社会福祉学
Online ISSN : 2424-2608
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63 巻, 1 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
論文
  • 山田 敏恵
    2022 年 63 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/10/07
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,1928年社団法人前橋積善会厩橋病院設立から1935年の本院移転までを対象とし,同病院における開放処遇の意義を,院長前田忠重の精神病者処遇理念,作業療法と慰安の具体的実践内容との関連性の検証を通して明示することである.厩橋病院の設立により,精神病者は監置室という檻から解放され,開放処遇による作業と慰安のある環境で治療を受けることになった.昭和初期の閉鎖的になりがちだった精神病院において,厩橋病院の医師や看護人は,作業と慰安の場を,病棟から病院構内,構外へと広げた.同病院における開放処遇とは,作業と慰安の機会を通して精神病者を「人」として扱う処遇であった.そして,心を慰める手段であり,病いの治療であり,退院に向けた準備であった.この開放処遇は前田の理念,それを共有する看護人,快復へのプロセスと捉える病者,同病院に理解を示す地域により成立したことが明らかになった.

  • 伊藤 嘉余子
    2022 年 63 巻 1 号 p. 14-29
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/10/07
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,スコットランドにおける里親ソーシャルワークがどのような価値に基づき,どう実践されているかを明らかにしたうえで,日本における里親ソーシャルワークの今後のあり方について展望することである.スコットランドの里親ソーシャルワーカー(里親SWer)を対象にインタビュー調査を実施し,データをM-GTAを用いて分析を行った.分析の結果,スコットランドの里親SWerは,すべての子どもの〈家庭養育を受ける権利の保障〉をはじめとする【措置決定のプロセスにおける価値】と,〈子どもに愛されている感覚を提供できる力〉などの【里親に求める資質と里親養育の価値】の2つを価値基盤に置きながら,【子どものアイデンティティ形成の支援】,【「不調を防ぐため」の里親委託中の支援】,【委託解除後の里親への支援】,【子どもに相応しい里親開拓と育成】の4点に『特に焦点を当てた里親SW実践』を展開していることが明らかになった.

  • 安達 朗子
    2022 年 63 巻 1 号 p. 30-44
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/10/07
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,ある一人の女性視覚障害者のライフストーリーを基に,女性視覚障害者が複合差別をどのように経験し,それをどのように意味づけてきたのかを明らかにすることである.研究方法は,ライフストーリー研究法を用い,質的機能的に分析した.その結果,Aさんは,教育過程,就労,恋愛から結婚,妊娠と死産の経験という場面ごとに複合差別を経験していたことがわかった.そこには,①能力の過小評価,②情報不足,③合理的配慮の不提供,④経済的自立を優先する自立観,⑤あんま業における性的被害,⑥家父長制,⑦女性役割,⑧かわいそうな視覚障害者像という要因がAさんの人生全体に絡まり,女性視覚障害者であるがゆえの困難さを生起させていた.Aさんは,この複合差別を「サーフィンのように波乗りする」と意味づけた.このAさんの意味づけは,「差別はある」が,悲惨な「被差別者ではない」と主張する個別化=主体化の実践であったといえる.

  • 志村 敬親
    2022 年 63 巻 1 号 p. 45-60
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/10/07
    ジャーナル フリー

    本研究では「精神障害者の部屋の借りづらさ」を解消するために,東京都内で精神保健福祉領域の支援機関と連携しつつ,精神障害者の入居に協力的な不動産会社に所属する経営者または社員8名に対して,半構造化面接によるインタビュー調査を通じて,分析を行った.その結果,家主や同業他社との強い結びつきや,意思決定できる立場,市場における自らの優位性を認識したうえで,支援機関の機能を有効に活用しながら,障害者の住まい探しに取り組む,小規模地場不動産会社の生存戦略が明らかになった.また,不動産会社の協力的態度を促進するために,支援者の個別の関わり以外に,協力的貸し手を増やすための普及啓発的な関わりや,賃貸住宅市場に対する制度的改良も含めた,重層的手立ての必要性が確認された.そのうえで,手立てを具現化するために,居住支援協議会の活用による精神保健福祉領域と住宅領域の連携強化の必要性を提起した.

  • 村上 武敏
    2022 年 63 巻 1 号 p. 61-71
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/10/07
    ジャーナル フリー

    病院や社会福祉施設における身元保証問題の解決に向けて,医療福祉の現場ではさまざまな取り組みがなされているが,いまだ実践課題は定まっていない.それは,身元保証問題にかかわる支援の実態が明らかにされる一方で,支援のあり方を規定する当事者の生活実態が明らかにされないためではないか.方法論を検討する前提として,生活実態に基づく対象論が必要であると考えている.本研究では,身寄りのない患者の生活実態を明らかにするなかで,社会福祉学としての身元保証問題の視座について考察した.身元保証問題を有する患者の多くが,労働問題を背景とし低所得貧困問題を基底とする重層的な問題を抱えていた.身元保証問題という契約上の認識にとどまるのではなく,これを貧困問題と認識した取り組みが求められる.身寄りのない患者が無権利状態にある現実にあって,民間機関との多方面の連携にとどまるのではなく,公的施策を求める実践の展開が必要になる.

  • 中野 隆之
    2022 年 63 巻 1 号 p. 72-86
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/10/07
    ジャーナル フリー

    近年,社会福祉法人の存在価値や機能が問われているが,社会福祉事業の主たる担い手として公益性を実現するためには組織の経営管理が必要となる.本研究は,法人の公益性を実現するため地域福祉サービスの展開を策定するに際しての経営管理施策の抽出を目的とした.全国2,000の法人で経営管理を担う役職員に対し郵送での質問票調査を実施し,回答を得た338法人を分析対象とした.重回帰分析の結果,地域福祉サービス展開には人材確保に加えて,計画策定段階での職員の積極的参加,役員の活性化,また地域福祉サービス展開のうち地域公益活動では職員の挑戦意欲や策定段階での,より積極的な職員参加も課題として示唆された.地域福祉サービス展開のように現状の業務の枠を超えた新たな事業を行う場合には人材確保とともに,役職員を積極的に巻き込んだ施策にも配慮する必要性が示唆された.

  • 山東 愛美
    2022 年 63 巻 1 号 p. 87-99
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2022/10/07
    ジャーナル フリー

    本研究では,1950年代のアメリカにおけるソーシャルアクションモデルに着目し,エリザベス・ウィッケンデン(Elizabeth Wickenden)のモデルを検討した.ウィッケンデンは,ソーシャルワーカーと協力して1962年の社会保障法改正に影響を与えたソーシャルポリシーのエキスパートと評される人物であり,そのモデルは,これまでソーシャルアクション研究であまり注目されてこなかった1950年代のソーシャルアクションを理解するうえで重要な手がかりとなるものである.ウィッケンデンのモデルでは,ソーシャルアクションは組織的な方法で政治権力に向けて行使される行動とされ,長期的な目標を立てることが重視され,社会変革のプロセスに位置づけられていた.それらを踏まえて,ソーシャルアクションは社会構造の変革を目的とした概念であり,ソーシャルワークとソーシャルポリシーをつなぐものであると結論づけた.

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