日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
33 巻, 5 号
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総説
症例
  • 光岡 明人, 志村 智恵子, 市野瀬 剛, 中村 浩志
    2024 年33 巻5 号 p. 259-263
    発行日: 2024/09/15
    公開日: 2024/09/15
    ジャーナル オープンアクセス

    不完全型遺残坐骨動脈に伴う下腿の混合性潰瘍に対し,動静脈瘻化し拡張させた上肢静脈にて遺残坐骨動脈遠位–前脛骨動脈バイパス手術を施行し良好な結果を得た.症例は65歳男性.20年前右下肢深部静脈血栓症の診断にて永久下大静脈フィルターを挿入された後,左下腿潰瘍が出現した.鬱滞性潰瘍と診断され,下肢静脈瘤治療,圧迫療法にて長期経過観察されたが潰瘍は改善しなかった.不完全型遺残坐骨動脈を伴う閉塞性動脈硬化症が指摘され,混合性潰瘍の可能性を考慮し手術を施行した.自家静脈グラフトとして下肢表在静脈は静脈瘤治療により消失しており,上肢静脈を使用した.上肢静脈は細く動静脈瘻を作成し静脈を拡張させた後,グラフトとして使用した.手術後潰瘍は治癒した.

  • 森 久弥, 髙木 寿人, 中村 優飛, 波里 陽介, 内藤 敬嗣
    2024 年33 巻5 号 p. 265-269
    発行日: 2024/09/26
    公開日: 2024/09/26
    ジャーナル オープンアクセス

    われわれは,腹腔動脈(celiac artery: CA)狭窄・上腸間膜動脈(superior mesenteric artery: SMA)閉塞を認めた腹部アンギーナに対して,正中弓状靭帯切離・バイパス手術を行った1例を経験したので,動脈病変の病因の鑑別診断と治療法を中心に,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は71歳女性で,3カ月前から心窩部痛を自覚し,その後腹痛・嘔吐・下痢を認めた.造影CT検査では,厚い壁在血栓を伴い瘤状拡張した胸腹部大動脈を認めた.CAの起始部より約3 cm末梢側のCA中枢部に鉤状の高度狭窄(hooked appearance・エコー所見のhook signに相当)を認めた.SMA起始部は閉塞し,末梢はCAからの側副血行路で造影されていた.以上よりSMA閉塞・正中弓状靭帯症候群によるCA狭窄と診断した.血管内治療は大動脈の石灰化と壁在血栓で困難と判断し,準緊急開腹手術を行うこととした.まず正中弓状靭帯を切離したが腸管虚血は改善せず,CAおよびSMAへのバイパス手術を追加した.グラフト血流は良好で腸管虚血は改善し,食後の腹痛は消失した.

  • 酒井 麻里, 山下 昭雄, 湖東 慶樹
    2024 年33 巻5 号 p. 271-274
    発行日: 2024/10/06
    公開日: 2024/10/06
    ジャーナル オープンアクセス

    膝窩静脈静脈性血管瘤(popliteal venous aneurysms, PVAs)は高頻度に肺塞栓症(pulmonary embolism, PE)を合併することが知られており,抗凝固療法単独ではPE予防が不十分のため外科的治療が推奨されている.症例は61歳,男性.膀胱結石砕石術,経尿道的膀胱頸部切開術,前立腺切除術後3日目,歩行開始時に突然の呼吸苦,血圧低下を認め,当院へ転院搬送となった.造影CT検査で両肺動脈に多発塞栓および内腔に血栓を有する右PVA(囊状,短径30 mm)を認めた.PEに対する加療後,PVAに対する手術の方針とした.手術は腹臥位,後方アプローチで瘤切除および縫縮術を施行した.現在術後1年であるが,術後合併症はなく,PVAの再発や血栓形成も認めず良好に経過している.PVAに対する外科治療はPEの再発予防のため考慮されるべきである.

  • 垣内 泰生, 鉢呂 康平, 五十川 賢司, 杉村 周亮, 森谷 鈴子, 鈴木 友彰
    2024 年33 巻5 号 p. 275-279
    発行日: 2024/10/10
    公開日: 2024/10/10
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は84歳,女性.遠位弓部大動脈瘤(55 mm),横隔膜レベルの下行大動脈瘤(60 mm),腹部大動脈瘤(46 mm)の精査目的に入院となった.炎症反応上昇を伴っており炎症性大動脈瘤を考慮してプレドニゾロン内服を開始したが,18日間で遠位弓部大動脈瘤は10 mm,下行大動脈瘤は5 mmの拡大を認めた.さらに播種性血管内凝固症候群(DIC)を発症し,造影CT検査で腹部大動脈瘤内に造影剤の停滞を認めDICの原因と考えられたため,それぞれ手術適応と判断.同一視野での手術は困難であるため,19日目に全弓部置換術+オープンステントグラフト挿入術,20日目にY-graft置換術+胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)を施行した.両側外腸骨動脈に狭窄があり,Y-graftの脚をアクセスルートとしてTEVARを行った.高齢者の重複大動脈瘤に対して早期の二期的手術を行い,良好な結果を得たため報告する.

  • 吉川 翼, 川田 幸太, 大熊 新之介, 矢尾 尊英, 判治 永律香, 藤井 毅郎
    2024 年33 巻5 号 p. 289-292
    発行日: 2024/10/18
    公開日: 2024/10/18
    ジャーナル オープンアクセス

    近年,医療技術の飛躍的な進歩によりextracorporeal membrane oxygenation (ECMO)などの経皮的補助循環デバイスが普及しているが,導入に伴う血管損傷の報告は稀である.症例は50歳男性.急性リンパ性白血病の急性増悪に伴う急性呼吸促迫症候群を発症し,人工呼吸器管理となるも酸素化の改善はなくveno-venous ECMO(VV-ECMO)導入となった.その後VV-ECMOを離脱したが,右頸部の疼痛とシャント音,血管エコーにて右総頸動静脈瘻と仮性瘤を認めた.全身状態不良のため外科的手術は困難と判断,全身麻酔下にVIABAHN stent-graft(W.L.Gore, Flagstaff, AZ,USA)を留置し,術後造影CTで瘻孔閉鎖と瘤内血流の消失を確認した.VV-ECMO挿入時に起きた血管損傷に対しVIABAHNを用いた血管内治療を行い良好な結果が得られた.

  • 野坂 裕, 池田 真浩
    2024 年33 巻5 号 p. 293-297
    発行日: 2024/10/25
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    化膿性脊椎炎と感染性腹部大動脈瘤の関連は知られているが,化膿性脊椎炎を合併したステントグラフト(SG)感染の報告は稀で,起因が明確でないことが多い.今回,化膿性脊椎炎に起因する腹部SG感染の症例を経験し,良好な転帰を得たため報告する.症例は75歳男性,10年前に腹部大動脈瘤に対してEVARを行い,瘤の縮小状態を維持していた.化膿性脊椎炎と腸腰筋膿瘍,右下腿皮下膿瘍で入院,抗生剤加療を行い軽快退院したが,1カ月後に腰痛の再燃を認めた.画像検査でSG感染の診断に至り,SG抜去・リファンピシン浸漬人工血管による生理的血行再建と大網充填を行った.術後22日目に自宅退院し,現在抗生剤を服用せずに感染再燃なく経過している.SG留置状態での化膿性脊椎炎の存在は,SGへの感染伝播の恐れがあり,迅速な加療が必要である.感染が伝播した場合には,早期の根治術が望ましい.

  • 新城 宏治, 高瀬 信弥, 瀬戸 夕輝, 横山 斉
    2024 年33 巻5 号 p. 299-302
    発行日: 2024/10/25
    公開日: 2024/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

    縦隔血腫の原因として,縦隔型気管支動脈瘤破裂は稀な疾患として鑑別に挙げられ,コイル塞栓術により良好な経過をたどった報告が散見される.しかしながら瘤状変化を伴わない特発性気管支動脈破裂が原因となる症例は極めて稀である.今回,特発性気管支動脈破裂に対して胸部大動脈ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic repair: TEVAR)により順行性血流を閉鎖し良好な結果を得た1例を経験した.症例は72歳男性.心窩部痛を自覚し,前医に救急搬送された.CT検査で縦隔血腫を認め,精査加療のため当院に搬送された.当初保存的加療が選択されたが,経時的に気管支動脈に仮性瘤を形成し拡大傾向を認めたため,準緊急でTEVARが施行された.術後CT検査では瘤の消失が確認でき,術後14日目に独歩退院となった.気管支動脈破裂に対する治療戦略としてTEVARも有効な選択肢の1つとなりうる.

2021年JCLIMB年次報告
  • 日本血管外科学会JCLIMB委員会, NCD JCLIMB分析チーム
    2024 年33 巻5 号 p. 229-250
    発行日: 2024/09/07
    公開日: 2024/09/07
    ジャーナル オープンアクセス

    2013年以降,日本血管外科学会は,我が国の血管外科医により行われている重症下肢虚血(critical limb ischemia; CLI)診療の現状を明らかにし,その結果を現場の医師に還元することで医療の質の向上に貢献することを目的として,全国規模のCLI登録・追跡データベース事業を開始した.このデータベースは,非手術例も含むCLI患者の背景,治療内容,早期予後,および治療後5年までの遠隔期予後を登録するもので,NCD上に設置されている.2020年まではJAPAN Critical Limb Ischemia Database(JCLIMB)と呼称してきたが,2021年から登録対象をChronic Limb Threatening Ischemiaに変更したため,名称もJAPAN Chronic Limb Threatening Ischemia Database(JCLIMB)に変更した.2021年は78施設が1338肢(男性916肢:68%,女性422肢)のCLTIを登録し,うちASOが1323肢(男性907肢:69%,女性416肢)で,全体の99%を占めた.2021年の年次報告書では,ASO症例の登録肢の背景,虚血肢状態,治療,治療後早期(1カ月)の予後を集計し報告する.

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