日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
33 巻, 6 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
症例
  • 窪 啓嗣, 谷島 義章, 中須 昭雄, 竹林 聡, 青木 雅一
    2024 年33 巻6 号 p. 303-306
    発行日: 2024/11/01
    公開日: 2024/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は86歳,女性.他院で施行されたCT(computed tomography)で胸部大動脈瘤を認め,当院を受診した.精査の結果,右鎖骨下動脈起始異常を伴う弓部大動脈瘤を認めた.起始部は囊状に拡張しており,Kommerell憩室と考えられた.瘤は弓部のZone 3に位置し,58 mm大の囊状瘤で,半年間で約3 mmの拡大傾向を認めた.破裂のリスクが高く手術の方針とした.患者は高齢であり,術式は胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR; thoracic endovascular aortic repair)を選択し,総頸動脈に手術操作を加えることなく,上行大動脈–両側腋窩動脈バイパスの2-debranching TEVARとした.脳梗塞発症も認めず,良好な術後経過を得た.今回われわれは右鎖骨下動脈起始異常を伴う弓部大動脈瘤に対してTEVARを行い,合併症なく良好な経過を得たため,若干の考察を含め報告する.

  • 日高 のぞみ, 斉藤 貴明
    2024 年33 巻6 号 p. 337-341
    発行日: 2024/11/17
    公開日: 2024/11/17
    ジャーナル オープンアクセス

    The Arc of Bühler(AOB)は胎生期における上腸間膜動脈(SMA)と腹腔動脈(CA)の遺残吻合血管と考えられ,その頻度は1–4%と稀な解剖学的変異である.正中弓状靭帯症候群(MALS)などによりCAに狭窄や閉塞を伴うと瘤化し,治療対象となり得る.症例は77歳女性,他院にて偶発的に内臓動脈瘤を指摘され当科紹介となった.造影CTでφ20 mm大の囊状AOB動脈瘤と診断し,血管内治療を行った.初回治療で,2本の流出動脈をコイル塞栓した後,術中血管造影で瘤内と流入動脈の描出が消失したため,手技を終了した.しかし術後1週間の造影CT検査にて瘤内の一部と流入動脈が再疎通している所見を認め2回目の治療を行った.瘤内の一部と流入動脈をコイル塞栓した.術後3カ月での造影CTでは,AOB動脈瘤は完全に塞栓されており,コイル塞栓は安全かつ有効な治療法であると考えられた.

  • 下村 俊太郎, 玉岡 幸記, 竹内 彬, 木村 崇暢, 片山 秀幸, 恒吉 裕史
    2024 年33 巻6 号 p. 343-347
    発行日: 2024/11/17
    公開日: 2024/11/17
    ジャーナル オープンアクセス

    急性下肢動脈閉塞では,下肢切断に至る可能性があるのみならず,依然として高い致死率が報告されている.これは局所的な下肢の問題だけではなく,虚血再灌流障害が全身に影響を及ぼしうることが一因であり,腹部大動脈で閉塞する場合には影響はより重大となる.われわれは感染を契機に急性腹部大動脈閉塞により両下肢に虚血を呈した症例を経験した.症例は64歳男性.前医にてレミエール症候群と診断され加療中,腹部大動脈閉塞を発症した.血栓除去術とステントグラフト内挿術で血流再開した後,虚血再灌流障害を予防するためcontrolled limb reperfusionを用いた.術後,下腿コンパートメント症候群や,一時的な急性腎障害は併発したものの,いずれも速やかに改善した.この方法を用いることにより,急性期の高カリウム血症,致死的不整脈や,代謝性アシドーシスなどを回避することができ,生命予後の改善にも寄与すると考えられる.

  • 手塚 大樹, 出田 一郎, 池田 理, 樋渡 啓生, 新冨 静矢, 押富 隆
    2024 年33 巻6 号 p. 349-353
    発行日: 2024/11/29
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は65歳男性,2日前から増悪傾向のある胸腹部痛を主訴に来院した.胸腹部造影computed tomography(CT)で偽腔開存型,左鎖骨下動脈遠位にentryを有する逆行性A型大動脈解離に加えて,元々存在していたと思われる最大径70 mmの腹部大動脈瘤に解離が進展し,後腹膜血腫も認め,逆行性A型大動脈解離の進展に伴う腹部大動脈瘤破裂と診断した.開胸開腹下の同時胸部・腹部大動脈人工血管置換術を検討したが,侵襲度が高く救命困難な可能性も予想されたため,緊急同時胸部・腹部ステントグラフト内挿術を施行した.大動脈解離の進展,後腹膜血腫増大,瘤径拡大がみられた際には外科的追加治療も考慮し,厳重な血圧管理,定期的なCT検査を行った.幸いにも術後経過問題なく,解離した上行大動脈はremodelingし,腹部大動脈瘤は偽腔血栓化,後腹膜血腫も消退して,胸部・腹部ともに追加治療を要さず経過した.

  • 加藤 健一, 栗本 義彦, 佐々木 啓太, 丸山 隆史
    2024 年33 巻6 号 p. 355-360
    発行日: 2024/11/29
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル オープンアクセス

    腹部大動脈瘤に対するステントグラフトデバイスの脚は,単体で腸骨動脈瘤の血管内治療に応用することができる.しかし一般的に脚の末梢径は複数用意されているが,中枢径は単一サイズしか規格がなく,中枢側ランディングゾーンの径がそれより大きい場合には脚の反転留置を要する場合がある.今回われわれは,左内腸骨動脈瘤に対する血管内治療においてOvation iX iliac limb(Ovation脚)を反転留置した.Ovation脚は柔軟かつ細径でありデリバリーシステムシース内でのグラフト反転再格納が困難だが,他機種とは異なる方法により反転留置をすることに成功した.本手法により,腸骨動脈瘤に対する血管内治療適応・戦略が拡大することが期待される.

  • 齋藤 真人, 今水流 智浩, 大場 健太, 内山 雅照, 下川 智樹
    2024 年33 巻6 号 p. 361-365
    発行日: 2024/11/29
    公開日: 2024/11/29
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は,31歳男性のプロ野球の右上手投げ投手.右示指および中指の冷感および投球後の右上肢倦怠感を主訴に前医を受診し,血流障害が疑われ当院へ紹介となった.CTおよび超音波検査で腋窩動脈の内膜肥厚および血栓閉塞を認めた.血管造影検査でも腋窩動脈の閉塞を認め,末梢への豊富な側副血行路が造影された.今後の選手生命を考慮し,外科的血行再建を行う方針となった.手術所見は,腋窩動脈の内膜肥厚および血栓による血管内腔の閉塞を認めた.血栓を除去し,内膜摘除を行った後,ウシ心膜パッチを用いた血管形成術を行った.術後経過は良好であり,退院後6カ月経過した時点で試合での登板復帰を果たしている.アスリートに生じる腋窩動脈閉塞は稀であり,診断に難渋することがある一方で適切な治療介入により比較的良好な予後が見込める疾患である.

  • 柘植 俊介, 高木 淳, 吉永 隆, 福井 寿啓
    2024 年33 巻6 号 p. 367-370
    発行日: 2024/12/11
    公開日: 2024/12/11
    ジャーナル オープンアクセス

    Edwardsiella tardaは自然界に広く分布する腸内細菌科の細菌で,感染した魚介類や水生動物の摂取によってまれにヒトにも感染する.ヒトでは主に腸管内感染症を引き起こすが,重篤な腸管外感染も報告されている.今回われわれは,発熱,腰痛を主訴として来院したEdwardsiella tardaによる感染性腹部大動脈瘤に対し,in situ人工血管置換と大網被覆により良好な術後経過を得ることができた症例を報告する.

血管外科手術アニュアルレポート2019年
  • 日本血管外科学会データベース管理運営委員会 , NCD血管外科データ解析チーム
    2024 年33 巻6 号 p. 307-335
    発行日: 2024/11/17
    公開日: 2024/11/17
    ジャーナル オープンアクセス

    2019年に日本で行われた血管外科手術について,日本血管外科学会データベース管理運営委員会が集計結果を解析し,アニュアルレポートとして報告する.【方法】NCDの血管外科手術データに基づき,全国における血管外科手術動向およびその短期成績(術死,在院死亡)を解析した.【結果】2019年にNCDに登録された血管外科手術は154,460件であり,1,082施設からの登録があった.このデータベースは,7つの血管外科分野すなわち動脈瘤,慢性動脈閉塞,急性動脈閉塞,血管外傷,血行再建合併症,静脈手術,その他の血管疾患からなっており,それぞれの登録症例数は,23,826, 17,100, 4,947, 2,369, 674, 54,023, および51,521例であった.腹部大動脈瘤(含む腸骨動脈瘤)は20,369例で,その63.3%がステントグラフト(EVAR)により治療されている.1,739例(8.5%)の破裂例を含んでおり,手術死亡率は破裂,非破裂で,それぞれ15.0%,0.6%であった.破裂症例に対するEVARは43.8%を占め,その比率は年々増加傾向であり,置換術とEVARの手術死亡率はそれぞれ12.6%と15.4%であった.慢性動脈閉塞症は,重複を含み17,100例が登録され,open repair 8,026例(うちdistal bypass 1,250例),血管内治療8,879例が施行された.血管内治療の割合が51.9%であった.静脈手術では,下肢静脈瘤手術は42,313例(患者数)で,前年比で1.9%減少した.血管内焼灼術は41,676例で,手術法の79.8%を占めた.下肢深部静脈血栓症は384例であった.その他の手術として,バスキュラーアクセス手術47,605例,下肢切断1,703例が登録され,共に増加傾向である.【結語】2018年と比較して,全領域において血管内治療の割合が増加傾向であった.下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術とバスキュラーアクセス手術の増加が顕著であった.

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