
【目的】当科における胸腹部大動脈瘤に対するhybrid TEVARの成績,とくに周術期DICと出血性合併症について考察する.【方法】2011年1月~2022年9月にhybrid TEVARを施行した15例を検討し,術後成績,周術期DICおよび出血性合併症の評価を行った.【結果】術後30日死亡は脳出血の1例(6.7%)であった.術前DICを5例に認めたが,術後DICは11例と増加し,そのうち3例で出血性合併症を認めた.単変量解析では,出血性合併症のリスクとして術前FDP値,ステントグラフト治療長,大動脈瘤内血栓量が示唆された.【結論】胸腹部大動脈瘤に対するhybrid TEVARは,ハイリスク患者における有用な選択肢である.しかし,術後DICの頻度が高く,それに伴う出血性合併症は致命的となるため,十分なリスク評価を行い,出血性合併症を未然に防ぐための治療介入を検討すべきと考えられた.
症例は73歳男性,他院消化器内科のCTで左大腿深動脈に35 mmの瘤を指摘,当院へ紹介となった.手術は大伏在静脈を用いて総大腿動脈–大腿深動脈バイパス術を行った.術後5日目に行った造影CTでグラフトの開存を確認できたがリンパ漏を認めた.リンパ漏による創部離開を来したためリンパ管結紮を行った.術後30日目で創部は治癒し退院となった.大腿深動脈瘤の手術適応に関して明確な基準はないが,早期に治療を考慮すべきという報告が多い.瘤結紮のみで問題ないといわれているが,大腿深動脈は重要な側副血行路となりうることを考え,血行再建を行った.グラフト感染のリスクを考慮し,大伏在静脈を用いることとした.結果として術後リンパ漏を認めたがグラフト感染は認めなかった.大腿深動脈瘤は稀な疾患であり,大伏在静脈を用いて血行再建を行った症例報告は少なく,文献的考察も踏まえてここに報告する.
腹部大動脈人工血管置換術後の大動脈–十二指腸瘻は稀であるが致死的合併症の一つである.外科的治療が原則だが,標準的な治療法はまだ確立されていない.人工血管と十二指腸が接触して瘻孔が形成された症例では,十二指腸を解剖学的経路で残すことは再発の危険性が高いと考えられる.そのため再発を予防するには十二指腸を修復するとともに人工血管と接触させないことが重要と考えられる.今回われわれは腹部大動脈瘤術後に人工血管–十二指腸瘻を発症した2例に対して,人工血管再置換術と十二指腸部分切除,そして空腸結腸後経路再建による十二指腸空腸吻合を施行した.1例目は大網充填を同時に行い,2例目は大網組織が乏しかったため使用できなかったが,2例とも感染の再発なく良好な経過を得た.腸管再建経路を変更する本方法は人工血管が直接十二指腸に接触せず,感染再発防止に有効な可能性があると考えられる.
症例は47歳,男性.主訴は背部痛で,入院時の胸腹部造影CTでは,左鎖骨下動脈分岐部から左総腸骨動脈までの解離に加え,上腸間膜動脈と左腎動脈に及ぶ解離を認めたが,いずれも血流は保たれていた.Stanford B型急性大動脈解離の診断で保存的治療を行うこととした.入院7日目の腹部X線および造影CTの所見から上腸間膜動脈の虚血による麻痺性イレウスが疑われた.10日目には腎機能の急激な悪化があり,造影CTでは胸部下行大動脈から腹部大動脈のさらなる真腔の縮小および偽腔の拡大,上行結腸壁の虚血と左腎梗塞を認めた.13日目に胸部下行大動脈近位部に胸部大動脈ステントグラフト内挿術を行った.術後3日目の造影CTでは腸管血流の改善および左腎の再灌流を認めた.その後発熱が持続し,細菌感染に対して抗菌薬治療を行ったが,経過はおおむね良好で39日目に退院した.
77歳男性.突然発症の腹痛で救急搬送され,CTで上腸間膜動脈(SMA)閉塞症と診断され,当院転院となった.血管内治療ののち,試験開腹の方針とした.造影すると中結腸動脈および第2空腸動脈の分岐直後での閉塞を認めた.血栓吸引デバイスシステムIndigo Aspiration System CAT8(Penumbra Inc., Alameda, CA, USA)を使用し良好な血行再建を得た.引き続き開腹下に腸管評価すると,回腸末端口側30 cmから口側約200 cmの腸管の漿膜面に黒色変化を認め,切除し,回腸末端,回盲部・上行結腸は温存できた.術後CTでSMAの良好な開存を確認し,術後14日目に退院した.SMA閉塞症の血行再建方法として末梢血管血栓吸引デバイスのIndigo Aspiration Systemが2023年9月に本邦で保険収載された.同デバイスを使用し良好な結果を得たので報告する.