことから、細胞死の負の制御因子であるLSD1を介した細胞死の制御機構には、プロテアソームを介した分解機構も関与すると考えられる。
  • 西本 奈未, 高林 賢吾, 荒瀬 文, 西出 圭太, 田中 淨, Dangl Jeffrey L., 上中 弘典
    p. 0425
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの細胞死制御因子LSD1は細胞質で細胞死の誘導に関わる転写因子上の”GxP”モチーフを介して相互作用し、核移行を抑制するリテンションタンパク質として機能することで、間接的に細胞死の誘導に関与していることを明らかにしてきた。本研究ではLSD1を介した細胞死の誘導機構を明らかにするために、LSD1と相互作用するIAA8を含むAux/IAA転写抑制因子、並びにオーキシン応答転写制御系について注目して研究を行った。酵母のツーハイブリット法を用いた解析、及びAux/IAAの細胞内局在を調べた結果、ドメインII上の”GxP”モチーフをもつAux/IAA全てがLSD1と特異的に相互作用するわけではなく、またLSD1と相互作用するAux/IAA全てが核と細胞質の両方に局在するわけではないことを明らかにした。さらに、lsd1-2よりも早く細胞死が誘導されたlsd1-2 iaa8-1において、オーキシン、及び細胞死のマーカー遺伝子が早く誘導されていることを明らかにした。またマイクロアレイを用いた発現解析により、lsd1-2において細胞死を誘導することで、30以上のオーキシン応答性遺伝子が強く誘導されることも明らかにした。これらの結果から、LSD1を介した細胞死誘導機構には、LSD1と相互作用するAux/IAAの機能、及びオーキシン応答転写制御系が関与していると考えられる。
  • 河盛 阿佐子, 三野 広幸, 沈 建仁
    p. 0426
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    シアノバクテリア光化学系IIで200K以下の低温など正常な電子伝達が阻害された時、光照射で誘起されたカロテノイドラジカルと安定なチロシンDラジカルと電子電子2重共鳴で約3MHzの信号を観測した。これは両者の平均距離がおよそ29Aであることを示してい。カロテノイドは実際は長い鎖状の分子でありスピン密度が両端に亘って分布している。チロシンラジカルの六員環状のスピン分布はこれまで研究されており、またX-線解析より導かれた構造定数(文献1)は各炭素原子の位置や分子の方向を詳細に示している。上記の信号を解析してYDに対するカロテノイドラジカルの正確な相対位置とカロテノイド分子の方向を導くため、YDの結晶パラメータ、スピン分布をもとにまたカロテノイドのスピン分布を文献2より得られる値をいれ、まず相対距離を決定し、それから分子の方向を仮定したsimulationで結晶軸とYDに対する方向を導く。
    カロテノイドはYZに近いものと2個あるが、更にYZラジカルをトラップしたものについてELDORを観測してactiveなカロテノイドを決定する予定である。

    文献1. B.Loll et al. Nature 438(2005) 1038-1044
    文献2. T. A. Konovalo et al. J. Phys. Chem. B2001 105 8361-8368
  • 芝本 匡雄, 加藤 祐樹, 杉浦 美羽, 渡辺 正
    p. 0427
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    光化学系IIの電子伝達鎖において、第一キノン電子受容体QAは、P680とフェオフィチン(Ph)aが電荷分離して生じた励起電子を受け取ることで、電荷分離状態を安定化させるという重要な役割を担う。こうした観点から、QAの酸化還元電位Em(QA/QA-)とPhの電位Em(Ph/Ph-)との相関は、反応の効率を決める重要な情報といえるが、これまで平衡酸化還元電位と速度論的解析からそれぞれ得られる電位差は大きく異なっており、測定条件からすると平衡電位の方が実態を反映できていないものとされてきた。そこで我々は、分光電気化学的手法を応用することでEm(QA/QA-)の精密計測を目指し、同種の計測で決定済みのEm(Ph/Ph-)と照合することで、平衡酸化還元電位を基にした電位相関の解明を目指した。Phの電位計測に行ったシアノバクテリアT. elongatusから単離した光化学系IIを、蛍光法を応用した分光電気化学計測によりEm(QA/QA-)は-140 ± 2 mVと決定し、Phとの電位差は360 mVほどであることを明らかにした。従来の報告値によればこの電位差は530 mVほどであり、仮にこれが正しければ理論上Phを介した電荷再結合は全く生じないことになるが、本研究の統一的な計測からそのようなことはなく、また得られた結果は速度論的解析から得られている電位差とも矛盾しないものといえる。
  • 栗焼 桃子, 三野 広幸
    p. 0428
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    光合成における酸素発生は光化学系IIタンパク質複合体(PS II)のMnクラスターによって行われる。Mnクラスターは異なる5つの酸化状態(S0-S4)があり、サイクリックに循環しS4状態からS0状態への遷移の過程で酸素を発生する。室温下ではS0状態はYD*に電子を受け渡しS1状態に移行する。そのためS1状態が暗所で最も安定な状態となっている。 S0状態からS1状態への障壁温度は235 Kと報告されている。
    5つの酸化状態のうちS0,S2状態において酸素発生系由来のS=1/2“マルチライン信号”をESRによって検出することができる。
    我々はYD*をあらかじめ化学還元しておくことにより、S0状態を豊富に含む試料を作成した。この試料に5 Kで光照射を行ったところS0マルチライン信号の消失が観測された。さらに消光後(dark after light)S0マルチライン信号が再び現れることを観測した。同様の結果がパルスESR測定においても観測することができた。同様の変化はS2状態においても極低温でも観測されているが、これは極低温下では不可逆であり、また近赤外光によるマンガンクラスターのスピン交換と考えられている。これに対しS0状態の変化は可視光領域での変化であり、電子移動を伴った変化であると考えられる。
  • 西 俊輔, 小村 理行, 野地 智康, 川上 恵典, 沈 建仁, 高橋 武志, 菓子野 康浩, 柴田 穣, 伊藤 繁
    p. 0429
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    シアノバクテリアと原始紅藻の光化学系II(PS II)は、周辺アンテナの構造が異なるが、共通したコアアンテナ(CP43、CP47)をもち反応中心二量体を形成している。しかしこれらのタンパク質間で行われている励起エネルギー移動の経路は未だ十分に解明されていない。特にPS II反応中心二量体の単量体間での励起エネルギー移動の有無については殆どわかっていない。今回我々は好熱性シアノバクテリアThermosynechoccus.vulcanus、原始紅藻Cyanidioschyzon.merolaeの光化学系IIの単量体、二量体の4つの試料を対象に、ストリークカメラを用いた極低温時間分解蛍光測定を行いこの問題を調べた。測定の結果、二種類の生物の単量体、二量体の時間分解蛍光スペクトル間に(1)5Kではあまり差がない(2)77Kでは違いがある、という結果が共通で得られた。測定結果を定量的に評価するためにMulti-Exponential関数を用いたグローバル解析を行い、共通の時定数成分を抜き出し、Decay Associated Spectra (DAS)を算出した。これをもとに光化学系II内部の単量体間のエネルギー移動のモデルと、エネルギー移動過程を議論する。
  • 杉浦 美羽, Rappaport Fabrice, 加藤 祐樹, Boussac Alain
    p. 0430
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    Thermosynecococcus elongatusゲノムにはD1をコードする遺伝子が3つ存在し、通常の培養条件ではpsbA1が発現しているが(D1:1)、光ストレスを受けるとpsbA3が発現する(D1:3)ことが知られている。D1:1とD1:3の間では、360アミノ酸のうち21アミノ酸が異なる。我々はこれらのアミノ酸の違いがPSIIの機能と構造にどのような影響を与えるのかを調べるために、psbA1psbA2を破壊した組換え体を作製し、D1:1で構成するPSII、および、D1:3で構成するPSIIを単離して、それらの性質を調べた。
    D1:3-PSIIの酸素発生活性はD1:1-PSIIよりも高い酸素発生活性を示した。S2QB-およびS3QB-電荷再結合時の熱発光はD1:3-PSIIの方が高温度に現れ、また、S2QA-電荷再結合時には、D1:3-PSIIではD1:1-PSIIとは異なるバンドが現れた。QBの近傍には両者の間で異なるアミノ酸があり、このアミノ酸が近くの脂質と相互作用している可能性が考えられる。また、殆どのD1では130番目のアミノ酸はEであり、PheoD1と水素結合していると考えられている。D1:3はEであるが、D1:1ではQである。分光電気化学的測定によりPheoD1/PheoD1-の酸化還元電位を調べたところ、D1:1では17 mV低いことが明らかになった。
  • 吉岡 美保, 中山 洋輔, 吉田 真理, 大橋 研介, 森田 典子, 小林 英紀, 山本 泰
    p. 0431
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    光合成光化学系IIの反応中心結合タンパク質D1は、光や熱ストレス下で酸化的ダメージを受ける。損傷D1タンパク質の分解には、チラコイド膜に存在する金属プロテアーゼFtsHが関与していることが示唆されている (Yoshioka et al. 2006)。本研究では、ホウレンソウチラコイド膜におけるFtsHプロテアーゼの分布とサブユニット構造について解析した。クリアネイティブPAGEでチラコイド膜におけるFtsHオリゴマーの存在比を調べると、単量体:二量体:六量体=1.5:1:2であった。これに対して、PSII膜では、六量体FtsHのみが存在していた。六量体FtsHは、2タイプのサブユニットから形成されていて、その構成比は、タイプA (FtsH1/5):タイプB (FtsH2/8)=1:2である。タイプAの抗体(DS9)とタイプBの抗体(VAR2)を用いたウエスタン分析を行ったところ、単量体で存在するFtsHはタイプBのみで、二量体と六量体は、タイプAとタイプBの両方から構成されていた。強光や熱に対するFtsHオリゴマーの安定性の実験では、単量体や二量体が消失する一方で、六量体FtsHはストレスに対して構造を維持していた。これらの結果から、活性型でストレス耐性を持つ六量体FtsHプロテアーゼは、光化学系IIの近傍に存在し、損傷D1タンパク質の速やかな分解に関与していることが示唆される。
  • 長尾 遼, 鞆 達也, 榎並 勲, 池内 昌彦
    p. 0432
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    近年、我々は海産性の中心目珪藻Chatoceros gracilisから酸素発生活性を保持した光化学系II複合体(PSII)の単離に成功した。このPSII(crude PSII)を298 K、暗所で数時間インキュベートしたところ、酸素発生活性の低下、クロロフィルの消失、PSII を構成する各ポリペプチドの分解といった現象が確認された。このことは、C. gracilisのcrude PSIIが失活しやすく不安定であることを示している。これら失活要因を除去し安定なPSII標品を得るために、crude PSIIを陰イオン交換カラムクロマトグラフィーにかけ、さらなる精製を試みた。カラム精製により得られたPSII(pure PSII)は、集光性色素タンパク複合体fucoxanthin chlorophyll a/c-binding proteins (FCP)の大部分が除去され、2135 μmol O2 (mg chl)-1 h-1もの高い酸素発生活性を有した標品であった。このpure PSIIを25℃、暗所で数時間インキュベートし、crude PSIIと同様の解析をしたところ、pure PSIIではcrude PSIIのような失活がほとんど見られなかった。この結果は、pure PSIIの精製過程で、失活要因の大部分が除去されたことを意味する。
  • 渡邉 麻衣, 久保田 寿子, 和田 元, 成川 礼, 池内 昌彦
    p. 0433
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    Blue-native (BN) PAGEは膜タンパク質複合体の解析によく用いられる手法である。泳動システムに界面活性剤を用いないため、生体内により近い状態で複合体を分離することが出来ると考えられる。これまでに我々はBN-PAGEを用いた解析から、好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus elongatus BP-1の光化学系II(系II)複合体が、生体内では脂質による緩やかな二量体を形成しており、高濃度の界面活性剤で可溶化すると、界面活性剤が脂質に代わり、系II複合体の二量体構造を安定化することを示した(Watanabe et al 2009 Plant Cell Physiol.)。今回我々は、BN-PAGEにより、常温性シアノバクテリアと真核藻類の光化学系複合体の超分子構造について解析を行った。チラコイド膜をn-dodecyl-β-D-maltosideで可溶化し、BN-PAGEを行った。その結果、系II複合体にはT. elongatusと同様に、二量体と単量体の二つの構造が存在した。一方、光化学系I複合体には既知のシアノバクテリアで知られている超分子構造とは異なり、生物による多様性が見られた。生物による系I複合体の多様な構造について議論する。
  • 長谷川 慎, 寺嶋 正秀, 椎名 隆, 熊崎 茂一
    p. 0434
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    植物葉緑体内部ではグラナ部分に系IIが集中しており、系Iはストロマに露出したチラコイド膜に集中していることが知られている。 光学顕微鏡の空間分解能は電子顕微鏡の空間分解能に及ばないものの、原理的には生理的条件で系Iや系IIの空間分布を調べられるという利点があり、我々は葉緑体内部構造が変化していく様子を植物組織内に存在するままの葉緑体で測定することを目指して、近赤外レーザーパルス励起による二光子励起蛍光スペクトル顕微鏡を開発してきた。本講演では近赤外レーザーの特徴を生かした葉緑体内部の系I、系IIの選択励起効果を確認したのでそれを報告する。
    従来、常温の葉緑体の蛍光測定においては系IIが支配的であると広く信じられてきた。我々は、系I蛍光より長波長の近赤外レーザー光を用いると系IIに比べ系Iが高い割合で励起されることを発見した。同一の近赤外レーザー共振器においてパルス発振と連続発振を切り替えて使用することで一光子蛍光と二光子励起蛍光の両方を同一葉緑体から測定することが可能となった。とうもろこし葉緑体で一光子励起蛍光と二光子励起蛍光測定を行い、励起波長依存性、励起強度依存性、および葉肉細胞葉緑体と維菅束鞘細胞葉緑体の違いを調べたので当日はこの詳細について報告する。
  • 布留川 隼人, 大橋 俊介, 家村 達也, 奥田 将旭, 仲里 正孝, 岩本 浩二, 白岩 善博, 宮下 英明, 渡辺 正, 小林 正美
    p. 0435
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    原核藻類Acaryochloris marinaはChl d を主要色素として酸素発生型の光合成を実現している。我々はこれまで、A. marinaが微量なクロロフィルとしてChl a, Phe aおよびChl d’を有することを明らかにしてきた。Chl d’ は光化学系Iの初発電荷分離体P740として、またChl aとPhe aは光化学系IおよびIIの一次電子受容体として機能している。
    A.marina以外の酸素発生型光合成のPSIではChl aとa’ のヘテロダイマーがP700として機能している。Chl b は高等植物などのアンテナ色素だが、そのエピマーであるChl b’ は天然の光化学系には存在しない。その理由の一端を探るべく、Chl a’ , b’ および d’ のジエチルエーテル中でのエピマー化速度を比較・検討した。
    その結果、光化学系に存在しないChl b’ のエピマー化速度は、Chl a’ およびd’ に比べて、非常に速いことを明らかにした。Chl a’ と Chl d’ とでは、Chl d’ の方がエピマー化が少し速い。すなわち、最もエピマー化の遅いChl a’ がP700として、次に遅いChl d’ がP740として機能している。エピマー化速度が非常に速いChl b’ は、生体内での制御が困難なため、植物はPSIのスペシャルペアとして利用できなかったと推測される。
  • 木羽 隆敏, 榊原 均
    p. 0436
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    窒素は植物の成長・発達に多量に必要とされる元素である。しかし、自然環境下では窒素栄養供給量は低いため、植物は低窒素栄養条件で生育していることが多い。植物はこのような環境下で効率的に窒素栄養を吸収・利用するメカニズムを備えていると考えられるが、その分子機構に関する知見は少ない。
    本研究では、低窒素適応応答に関わる因子の候補として、高親和性硝酸イオン輸送体(NRT2)ファミリーの一員であるNRT2.4の機能解析を行った。NRT2.4 は窒素栄養状態の低下に従い、根で発現誘導される。この発現誘導は低窒素栄養状態特異的であり、リン、硫黄欠乏やストレスによる誘導は見られなかった。また、この発現誘導は硝酸イオン、アンモニウムイオン、グルタミンの何れによっても抑制された。プロモーター::GFP 融合遺伝子を発現する形質転換植物では、GFP蛍光は主に側根の表皮細胞で観察された。T-DNA挿入変異体 (nrt2.4)は、低窒素栄養条件で育てた場合のみ、硝酸イオン取り込み活性の低下を示した。この取り込み活性の低下の割合は、硝酸イオン濃度が低いほど(50 μM以下)顕著に見られた。以上の結果等を踏まえ、低窒素栄養適応応答におけるNRT2.4の生理的役割について考察したい。
  • 吉田 圭吾, 大岩 優貴, 松岡 香矢, 早川 俊彦, 山谷 知行, 小島 創一
    p. 0437
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナAtDUR3は、窒素欠乏状態の根で高く発現し、高親和型尿素輸送の中心的な役割を担う。AtDUR3の根における生理学的な機能は比較的明らかとされたものの、その生化学的な性質は不明な点が多い。シロイヌナズナの細胞膜タンパク質のリン酸化部位が網羅的に解析された結果、AtDUR3のY566とS568がリン酸化されうることが明らかとなった。その生化学的な意義を考察するためにAtDUR3に部位特異的変異を導入し、リン酸化、脱リン酸化を模倣した変異AtDUR3を作製した。この変異AtDUR3を尿素輸送能欠損酵母株に形質転換し、尿素を単一の窒素源とする培地上で生育を比較した。野生型と比較して、Y566Dは生育が早くなる一方、S568Dは生育が遅くなることから、Y566とS568が、リン酸化によって別々に制御される可能性が示唆された。また、Gateway System対応型のシロイヌナズナcDNAプラスミドライブラリを、スプリットユビキチンシステムのスクリーニングベクター系(Petr et al., 2004)へとBP反応、LR反応により変換し、AtDUR3 と相互作用するタンパク質をスクリーニングした。その結果、AtDUR3とプラスミドライブラリの両方を含んだ2倍体酵母約100万個から、栄養選抜により150個の陽性クローンを選抜し、解析中である。
  • 小西 美稲子, 柳澤 修一
    p. 0438
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    硝酸還元酵素(NR)は、硝酸同化に関わる酵素である。NR遺伝子の発現は、硝酸、グルタミン、糖、光、概日リズムなどによって影響されるが、硝酸による発現誘導はこれらの中でも主要な要因のひとつである。過去に、NRプロモーターの活性はアンモニア培地で生育させた場合は高いが、硝酸培地で生育させると顕著に低くなるという形質転換タバコを用いた実験結果が報告されており、また、タバコとシロイヌナズナで行われたNR変異体の相補実験においては、わずかな活性の回復しか見られないことも報告されている。これらの結果は、NR遺伝子の発現制御機構の複雑さを現していると考えられる。今回、シロイヌナズナNR遺伝子のひとつであるNIA1の発現制御機構について形質転換シロイヌナズナを用いた解析を行った。1.9 kbのNIA1プロモーターとGUS遺伝子を用いて作製した融合遺伝子の発現は硝酸によって誘導されず、地上部では葉の排水組織でしか発現が見られなかった。そこで、GUS遺伝子の下流にさらにNIA1のストップコドンから下流の配列をつないだ融合遺伝子を作製した。この遺伝子由来のGUS mRNAのレベルは硝酸によって著しく上昇し、また、硝酸含有培地で育成した場合に葉身で強いGUS活性が見られた。以上の結果により、NIA1の正常な発現にはストップコドンから下流の配列が関わっていることが示された。
  • 佐脇 直哉, 辻本 良真, 執行 美香保, 秋 利彦, 柳澤 修一
    p. 0439
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    無機態窒素は植物の生長に必要な栄養素の一つであるだけでなく、シグナルとして働き、窒素供給は広範囲な遺伝子の発現に影響を及ぼすことが知られている。我々は、イネおける窒素による遺伝子発現制御の分子機構を明らかにするために、マイクロアレイ解析により窒素応答に関わる転写制御因子の探索を行い、硝酸処理によって迅速に誘導される転写因子をコードする遺伝子の候補としてOsMYB-NR1を同定している。今回、MYB-NR1の結合配列を同定するために、大腸菌内で生成させたMYB-NR1を用いたDNA-binding site selection実験を行ったところ、MYB-NR1の結合に必要なコア配列が示唆された。そこで、この配列を35S最小プロモーターとレポーター遺伝子の上流につないだレポータープラスミドと、MYB-NR1及びMYB-NR1とVP16転写活性化ドメインの融合タンパク質の発現ベクターを作製し、トウモロコシのプロトプラストを用いた一過的発現系によりMYB-NR1の転写因子活性について検討した。その結果、融合タンパク質の発現はレポーター活性を著しく上昇させ、MYB-NR1はin vivoでも同定したコア配列に結合しうることが示唆された。一方で、MYB-NR1の発現はレポーター活性を減少させたことからMYB-NR1はリプレッサーとして働いている可能性が考えられた。
  • 田村 亘, 豊川 絢子, 日高 佑典, 田渕 真由美, 小島 創一, 早川 俊彦, 山谷 知行
    p. 0440
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    NADH依存性グルタミン酸合成酵素 (NADH-GOGAT) は、グルタミンと2-オキソグルタル酸から2分子のグルタミン酸を合成する酵素である。イネには、NADH-GOGAT1と2の二つの分子種が存在している。イネの地上部において、NADH-GOGAT1は、主に未抽出葉身や登熟初期の頴花などの若い器官の維管束組織で発現しており、窒素の主な転流形態であるグルタミンの再利用を行っていると考えられている。一方でNADH-GOGAT2は、主に成熟葉身や老化葉身で発現しており、その機能は不明である。そこで、NADH-GOGATのそれぞれの機能分担を明らかとするため、各NADH-GOGAT遺伝子上にTos17が挿入された遺伝子破壊変異体 (nadh-gogat1nadh-gogat2) を獲得し、その生産性や収量を比較した。これらの系統を低窒素施肥水田で育成した場合、Nipponbareと比較してnadh-gogat1は、地上部乾物重や穂数が、nadh-gogat2は、穂重や粒数が減少していた。このことから、二つのNADH-GOGAT遺伝子は、共に窒素の利用や個体の乾物生産、収量に大きな影響を与える遺伝子であるが、それぞれ異なった役割を担っていることが示唆された。
  • 増本 千都, 宮澤 真一, 草野 都, 斉藤 和季, 宮尾 光恵
    p. 0441
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    PEPCは細胞質に局在すると考えられてきたが,イネは葉緑体局在性のPEPC(Osppc4)をもつこと,本酵素が葉身の主要PEPCのひとつであることを報告してきた.本研究では,RNAi法でOsppc4の発現を抑制した形質転換イネを用い,Osppc4の機能を検討した.成長解析により,発現抑制イネでは窒素の取り込み・同化が抑制され,栄養生長期の生育が阻害されることがわかった.この生育阻害は窒素源(硝酸,アンモニア)にかかわらず観察されたが,窒素源がアンモニアのとき顕著だった.またメタボローム解析により,Osppc4の発現を抑制すると窒素同化系(GS/GOGAT経路)への有機酸(炭素骨格)の供給が低下し,GOGAT反応が抑制されることが明らかにされた.以上の結果は,解糖系に加え,イネはOsppc4が関与する独自の有機酸合成系をもつこと,この経路がアンモニアを主要窒素源とする生育環境で主要な炭素骨格供給系として働くことを示している.この経路で合成された有機酸がどこで使われるのか,具体的には,葉肉細胞葉緑体内のGS2/fd-GOGATか,維管束のNADH-GOGATかを検討中である.
  • 前田 真一, 村上 明男, 伊藤 寿, 田中 歩, 小俣 達男
    p. 0442
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    これまでに多くのラン藻の全ゲノム情報が解読され、淡水性ラン藻にはABC型の硝酸イオン/亜硝酸イオン輸送体が存在し、硝酸還元酵素を持つ海洋性ラン藻にはMFS型の硝酸イオン/亜硝酸イオン輸送体が存在することが示されている。また、亜硝酸還元酵素を持つ海洋性ラン藻の中には、緑藻の亜硝酸イオン輸送体や細菌のギ酸イオン輸送体と相同性の高い輸送体をコードしているfocA遺伝子を持つものがいることも示されている。我々はこれまでに、淡水性ラン藻Synechococcus elongatusにはABC型硝酸イオン/亜硝酸イオン輸送体の他にABC型シアン酸イオン/亜硝酸イオン輸送体が存在し、両方のABC型輸送体を欠失させた二重変異株は能動的な亜硝酸イオンの取り込み活性がなくなることを報告してきた。そこで本研究では、この二重変異株に3種類の海洋性ラン藻のfocA遺伝子をシャトルベクターを用いて発現させ、その機能を解析した。その結果、Synechococcus sp. PCC7002のFocA輸送体には亜硝酸イオン輸送活性があり、そのKm(NO2-)値は、8μMであることが示された。またこのFocAの亜硝酸イオン輸送活性は、硝酸イオン、シアン酸イオン、ギ酸イオンによって競合阻害を受けず、亜硝酸イオン特異的であることが明らかとなった。
  • 柳 克幸, 杉本 貢一, 松井 健二
    p. 0443
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    マメ科植物では窒素供給量が根粒着生に影響する。また、外因性のジャスモン酸(JA)がミヤコグサの根粒着生を抑制することが報告されたが、ダイズではJA誘導性のVSP遺伝子発現が窒素負荷で誘導されることも示されている。これらのことから、窒素負荷によるJA量の変化が根粒着生制御に関与する可能性が示唆された。本研究では、根粒着生における窒素供給量とJA生成量の関係を遺伝子レベルで解明することを目的とした。
    根粒菌の植菌直後と植菌2週後の土壌中の硝酸濃度を50 μM、または5 mMとし、植菌3週後の根粒数及びヘムb量を測定した。その結果、植菌後50 μM硝酸で3週間生育させると最も多くの根粒着生がみられ、ヘムb量も高かった。これに対して、植菌2週後に土壌中の硝酸濃度を5 mMに上げると根粒数、ヘムb量ともに減少した。これらのことから、窒素供給量がミヤコグサの根粒着生数やレグヘモグロビン量を制御していることが明らかとなった。
    次に窒素供給量とJA生合成系の関係を明らかにするために、JA生合成鍵酵素であるアレンオキシドシンターゼ(AOS)様遺伝子をESTデータベースから見出した。当該遺伝子は大腸菌発現による機能解析からAOSと同定した。根粒菌植菌後に土壌中の硝酸濃度を変え、AOS発現量の経時変化を測定したが、ミヤコグサAOS発現量は土壌中の硝酸濃度の変化に対して顕著な違いを示さなかった。
  • 豊田 歩, 市橋 康範, 近藤 香苗, 中 辰元, 吉村 久, 上野 薫, 南 基泰, 小俣 達男, 小田原 卓郎, 那須 守, 米村 惣太 ...
    p. 0444
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    モウセンゴケ属植物は一般に貧栄養湿地に生育するが,中部大学内の自生地9箇所の水質を調べたところ,モウセンゴケ(Dr)自生地は硝酸イオン濃度3μM以下であったのに対し,トウカイコモウセンゴケ(Dt)自生地は1~200μMで平均50μMと比較的富栄養であった.Dtの両親種であるDrとコモウセンゴケ(Ds)は単一系統に属し,モウセンゴケ属内で近縁な関係であるので,これら3種について窒素濃度と生育の関係を比較した結果,KNO3 1mM以下の培地では3種共良好に生育したが,15mMでは3種共地上部が枯死し,5mMではDrよりDsDtの生育が良好であった.窒素源を(NH4)2SO4とすると葉の伸長は良好になったが,生存個体数については硝酸培地の場合と同様の結果であった.一方,15mMKCl培地では3種とも良好な生育を示したので,KNO3培地での生育不良の原因が塩ストレスでないことが示された.このことから,3種のモウセンゴケ属植物は硝酸態窒素よりアンモニア態窒素をやや好み,いずれも高濃度の窒素により生育が阻害されるが,Drが特に窒素感受性が高く,Dt,Dsは比較的強い窒素耐性をもつことが明らかとなった.このことは,Dtの窒素耐性がDsの形質を受け継いだものであることを示唆した.今後は,Dt,DsDrの窒素感受性の差異の原因を解明するために窒素同化関連酵素の性質等を解析する.
  • 玉置 祥二郎, 辻 寛之, 島本 功
    p. 0445
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    イネは短日条件において花成が促進する短日植物で、この花成促進には花成促進遺伝子Hd3a が重要であることが明らかとなっている。Hd3a 遺伝子は短日条件下のイネの葉身の維管束で特異的に発現し、タンパク質へと翻訳される。このタンパク質は維管束を通って茎頂分裂組織へと到達し、花成を促進していることが明らかになっている。これまで我々は維管束特異的な活性を持つ Hd3a のプロモーターの制御下でHd3a-GFP を発現する形質転換体イネを作成し解析を行ってきた。この形質転換体は早咲き表現型を示すことが明らかとなっており、さらに茎頂分裂組織を共焦点レーザー蛍光顕微鏡により観察したところ、GFP蛍光が茎頂分裂組織において観察された。しかしながら、維管束で発現したHd3aが茎頂分裂組織のどこに局在し機能しているかを詳しく示した知見はほとんどない。そこで、この形質転換体を用いて茎頂分裂組織の生育ステージごと、特に栄養生長期後期から生殖生長期初期におけるHd3a-GFP融合タンパク質の局在を観察し、また茎頂分裂組織においてHd3a-GFPと相互作用するタンパク質について解析を試みることで新たな知見を得たいと考えている。また、Hd3aにより発現が制御される遺伝子の発現部位も確認することを試みている。今回はこの解析により得られた成果について紹介する。
  • 辻 寛之, 田岡 健一郎, 大木 出, 山口 緑, 大垣 友香, 児嶋 長次郎, 島本 功
    p. 0446
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    フロリゲンは、植物が花芽形成に適した環境を感知すると葉で合成され、茎頂へ移動し花成を誘導する因子として、約70年前に提唱された。その実体は長く謎であったが、近年の分子遺伝学的解析から、Hd3a/FTタンパク質がフロリゲンの分子実体であることを強く示唆する結果が得られている。これまでの知見から、フロリゲンが茎頂において花メリステム遺伝子の発現を活性化させるためには、bZIP型転写因子FDと相互作用することが重要であることが示されている。そこで私たちは、イネからFDホモログを単離しその機能を解析した。イネゲノム中には少なくとも6つのFDホモログがコードされていた。これらのうちOsFD1は分子系統樹上でFDにもっとも近縁なグループに属し、またトウモロコシの遅咲き変異体の原因遺伝子Dlf1のオーソログであった。Hd3aとOsFD1は、イネ細胞内の核において相互作用した。OsFD1はFD同様C末端側にリン酸化されると考えられるセリン残基をもっている。このセリンをリン酸化されないアラニンに置換した変異型OsFD1はHd3aと相互作用できず、過剰発現しても表現型を示さなかった。一方で、リン酸化状態を模倣するグルタミン酸に置換した変異型OsFD1は過剰発現により開花促進できることが分かった。
  • 田岡 健一郎, 島田 千尋, 柳瀬 朋子, 大木 出, 辻 寛之, 児嶋 長次郎, 島本 功
    p. 0447
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    フロリゲンは、日長変化に応じて葉で合成され、篩管を通って茎頂に運ばれ、花成をひきおこすホルモンとして提唱されたが、その分子実体は長い間不明であった。しかし、近年の分子遺伝学的解析からイネHd3a (シロイヌナズナFT)タンパク質がフロリゲンであることが強く示唆された。Hd3a/FTや、それらと拮抗的に働くRCN/TFL1タンパク質は、生物界で広く保存されているPEBPファミリーに属するが、花成制御における分子機能はいまだ不明の点が多い。そこで、本研究ではHd3aの変異解析を行い、その分子機能の理解を目指した。
    これまでに知られている植物PEBP遺伝子の変異アリルや植物PEBPタンパク質ファミリー間のアミノ酸保存度や立体構造情報を基に種々の変異Hd3a遺伝子を作製し、それらを発現ベクターに導入した。そして、それらの変異Hd3aタンパク質とHd3a相互作用因子との相互作用強度をY2H法で検討した。また、イネ培養細胞を用いた一過的発現系を用いて、変異Hd3aタンパク質による転写活性化能を検定した。その結果、イネGF14やイネFDとの相互作用領域、標的遺伝子の転写活性化に影響する領域が同定された。以上の結果を基にフロリゲンの花成促進作用の分子機構について議論する。
  • 大木 出, 林 こころ, 古板 恭子, 深田 はるみ, 田岡 健一郎, 辻 寛之, 島本 功, 児嶋 長次郎
    p. 0448
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    フロリゲンは、花芽形成に適した日長におかれた植物の葉において作られ、茎頂に運ばれることにより花成を促進する花成ホルモンとして約70年前に提唱された物質である。近年、その実体がHd3a/FTタンパク質であることを強く示唆する結果が得られているが、Hd3a/FTによる花成制御機構にはいまだ不明な点が多い。そこで、本研究ではイネフロリゲンタンパク質Hd3aおよびその相互作用因子の立体構造解析を行い、その分子機能の構造的基盤の解明を目指した。
    Hd3aタンパク質は大腸菌による通常の調製法では収量が少なく、構造決定が困難であった。そこで大腸菌を用いた新規低温発現系pCold-GSTシステムを開発し、Hd3aタンパク質の収量を大幅に向上させることに成功した。精製されたHd3aタンパク質を用いて構造解析を行い、立体構造決定に成功した。さらにYeast Two-Hybrid法によって同定されたHd3a相互作用因子について、NMR法、等温滴定型熱量計、GSTプルダウン法を用いて相互作用解析を行った。これらの結果から得られたフロリゲンタンパク質による新たな花成制御メカニズムについて議論する。
  • 高橋 靖幸, 手島 康介, 横井 修司, 印南 秀樹, 島本 功
    p. 0449
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    イネは約8000年にわたる栽培化および農業育種の過程により様々な遺伝的な変化を生じた。このうち花成時期の多様化は本来熱帯性の植物であるイネにおいて稲作地域の拡大や育種技術の発展に貢献した重要な形質の一つである。これまでの分子遺伝学的解析から、イネにおける短日条件下での花成誘導に関わる様々な因子が同定され、その制御機構に関する知見が多く蓄積されてきた。しかしその反面、栽培イネが品種間で示す多様な花成時期をもたらす分子的な原因については知見が乏しかった。そこで我々はこれまでに、64品種からなるイネコアコレクションを用い、花成時期の多様性をもたらす原因の同定を試みた。この結果、Hd3aの発現量と花成時期の間に品種間で強い相関関係があることを見出した。さらにイネ品種間でのHd3aの発現量の違いはその上流因子のHd1における塩基多型が主な原因である事を明らかにした。
    この結果を踏まえ、我々は現在イネの祖先野生種(Oryza rufipogon)を用いた比較解析を行う事で、分子遺伝学的な観点から栽培化に伴う花成時期の多様化の変遷に注目している。これまでに代表的な祖先野生種におけるHd1のシークエンス解析を行った結果、栽培イネで見られたような機能欠損変異は見出されなかった。イネの栽培化過程において花成時期の多様化がどのような役割を果たしたのかを、これまでの報告とあわせて考察したい。
  • 伊藤 博紀, 野々上 慈徳, 矢野 昌裕, 井澤 毅
    p. 0450
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    イネをはじめとする多くの短日植物は、花芽形成するかしないかの限界日長が厳密に設定される特徴を示すが、その分子機構は明らかとなっていない。
    我々は、イネのフロリゲンHd3a遺伝子の発現が、30分の日長の短縮により急激に誘導されるという、いわゆる限界日長による制御を受けることを報告する。このHd3aの発現は開花促進因子Ehd1に制御されると考えられた。活性型フィトクロムを欠損し日長非感受型早咲きを示すse5とその早咲き抑制変異体で時計構成因子OsGIを欠損するse5osgi-1二重変異体の解析から、Ehd1の発現は、青色光で転写誘導を受け、また、概日時計の制御で、主観的な朝に強く誘導されるという日長に影響されないゲート効果を示すことを明らかにした。(ゲート効果:光等の環境刺激への感受性が概日時計の位相の影響を受ける現象)一方で、野生型のEhd1の青色光による転写誘導は、長日条件および短日条件での赤色光の光中断により抑制された。この抑制には、フィトクロムを介した開花抑制因子Ghd7の転写誘導が必須であり、さらに、その光信号に対する転写誘導能は、長日条件では朝の、短日条件では真夜中の光によりピークとなるような日長で影響されるゲート効果を持つことを明らかにした。以上の結果を踏まえ、Hd3aの限界日長による転写制御がEhd1Ghd7の発現制御を介してどのように起こるのかを考察する。
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