社会福祉学
Online ISSN : 2424-2608
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57 巻, 3 号
選択された号の論文の23件中1~23を表示しています
論文
  • 間嶋 健
    2016 年 57 巻 3 号 p. 1-14
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    質的研究は事象の多様性を捉えられることからソーシャルワーク領域に用いやすいが,記述が主観的であるということや,一般性を欠くという点から科学的な研究とはみなさないという見方もある.したがって,ソーシャルワークの科学的実践を広く実施していくためには,質的研究の科学性を検討する必要がある.本研究では,近年医療・福祉領域において浸透しつつある認識論である構造構成主義に基づき,その一連の著作から質的研究の科学性確保への理路について,主客問題,科学の定義を中心に整理した.そして,その理路の視点からKJ法,M-GTAを検討し科学性を得るための手法上の修正を施した.その具体的方策として,M-GTAの分析ワークシートを,構造化に至る思考の軌跡の開示を図るためにカスタマイズし,統計学的には一般化しえない少数事例において一般性を付与しうる記述方法を検討した.さらに,質的研究による知見を用いた実践の可能性をSW実践の一例を通じ示した.

  • 黒田 文
    2016 年 57 巻 3 号 p. 15-28
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,ソーシャルワーク技能の習得を目指して実施される演習教育で学習者が自己省察を行う際に,その内容が指導者によって提示される省察の枠組みとどのように連関するかについて考察することである.自然言語処理ソフトを用いて学習者が記述したレポート内容について解析した結果,指導者が提示する枠組によって学習者の自己省察パターンの位相が異なることが明らかとなった.この結果により,指導者が学生に自己省察を促す際は,自らが提示する枠組みに学習者の認識システムが依拠することを理解して学習者の思考や方向性について意識的に導く必要性があると結論づけた.

  • 青山 貴彦
    2016 年 57 巻 3 号 p. 29-40
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,障害者就業・生活支援センターにおける精神障害者のアセスメントに関して,職業準備性に焦点を当て,実践活動においてどのような項目を,どの程度重視してアセスメントを行っているのか,その構造について探索的に明らかにすることである.量的調査の結果,アセスメント項目ごとの重視度が明らかになり,因子分析によって抽出された7因子(報告・連絡・相談のスキルの重視度,日常生活の遂行状況の重視度,他者との関係のもち方の重視度,気力・体力の状況の重視度,作業遂行力の重視度,疾病・障害の管理の重視度,コミュニケーション能力の重視度)と,各因子間の相関を踏まえて実践知の構造をモデル化した.各因子と回答者の基本属性との間で大きな関連は見いだされなかったことから,このモデルは人口規模を問わず,すべての障害者就業・生活支援センターに適用しうるのではないかと考えられる.

  • 高橋 賢一
    2016 年 57 巻 3 号 p. 41-55
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究は,援助者が遭遇する困難やストレスを主体的な取り組みが含まれる「苦慮」という概念で捉え,成長に至る契機やプロセスを明らかにすることを目的とした.

    精神保健福祉士10名のライフストーリーをSCATによる質的分析を行った結果,援助者にとって苦慮を伴う体験が肯定的認識となり成長に寄与していることが示唆された.そのプロセスは,新人から現場の中核を担う過程において,ネガティブな状況にありながらもクライエントや職場スタッフとの関わりや支えられた体験を意味あるものとして自分のなかに落とし込めることにより新たな価値認識に至りポジティブな転換に移行していた.さらに,苦慮と対峙してきた経験が専門職としての意識や価値の形成,信念や持論など援助者としての自分を支える基盤に結びついていた.

  • 安田 美予子
    2016 年 57 巻 3 号 p. 56-68
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    社会福祉施設の経営で経営理念が重視され,組織や職員に浸透する必要性が増している.そこで施設における経営理念浸透を把握する理論的枠組みを構想する目的で研究を行った.社会福祉施設の経営の特徴を明らかにし,経営理念を定義した.経営学の経営理念浸透研究に注目して紹介し,それを社会福祉施設での適用という観点から考察した.結果,個人と組織のなかにある経営理念以外の意識的・無意識的な信念や価値観との関連で理念浸透を把握し,理念の実際の行動への反映を扱う理論的枠組みが必要であることを明らかにした.その視点を反映するため,個人レベルに信奉理論と使用理論,中間集団と組織レベルに組織文化を用い枠組みを構想し,既存事例を分析した.この枠組みによって,個人,中間集団,組織レベルで経営理念の実際の行動への反映を把握し,かつ経営実践と利用者支援の振り返りに利用できることが示唆された.

実践報告
  • 酒寄 学, 宇留野 光子, 宇留野 功一, 安梅 勅江
    2016 年 57 巻 3 号 p. 69-77
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    本稿は,社会福祉法人のコミュニティ・エンパワメントに向けたプログラム「夢の花ワークショップ」の効果を明らかにするとともに,その意義を俯瞰的に考察し,今後の展開への一助とすることを目的とした.対象は,障害児・者福祉,高齢者福祉,児童福祉,司法福祉など複合的な機能を持つ社会福祉法人の職員24名であり,2回のワークショップ終了後に自記式質問紙を用いて効果評価を実施した.ワークショップ実施前後の意識と仲間関係について7件法で回答を依頼した.各質問項目の平均値と中央値を算出し,ウィルコクソンの順位和検定を用いて変化を検定した.その結果,ワークショップを通じ,参加メンバーが持つ力を引き出し,発揮する土台を作ることができた.つまり,夢の花ワークショップというエンパワメント・プログラムにより社会福祉法人の職員がエンパワメントされることが実証され,参加と共創を具現化できたと考えられる.

  • 相原 眞人
    2016 年 57 巻 3 号 p. 78-90
    発行日: 2016/11/30
    公開日: 2019/02/15
    ジャーナル フリー

    家庭養護の重要性が強調され,里親等委託率33%の達成も目指されているなか,2014年度の全国平均は16.5%にとどまっている.一方,静岡市は里親等委託率39.2%を達成しているだけでなく,里親の養育不調による委託解除も少ないなど,その実践内容,とりわけ里親家庭への支援を中心的に担う支援センターの活動が注目されている.そこで,静岡市における里親家庭への支援内容を詳細に把握し,里親委託率向上や養育不調予防に資する要素を抽出することを目的に,市児相と支援センターに対し資料収集とインタビュー調査を実施して得られたデータを質的に分析した.その結果,静岡市の里親家庭への支援枠組みは静岡市独自の地域状況から形作られたことが把握された.そして,市児相と支援センターの協力関係を基盤に展開される多様なソーシャルワーク支援と里親リクルートおよびマッチングが,里親等委託率向上と養育不調予防に資する要素になっていると考えられた.

2015 年度 学界回顧 と展望
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