社会福祉学
Online ISSN : 2424-2608
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63 巻, 4 号
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論文
  • 佐藤 光市
    2023 年 63 巻 4 号 p. 1-14
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,児童福祉法成立時にすべての乳児又は幼児(以下,子ども)を対象とした保育所規定が,第5次改正で「保育に欠ける」子どもに対象を制限する規定となった経緯を検討した.そこで被占領期に,GHQの指令(SCAPIN775)による公の支配に属するものに民間社会事業(以下,民間)を取り込んで社会福祉制度を構築したことに着眼し,法の立案から成立後の第5次改正までの過程を分析した.その結果,公の支配と保育所規定を連動させ,民間が公の支配に属すると憲法解釈された時に,保育所規定に保護者支援に関する字句を挿入し,「保育に欠ける」字句の挿入に至り,保育所保育の対象制限の規定となったことが明らかになった.公の支配に保育所規定を連動させた理由を考察したところ,民間を公の支配に属するものとして保育所保育を安定的に供給し,保護者の負担を軽減し労働力の回復を支える制度として,保育所を戦後の経済再建の一翼を担うものとしたことが示唆された.

  • 山田 壮志郎, 斉藤 雅茂, 横山 由香里
    2023 年 63 巻 4 号 p. 15-26
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    生活保護受給状況による高齢者の幸福感の相違を検討した.日本老年学的評価研究(JAGES)が2013年と2016年に実施した65歳以上高齢者を対象にした自記式の郵送調査データ(それぞれn=137,736,n=194,352)を使用した.サンプル全体を「生活保護受給」「非受給・貧困」「非受給・一般」の3群に分け,幸福感に関連する交絡要因として日常生活自立(治療疾患の有無と高次生活機能)および社会生活自立(知人と会う頻度,近隣との交流等)の状況を用いた.調査時点による差は確認されなかったが,両時点ともに生活保護受給群の幸福感はほかより有意に低かった.性別・年齢等にかかわらず,生活保護受給群の高幸福群への該当しやすさは非受給・一般群の約0.68倍であった.加えて,日常生活自立と社会生活自立の状況を調整すると約0.73倍に縮小し,自立支援によって生活保護受給群の低幸福の一部を緩衝しうることが示唆された.

  • 関川 伸哉
    2023 年 63 巻 4 号 p. 27-37
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    本研究では,車椅子適合支援前後の生活状況6要素のデータ分析を行い,利用者情報に基づく改善予測の可能性を明らかにすることを目的とした.本研究で用いた生活状況6要素は,車椅子適合支援後にすべてにおいて有意な改善がみられた.6要素ごとに,それぞれの改善に影響を与える変数についてロジスティック回帰分析を行った.その結果,ロジスティックス回帰式を用いることにより,6要素についての改善予測が行えることが示唆された.また,6要素の次元削減による情報整理とデータの可視化を行うとともに,階層クラスター分析を用い4つのクラスターに分類しその特徴を明らかにすることができた.本研究で示された介入後の効果や利用者情報に基づく改善予測の結果は,今後の車椅子適合支援の普及に寄与することが期待される.

  • 福間 隆康
    2023 年 63 巻 4 号 p. 38-49
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,民間企業に勤務するキャリア初期の精神障がい者の組織適応タイプの特徴を明らかにすることを目的とした.民間企業の精神障がい者のうち勤続年数3年以下の者245名を対象に,インターネット調査を行った.分析の結果,精神障がい者の組織適応タイプは,職業的社会化と文化的社会化は高いが,情緒的コミットメントは平均程度であり,離職意思が高いというステップアップ型が最も多く,次いで,職業的社会化,文化的社会化,情緒的コミットメントが高く,離職意思が低いという理想的な適応型が多く,不適応型が最も少ないことが明らかになった.ステップアップ型は,他組織への退出を思いとどまるような定着支援策が重要であり,不適応型は,本人に向いている部署への配置転換を行ったり,職務内容を変更したりすることで仕事意欲や仕事のやりがいを高めることが有益であると示唆された.

調査報告
  • 髙石 麗理湖
    2023 年 63 巻 4 号 p. 50-61
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    MSW記録の標準化などの必要性が指摘されているが,MSWに相応しい経過記録法などは示されていない.そこで,経過記録法の統一状況および使用する経過記録法とMSW実践の関係性に着目し,MSW記録の現状と課題を明らかにすることを目的に全国調査を実施した.目的変数を「経過記録の統一状況」,「使用する経過記録法」,説明変数を「面接時と記録時の意識」,「経過記録の学習状況」などに設定し決定木分析した結果,経過記録法の統一が面接時と記録時の「ケアと利用者との相互関係」の意識を高めることに影響を与えていた.また,面接時や記録時の意識,組織環境によって経過記録法が左右される実態があり,SOAPや叙述形式ではMSWの実践が十分に明記できないことが明らかになった.さらに,記録教育の重要性が浮き彫りになった.各経過記録法の課題や特性を踏まえ記録教育を実施し,そのうえで各経過記録法を使用する必要がある.

  • 永野 叙子
    2023 年 63 巻 4 号 p. 62-71
    発行日: 2023/02/28
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル フリー

    身寄りのない認知症高齢者の医療同意をめぐり,第三者後見人が医療・介護従事者との合意形成に苦慮した事例を分析し,法的権限を有する後見人の課題を検討した.事例では,本人が「口を開けない」状況に対して,後見人と医療従事者では捉え方が異なったために医療の選択で支障となった.また,本人が署名した「延命治療の確認書」の意向が汲まれず,疎遠である親族に医療同意の協力を求めるとなった.本事例での後見人の課題は,医療・介護従事者との間に医学的情報での格差がみられたこと,表明された本人の意向について協議の機会がなかったこと,医療の選択では親族の意向が優先されてしまったことである.したがって後見人は,本人の延命に対する意向を医療・介護従事者に説明する努力を最大限に行うこと,そして本人にとっての最善の医療のために,公平性が担保されたなかで医療・介護従事者との合意形成に務めることが重要であると考えられる.

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