近年,英米を中心とした先進諸国の貧困問題をめぐる議論において,特定のタイプの貧困者に言及する"アンダークラス"の概念が,非常に重要な意味をもつようになっている.本稿では,大都市の貧困や不平等の問題に大きな関心を寄せてきた,アメリカの社会学者ハーバート・ガンズ(Gans, Herbert J.)の提示した,アンダークラス概念への「批判」を手がかりとしながら,この概念のもたらす社会的効果とその問題点を検討している.彼は,アンダークラスの概念を,ネガティブなラベリングの現代版として規定し,それが貧困の犠牲者をますます不利な状況に追いやっていることに注意を促す.そのうえで,その概念が社会的に浸透するに至った理由を探るために,アンダークラス概念のもつ「積極的」機能に注目している.こうしたガンズの視座を検討する作業は,ますます複雑化する,今日の貧困問題に関する理解を深めていくうえで,非常に重要な役割を果たすように思われる.
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