ペニシリンGカリウム塩およびナトリウム塩をイヌの静脈内に大量投与した時の,血清電解質濃度および心電図に現れる影響について検討した。ビーグル18頭(年齢:8~22カ月齢,体重:7~10.5kg)を用いて,ペニシリンGナトリウム塩およびカリウム塩を,それぞれ3.5×10
5 I.U./0.6mEq(電解質当量)/kgおよび7×10
5 I.U./1.2mEq(電解質当量)/kg宛投与し,投与中および投与後60分間にわたり観察した。投与液量は一律に2.4ml/kg体重で,投与速度を4~5ml/分とした。また,対照として,等モルの塩化カリウム溶液および5倍量の塩化ナトリウム溶液の投与も試みた。
ペニシリンGカリウム塩7×10
5 I.U./1.2mEq(K
+ 当量)/kgの投与により,投与中に嘔吐と痙攣が現われ,心電図上は,T波の増高と尖鋭化,QRS群持続時間の延長およびST分節の低下が認められた。また,半数の個体は投与開始後3~4分時にP波消失もみられたので投与を中止せざるをえなかった。
一方,ペニシリンGナトリウム塩7×10
5 I.U./1.2mEq(Na
+ 当量)/kgの投与では,投与中に,若干の嘔吐がみられたのみで,心電図変化もカリウム塩に比べて軽度であった。
ペニシリンGカリウム塩およびナトリウム塩投与後の血清K
+ およびNa
+ 濃度の変化は高カリウム,低ナトリウム血および低カリウム,高ナトリウム血の傾向を示したが,いずれもイヌの正常範囲内にとどまるものであった。
ペニシリンG塩と等モルの塩化カリウム溶液および5倍量の塩化ナトリウム溶液の投与でもそれぞれに対応するペニシリンG塩と,質的,量的に類似する心電図変化および血清電解質濃度の変化が認められた。
以上の成績からペニシリンG塩の心臓に対する二次作用はそれぞれが含有する電解質の作用が主体となっていること,またペニシリンGカリウム塩に比べ,ナトリウム塩の方が安全性に優れていることが明らかとなった。
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