外膜囊腫は,そのほとんどが膝窩動脈に発生する比較的稀な疾患である.今回,総大腿動脈に発生した外膜囊腫を経験した.症例は46歳,女性,左下肢の間欠性跛行を主訴に近医を受診した.超音波検査にて左総大腿動脈に血流を伴わない低エコー域を認め,内腔は圧排により狭窄を認めていた.大腿動脈解離の診断で当科紹介となったが,造影CTと下肢MRIの所見と併せて大腿動脈外膜囊腫が疑われた.手術にて囊腫を血管壁と一塊に切除し,人工血管にて血行再建を行った.術後より症状は消失し,経過は良好で3カ月経過した現在まで再発は認めていない.外膜囊腫の病態や画像検査所見についての理解は適切な診断を行うことに有用であり,手術で良好な治療結果を得たので報告する.
内腸骨動脈瘤の多くは無症状で,大きさや部位によって尿路や神経症状で発見されることもある.しかし,片側内腸骨動脈瘤では片側水腎症は認めても急性腎後性腎不全になることは少ない.76歳男性,排尿障害を主訴に当院受診した.CTで骨盤内に100 mm大の巨大な左内腸骨動脈瘤を認め,膀胱を圧排し,両側水腎症を認めた.Cr 6.16 mg/dLと高度腎障害を認め,左内腸骨動脈瘤による急性腎後性腎不全と診断した.緊急で左内腸骨動脈瘤の末梢塞栓術と腸骨動脈にステントグラフト留置術を行った.術後Cr 1.46 mg/dLまで改善,10日目に退院した.内腸骨動脈瘤に対する血管内治療は破裂予防は可能だが,瘤自体は残存するため腎不全は改善しない可能性があったが,本症例は瘤内の圧が低下,膀胱や尿管の圧排が改善したため腎機能が改善した.内腸骨動脈瘤に対する血管内治療は破裂予防だけでなく,瘤の圧排による腎後性腎不全にも有効であった.
通常thoracic endovascular aortic repair(TEVAR)は大腿動脈から逆行性にアプローチするが,困難な場合には治療法やアクセス血管の再検討が必要になる.症例は76歳男性.高位大動脈閉塞症に右腋窩–両側大腿動脈パイパス術を施行し4年後に下行大動脈瘤と急性大動脈解離を合併した.左腎(ドナー腎)摘出後,呼吸状態の悪化,大腿動脈からの逆行性灌流が不可能などの理由から,胸部人工血管置換術は難しく,また腹腔内癒着や大動脈盲端が近く右腎動脈への塞栓症が考えられ,経上行大動脈TEVARを施行した.Th6からTh12まで留置したが,脊髄虚血を認めなかった.今回,われわれはTEVARを行う際に従来のアクセス方法が困難な症例に対し,経上行大動脈からの順行性アプローチが有効であったため,手術工夫や文献的考察を加え報告する.
仮性動脈瘤は外傷性,細菌性,炎症性などにより発症することが報告されている.そのうち橈骨動脈に発生するものについてはカテーテル検査後や穿通性外傷によるものが多い.また,橈骨動脈の遅発性の仮性動脈瘤の発生については報告があるが,鈍的外傷により遅発性に発生する例は稀である.今回われわれは鈍的外傷による遅発性の橈骨動脈仮性瘤の症例を経験したため報告する.症例は25歳男性で,転倒した際に右手関節を打撲し,1カ月後に徐々に拡大する右手関節橈側の腫瘤を主訴に受診した.腫瘤は拍動性であり,超音波検査で右橈骨動脈の仮性動脈瘤が確認され右橈骨動脈の結紮術を行った.術後,腫瘤は縮小し拍動は消失した.橈骨動脈仮性瘤は他に手背やタバコ窩に発生した例も報告されている.本症例は鈍的外傷による動脈挫傷から仮性動脈瘤が発生したと考えられる.