日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第51回日本植物生理学会年会要旨集
選択された号の論文の1055件中451~500を表示しています
  • 花野 滋, 後藤 弘爾
    p. 0451
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナTERMINAL FLOWER 1 (TFL1) は、花成を遅延させ、花序メリステムを維持する働きを持つ。一方、TFL1とアミノ酸配列が59%保存されているFLOWERING LOCUS T (FT) は、花成を促進させる。これらのタンパク質は花成制御に関与するbZIP転写因子FDおよびFD PALALOG (FDP) に結合し、FTはFD依存的な転写を活性化することが示唆されている。しかし、TFL1が花成を制御するメカニズムについてはほとんど明らかにされていない。そこで、我々はTFL1の分子機能を明らかにするために、転写活性化ドメインや転写抑制化ドメインを融合したTFL1タンパク質をシロイヌナズナに導入し過剰発現させた。その結果、転写抑制化ドメインを融合したTFL1の過剰発現体は、TFL1の過剰発現同様、遅咲きの表現型を示した。一方、転写活性化ドメインを融合したTFL1の過剰発現体は早咲き、ターミナルフラワーの表現型を示した。これは、TFL1本来の機能が転写活性化ドメインの融合により阻害されたためと考えられる。即ち、TFL1は本来花成遺伝子の転写抑制に機能していることが明らかになった。本発表では、TFL1により制御を受ける可能性のある花成遺伝子の発現についても報告する。
  • 吉田 昌泰, 野田口 理孝, 大門 靖文, 阿部 光知, 遠藤 求, 荒木 崇
    p. 0452
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナでは外的要因(日長、光質、温度など)および内的要因(齢、大きさなど)により、葉の維管束篩部で FLOWERING LOCUS T (FT) 遺伝子が発現する。FT 蛋白質は篩管を通って長距離輸送され、茎頂において bZIP 型転写因子 FD 蛋白質と相互作用し、花芽形成に重要なAP1 など下流遺伝子を制御する。これらから FT 蛋白質は長距離伝達性の花成シグナル(フロリゲン)であるとされる。しかし、これまでの研究では FT 蛋白質の葉から茎頂への長距離移行の時間的側面や輸送の制御機構は解明されていない。
    FT 蛋白質の長距離輸送を確認するため、われわれは熱ショック蛋白質プロモーターの制御下で、一過的に局所で FT 蛋白質の発現を誘導する系を用いた。本来の発現部位である葉身において FT 遺伝子を一過的に発現させ、茎頂に到達した蛋白質の検出を試みることで、FT 蛋白質は葉で発現後、どれくらいで葉を脱出し、茎頂に到達できるかについて検証できる。また、生理学的実験から、花成時期と茎頂に到達した FT 蛋白質の量の関係についても情報が得られる。
    さらに、FT 蛋白質内で長距離伝達性に重要な部位を網羅的に探索するため、1アミノ酸残基を改変した FT 蛋白質を用い、同様の実験系で花成時期の計測及び、茎頂での FT 蛋白質の検出を行っている。
    以上の結果について報告する。
  • 丹羽 優喜, 平岡 和久, 大門 靖史, 遠藤 求, 荒木 崇
    p. 0453
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    長日植物であるシロイヌナズナでは、長日条件下において葉の維管束篩部でFT遺伝子が発現し、茎頂に移動したFT蛋白質がbZIP型転写因子FDと相互作用してAP1などの下流遺伝子の転写を制御することによって花の形成を開始させると考えられている。しかし、遺伝学的研究などの知見から、FT蛋白質の花成促進機能はFD蛋白質に完全には依存しないと考えられる。また、花成に伴って、花の形成開始だけでなく、植物体全体で様々な変化が起こるが、そうした変化とFT蛋白質の関わりは明らかになっていない。われわれはこれまでに、酵母ツーハイブリッド法およびBiFC法を用いて、FT蛋白質と相互作用する因子として、新たにTCP転写因子群に属する蛋白質を同定した。この中には、細胞分裂や増殖、葉の形態、側芽の伸長に関わることが報告されているTCP転写因子が含まれており、これらのTCP転写因子が花成に伴う様々な変化に関わっている可能性がある。現在われわれは、花成に伴う変化におけるTCP遺伝子の機能解明を目的として研究を行っている。TCP18(BRC1)は、側芽の形成・発達を抑制するという報告があることから、FT蛋白質がTCP18との相互作用を介して側芽の発達に寄与する可能性が考えられる。側芽の発達を中心に、花成に伴う様々な変化を引き起こす分子機構について、tcp変異体及びft変異体の解析から得られた結果を報告する。
  • 井村 有里, 小林 恭士, 山本 純子, 大門 靖史, 古谷 将彦, 阿部 光知, 田坂 昌生, 荒木 崇
    p. 0454
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    crp-1D(cryptic precocious-1D)変異体はFT過剰発現体の花成早化表現型を昂進する優性変異体として単離された。crp-1D単独変異体は野生型よりわずかに早咲き表現型を示す。crp-1D変異は茎頂または維管束でFTを異所発現させた植物の早咲き表現型に対しても昂進作用を示すのに対し、crp-1D変異体とft機能欠損変異体ft-2との二重変異体はft-2と同程度の遅咲き表現型を示した。これらの結果より、crp-1DFTによる花成促進経路で花成を正に制御する可能性がある。CRP遺伝子は転写メディエーター複合体キナーゼドメインのサブユニットMed12に相当するタンパク質をコードする。crp-1Dがキナーゼドメインの中で花成促進にはたらく可能性を検討するために、同じドメインのMed13機能欠損変異体med13crp-1Dとの二重変異体を作出したところ、crp-1D;med13med13と同程度の遅咲き表現型を示した。さらに、35S::FT;crp-1Dの極早咲き表現型はmed13によって抑制された。これらのことから、crp-1Dの花成促進効果はMed13に依存しており、メディエーター複合体機能を介するものであると考えられる。これらのcrp-1Dの表現型をふまえ、crp機能欠損変異体を用いてCRP遺伝子と花成関連遺伝子との関連について現在解析を進めている。
  • 遠藤 求, 村上 匡史, 谷川 善康, 鈴木 友美, 荒木 崇, 長谷 あきら
    p. 0455
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    植物の栄養生長から生殖生長への転換において、光は最も重要な環境シグナルである。シロイヌナズナにおいてはフィトクロム(phy)、クリプトクロム、フォトトロピンなどの光受容体が知られており、フィトクロムB(phyB)は、花成の促進因子であるFLOWERING LOCUS T (FT)とそれに続くSUPPRESSOR OF OVEREXPRESSION OF CO 1 (SOC1)の発現を抑制することで、花成を制御していることが知られている。phyBは転写を制御することで下流にシグナルを伝えていると考えられているが、その具体的な仕組みは明らかにされていない。
    今回、phyBによる花成制御に関わると考えられる新奇因子としてPHLを同定した。phl変異体は長日条件、短日条件ともに遅咲き表現型を示しFTSOC1の発現が減少していたが、その表現型はphyBに依存したものであった。さらに、PHLタンパク質は核局在で、phyBと物理的に相互作用することが明らかになった。本発表では、phyBによる花成制御のシグナル伝達経路におけるPHLの想定される役割について議論する。
  • 宇山 和樹, 宮下 結衣, 辻井 由香, 大門 靖史, 遠藤 求, 石崎 公庸, 大和 勝幸, 福澤 秀哉, 河内 孝之, 荒木 崇
    p. 0456
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの LFY は、花芽分裂組織決定に重要な遺伝子であり、主としてMADS-box遺伝子の発現を正に制御する。 FLO/LFYは有胚植物(陸上植物)のみに存在する、植物に特有の転写因子である。われわれは、これまでに、FLO/LFYの祖先的な機能を明らかにすることを目的として、有胚植物の中で最も基部で分岐したと考えられている苔類に属するゼニゴケの FLO/LFY 相同遺伝子( MpLFY )の単離を行い、機能解析を進めてきた。
    まず、 MpLFY の過剰発現株、ノックダウン株を作出し、表現型の解析を進めている。これまでに過剰発現体においては、矮化や仮根の増加など様々な形態異常がみとめられた。
    MpLFYのプロモーター領域を単離してレポーター株を作出した。 in situ ハイブリダイゼーション法による発現解析と合わせて詳細な空間的発現パターンの解析を行う予定である。
    これらに加えて、グルココルチコイド受容体(GR)融合タンパク質(MpLFY:GR)によるMpLFY活性誘導株の作出を行い、デキサメタゾン処理により様々な形態異常が誘導されることを確認した。ESTデータベースに基づいてマイクロアレイを作成し、MpLFY:GR 株を用いてMpLFYの転写標的の網羅的な探索を行った。現在、得られた候補について、詳細な解析による絞込みを行っている。
  • 熊崎 茂一, 吉田 隆彦, 藪田 光教, 長谷川 慎, 寺嶋 正秀, 池上 勇
    p. 0457
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    酸素発生型光合成生物のチラコイド膜中における光合成光化学反応の状態は蛍光量子収率で推定可能であり、パルス変調蛍光測定に代表される方法で活発に利用されている。しかしながら、高解像の光学顕微鏡の下で、チラコイド膜の示す生理的情報を最大限に引き出す方法についてはなお、模索の余地があるのではないかと思われる。我々は、蛍光スペクトルおよび吸収スペクトルを高解像の顕微鏡下で高速に取得できる計測システムを開発し、光合成膜の形状と蛍光量子収率の同時測定に成功した。シアノバクテリア(Anabaena variabilis)と緑藻(Chlorella kessleri)の測定例を報告する。
    用いた測定システムは二光子励起蛍光スペクトル顕微鏡(Kumazaki et al., 2007, J. Microsc.)において、ハロゲン照明光をフィルターホイールで単色化し、11色の波長領域で透過率を求めることにより吸収スペクトルが測定できるように改良を行ったものである。これにより、細胞内のクロロフィル蛍光の強度とクロロフィル濃度が同時に測定されるので、クロロフィル濃度と相対蛍光量子収率の差異が推定可能となる。
    光合成による独立栄養生育させた細胞と有機栄養を添加した培地で成育させた細胞の間で比較を行った結果、チラコイド膜の3次元分布の差異とともに相対蛍光量子収率の差異を系統的に見出した。
  • 柴田 穣, 奥井 伸輔, 中川 義章, 田原 由香里, 伊藤 繁
    p. 0458
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    光依存型のクロロフィル(Chl)合成系を持つ被子植物は、暗所で発芽させるとChlが蓄積されず黄化する。黄化葉に光照射することで、速やかにChlの合成が開始され数時間後には光合成が可能となる。しかし、緑化過程で合成されたChlが光化学系やアンテナ系のタンパク質にどのように組み込まれていくか、これまでほとんど明らかにされていない。我々は、Chlが光合成系タンパク質へ組み込まれる際の中間体を同定し、その物理化学的な性質を明らかにすることを目指し、緑化途上のZea mays葉においてストリークカメラを用いたピコ秒時間分解蛍光測定を行ってきた。ストリークカメラでは、サンプルからの蛍光を波長、時間に依存した2次元のイメージデータとして取得できる。緑化途上の葉での測定結果を単離した光化学系I、IIでの結果と比較することで、緑化開始後どの段階で系I、IIが蓄積するかを明らかに出来る。また、系I、IIのどちらとも異なる2次元蛍光パターンを示す蛍光成分を光化学系構築過程の中間体として同定し、そのエネルギー移動を分析することも可能となる。測定の結果、光化学系構築過程の中間体と考えられる2次元蛍光パターンを示す成分が緑化開始1~2時間に現れることを明らかにした。観測された蛍光パターンには800 psという遅いエネルギー移動を示す成分があり、ある程度組織化された色素配置となっていることを示唆している。
  • 溝口 正, 木村 ゆうき, 杉山 純也, 一井 京之助, 民秋 均
    p. 0459
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    クロロフィル-c(Chl-c)は、酸素発生型光合成を行う藻類などに幅広く分布し、補助集光機能を担う色素と考えられている。Chl-cは、ポルフィリン骨格を有し、その17位にアクリレート残基(17-CH=CH-COOH)が結合しているのが特徴である。また、その7,8-位の置換基によりChl-c1 (7-methyl,8-ethyl)、Chl-c2 (7-methyl,8-vinyl)、Chl-c3 (7-methoxycarbonyl,8-vinyl)など数種類の類縁体が存在する。これまでに我々は、珪藻由来のChl-c1及びChl-c2に対して、NMR・CD・キラルHPLCを用いて詳細な立体構造解析を行ってきた。本研究では、円石藻の一種であるEmiliania huxleyiからChl-c3(Chl-c2も含む)を単離・精製し、まずその立体構造解析を行った。Chl-c1、Chl-c2と同様に、17位のアクリレート残基の回転異性構造としてcisoid構造を有すこと、エナンチオマー型光学異性構造として(132R)-構造を有すことが確認された。Chl-c類におけるエナンチオ選択性を一般化するために、他の光合成生物についても解析を行った。以上の立体構造解析に加え、周辺置換基の違いによるChl-c類の蛍光発光量子収率への影響も検討したので併せて報告する。
  • 高橋 俊介, 原田 二朗, 國枝 道雄, 大岡 宏造, 民秋 均
    p. 0460
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    バクテリオクロロフィル(BChl) cは緑色光合成細菌がもつアンテナ集光色素であり、クロリン環の20位にメチル基を有している点でBChl dと分子構造が異なる。生体内ではメチル基転移酵素であるBchUが、メチル基供与体であるS-アデノシル-L-メチオニンのメチル基を色素の20位へ転移させる。我々はBchUの立体構造解析を行ってきたが、色素結合部位の詳細な構造情報を得ることができなかった。本研究では、BchUの色素認識機構を調べるために、有機合成的に調製した様々な色素を基質に用い、in vitroでの反応解析を行った。使用した緑色光合成細菌Chlorobaculum tepidum由来のBchUは、大腸菌内で大量発現させることにより調製した。すでに我々はバクテリオクロロフィリド d誘導体の20位がメチル化されることを報告しているが、今回、クロロフィリド a誘導体を基質にした場合には20位のメチル化が生じなかった。バクテリオクロロフィリド d誘導体は、(プロト)クロロフィリド aから生成すると考えられている。上記の結果は、生体内でのBChl c合成ブランチはバクテリオクロロフィリド d誘導体が出発物質であり、BchUがこのブランチでのみ働くことを強く示唆している。他の色素を用いた反応速度論的解析も合わせて報告し、BchUの色素認識に関わる反応部位の分子構造について議論する。
  • 伊佐治 恵, 溝口 正, 一井 京之助, 民秋 均
    p. 0461
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    自然界におけるほぼ全てのクロロフィル(Chl)色素は、17位にプロピオネート型の長鎖エステル基を持っている。このエステル置換基はChlのπ共役系と結合していないため、Chlの吸収特性に直接の関与はしていない。そのため、π共役系と結合している他の側鎖と比べると、さほど注目されてこなかった。しかし、この疎水性のプロピオネート基は、光合成器官を構成するChl色素とペプチドとの複合体構造安定化に、重要な役割を果たしていると考えられている。Chl-aの生合成最終段階において、プロピオネート残基のゲラニルゲラニル(GG)基上の4つのC=C二重結合のうち3つが還元される。つまり、ジヒドロゲラニルゲラニル(DHGG)基とテトラヒドロゲラニルゲラニル(THGG)基を経て、フィチル基を持つChl-aが生合成される。我々は中心目珪藻Chaetoceros calcitransにおいて、このようなエステル鎖の構造の異なるChl-aの前駆体が蓄積していることを見出し、それらの分子構造を、質量分析および1H / 13C NMR を用いて決定した。DHGGエステル体ではC10-C11位に、THGG鎖はC6-C7とC10-C11位に単結合を有していた。Chl-aのDHGG鎖は、 最近構造決定されたBChl-aのものとは二重結合の位置が異なっていることが分かった。
  • 原田 二朗, 溝口 正, 宮郷 正平, 古園 英一, 浅井 智広, 民秋 均, 大岡 宏造
    p. 0462
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    緑色硫黄細菌の反応中心内には、C-17位の側鎖としてΔ2-フタエニル基=フィチル(P)基をもつバクテリオクロロフィル(BChl) aPとΔ2,6-フタジエニル(PD)基をもつクロロフィル(Chl) aPD の2種類の色素が存在する。これらの側鎖は、Δ2,6,10,14-フタテトラエニル基=ゲラニルゲラニル(GG)基を前駆体とし、二重結合が順次還元されて合成される。昨年度までに、緑色硫黄細菌Chlorobaculum tepidumのGGR遺伝子欠損株がBChl aGGとChl aGGを蓄積したことから、このGGRが両方の色素のGGの還元に関与することを報告した。今回、その欠損株にシアノバクテリアと紅色細菌のGGR遺伝子(それぞれchlPbchP )を導入し、色素組成の解析を行った。chlP 導入株においてはChl aPとBChl aPに加え、前駆体BChl aGGからの還元過程で生じる中間産物の蓄積が検出された。中間体の解析からBChl aGGが還元される順番は、紅色細菌においてBChl aGGが還元される順番と同じであることが分かった。一方bchP 導入株ではChl aPとBChl aPに加え、前駆体Chl aGGの還元中間産物が検出された。しかしながらChl aに結合したGGは、BChl aGGとは異なる順番で還元されていた。発表では異なる種のGGR還元特性について議論する。
  • 田中 一徳, 飯田 聡子, 横野 牧生, 村上 明男, 秋本 誠志
    p. 0463
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    渦鞭毛藻Symbiodiniumは、光合成色素としてChl a、Chl c2とカロテノイドの一種、ペリジニンを持つ酸素発生型光合成生物である。今回我々は、渦鞭毛藻Symbiodiniumにおける光捕集とエネルギー伝達について、時間分解蛍光分光法により検討を行った。蛍光減衰曲線および時間分解蛍光スペクトルは、時間相関単一光子計数法により測定した。室温で測定した時間分解蛍光スペクトルは時間変化を示さず、680 nm にピークを持つChl aからの蛍光が観測された。これは、Chl c2やペリジニンからChl aへのエネルギー移動は数ピコ秒以内に起こり、熱平衡状態が形成されていることを示している。一方、77 Kでは弱いながらもChl c2からの蛍光が645 nmに観測された。この蛍光は40 psの時定数で減衰し、対応する蛍光の立ち上がりがChl a蛍光に観測された。77 Kにおいて、Chl c2からChl aへのエネルギー移動が40 psで起こっていることが確認された。講演では、Chl a間でのエネルギー移動過程やペリジニンからChlへのエネルギー移動過程についても考察を行う。
  • 大西 紀和, 高橋 裕一郎
    p. 0464
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    ステート遷移は、光合成電子伝達反応を駆動する光化学系I(PSI)と光化学系II(PSII)の間の励起エネルギー分配を調節する機構である。PSIの外縁部に存在するサブユニットの一つであるPsaLはおよそ15kDaのポリペプチドであり、シロイヌナズナではステート遷移に関与すると報告されているが、機能の詳細は不明のままである。本研究では、PsaLのステート遷移における役割を明らかにするために、高等植物に比べてステート遷移活性の高い緑藻クラミドモナスからRNAiによるPsaLノックダウン株を作製し、解析を行った。PsaLタンパク質の蓄積量が3%未満に減少したPsaL-RNAi株の、他のPSIタンパク質の蓄積量をウェスタン解析により調べたところ、PsaHの蓄積量のみがおよそ10%に低下していた。PsaL-RNAi株の細胞をステート1および2の誘導条件下で培養し低温蛍光スペクトルを測定したところ、ステート1ではcw-15(コントロール株)と差が無かったが、ステート2ではPSIの蛍光収率が大きく低下しており、ステート2の誘導の効率が著しく低下していることが示された。従って、クラミドモナスでもPsaLとPsaHの両方、もしくは一方がステート遷移において重要な役割を果たしていると結論された。PsaL-RNAi株におけるPSI-LHCI/II超分子複合体の形成についても、合わせて報告する予定である。
  • 小澤 真一郎, 松村 拓則, 高橋 裕一郎
    p. 0465
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    植物や藻類の光化学系I(PSI)複合体は、集光性クロロフィルタンパク複合体I(LHCI)を結合し、PSI-LHCI超分子複合体(PSI-LHCI)を形成する。高等植物では6種類のLHCI遺伝子が存在し、PSIに4から5コピーのLHCIサブユニットが結合している。近年報告されたアラスカ豆のPSI-LHCI のX線結晶構造解析では、4つのLHCIがPSI複合体に結合していた。これに対して緑藻クラミドモナスでは、PSI-LHCIには9種のLHCIサブユニットが存在するが、電子顕微鏡による構造解析ではLHCIサブユニットは6から11コピー存在すると報告されている。本研究ではクラミドモナスのLHCIサブユニットのコピー数を生化学的に求めたので報告する。クラミドモナスの全タンパク質を14Cでラベルし、チラコイド膜を単離しドデシルマルトシドで可溶化後、ショ糖密度勾配超遠心法によりPSI-LHCIを精製した。LHCIポリペプチドは近接して分離されるので、単一のバンドまたはスポットに単一のタンパク質が分離されるように電気泳動の条件を最適化した。泳動後、14Cの放射線をラジオルミノグラフィーで検出後、シグナル強度をタンパク質の炭素数で除した値から、PSI複合体のサブユニットに対するLHCIサブユニットの量比を求めた。得られた定量結果とLHCIの構造について議論する予定である。
  • 高橋 拓子, 高橋 裕一郎
    p. 0466
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    ステート遷移は、光化学系I(PSI)とII(PSII)の励起のバランスを保ち、電子伝達反応を効率化する機構である。これまでに我々は、ステート2ではPSIIの集光性複合体(LHCII)の一部であるCP26, CP29, Lhcbm5がPSI-LHCI複合体に可逆的に結合し、PSI-LHCI-LHCII(PSI-LHCI/II)超分子複合体を形成することを報告した。本研究では、PSI-LHCI/II超分子複合体に結合するLHCIIの量と機能について解析を行った。単離したPSI-LHCI複合体のP700光酸化量を分光学的に求めると、P700あたりのクロロフィル量はおよそ280であり、PSI-LHCI/IIではPSI-LHCIの約1.25倍に増加していた。また、閃光強度に依存したP700の光酸化の飽和曲線の解析から、PSIに結合するLHCIIがアンテナとして機能していることが示された。さらに蛍光色素によるポリペプチド染色および14Cによるタンパク質ラベル実験により、PSI-LHCI/II超分子複合体を構成するPSIサブユニットとLHCIIサブユニットの量比について解析を行った。その結果、CP26が約1.2コピー、CP29とLhcbm5が約2コピーずつPSIに結合していることが示された。
  • 今野 雅恵, 須田 裕介, 平塚 奏太郎, 伊藤 公祐, 井上 康則
    p. 0467
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    シトクロムc553(Cyt c553)は、シアノバクテリアにおいて、b6-f複合体から光化学系I(PSI)への電子伝達に働いている。T. elongatus由来精製PSI複合体の光合成活性測定はウシ心筋Cytcを電子供与体に用いると、DCIPの15倍程度まで活性が上昇した。そこで、電子供与体にT.elongatus Cyt c553を用いるために、大腸菌でのCyt c553発現系を構築した。T.elongatusのCytc553をコードする遺伝子であるtll1283を改変して、N末端側シグナル配列を除き、C末端側にトロンビン切断配列とHisタグを付加できるような融合遺伝子を作製した。この遺伝子を大腸菌内でシトクロム成熟遺伝子群CcmABCDEFGHと共発現させることにより、ペリプラズム画分にCytc553の大量発現がみられ、Niカラムを用いて精製することができた。大腸菌を用いたCytc精製において、ヘムが付加されないことが見うけられるが、吸収スペクトルの測定結果より、精製したCyt553にヘム鉄が付加されたことが確認できた。また、精製Cytc553を電子供与体に用いて精製PSIの酸素吸収活性を測定したところ、同一濃度でウシ心筋由来Cytcの10倍ほど高い酸素吸収活性が見られた。
  • 伊藤 史紘, J.S.S. Prakash, 白岩 善博, 鈴木 石根
    p. 0468
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    ラン藻 Synechocystis sp. PCC 6803の光化学系II複合体(PSII)のプロテオミクスにより、菓子野らはPSIIとともに複数の機能未知タンパク質が精製されることを見出している。そのうちの一つのSll1252は、植物を含む全ての光合成生物のゲノムにホモログ遺伝子が保存され、PSIIの機能に重要な役割を果たしていることが予想された。
    Sll1252欠損株は弱光下では生育できるが、強光条件に対する耐性が著しく低下していた。PSIIの活性(H2O →PBQ)と呼吸活性は野生株と同程度であったが、全体の電子伝達活性( H2O →CO2)は低下していた。DNAマイクロアレイ解析の結果、Sll1252欠損株はDBMIBによる阻害時と極めて類似した遺伝子発現プロファイルを示したこと、欠損株のPQ-poolの還元レベルが野生株と比較して高かったことから、Sll1252はPQを介したPSIIからCytb6/fへの電子伝達に何らかの関わりを持つことが示唆された。また野生株にsll1252遺伝子を挿入し、コピー数を増やすと全体の電子伝達活性が増加し、増殖速度も野生株の1.5倍となった。しかし、呼吸速度は変化しなかった。これらの結果はSll1252が光合成電子伝達において重要な役割を果たすことを示唆している。
  • 石田 智, 森田 健一, 佐藤 文彦, 遠藤 剛
    p. 0469
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    光化学系II(PSII)アンテナで吸収された光エネルギーは電子伝達系により炭酸固定に必要なエネルギーの生産に用いられる他、熱や蛍光として放散される。イネ(日本晴)において熱や蛍光として放散される割合は20-70%に上り、エネルギー放散経路とその割合を特定することがイネの光合成機能増強を検討するうえで重要となる。現在、PAMクロロフィル蛍光法を用いた2種類のエネルギー分配率の推定法が主に提唱されているが、両者とも生化学的な裏づけが不十分で一般に認知されたとはいえない。
    本発表では、(1)キサントフィルサイクルに依存した熱放散系を消失させたイネRNAiラインを用いた解析により、PSIIアンテナで吸収された光エネルギーから、PSIIアンテナ熱放散系、キサントフィルサイクルに依存した熱放散系、PSII内熱放散系、電子伝達系の4経路への分配率を簡便に推定する方法の確立と、同手法を用いた(2)水田におけるイネの日周変化による光ストレスおよびエネルギー分配率の測定結果を報告する。特に、キサントフィルサイクルに依存した熱放散量の指標としてNPQ(=(Fm-Fm’)/Fm’)を用いた場合、両者が比例関係にないために強光下で高く見積もられる傾向にあることを示すとともに、キサントフィルサイクルに依存した熱放散系の定量にはNPQ-TD(=Fo’/Fm’-Fo/Fm)を用いる必要があることを報告する。
  • 加藤 祐樹, 杉浦 美羽, 渡辺 正
    p. 0470
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    光化学系IIの電子伝達鎖において、フェオフィチンa(Ph)は一次電子供与体P680と光誘起電荷分離した後、続くキノン電子受容体に電子を渡すという重要な役割を担う。酸化還元電位は電子伝達機構を考察する上で重要な物理化学的パラメータであるが、我々は、分光電気化学的手法の適用により、従来の滴定法に起因する問題を解決し、Phの酸化還元電位Em(Ph/Ph-)を-505 ± 6 mVと決定した(Kato et al. PNAS 2009, 106, 17365-17370)。この値は、従来の高等植物における報告値と比較するために、コアタンパク質D1の遺伝子を3タイプ持つシアノバクテリアT. elongatusから高等植物のそれに近いD1:3だけが発現する株から得られた結果であるが、本研究は、通常発現するD1:1をコアにもつ野生型の光化学系IIを用いて分光電気化学測定を行ない、これらの差異を提示することを目的とした。結果からD1:1ではEm(Ph/Ph-)は-522 ± 3 mVと決定し、D1:3の場合と比べて17 mV卑であることを明らかにした。この違いは、D1:1とD1:3のアミノ酸配列の違いによるものといえるが、特にPhの直近のアミノ酸残基D1-130がD1:1ではグルタミン、D1:3ではグルタミン酸と異なることによるPhとの水素結合の有無に起因するものと考えられる。
  • 野地 智康, 上滝 千尋, 川上 恵典, 沈 建仁, 神 哲郎, 伊藤 繁
    p. 0471
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    シリカメソ多孔体は内部にナノサイズの細孔を大量に持つ粉末状の無機素材である。我々はこれまでに、精製された紅色光合成細菌T. tepidumのアンテナタンパク質LH IIをタンパク質サイズに適合した細孔内径をもつシリカメソ多孔体に導入する方法を開発した(1)。LH IIは細孔内で活性を保ち、より高い熱耐性を示した。さらに我々は、精製した好熱性シアノバクテリアThermosynechococcus vulcanus由来の光化学系 II (PSII) コア複合体(分子量756 kDa)をシリカメソ細孔内部に吸着させ、細孔内部のPSIIが熱耐性を維持したまま酸素発生する事を示した。
    本研究では、新素材の板状シリカメソ多孔体へPSIIを吸着させた。この素材は透明で粉末状のものと異なり、可視光を散乱しない特徴を持つ。吸着したPSIIの吸収、蛍光スペクトルは変化せず、PSIIの構造は維持されている事が示された。共焦点レーザー顕微鏡により、板状シリカメソ多孔体内部のPSIIの分布を可視化した。板状シリカメソ多孔体内部に吸着したPSIIの活性を議論する。
    (1) [Oda, I., Journal of Physical Chemistry B, 2006. 110(3): p. 1114-1120.]
  • 西田 康二, 佐藤 慶彦, 中島 健介, 野地 智康, 福島 佳優, 伊藤 繁
    p. 0472
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    Acaryochloris marina(MBIC 11017)(A.marina)はChl dを主な色素とするシアノバクテリアであり、近年研究が進んでいる。Chl dはChl aより約30 nm遠赤外の光を吸収するので、A. marinaは既知の酸素発生型の光合成生物よりも10%ほど低いエネルギーで光合成系を駆動することができる。この光化学系IIがどのような機構でうまく光反応を行うかは興味深い。本研究ではA. marinaの出すChldの遅延蛍光測定によってPSIIの電子受容体キノンとS2状態間の電荷再結合反応を測定し、シアノバクテリアとの酸化還元電位の違いを検討した。PAM 測定と77K低温蛍光スペクトル解析を行いエネルギー移動過程を検討した。
  • 高橋 亮太, 杉浦 美羽, Boussac Alain, 野口 巧
    p. 0473
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    光化学系IIにおいて、チロシンYZ(D1-Y161)はMnクラスターからP680への電子伝達を仲介し、一方、YD(D2-Y160)はP680への副次的電子供与体としての機能を持つ。これらのチロシンはいずれも、酸化に伴ってプロトン解離し、中性ラジカルとなる。PSIIのX線結晶モデルによると、YZ及びYDの水酸基の近傍にはHisが存在しているが、チロシンとの相互作用の詳細は未だ明らかとされていない。そこで本研究では、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用いて、YZの水素結合構造を調べた。Thermosynechococcus elongatus由来の光化学系IIコア複合体を用いて、光誘起YZ•/YZFTIR差スペクトルを得た。[4-13C]Tyr置換試料の測定から、1256 cm-1のバンドは、YZ水酸基のCO伸縮及びCOH変角振動がカップルしたモードに帰属され、この振動数からYZが水素結合ドナー•アクセプター構造を持つことが示された。また、2600 cm-1付近に、YD•/YDスペクトルには現われない、HisのNH伸縮バンドのフェルミ共鳴ピークが観測された。このことは、YZとD1-H190の間に、YDとD2-H189間よりも強い水素結合が形成されていることを示している。この水素結合は、YZの電子伝達反応において重要な役割を果たしていると考えられる。
  • 井手段 一聖, 野口 巧
    p. 0474
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    植物の光合成能は強光下において低下するが、それは主に光化学系IIの光傷害によって引き起こされることが知られている。しかし、その光傷害過程の詳細は未だ明らかとされていない。そこで本研究では、光化学系IIの光傷害への除草剤効果を利用して、その分子機構を調べた。ホウレンソウから得た光化学系II膜標品、及び、それに除草剤としてDCMUまたはbromoxynilを添加した試料に強光照射(2000 μE m-2 s-1)を施し、照射時間に対する、Mnクラスター、QA、及びP680の活性をフーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用いて評価した。その結果、(1)QAとMnクラスターのFTIRシグナルは、いずれの試料においても、ほぼ同時に減少する、(2)P680は常にQAよりも遅れて失活する、(3)これらのシグナル減少は、bromoxynil及びDCMU存在下において、コントロール試料よりもそれぞれ速く、及び遅くなる、ことが示された。これらの結果より、光化学系IIの光傷害は、Mnクラスターの破壊がトリガーとなって引き起こされるのでなく、QAの二重還元による脱離が律速になって起こることが示された。QAの二重還元速度の違いは、除草剤によるQAの酸化還元電位の変化によって説明できる。この除草剤効果の結果は、これまで提唱されてきた光化学系IIの光傷害の還元側機構の実験的証拠を与えるものである。
  • Chan Tiffanie, Nijo Nobuyoshi, Morita Noriko, Yamamoto Yasusi
    p. 0475
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    Spinach thylakoid and photosystem II membranes are vulnerable to various abiotic stresses, such as heat and strong visible light. Some of the things that result upon moderate heat stress at 40oC for 30 min are: lipid peroxidation, production of singlet oxygen, and degradation of the reaction center-binding D1 protein. These heat-induced oxidative processes were suppressed significantly when the samples were pretreated with phospholipase A2, an enzyme that hydrolyzes phosphatidylglycerol, and reappeared when phosphatidylglycerol was present. When lipoxidase was added to the photosystem II membrane, lipid peroxidation was induced and singlet oxygen production was also enhanced upon subsequent heat stress. Since phosphatidylglycerol is the sole phospholipid closely located to and tightly bound to the core of the photosystem II membrane, it is likely that peroxidation of phosphatidylglycerol triggered by endogenous lipoxydase(s) plays an important role in the oxidative damage to Photosystem II under moderate heat stress.
  • 猪名川 佳代, Khatoon Mahbuba, Pospisil Pavel, 山下 亜夢, 吉岡 美保, Lundin Bjorn, 堀 ...
    p. 0476
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    光化学系IIは強光ストレスによる損傷を受けやすい。反応中心D1タンパク質は強光下で損傷を受けると分解され、光化学系IIから除去される。ホウレンソウから単離したチラコイドを用いて、我々は強光下で起こるチラコイドのunstackingとD1損傷の関係を調べた。強光下ではチラコイドがunstackし、グラナに存在する損傷光化学系II複合体とストロマチラコイドに存在するプロテアーゼが光化学系IIの修復のために移動しやすくなると予想された。実際、強光照射では、不可逆的なチラコイドのunstackingが生じた。更に、stackしたチラコイドとunstackしたチラコイドへの光ストレスの影響を比較する実験から光化学系IIの光阻害はstackしたチラコイドでより著しいことが分かった。またEPRスピントラッピング実験から、stackしたチラコイドではunstackしたチラコイドよりヒドロキシルラジカルが生じやすいことが分かった。これらの結果から、チラコイドのunstackingには光ストレス下でD1タンパク質の損傷を避けること、損傷D1タンパク質の分離を促進することの2つの重要な役割があることが示唆された。
  • Lundin Bjoern, Morita Seiya, Yamamoto Yasusi
    p. 0477
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    The turnover of Photosystem II (PSII) has been shortly described as stress-induced damage of the D1 protein followed by monomerization of the PSII complex and its movement to the stroma lamella. The De-phosphorylation of the D1 protein triggers the activation of proteases to start its degradation and subsequent incorporation and synthesis of a new copy of the D1 protein into the PSII monomer.
    Here we described a more refined view of the turnover of PSII, the de-phosphorylation of PSII core proteins triggers the swelling of thylakoid grana stacks and the binding of hexameric FtsH proteases to the PSII supercomplexes. Upon de-phosphorylation of CP43, it gets separated from the PSII monomer and makes a room for the hexameric FtsH to start degrading the damaged D1 protein. After degradaton of the D1 protein the FtsH becomes unstable and is fast deactivated.
  • Yu Yanbo, Kawai Hiromitsu, Kawamoto Mari, Mizoi Junya, Fujiki Yuki, Ni ...
    p. 0478
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    Phosphatidylethanolamine (PE) is the major phospholipid in mitochondrial membranes. However the importance of PE in mitochondria remains to be evaluated. CTP:phosphorylethanolamine cytidyltransferase (PECT1;EC 2.7.7.14), the rate-limiting enzyme of PE biosynthesis, is associated with outer mitochondrial membranes. Thus, the role of PECT1 in the regulation of mitochondrial PE content and its effect on respiratory activity are our concerns. We examined the lipid composition and the respiratory activity of isolated mitochondria from wild-type and pect1-4 plants, the latter of which exhibit 25% of the wild-type cellular PECT1 activity and stop growth below 8 C. pect1-4 plants contained 13% less PE in mitochondria than the wild type, whereas SDS-PAGE showed that protein profiles are similar between wild-type and pect1-4 mitochondria. However the respiratory activity of isolated mitochondria from pect1-4 plants was significantly lower than that of the wild type and the difference was enhanced after 7-d cold treatment at 8 C. These results suggest that PECT1 has a significant influence on the regulation of mitochondrial PE content and respiratory activity at low temperature.
  • 朱 正, 寺島 一郎, 野口 航
    p. 0479
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    これまで、低リン酸環境下の植物の呼吸系の応答については、培養細胞を用いた研究例が多く、地上部と地下部それぞれにおける呼吸系の馴化機構やそれらの違いについては不明な点が多かった。本研究では、活性の高いミトコンドリアが単離でき、生化学的な実験が容易なホウレンソウを用いて、呼吸系のリン酸環境への応答を解析した。特にATP合成と共役しない複数の呼吸経路の応答に注目した。低リン酸(1 μM, LP)と高リン酸(50 μM, HP)でホウレンソウを水耕栽培し、その地上部と地下部を用いた。水耕期間中、葉と根のどちらにおいても重さあたりの呼吸速度には明確な変化がなかったが、葉のシアン耐性呼吸速度は増加していった。その増加はLP葉で顕著だった。水耕栽培1ヶ月後のホウレンソウの葉と根からミトコンドリアを単離し、電子伝達系活性とTCA回路の酵素活性の測定、Western blotting によるタンパク質量の定量を行った。また、組織抽出液を用いて、いくつかの解糖系酵素活性も測定した。その結果、低リン酸に対する電子伝達系の応答には、葉と根には大きな差が見られなかったが、TCA回路の応答には差が見られた。組織内の有機酸量などの測定も行い、低リン酸下の地上部と地下部それぞれにおける呼吸系の役割について考察する予定である。
  • 石川 智恵, 畠中 知子, 三十尾 修司, 深山 浩
    p. 0480
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    Rubiscoの酵素特性には種間差があり,反応回転速度(kcat)はC3植物で低く,C4植物で高い.本研究では,C4植物であるソルガムのRubisco小サブユニット(SbRbcS)を高発現する形質転換イネを作出し,Rubiscoの酵素特性に及ぼす効果を解析した.SDS-PAGEにおいてSbRbcSとイネRbcSは移動度が異なることから,その発現量の比較が可能であり,SbRbcS発現量が全RbcSの30,44,79%の異なる形質転換イネ3系統を実験に用いた.形質転換イネにおけるRubiscoのkcatはイネの1.3-1.5倍と有意に増加した.またKm(CO2)についても,すべての形質転換イネのRubiscoにおいて約1.3倍の増加が認められた.このkcatとKm(CO2)の増加は,SbRbcS発現量に関わらずすべての系統において同程度であった.BN-PAGEでは,ソルガムRubiscoはイネRubiscoよりも見かけの分子量が少し小さいが,SbRbcSを発現させた形質転換イネのRubiscoでは,SbRbcSの発現レベルが高くなるにつれて見かけの分子量がソルガムに近づく傾向が認められた.以上の結果から,SbRbcSの部分的なイネRubiscoへ組み込みが全体的な立体構造の変化を引き起こしkcatを増加させたものと考えられた.
  • 柳瀬 麻里, 久保 雄昭, 福澤 秀哉
    p. 0481
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    緑藻クラミドモナスは光存在下でCO2濃度が低下すると無機炭素濃縮機構(CCM)を誘導する。cDNAアレイを用いた網羅的発現解析により、低CO2条件で誘導される遺伝子がこれまでに同定されている(Yamano et al. 2008)。その中で,Lci14はヌクレオチド結合性に関わるCobW_Cドメインと,タンパク相互作用に関わるWWドメインをもつタンパク質をコードする。LCI14は,シロイヌナズナにおけるPRL1相互作用因子と相同性を示し転写因子と推定されている。PRL1複合体はシロイヌナズナのグルコース代謝に関与する遺伝子の調節因子である。LCI14のCCMにおける機能を解析することを目的として、amiRNA法を用いてLci14の発現をノックダウンするためのコンストラクトを作製した。過剰発現プロモーターであるHSP70A-RbcS2 (AR)プロモーターの下流にMAA7-amiRNA前駆体配列とLci14-amiRNA前駆体配列を連結し、導入細胞内でMAA7がノックダウンされると5-フルオロインドール(5-FI)に耐性になると考えられた。現在、2株の5-FI耐性株を取得しており、これらの株におけるLci14の発現と、低CO2条件での表現型について検討している。
  • 田茂井 政宏, 大鳥 久美, 出村谷 昌代, 漆地 里紗, 山本 祥子, 出原 亜樹子, 松本 昭子, 重岡 成
    p. 0482
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    植物細胞におけるC/N比は厳密に制御を受けていること、光合成増大により生育や細胞数が増加するという事実から、光合成炭素代謝は窒素代謝、形態形成など様々な代謝系に大きく影響を及ぼすと思われる。本研究では、光合成炭素代謝能の改変が種々の代謝系に及ぼす影響を明らかにするために、葉緑体でラン藻由来FBP/SBPase(ApFS)を、細胞質でFBPase(AcF)をそれぞれ発現させたシロイヌナズナを用いて、種々の代謝系酵素遺伝子発現量および代謝産物量に及ぼす影響を検討した。ApFは光合成活性が野生株の約1.2倍に、生重量は約1.3倍に増加していた。関連酵素遺伝子発現量を比較したところ、デンプン合成酵素(At1g32900)のmRNA発現量が野生株と比較して上昇していたが、窒素代謝系酵素のmRNA発現量に大きな差は見られなかった。代謝物を網羅的に解析したところ、ApFSでは野生株よりカルビン回路代謝中間体が増加し、アミノ酸類が減少する傾向が見られた。一方、AcFはFBPase-II導入タバコと同様、通常CO2環境下では野生株と同様の生育を示したが、高CO2環境下では枝数が増加し、生重量は野生株の1.2~1.5倍に増大していた。現在、枝数が増加する原因を明らかにするため、植物ホルモンに応答する遺伝子群の発現量比較しており、発現量に変化が見られた遺伝子を詳細に解析している。
  • 吉冨 太一, 國枝 道雄, 溝口 正, 民秋 均
    p. 0483
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    緑色硫黄細菌Chlorobium tepidumは中度好熱性の嫌気性光合成細菌である。これらはクロロゾームと呼ばれる特別な光収穫アンテナを持ち、脂質一分子膜が作り出す疎水性環境下で多数の機能性クロロフィル色素分子を秩序立てて内包し、アンテナ器官を形成することがわかっている。クロロゾームの脂質一分子膜は糖脂質やリン脂質などの高極性のグリセロ脂質から成り立っている。これらは様々な光合成生物に普遍的に存在が確認されているが、脂肪酸と糖部を含めて詳細な分子構造の解析を行った例はほとんど無かった。そこで本研究ではBligh&Dyer法で脂質成分を総抽出後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより糖脂質とリン脂質を分画した。これらの成分をそれぞれ1H-/31P-NMRによって構造解析した。その結果、過去に存在が示唆されていたラムノシルガラクトシルジアシルグリセロールのアノマー位のコンホメーションや二糖間の結合位置の同定に初めて成功した。さらに糖脂質及びリン脂質両成分の脂肪酸には、シクロプロパン環構造や奇数の炭素数からなるユニークな構造を持つものがあることが分かった。併わせて培養条件(温度変化など)による脂肪酸構造の変化も検討したので報告する。
  • 志賀 倫子, 小川 拓郎, 古澤 利成, 瀬尾 悌介, 櫻井 英博, 井上 和仁
    p. 0484
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    緑色硫黄細菌C. tepidumからのチオ硫酸酸化と、cyt c-554の還元に必須な因子SoxYZ、SoxAXK、SoxB(core TOMES)の精製と、その生化学的性質については既に報告した。今回、更に、単量体のフラビン蛋白質SoxF2を精製し、そのcore TOMES の活性に対するSoxF2の添加効果について調べた。チオ硫酸を基質とした場合、SoxF2は単独ではこれを酸化できないが、core TOMESによる酸化活性を促進した。50 μM C. tepidum cyt c-554を電子受容体とした反応速度は、0.5 μMのSoxF2添加により92%促進された。ウマcyt c の活性は前者よりも約25%低く、SoxF2単独、およびこれに微量(0.5 μM) のcyt c-554の添加により、それぞれ31%、120%促進された。SoxF2の効果の程度には、電子受容体であるcyt c の種類により大きな差があることから、SoxF2はcoreTOMESのある因子またはcyt c-554と結合することにより間接的に反応速度を高めるか、反応経路の途中から電子を受け取り、付加的経路で cyt c に電子を渡している可能性とが考えられる。SoxF2、cyt c-554のアフィニティカラムを作成し、core TOMESの各因子との相互作用についても研究した。
  • 中山 陽介, ALRIC JEAN, 嶋田 敬三, 永島 賢治
    p. 0485
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    紅色光合成細菌は、光酸化された反応中心スペシャルペアへの電子供与体として光化学反応中心結合型チトクロムcをもつ。このチトクロムcの中には通常4つのヘムが含まれ、スペシャルペア側から高電位ヘム(ヘム1、401mV)、低電位ヘム(ヘム2、76mV)、高電位ヘム(ヘム3、310mV)、低電位ヘム(ヘム4、-47mV)の順で並んでいる。これまでに高電位ヘムを低電位ヘムに変化させ電子伝達速度が遅くなることが先行研究で確認されていたが、低電位ヘムを高電位にした研究は行われていないことからヘム4近傍のLeuをArgに置換したL96R、ヘム2近傍のIleをArgに置換したI266R株の2つを作製した。今回、従来の酸化還元滴定法に加え新たに電気化学的測定法を導入し、酸化還元中点電位値(Em)の測定を進めた。酸化還元滴定法でEm値を求めたところ、L96Rではヘム4が79mV上昇し、I266Rではヘム2が47mV上昇していた。その結果L96Rでは、スペシャルペアの再還元速度が2倍に変化した。これはヘム4以外のヘムの酸化還元中点電位も変化したことによる影響であると考えられ、これらの値を電気化学的測定法も含めて正確に決定しようとしている。
  • 北島 正治, 増川 一, 櫻井 英博, 井上 和仁
    p. 0486
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    ニトロゲナーゼ活性の高いNostoc sp. PCC 7422 の取り込み型ヒドロゲナーゼ遺伝子破壊株(ΔhupL 株)は、水を電子供与体とするO2発生条件下で、H2を濃度約30%に蓄積した。この変異株をAr + 5% CO2 を主体とした気相で培養する際に気相中のN2濃度を変え、ニトロゲナーゼに基づく水素蓄積と生産持続性に対する影響について調べた。窒素制限培地(BG110)に移してから9日までの水素蓄積濃度は、N2 10%に比べて、N2 20%では約1/5、50%では約1/10に低下した。次に、BG110に移してヘテロシストが形成されるまで(前期)と、それ以降(後期)のそれぞれについて、N2濃度を変えた。前期N2濃度を 1%、5%、20%、80%とし、それぞれを後期N2濃度1%、5%、20%、80%に移したが、N2濃度の影響は後期において大きく、 1%のものが最も水素蓄積濃度が高かった。前期N2濃度を 0%、0.5% とし、それぞれを後期N2濃度 0%、0.25%、0.5%、0.75%、1.0% へ移し、最初は10日後、それ以降は一週間毎に気相回収および更新を行い、水素生産の持続について調べた。いずれも培地の交換なしに100日以上水素生産を維持することが可能であったが、前期N2濃度の影響はほとんど見られず、後期はN2 0%では、80日以降に水素生産活性が顕著に低下した。
  • 大鶴 真寿美, 岡崎 久美子, 藤木 友紀, 西田 生郎
    p. 0487
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    現存するほとんどのラン藻はグリセロ脂質のsn-2位に炭素数16(C16)の脂肪酸を持つが、その意義はよくわかっていない。C16脂肪酸に基質選択性を示すリゾホスファチジン酸アシルトランスフェラーゼ(LPAAT;EC 2.3.1.51)であるsll1848(Weier et al. 2005; Okazaki et al. 2006)と、リゾリン脂質特異的アシルトランスフェラーゼslr2060(Weier et al. 2005)の二重変異株Δ1848Δ2060では、C18脂肪酸に選択性を示すLPAATをコードするsll1752の転写産物レベルが上昇し、sn-2位にC18脂肪酸を結合する。この変異株はクロロフィル量の減少と光合成活性の低下を示し、SDS-PAGEの結果では、タンパク質組成に変化がみられる(Okazaki et al. 2006)。今回、光化学系タンパク質複合体の構築に対する変異の影響についてblue-native PAGEを用いて調べた。その結果、二重変異株では野生株に較べPSIやPSII複合体が減少し、野生株では見られないクロロフィルを含むタンパク質複合体が形成していることを明らかにした。
  • 佐藤 壮一郎, 土屋 徹, 三室 守
    p. 0488
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    Gloeobacter violaceus PCC 7421はチラコイド膜を持たないことが知られている唯一のシアノバクテリアである。しかし、チラコイド膜形成に必須とされている遺伝子であるvipp1に類似した遺伝子(glr0898)を保持している。この遺伝子は、他のVIPP1タンパク質に比べてC末端付近の配列が短いタンパク質をコードしている。我々は昨年度の年会で、glr0898遺伝子を保持し、内在のvipp1遺伝子(sll0617)が完全に破壊されたSynechocystis sp. PCC 6803の二重形質転換株を作製し、glr0898遺伝子がsll0617遺伝子の欠損を相補できることを示した。
    今回、Glr0898タンパク質とSll0617タンパク質の特性と機能の詳細な比較を行うために、glr0898遺伝子を保持したvipp1二重形質転換株を用いた生理学的な解析と、生化学的手法によるGlr0898タンパク質の細胞内局在の解析を行った。さらに、VIPP1タンパク質の機能ドメインを調べるため、改変したVIPP1タンパク質をコードする遺伝子を用いたvipp1遺伝子破壊株の機能相補実験を行った。これらの結果に基づいて、Glr0898タンパク質のVIPP1タンパク質としての機能について議論する。
  • 豊島 正和, 佐々木 直文, 藤原 誠, 得平 茂樹, 大森 正之, 佐藤 直樹
    p. 0489
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    糸状性シアノバクテリアには、窒素飢餓状態になるとヘテロシストを形成するものがある。ヘテロシストは窒素固定に特化しており、分裂しない。Anabaena sp. PCC 7120はヘテロシスト形成のモデルとして、遺伝学的・生理学的研究に詳しく研究されてきた。この糸状体は約10細胞に1個という間隔でヘテロシストを形成し、最初にヘテロシストに分化する細胞の決定はランダムと見なされていた。昨年の年会において我々が発表したヘテロシスト分化の新規観察系は、固形培地を用いて、同時に10~20個の糸状体の経時変化を追跡でき、しかも液体培養と同じ時間で分化が行われる初めての系である。本研究では、この新規観察系を用いてAnabaena sp. PCC 7120 のヘテロシスト分化の過程を継時的に観察し、ヘテロシスト分化において窒素飢餓後の分裂が必須ではないこと、ヘテロシストに分化する細胞では周りの細胞に比べて、窒素飢餓直後からヘテロシスト分化のスイッチとなる遺伝子であるhetRの発現が特に強く誘導されること、糸状体は4細胞を基本単位とした周期を持ち、この細胞セットの両端の細胞が最初にヘテロシストに分化する可能性が高いこと等を明らかにした。これらのことからヘテロシストに分化する細胞の候補は窒素飢餓直後、または窒素飢餓以前から決められていると考えられる。
  • 加世田 淳, 原口 典久, 長濱 一弘, 松岡 正佳
    p. 0490
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    マーカーフリー遺伝子置換は薬剤耐性マーカーの数に制限を受けることなく、染色体遺伝子を改変する方法として有用である。この方法を利用してシアノバクテリアSynechococcus elongatus PCC 7942において光化学系II(PSII)の精製を容易にするためのアフィニティータグの導入を行った。
    PSIIのCP47サブユニットのC末端にヒスチジンタグ(histag)を付加するため、S. elongatus PCC 7942 R2-SPc株のストレプトマイシン耐性株GRPS1(rps12-R43)を親株として2段階形質転換を行った。CP47をコードするpsbB遺伝子はpsbB-psbTオペロンを形成しているため、psbB遺伝子の3’側に[rps12-kan]カセットを挿入したGRPS800株だけでなく、psbT上流にpsbBプロモーターを挿入した組換え体GRPS801も作成した。次に2段階目の形質転換によって[rps12-kan]カセットを除去し、マーカーフリーとしたGRPS810株を作成した。チラコイド膜可溶化タンパク質を金属キレートアフィニティークロマトグラフィーで分析した結果、GRPS810組換え体はCP47-histagを利用したPSII複合体の1段階精製に適した株であることが示された。
  • 近藤(小山内) 久益子, 明賀 史純, 流水 利恵, 篠崎 一雄
    p. 0491
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    全ての光合成生物は効率的に光エネルギーを光合成に利用するために集光装置を進化させてきた。緑色植物における集光装置は葉緑体のチラコイド膜内在性のLHCIとLHCIIである。これらは光強度の変化に応じて捕捉する光エネルギーを調節するために再構築を行い、光エネルギーの捕集だけでなく余剰なエネルギーを熱として消去する役割を果たしており、植物の環境応答において重要な役割を担っている。本研究では集光装置の環境応答関連遺伝子の同定および分子機構の解明を目指した。今回我々はライン化されたシロイヌナズナの核コード推定葉緑体タンパク質遺伝子変異株コレクション(1290ライン)を用いて、異なる光条件で生育させた植物体の二次元クロロフィル蛍光解析を行った。これまでに約1000のT-DNA/Ds挿入ホモラインから光合成パラメータの異常な変異体の有無を調べた。NPQとΦIIに着目しいずれかの条件で少なくとも一つのパラメータにおいて有意水準68.3%で検定したところ、90の機能未知遺伝子への挿入ラインを含む合計620ラインが抽出された。その中からさらに遺伝子情報を考慮し約400ラインを抽出し、現在二次スクリーニングを行っている。また遺伝子情報に関しては、既に発表しているThe Chloroplast Function Database (Plant J 2010)を基にして解析を進めている。
  • 後藤 光太, 後藤 栄治, 津山 孝人
    p. 0492
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    光合成電子伝達反応において電子は、光化学系IIから光化学系Iに伝達され、最終的にNADP+を還元する。チラコイド膜では、系IIから系Iへの電子伝達とは別に、系Iサイクリック電子伝達や葉緑体呼吸など、よりマイナーな電子伝達も機能している。葉緑体呼吸においては、NAD(P)H dehydrogenase (NDH)複合体およびターミナルオキシデース(PTOX)の仲介により、ストロマ還元力NAD(P)Hの電子がプラストキノンを経て酸素へと伝達される。一方、NDH複合体は系Iサイクリック電子伝達も触媒するが、系Iサイクリック電子伝達は最終的な電子受容体として酸素を用いない。しかし、両反応がNDH複合体を共有するため、2つの反応を区別して解析することは難しい。また、葉緑体呼吸の機能は光照射下でも想定でき、その機能解析をより一層難しくしている。さらに、II型NAD(P)H脱水素酵素(ND)の葉緑体へのターゲテインングが明らかにされており、NDの葉緑体呼吸への関わりも示唆されている。本研究では、NDH複合体を欠くシロイヌナズナ突然変異体ndhMおよびII型NAD(P)H脱水素酵素を欠く変異体ndc1を用いて葉緑体呼吸の生理的意義を解析した。暗所における葉緑体呼吸活性の非破壊検出法について検討し、さらに生育光環境の違いに伴う活性の変動をNDH複合体やPTOX量の観点から考察する。
  • 高見 常明, 柴田 勝, 小林 善親, 鹿内 利治
    p. 0493
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    低温環境下での光化学系II(PSII)の機能維持機構を明らかにする目的で、低温処理(4℃、1週間)によりPSII活性(Fv/Fm)が低下する突然変異株の単離を、二次元クロロフィル蛍光解析を用いて行った。その結果、低温処理によりFv/Fmが顕著に低下する突然変異株CEN2-19を単離した。CEN2-19は生育条件下において野生株と比較してクロロフィル量は低いが、Fv/Fmは正常な値を示す。しかし、低温処理によりFv/Fmが低下し、PSII反応中心タンパク質であるD1が顕著に減少した。CEN2-19とPSIIのアッセンブリー(lpa1)、修復(var2)が異常な変異株との二重変異株を作出したが、相乗的な効果は見られなかった。また、低温によりPSIにおいても反応中心タンパク質量の減少が見られた。さらにCytb6f複合体に条件的な機能欠損のあるpgr1との二重変異株を作成したところ、pgr1の異常が見られない生育条件下でも光合成電子伝達速度が低下し、個体の矮小化が見られた。これらの結果からCEN2-19の原因遺伝子は葉緑体タンパク質の機能維持に関与していることが示唆された。
    CEN2-19の原因遺伝子の同定をポジショナルクローニングにより行ったところ、脂肪酸合成酵素をコードするKASIIIに一塩基置換を見出した。相補実験の結果、このKASIIIがCE2-19の原因遺伝子であると確認した。
  • 河野 優, 鈴木 祥弘
    p. 0494
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    落葉広葉樹林は、春から秋に葉を展開し、冬に落葉する。そのため、その林床に生育する植物は、季節変化する光環境に対応して生存している。春に林床で葉を展開し、他の期間休眠する春植物であるカタクリ(Erythronium japonicum Decne.)は、日当たりの良い早春の光環境を利用している。本研究で光環境を測定した結果、早春の林床は明所の1/3程度の積算光量、光強度の激しい変動、そして緩やかな時間変化で特徴付けられた。林床と直射日光下でそれぞれカタクリを栽培し(林床個体と明環境個体)、その光環境に対する光合成系の応答を光合成速度とクロロフィル蛍光測定より調べた。暗黒下に置いた葉に強光を突然照射したところ、林床個体の光合成系は速やかな誘導反応を示し、明環境個体よりも短時間で定常状態に達した。光合成に使われない過剰エネルギーを熱として散逸する機構の応答にも顕著な違いが見られた。光照射下で林床個体は明環境個体よりも光エネルギーを効率良く利用していた。また、光強度によって異なる熱散逸機構の関与が示唆された。早春林床の特徴的な光変動を模して強光と弱光を10分周期で照射したところ、林床個体は明環境個体に比べて、変動光環境下で光強度の変化に速やかに追随する光合成を行っていた。明環境個体では、強光から弱光になった際に、光呼吸が原因であると考えられる一時的なCO2放出が顕著にみられた。
  • 樋口 恭子, 加藤 克紀, 原嶋 千佳, 斎藤 彰宏, 三輪 睿太郎
    p. 0495
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    一般に、鉄欠乏植物では、鉄を豊富に含んでいる光化学系が崩壊し、処理できない過剰の光エネルギーによって生育阻害が引き起こされる。しかし、オオムギ品種エヒメハダカは熱放散機構を誘導し、鉄欠乏時の光障害を緩和していること、またLhcb1タンパク質の減少を小さく抑えていること、鉄欠乏に弱いイネはこのような応答を示さないことを本研究室で明らかにした。(2009年名古屋大会)
    鉄欠乏で誘導される熱放散が鉄欠乏に特異的なものかどうか検討するために、強光(1000~2000μmol photons/m2・sで、3時間または2週間)、低温(5℃で1週間)、メチルビオローゲン(5mM噴霧後24時間)、塩(NaCl100mMで2週間)ストレスなどの酸化ストレスにさらし、クロロフィル蛍光を光合成測定装置によって測定したが、鉄欠乏時のように非光化学消光が上昇するものは無かった。Lhcb1タンパク質の蓄積量は、鉄欠乏同様各ストレスで減少していたが、鉄欠乏に比べて減少幅は小さかった。従って、熱放散が効率よく誘導されるためにはLhcb1の蓄積量だけでなく、立体配置も重要であり、それらを調節する鉄欠乏特異的な分子機構が存在すると考えられる。
  • 下田 陽一, 鈴木 祥弘
    p. 0496
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    陸上植物の葉の温度(葉温)は、周囲の気温だけでなく、太陽からの輻射熱や蒸散に伴う気化熱などにより大きく変化する。昼間の蒸散が不活発なCAM(Crassulacean Acid Metabolism)植物の葉温は、輻射熱で高温となることがあり、植物に深刻な傷害が生ずる。これまでの研究で、蒸散の盛んなC3植物の葉温が気温とほぼ等しいのに対し、CAM植物のコダカラベンケイソウ(Kalanchoe daigremontiana Hamet et Perr.) の葉温は気温を10℃以上も上回ることがあり、その際、細胞質のpHが著しく低下し、植物体が白化枯死することを明らかにしている。CAM植物の葉内では、CO2を取り込む夜間に有機酸が蓄積し、CO2を光合成で昼間に消費する。この点に着目し、CAM植物の白化枯死の原因を解析した。
    夜間の有機酸の蓄積は、蓄積する液胞の許容量で決定し、33℃以下の葉温では一定であった。高い葉温では蓄積速度は低下し、40℃以上では最大値の37%しか蓄積しなかった。一方、昼間の酸の消費は40℃以上で急激に低下し、ほとんど認められなくなった。夜間25℃と昼間40℃の天然の葉温環境を再現すると、夜間蓄積された酸が昼間消費されずに残り、同時に葉が白化枯死することが確認された。この結果は、昼間の有機酸消費能力の低下が白化に影響することを示唆していた。
  • 保田 弘人, 鈴木 祥弘
    p. 0497
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    陸上植物の葉内を透過する際、太陽光は吸収・反射・屈折を繰り返す。このため葉内の光環境は上層から下層に向かって質的・量的に大きく変化する。陸上植物が効率的な光合成を維持するためには、この光環境に対応する必要があると考えられる。このような対応を解析するため、本研究では、まず、ソラマメ葉内の光環境を、光ファイバープローブを接続した分光器で測定した。上面から垂直に光を照射すると、青色光と赤色光は柵状組織で反射・吸収され、海綿状組織上面の光強度は3.54%に低下し、緑色光(λ=550μm)が残った。この緑色光は、さらに、海綿状組織に反射・吸収され、下面では4%以下の光強度に低下した。この光環境に対応して、柵状組織と海綿状組織は異なる吸収スペクトルを示した。柵状組織と海綿状組織の対応の違いを調べるため、光合成色素とPSIIの応答を測定している。
  • 佐々木 優, 中野 博文, 山原 洋佑, 小澤 真一郎, 高橋 裕一郎, 福澤 秀哉
    p. 0498
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    多くの水生光合成生物は無機炭素濃度が低下しても,これを効率良く固定する機構(無機炭素濃縮機構;CCM)をもつ。緑藻クラミドモナスでは,このCCMの発現制御に主要な役割を果たす因子としてCCM1/CIA5が知られており、細胞内で複合体として存在する。本研究では,この複合体成分を明らかにすることを目的とした。CCM1-FLAG発現株を高CO2条件(5%CO2;HC)および低CO2条件(0.04%CO2;LC)で培養し、抽出した可溶性タンパク質からFLAGペプチドアフィニティーカラムを用いてCCM1-FLAG複合体を精製した。これをin solution digestion法によって断片化し,LC-MS/MS分析法により相互作用因子および翻訳後修飾基の探索を行った。これまでに見出されていたタンパク質CBP1およびグルタミン酸脱水素酵素様タンパク質GDHL2以外に,新たにGDHL1が見つかった。これらのタンパク質は、HC/LC両培養条件の精製サンプルにおいて共に存在することがわかった。さらにCCM1のペプチド断片において3ヵ所のリン酸化部位が見つかった。GDHL1/2の構造と機能ならびにCCM1のリン酸化部位について考察する。
  • 杉本 貢一, 都筑 幹夫, 佐藤 典裕
    p. 0499
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    緑藻クラミドモナスは、硫黄欠乏条件下、葉緑体脂質の一種、sulfoquinovosyl diacylglycerol (SQDG)の分解を誘導することで、タンパク質合成のための細胞内硫黄源を確保する(Sugimoto et al. 2007 in FEBS lett.)。本研究では、硫黄欠乏条件がSQDG合成系に及ぼす影響を調べた。SQDG合成経路上の酵素、UDP-sulfoquinovose synthaseに関して、転写の促進による転写産物量の増加が認められ、これに対応してSQDG合成活性が増大した。この硫黄欠乏下でのSQDG合成系の誘導は、核および葉緑体遺伝子の発現を必要とする細胞の積極的な応答と認められ、またSQDGの分解が進む中、その存在量を微量ながら(硫黄十分条件の約5%)維持する上で必要と考えられた。一方、クラミドモナスの野生株とSQDG欠損変異株とで、細胞の硫黄欠乏応答を比較した。その結果、SQDG欠損変異は、硫黄欠乏条件下での光化学系Iの構造的安定性を損なわせ、また細胞の生育を遅滞させることが観察された。したがって、SQDGは硫黄欠乏下、硫黄貯蔵脂質としての役割を果たすだけでなく、光化学系I複合体の構造を維持する膜脂質としての役割も果たすと結論された。
  • 辻本 良真, 佐脇 直哉, 執行 美香保, 土岐 精一, 柳澤 修一
    p. 0500
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/11/22
    会議録・要旨集 フリー
    我々は窒素供給に応答した遺伝子発現制御の分子機構を解明するために、イネの窒素応答に関わる転写制御因子の探索を行ってきた。OsMYB-NR2は硝酸処理によって迅速に発現が誘導される転写因子である。昨年度の本会において、MYB-NR2の標的遺伝子の候補としてトリプトファン代謝に関わる2つの遺伝子を同定し、さらにMYB-NR2過剰発現イネMYB-NR2OXにおいてセロトニンが蓄積していることを報告した。今回、MYB-NR2OXにおけるアミノ酸量を測定したところ、地上部のフェニルアラニン含量がコントロール株の約1.5倍に増加していることを見出した。形質転換カルスを用いたマイクロアレイ解析の結果では、フェニルアラニン合成経路の最終段階を担うアロゲン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現がMYB-NR2OXで33倍に上昇しており、さらにフェニルアラニンから様々な二次代謝物質を合成する経路の20個以上もの遺伝子が発現上昇を示していた。さらに、DNA-binding site selection実験により MYB-NR2の認識配列を明らかにした結果、これらの遺伝子の上流領域にはこの認識配列が複数存在していることが判明した。これらの結果に基づき、フェニルアラニン代謝におけるMYB-NR2の役割について考察する。本研究は生研センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」に基づくものである。
feedback
Top