社会福祉学
Online ISSN : 2424-2608
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58 巻, 4 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
論文
  • 山田 みどり
    2018 年 58 巻 4 号 p. 1-13
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

    本論文の目的は宣教医ヘボンの1859年の来日から彼の実践が施療事業から旧約聖書の和訳や学校設立へ移行する1887年までを中心に医療福祉の源流として,その思想と施療活動を検証し考察することにある.1858年に日米修好通商条約が締結されると幕末から明治初期に宣教医の来日が相次いだ.明治期,我が国の最初の救済事業は1874年公布の恤救規則であるが,ほとんど医療保護を持たなかった我が国において1887年頃までの宣教医達の実践は注目に値する.ヘボンは1861年に宗興寺で施療を開始し,自ら進んで貧困者等を治療し投薬を行い,居留地内では医学生に西洋医学の教育を行った.ヘボンの医療活動の特徴は①貧富や身分の差のない施療,②ミッション・ボード,外国人の寄付金と私財による運営資金,③宣教の道具としての医療活動,④日本人医師の充足を認め潔く医療活動を退いたことである.ヘボンの性格は几帳面で善意の人であり,ヘボンの思想や実践は,彼に師事した人達に影響を及ぼし盲学校や施療施設の設立として受け継がれ,盲人福祉や医療福祉の一つの源流となったと考えられる.

  • 長谷川 真司
    2018 年 58 巻 4 号 p. 14-31
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

    本研究では,大正期から昭和初期において社会事業を行う団体を財政面から支援した民間助成財団の実態と特徴について,複数の財団の助成実績に関して実証的に比較検証を行い相対的に明らかにした.今回取り上げる財団は,助成の規模や組織体制などの観点から社会事業に助成を行っている財団として代表的な,安田修徳会,三井報恩会,慶福会および原田積善会である.

    助成実績の比較からみる特徴としては,まず基金の出処により財団の助成の傾向に違いがあった.資金出資者や関係者の意向が助成内容に反映されるため,結果として関係者とつながりが深い団体に対して多額の助成が行われることになる実態があった.また,ほかの財団の助成を受けていることが優良な団体であることの保障となり,財団同士が同じ団体に連携して助成することになる特徴があった.そして,結果として社会事業におけるニーズや資金難の団体に対して効果的な支援を行うことができることになった.

  • 村社 卓
    2018 年 58 巻 4 号 p. 32-45
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

    本稿の研究目的は,高齢者の孤立予防に関わるボランティアの継続特性について,実証的,構造的に明らかにすることである.特に,ボランティアの「楽しさ」に焦点を当てている.研究方法は定性的研究法である.データ収集は3年以上にわたる参与観察とインタビューにより行った.データ分析には定性的コーディングを用いた.分析の結果,ボランティアの継続は推進と維持の2機能によって可能となり,両者は相補的な関係にあった.継続の推進は「双方向の体験によって生じる活動への没頭と意欲的な試み」,継続の維持は「無理のない姿勢によって生じる活動での気楽さと自己管理による改善」と定義できた.推進と維持の内容は,「要因」「感情」「行動」の視点からそれぞれ明らかにした.さらに,「フロー理論」との比較検討による継続特性も提示した.本研究の成果は,高齢者の孤立予防に関わるボランティアへの支援内容の提示および研修プログラム作成に貢献するものである.

  • 小松 亜弥音, 岡田 進一
    2018 年 58 巻 4 号 p. 46-61
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

    本研究では,特別養護老人ホームの介護職が終末期高齢者の主体的な生活を支えるためにどのような日常的介護を行っているのか,その実践内容を探索的に明らかにする.量的調査の結果,項目ごとの実施度が明らかになった.そして探索的因子分析によって6因子(最期まで安楽な生活を継続する工夫,容体の変化に気づくための観察,医療的観点から制限されたニーズの充足に向けた他職種との協議,ストレングス視点に基づくニーズの把握と充足,人生の終え方に関するニーズへの対応,抑制されたニーズの表出支援)が抽出された.終末期以前から行われている生活介護が終末期においても中心的に継続されていること,およびストレングス視点を用いながらニーズを把握・充足しようとする姿勢が介護福祉士による利用者本人を支える介護実践の核となっていることが示唆された.今後,これらの実践内容を考慮した介護職へのサポートの検討が必要である.

  • 孫 希叔
    2018 年 58 巻 4 号 p. 62-74
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,ソーシャルワーク実践におけるネガティブな経験がいかなる過程を経て,肯定的に意味づけられていくのかを明らかにすることである.そのため,現任生活相談員11名に半構造化面接を実施し,質的データ分析による検討を行った.

    分析の結果,【期待と異なる現実に対面する】ことで【目指す方向性を失う】【ゆらぐ】状態に陥っていたソーシャルワーカーは,「重要な他者」の支持を得て【自分の役割を意識する】ようになり,【自らを変化させる】【磨く】ことを通して,自身の知識や技能を深めていた.【自らの行動と状況の変化を結びつけて再吟味する】ことで,新たな気づきを得た彼らは,自己洞察による自信と他者からの肯定的なフィードバックによって,【揺るがない実践力】をつかんでいた.ネガティブな経験を乗り越えようとしたこれらの試みが,次なる実践における思考や判断に活かされることで,肯定的な意味合いを持つに至っていた.

  • 長縄 洋司
    2018 年 58 巻 4 号 p. 75-88
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

    アルコール健康障害対策基本法の策定,刑の一部執行猶予制度の導入などにより,物質使用障害などを対象とするセルフヘルプグループへの行政からの期待は高まっている.一方,その開催状況は広く知られているとは言いがたく,日本において,セルフヘルプグループの「ダイレクトリー(要覧)」,および,それに基づく網羅的な量的研究が不足していることが一因として挙げられる.そこで,本研究では,特に先行研究が乏しい「12のステップ」と「12の伝統」を用いる「12ステップ系セルフヘルプグループ」19種を対象に,各団体のホームページ公開資料を基にダイレクトリーを作成し,算出した「月間開催時間」を従属変数に用いて,各都道府県におけるセルフヘルプグループの開催決定要因について量的分析を行った.その結果,「人口」,「中間施設数」,「治療資源数」が決定要因として有力であることが判明し,中間施設新設への協力,拠点医療機関の整備などが施策として有効と考察した.

  • 中村 秀郷
    2018 年 58 巻 4 号 p. 89-101
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/06/22
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,更生保護施設職員が刑務所出所者等の社会復帰支援で直面する困難性(心理的ストレス)の構造・展開を明らかにし,その実態を体系的に整理することである.

    更生保護施設職員19名を対象として,個別インタビューによる半構造化面接を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて逐語データの分析を行った.

    分析結果から12個の困難性概念が生成し,概念間の関係性から,〈制度的・組織的限界へのストレス〉,〈対象者の言動へのストレス〉,〈支援の行き詰まりへのストレス〉の三つのカテゴリーに収斂された.

    本研究では,概念間のつながり,カテゴリー間の流れから刑務所出所者等の社会内処遇の実践現場で直面すると考えられる困難性の予測に示唆を与えた.また,ジェネラリスト・ソーシャルワーク理論だけでは収まらないスペシフィックな刑務所出所者等の社会復帰支援の特徴を提示した.

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第65回シンポジウム:教育と福祉における協働の論点を探る
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