本研究は,地域在宅高齢者を対象として,抑うつ状態と人口学的要因,健康的要因ならびに社会構造的要因との関連性を検討した。調査項目は,人口学的要因(性,年齢),社会構造的要因(教育歴,家族形態,介護の有無,所得,地域特性),健康的要因(老研式活動能力指標,自覚的健康感,医療機関への受療状況),日本版高齢者うつスケールとした。調査対象は,層化多段無作為抽出法により,65歳以上の高齢者2,200名を北海道の5地域から抽出した。有効回答は928名から得られ平均年齢は72.0歳であった。統計解析には,記述統計,多元配置分散分析及び多重分類分析を用いた。その結果,1人当たりの前記うつスケール得点の平均は4.36点,標準偏差は2.73であった。抑うつ状態の出現率は5.4%であった。また,高齢者の抑うつ状態出現に影響を及ぼす要因には,年齢,性,自覚的健康感,活動能力といった人口学的要因,健康的要因のみならず,家族形態,教育歴,所得といった社会構造的要因の特性に関連していることが示された。このことは,所得規模の縮小と家族機能の喪失が進行する程度に応じて,これを補完する人間関係の束や社会制度がなければ,うつ状態の原因たるにとどまらず,生活破壊や生存の否定に追い込まれる可能性があることを示唆するものである。
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