犬の肺高血圧症 (PH) を伴う僧帽弁閉鎖不全症 (MMVD) の右心機能評価は重要であるが,犬のPHを伴うMMVDの超音波検査による右心機能指標の有用性については十分にわかっていない。本研究の目的は10頭のMMVD犬の超音波検査指標を用いた右心機能の有用性を10頭の正常犬の超音波検査指標と比較することにより評価することである。正常犬と比較してMMVD犬はeccentricity indexが有意に高値に,右室面積変化率 (FAC) が有意に低値に,右室拡張早期流入波/心房収縮期波 (E/A) が有意に低値になった。超音波検査指標はPHを伴うMMVD犬の右心機能評価の有用な検査法である。
運動負耐を主訴に12歳のパピヨンと13歳のヨークシャテリアが紹介来院した。尿検査にて蛋白尿が認められ,心エコー図検査にて左室内腔狭小化を伴う左室求心性肥大が認められた。これら2症例はともにアンジオテンシン変換酵(ACE)素阻害薬を半年以上服用していたが,ACE阻害薬の治療効果が乏しいと判断し,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)への変更を行った。ARBによって2症例ともに蛋白尿および狭小化していた左室内腔と一回拍出量(SV)は改善した。今後は蛋白尿と左室求心性肥大を有する犬に対してARBの適応や有効性について更なる検証が必要である。
ウェルシュ・コーギー・ペンブローグ,15歳,避妊雌が,腹囲膨満と運動時の虚脱を主訴に来院した。本例は3年前に近医にて実施された腹部超音波検査において,副腎腫瘍の可能性を指摘され,トリロスタンの内服治療を受けていたが,1年前からは後大静脈内腫瘍塞栓とみなされる超音波所見を随伴していた。当院で実施した経胸壁心エコー図検査では,右傍胸骨左室流出路断面像にて右心腔内に可動性の大型異常構造物が描出された。さらに右傍胸骨右室流入路断面像では,異常構造物は後大静脈から右心室腔内までつながっていた。以上の検査所見から,右心腔内の異常構造物は副腎腫瘍の後大静脈内進展に起因する右心腔内腫瘍塞栓と仮診断した。飼い主は積極的な外科的治療を希望せず,本例は当院初診の10日後に呼吸困難により自宅で死亡した。死後の病理学的検索により,右心腔内の異常構造物は副腎皮質癌に由来する右心腔内腫瘍塞栓であることが確認された。