社会福祉学
Online ISSN : 2424-2608
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61 巻, 2 号
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論文
  • 安達 朗子
    2020 年 61 巻 2 号 p. 1-15
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/03
    ジャーナル フリー

    本研究は,視覚障害者が日常生活において支援者から受ける支援に「ズレ」を感じた際,どのように意味づけ,対処してきたのか,また,その「ズレ」を是正する際に生じる困難さの要因は何かを明らかにすることを目的としている.本研究は,5名の視覚障害者のライフストーリーをもとに,半構造化インタビューを行い,定性的コーディングにより,質的機能的に分析した.その結果,調査協力者の否定的感情を生起させたネガティブな支援の「ズレ」と肯定的感情を生起させたポジティブな支援の「ズレ」に大別された.ネガティブな支援の「ズレ」は,支援者側の「視覚障害者に関する無知」,ポジティブな支援の「ズレ」は「運による」と意味づけられていた.対処は「あきらめ」という方法を採り,その「ズレ」を是正する際に生じる困難さの要因は,「自己責任」に収斂されていた.考察では,「あきらめ」ざるをえなかった状態から,五つのディスアビリティを可視化させた.

  • 春木 裕美
    2020 年 61 巻 2 号 p. 16-30
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/03
    ジャーナル フリー

    本研究は,障害児を育てる母親の就業に影響を及ぼす要因を明らかにし,障害児家族への援助の在り方を検討することを目的とした.特別支援学校在籍児の母親を対象とした質問紙調査を行い,266通の回答を有効とした.従属変数は,就業の有無,仕事の制限感とし,階層的重回帰分析,階層的2項ロジスティック回帰分析を行った.分析の結果,母親の就業に最も影響を与えていたのは子どもの医療的ケアだった.医療的ケアが必要な場合,母親は無職であることや仕事の制限感が高かった.有職の母親は,福祉サービス利用度が高いことや福祉サービスの量的充足度が高いほど仕事の制限感を低めていた.一方,対象児の介助度が高いほど,また,母親の役割拘束の認識が高いほど仕事の制限感を高めていた.これより,障害児相談支援の役割として,母親が就業を希望する場合には,子どもと家族の双方を考慮した福祉サービスのコーディネートの重要性について言及した.

  • 山田 敏恵
    2020 年 61 巻 2 号 p. 31-44
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/03
    ジャーナル フリー

    本論文の目的は,1950年から2016年の間に医療・福祉の場で行われた精神障がいを持つ人に対する音楽活動について,当該時期の社会的状況と携わった専門職との関係を踏まえ,どう位置づけられ,変化してきたかを明らかにすることである.方法として,医師・看護師・作業療法士・精神保健福祉士を読者とする専門職誌に掲載された音楽活動に関する実践記録と研究論文,関連記事の特徴をもとに音楽活動の展開過程を整理・検討した.当初医師の趣味と生活療法にあった音楽活動は精神障がいを持つ人の楽しみになり,生活改善,治療,リハビリテーション,退院支援に用いられるようになった.そして精神障がいを持つ人の理解促進や地域の「居場所」での活動など,その用途は広がっている.音楽活動は現在の音楽療法へ展開しただけでなく,専門職により当該時期の治療法や施策,支援体制のなかに柔軟に取り込まれ,継続して活用されてきたことが明らかになった.

  • 桑原 啓
    2020 年 61 巻 2 号 p. 45-58
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/03
    ジャーナル フリー

    日本には,「ひきこもり」とされる人が,約120万人いると言われている.「ひきこもり」支援実践の種々のアプローチは,居場所活動や就労支援といったかたちで,一定の線引きのもとに行われてきた.本稿の目的は,そうした活動に参加している「ひきこもり」経験者や支援者の認識を検討し,支援施設の活動の複合的な性格を確認することである.分析には,状況の定義について扱ったGoffmanのフレーム概念を用いた.インタビュー調査を実施した施設では,一見して就労支援に思えるカフェの運営が,居場所活動であると位置づけられていた.よって,このカフェ活動は,居場所活動と就労の両義性を有していると言える.また,「ひきこもり」支援に関する制度的な整備が施策ごとに分割されていたため,両義性を有するカフェ活動は困難に陥っていた.以上より,「ひきこもり」支援のあり方をめぐっては,従来の区分にとらわれない柔軟な議論が必要である.

  • 梶原 豪人
    2020 年 61 巻 2 号 p. 59-70
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/03
    ジャーナル フリー

    本稿では,1950年代から続く長期欠席の公的統計において「不登校」の定義が確立するまでの歴史的経緯を貧困という視点から振り返り,2000年代以降の「貧困家庭の不登校」を対象とした研究の動向を展望した.当初の長期欠席への問題関心は,貧困ゆえに「学校に行かせてもらえない子どもたち」が中心的であった.こうした問題関心は高度経済成長期を通して背景化し,代わって心理主義的な「不登校」が社会的関心を集める.一方,「子どもの貧困」の社会的認知が普及したことにより,「貧困家庭の不登校」を対象とした研究が蓄積され,それら先行研究は,教育学の不登校研究,社会福祉学のスクールソーシャルワーク研究の二つの文脈に位置づけられる.両文脈における先行研究を検討し,今後の研究課題として,貧困家庭の不登校/従来の不登校という線引きの再検討,社会構造上の問題として貧困家庭の不登校問題を位置づけた研究の必要性を指摘した.

  • 神山 典子
    2020 年 61 巻 2 号 p. 71-89
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/03
    ジャーナル フリー

    本研究は,児童福祉施設以外で取り組まれる退所女性への支援実態を検証するため,民間シェルターでフィールドワークを実施し,ソーシャルワークによる支援過程の解析を目指した.支援記録とフィールドノーツをもとに,複線径路・等至性モデル(TEM)を用いて8世帯を分析した.その結果,信頼関係の醸成や社会資源の活用を経て,生活課題と対峙し,今後の生き方を決めた二つの径路と,生活課題の直視を促す作業を経ても変化のなかった径路に3分類できた.また,見守りながら信頼関係を形成した1人に,ジェンダー・バイアスとの対峙に変化が生じる可能性を見いだした.さらに,退所女性個人の人生観や生活観,それに伴うリスクなどを考慮した退所施設などの活用が明らかになった.以上から,退所女性が適切な支援を享受できるよう,退所施設だけによらないさまざまなソーシャルワーク実践場で,退所者支援を充実させる積極的是正措置として「積極的支援」を提案した.

  • 岸本 尚大, 和気 純子
    2020 年 61 巻 2 号 p. 90-103
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/03
    ジャーナル フリー

    民生委員は地域福祉の重要な推進者であるが,近年負担感の増大が懸念されている.本研究は,高齢者への訪問活動に焦点を当て,民生委員のバーンアウトの構造と規定要因を実証的に明らかにすることを目的とした.方法としては都市部A区の全民生委員を対象に質問紙調査を実施し,仮説モデルをもとに定量的な分析を行った.その結果,バーンアウト全体を最終的な目的変数とした場合,「訪問活動におけるストレス経験」に影響を及ぼす基本属性は「年齢」「経験年数」「世帯構成(ひとり暮らし)」であった.また,バーンアウト全体に直接的に影響を及ぼす基本属性は「引き受けた動機」のみであった.さらに,バーンアウト概念を構成する各3次元とストレス経験因子との関連については「情緒的消耗感」と「脱人格化」には「協力依頼の量的負荷による困難」「個別対応における困難」,「個人的達成感」には「知識・研修不足による困難」からの影響が明らかになった.

  • 小山 聡子
    2020 年 61 巻 2 号 p. 104-117
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/03
    ジャーナル フリー

    ソーシャルワーク教育では,実習前後の演習教育においてロールプレイの導入が称揚されているが,具体的な方法提示は不十分である.そこで,演劇/ドラマの手法を適用したコミュニケーション集中授業の授業研究結果を踏まえて,ソーシャルワーク演習教育に示唆するものと留意点に関する考察をした.分析対象は,2015年と2016年に受講した学生の事後リポートである.分析を通して,①演劇/ドラマの手法が提供する「身体への回帰」とセットになった即興性の体験が,「いまここ」の感覚を呼び覚ますこと,②「評価の解体」によって各自が十分に認められる体感が,社会変革につながる価値の増殖を可能にすることがわかった.これらはクリティカル・ソーシャルワークが提唱するクリティカル・リフレクションへの第一歩を助けると考えられる.一方,こうした授業はその要素が演習教育全体に適切に配置されてこそ活かされる.演習教育の今後に向けた課題がクリアになった.

  • 平 将志
    2020 年 61 巻 2 号 p. 118-131
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/03
    ジャーナル フリー

    ソーシャルワークは,福祉政策にとどまらず,諸政策において導入が試みられている.雇用政策と関連して,本格的にソーシャルワークが導入されたのは,1963年の炭鉱離職者臨時措置法改正によってである.日本の重要産業であった石炭鉱業は,1950年代中葉から石炭合理化による炭鉱閉山が相次ぎ,大量の炭鉱離職者が生み出されたが,炭鉱離職者は,「炭鉱労働(者)の特性」から再就職に困難がともなった.1959年,政府は炭鉱離職者臨時措置法を制定し,さらに強力に援護対策を行うために1963年改正により,炭鉱離職者求職手帳とこれを補完する就職促進指導官による「ケースワーク方式」の就職指導が新設された.さらに「炭鉱労働(者)の特性」を踏まえた「集団指導」が活用されるようになった.本稿の課題は,雇用政策とソーシャルワークの交錯がみられた先駆例である,炭鉱離職者対策と就職促進指導官による就職指導がどのように形成,展開されたのかを検討した.

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