動物用医薬品は,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法,平成26年の法改正以前は薬事法と呼ばれていたヒト用医薬品と共通の法律)の規制下にある。製薬企業等は,探索研究で発見した有望な候補物質について動物に簡便に投薬できるように製剤化し,毒性試験,薬理試験,実際に使用される動物種を用いた対象動物安全性試験及び吸収・分布・代謝・排泄を検討する薬物動態試験及び臨床試験を実施し承認申請を行う。その後,農林水産省による事務局審査,薬事・食品衛生審議会によるいくつかの審査会審査を経て,品質,有効性及び安全性のすべてが認められた場合に承認される。新規動物用医薬品は承認された際に通常6年間の再審査期間が設定される。製薬企業等は再審査期間中に使用成績調査を行い,再審査を受け承認審査のすべてを終了する。循環器領域の動物用医薬品開発では,医薬品として既承認の化合物を利用するケースが主で,開発が成功する可能性は高い。開発の一番大きなリスクは臨床試験に潜んでいる。循環器の診断・治療の経験が豊富で,高度でかつ安定した診断技術を有する獣医師等の協力が不可欠である。動物の循環器領域に充実した動物用医薬品を供給するため,臨床試験や使用成績調査等の実施には本会員のご理解とご支援を期待したい。
雄のトイ・プードル1歳8カ月齢がふらつきと呼吸促迫を主訴として来院した。身体検査では分離性チアノーゼを認め,心雑音は聴取されなかった。心エコー図検査において右心系の拡大を認め,また非選択的血管造影検査において左心系の造影剤の流入陰影は認めず右房と肺動脈そして胸部大動脈が同時に造影されたため,アイゼンメンジャー症候群を呈した動脈管開存症と診断した。本症例に対しては,外科的治療は適応外と判断し,プロスタグランジンI2誘導体製剤であるベラプロストナトリウムの内服と瀉血を行った。それにより,治療開始から5年10カ月を経過した現在も良好に維持できている。
Transcatheter coil embolization of patent ductus arteriosus was successfully performed for 10-year-old female Pembroke Welsh Corgi. Sustained ventricular tachycardia was complicated after 30 hours of surgery. Repetitive intravenous lidocaine was ineffective on the arrhythmia. Subsequently, intravenous dipyridamole suppressed the ventricular tachycardia immediately. No clinical case report of dogs has shown the effect on ventricular arrhythmia. On the other hand, the preventive effect of dipyridamole on Adenosine- or ATP-sensitive ventricular tachycardia and reperfusion arrhythmia is well known in human. It is considered that electrophysiological mechanism of postoperative ventricular tachycardia in this case is similar to that of reperfusion arrhythmia in human because of response to dipyridamole administration, and that dipyridamole also has antiarrhythmic effect clinically on ventricular arrhythmias caused by similar operative mechanisms in dogs.
腹水貯留を呈し,心室中隔欠損症に第三度房室ブロックを併発した8歳,雌のフェレットに遭遇した。心室中隔欠損症は,双方向性短絡を呈しており,すでに肺高血圧症を併発していると考えられた。そのため,強心と利尿および肺血管拡張療法を実施した。その結果,僅かな右心室圧負荷所見の軽減を認めたが,腹水貯留に改善は見られなかった。そこで,第三度房室ブロックに対する治療として,シロスタゾールを追加したところ,心室レートが上昇し,腹水貯留の改善が見られた。本症例のうっ血性心不全には,肺血管拡張による右心室圧負荷の軽減と同時に,心拍数増大による心拍出量の維持が重要であると考えられた。
心室中隔の左室面に形成された腫瘤状病変が左室腔を占拠するに至った犬の1例について報告する。本例は後躯麻痺を主訴に来院し,腹部超音波検査にて腹部大動脈塞栓症と診断された。また,心臓超音波検査にて心室中隔から左室の内腔に向けて隆起する腫瘤状構造物が描出されたことから,心臓内に形成された腫瘍または血栓の存在が疑われた。血栓溶解療法ならびに抗凝固療法により症状は一時改善したかに見えたが,左室腔内の腫瘤はその後急速に増大し,第80病日に自宅にて急死した。心臓の肉眼的検索では,心室中隔に端を発した増殖性病変は左室腔を占拠し,さらには大動脈弁口を越えて上行大動脈内にまで伸展していた。組織学的に腫瘤の大部分は血小板と線維素を主要な構成成分とする血栓であったが,心室中隔との接合部では多形性を示す異型間葉系細胞が明瞭な血管腔ないしは血管洞様構造を形成していたことから,本腫瘤は血管肉腫を基盤に形成された血栓性の増殖性病変であることが明らかになった。