社会福祉学
Online ISSN : 2424-2608
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64 巻, 1 号
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論文
  • 植田 嘉好子
    2023 年 64 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/07/06
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    現象学は哲学として出発し,人々の経験から事象の本質を明らかにするための質的研究法としても用いられる.しかし日本のソーシャルワーク研究で現象学を援用するものは未だ少ない.そこで本研究は海外文献を対象に,ソーシャルワーク研究における現象学の役割を検証することを目的とした.Google Scholarの検索機能を用い55件の文献を調査した結果,1)ウェルビーイングの危機にある人々の「生きられた経験」の解明,2)多職種連携/ネットワーク構築の困難さと解決への経験構造,3)現場実践や教育・学習の経験からみたソーシャルワークの専門性,4)ソーシャルワークと現象学を架橋する方法論的考察,の4つの主題が抽出された.現象学はクライエントの危機的な経験に対する実存的な理解に加え,家族や他職種など異なる価値を持つ人々との相互理解や合意形成の方法を探究し,ソーシャルワークの専門性を現実経験から本質的に解明する役割を果たしていると考察された.

  • 松下 浩之
    2023 年 64 巻 1 号 p. 15-30
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/07/06
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    知的障害のある子どもの余暇活動支援の場として,わが国では「放課後等デイサービス」(以下,放デイ)がその役割を期待されている.近年,放デイ事業所は急増しているがその質が低下しているという指摘もあり,特に保護者が求めているニーズが十分整理されていない現状がある.そこで本研究では,放デイを利用する子どもの保護者を対象に,サービス利用の実態および内容の評価,事業所選定において重視する点について調査を行った.その結果,知的障害のある子どもは平均して週に3~4日放デイを利用し,そのサービス内容や評価は障害の程度や学年などで異なることが示された.しかし,多くの保護者は共通して,子どもが成長できる場を求めており,職員の専門性や人間性を重視して事業所を選定している可能性があることが示唆された.今後は,複数の事業所で利用できる支援サービスを共有し,整理するための枠組みを構築していくことが必要であると考えられた.

  • 濱島 淑恵, 宮川 雅充, 南 多恵子
    2023 年 64 巻 1 号 p. 31-45
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/07/06
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    大阪府立高校および埼玉県立高校の生徒を対象とした質問紙調査の結果(大阪府:n =5,133,埼玉県:n =3,850)から,子どもがケアを担う背景,要因を検討した.大阪府では265名(5.2%),埼玉県では202名(5.2%)が,ヤングケアラーと判断された.全高校生を対象とした場合(分析1),ケアを要する家族がいる者のみを対象とした場合(分析2;大阪府:n =645,埼玉県:n =530)について,ヤングケアラーか否かを目的変数,各種要因を説明変数としたロジスティック回帰分析を行った.分析1では,祖父母と同居している場合,経済的に厳しい状況の場合に,ヤングケアラーが多いことが示唆された.分析2では,祖父母と同居している場合,経済的に厳しい状況の場合,母親がケアを要する場合に子どもがケアを担いやすいことが示された.ヤングケアラーの把握,支援を進める際には,これらの点に着目する必要がある.

  • 戸石 輝, 大西 次郎
    2023 年 64 巻 1 号 p. 46-60
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/07/06
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    本研究の目的は,管理職のMSWが日常的に行う管理・マネジメントプロセスを明確化することと,そうした管理・マネジメントのなかで管理職のMSWが抱える困難や,管理職としてのMSWの独自性を明らかにすることである.特定の公的団体が運営する病院に勤務する,部下を持つ課長職であるMSW10名に半構造化面接を実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析した.その結果,管理職としての権限の発生を起点に,【MSWの組織の維持】に向かってスキルや資源を活用し困難を乗り越えようとする円環構造のプロセスが明らかになった.さらに,管理・マネジメントにおける困難を乗り越えるために部下や院内の管理職・元上司,院外に相談する工夫が認められた.これらは管理職のMSWにおける職責や役割の曖昧さを転用した独自の取り組みの可能性がある.一方で,管理・マネジメントの学習機会や資料の提供不足といった課題も示された.

  • 小林 江里香, 村山 陽, 長谷部 雅美, 高橋 知也, 山口 淳, 山崎 幸子
    2023 年 64 巻 1 号 p. 61-74
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/07/06
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    本研究は,都市部の中高年独居者における類型化と類型別特徴の解明を目的とし,東京都A区において無作為抽出され,郵送調査に回答した50~70代の独居者1,524人を対象とした.心身の健康,経済状態,社会関係における問題保有に基づく潜在クラス分析の結果,全側面の問題がある「問題集積群」(5%),身体健康に問題はないが問題集積群に次いで社会関係が乏しい「問題中位群」(25%),「健康問題群」(19%),どの問題も少ない「問題最小群」(51%)の4類型を得た.問題最小群に比べて問題保有3群はいずれも男性が多く,援助要請における他者不信が強い,地域情報源が少ないといった特徴があり,この傾向は特に問題集積群で顕著だった.問題中位群には中年者(50~64歳),未婚,非正規雇用者なども所属しやすかった.問題集積群に対する専門職のアウトリーチや,問題中位群の特徴に合ったプログラム開発の必要性について論じた.

  • 日田 剛
    2023 年 64 巻 1 号 p. 75-87
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/07/06
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    本稿では介護保険サービスを提供する事業所等の社会福祉士の労働実態を分析した.具体的には社会福祉士を資本主義社会のもとでの社会福祉労働者と位置付け,介護保険サービスを提供する施設,事業所に所属する社会福祉士に対してアンケート調査を実施した.さらに仕事への認識に関する因子分析を行った結果,因子1「職務で感じられる社会的有用性」,因子2「職務の自己統制権」,因子3「仕事における権限」が抽出された.3因子について,因子得点の平均を社会福祉士の職種,所属で比較したところ,因子1と因子2においては居宅介護支援事業所でケアマネジャーの職務を担う社会福祉士が最低点を示し,因子3については地域包括支援センターに所属する相談員の社会福祉士が最低点であった.よって市場化が拡大した資本主義社会で,利潤増殖を最優先にした働き方を推し進める「労働者性」が社会福祉士にも影響されることが見いだされた.

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