社会福祉学
Online ISSN : 2424-2608
Print ISSN : 0911-0232
64 巻, 2 号
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論文
  • 亀山 裕樹
    2023 年 64 巻 2 号 p. 1-13
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/05
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    本研究の目的は,ケアをめぐる交渉において子どもがどのような制約に直面するのかを検討することである.先行研究を含むヤングケアラーに関する議論では,他者に不可避的に依存する子どもが,具体的にどのようにケアの配置を受け入れ,どのような制約に直面しているのかが見えなくなっていた.そこで,A. Senの協調的対立概念を分析視点に採用し,18歳未満のときにケアを担った経験のある者7名を対象にインタビュー調査を行い分析した.その結果,次の2点の制約を明らかにした.第一に,他者に不可避的に依存する子どもが,ケアをやめた場合の状況の劣悪さとそれに伴う交渉力の弱さを認識するとき,不利な交渉の結果としてケアの遂行を許容する.第二に,子どもが他の家族員の利益を優先する限り,ケアをやめることが困難になる.以上の結果を踏まえ,なぜ子どもがケアを継続せざるをえないのかを考察し,制約を緩和できる可能性を示唆した.

  • 高原 稔, 高橋 英樹
    2023 年 64 巻 2 号 p. 14-26
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    本研究は,「新しい社会的養育ビジョン」に示される児童養護施設の機能強化および児童の入所期間の限定化の方向性を,入所児童の実態に基づいて検討することを目的とした.方法は,関東甲信越地域A県内全5児童養護施設全入所児童(第1回調査164人,第2回調査154人)を対象に,CBCL(子どもの行動チェックリスト)を用いて,概ね3年間のインターバルで縦断調査を行い,76人の情緒と行動の問題の変化と,ケアの規模・形態,児童の入所時年齢,入所期間,養育者(児童養護施設職員)の継続性との関連を分析した.結果,両調査間でCBCL総尺度得点に差はなく,情緒と行動に重篤な問題を抱える児童の6割に改善はみられず,児童の経年変化との関連は養育者の継続性のみ統計的に有意であった.児童養護施設の機能強化には養育者の継続性の確保が有効であり,また直ちに特別なケアが必要な児童の入所期間を限定化することは困難であることを考察した.

  • 庵原 美香
    2023 年 64 巻 2 号 p. 27-40
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    本稿の目的は,東日本大震災による住家全壊被災者のスピリチュアルペインの経験とプロセスを明らかにすることである.当事者の語りの内容を社会構成主義的GTAで分析した.住家全壊被災者は,自分の居場所,想い出の場を失う【住家・地元ロス】を一様に抱く.そこから【犠牲者の死の重圧】の中,【他者との不安定な関係】また【自責感からの死の後追い】に迫られ【内に秘めた不条理】に直面していく.これらが解釈性・知覚性・関係性の欠如による存在意義の喪失,つまりスピリチュアルペインの経験として明示された.さらに,①故人の存在がもたらす生きる意義,②利他の絆が与える生きる希望,③地元と自分のオーバーラップ,という三つのプロセスが明らかとなった.考察では,1)犠牲者の存在,2)自己成長を誘う実存的気づき,3)地元への特別な意味とイメージ,4)言葉にならない想い,に配慮する災害時ソーシャルワーク実践の課題が示された.

  • 陣内 優生
    2023 年 64 巻 2 号 p. 41-55
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/05
    ジャーナル 認証あり

    行政職員として社会福祉専門職を採用する取り組みが,中小規模の市町村にも広がりつつある.本研究は,市町村行政の社会福祉専門職に焦点を当て,その採用と配置,役割,人材育成の実態と課題の明確化を目的とした.研究方法は神奈川県の全市町村を対象とした質問紙調査結果の事例分析である.アンケート調査は25市町(回収率75.8%)から回答を得た.社会福祉専門職の採用は16市町で行われていた.分析の結果,市町村行政における社会福祉専門職の採用,配置が小規模自治体を含めて一般化されていること,その役割は生活保護分野を中心とする個別の相談援助業務を中心に理解されていることが明らかになった.考察の結果,社会福祉のメゾ,マクロレベルの機能や社会福祉が周辺分野で担う役割への認識が市町村行政において高まるまでには時間の経過が必要であり,専門性に対する組織的理解の向上が課題であることが示唆された.

  • 五十嵐 雅浩
    2023 年 64 巻 2 号 p. 56-71
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/10/05
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    高齢者ケアにおける外国人就労者のための教育的支援の現状を明らかにするため,大阪府内12機関の介護サービス事業所(施設)の教育担当者に半構造化インタビューを行った.調査では,外国人就労者のために介護業務内で行われる個別ケア教育(OJT含め)に焦点を当てて聴き取りを行った.入職時からの段階的支援の推移に応じた実施状況と課題状況を明らかにし,今後の組織における教育的課題について抽出した.チームケアを通して異文化理解を深め相互にエンパワメントされる人間関係の形成と組織的な土壌づくりが求められる現状であった.また,日本語能力に応じた配慮負担の軽減につながるチームケアや教育プログラム等の検討が求められる現状でもあった.本研究において,外国人就労者を含め,多様なコンピテンシーをもつ人材に対して組織的な人材教育機能の強化に向けた課題と更なる検討の必要性が明らかになった.

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