下肢末梢動脈疾患における血管内治療では大小さまざまな血管を治療対象とし,病変も閉塞だけでなく,びまん性病変や高度石灰化病変を伴う.こういった条件のなか末梢動脈疾患治療において鍵を握るのがガイドワイヤである.血管内治療におけるガイドワイヤの役割,選択について解説する.
不完全型遺残坐骨動脈に伴う下腿の混合性潰瘍に対し,動静脈瘻化し拡張させた上肢静脈にて遺残坐骨動脈遠位–前脛骨動脈バイパス手術を施行し良好な結果を得た.症例は65歳男性.20年前右下肢深部静脈血栓症の診断にて永久下大静脈フィルターを挿入された後,左下腿潰瘍が出現した.鬱滞性潰瘍と診断され,下肢静脈瘤治療,圧迫療法にて長期経過観察されたが潰瘍は改善しなかった.不完全型遺残坐骨動脈を伴う閉塞性動脈硬化症が指摘され,混合性潰瘍の可能性を考慮し手術を施行した.自家静脈グラフトとして下肢表在静脈は静脈瘤治療により消失しており,上肢静脈を使用した.上肢静脈は細く動静脈瘻を作成し静脈を拡張させた後,グラフトとして使用した.手術後潰瘍は治癒した.
われわれは,腹腔動脈(celiac artery: CA)狭窄・上腸間膜動脈(superior mesenteric artery: SMA)閉塞を認めた腹部アンギーナに対して,正中弓状靭帯切離・バイパス手術を行った1例を経験したので,動脈病変の病因の鑑別診断と治療法を中心に,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は71歳女性で,3カ月前から心窩部痛を自覚し,その後腹痛・嘔吐・下痢を認めた.造影CT検査では,厚い壁在血栓を伴い瘤状拡張した胸腹部大動脈を認めた.CAの起始部より約3 cm末梢側のCA中枢部に鉤状の高度狭窄(hooked appearance・エコー所見のhook signに相当)を認めた.SMA起始部は閉塞し,末梢はCAからの側副血行路で造影されていた.以上よりSMA閉塞・正中弓状靭帯症候群によるCA狭窄と診断した.血管内治療は大動脈の石灰化と壁在血栓で困難と判断し,準緊急開腹手術を行うこととした.まず正中弓状靭帯を切離したが腸管虚血は改善せず,CAおよびSMAへのバイパス手術を追加した.グラフト血流は良好で腸管虚血は改善し,食後の腹痛は消失した.
膝窩静脈静脈性血管瘤(popliteal venous aneurysms, PVAs)は高頻度に肺塞栓症(pulmonary embolism, PE)を合併することが知られており,抗凝固療法単独ではPE予防が不十分のため外科的治療が推奨されている.症例は61歳,男性.膀胱結石砕石術,経尿道的膀胱頸部切開術,前立腺切除術後3日目,歩行開始時に突然の呼吸苦,血圧低下を認め,当院へ転院搬送となった.造影CT検査で両肺動脈に多発塞栓および内腔に血栓を有する右PVA(囊状,短径30 mm)を認めた.PEに対する加療後,PVAに対する手術の方針とした.手術は腹臥位,後方アプローチで瘤切除および縫縮術を施行した.現在術後1年であるが,術後合併症はなく,PVAの再発や血栓形成も認めず良好に経過している.PVAに対する外科治療はPEの再発予防のため考慮されるべきである.
2013年以降,日本血管外科学会は,我が国の血管外科医により行われている重症下肢虚血(critical limb ischemia; CLI)診療の現状を明らかにし,その結果を現場の医師に還元することで医療の質の向上に貢献することを目的として,全国規模のCLI登録・追跡データベース事業を開始した.このデータベースは,非手術例も含むCLI患者の背景,治療内容,早期予後,および治療後5年までの遠隔期予後を登録するもので,NCD上に設置されている.2020年まではJAPAN Critical Limb Ischemia Database(JCLIMB)と呼称してきたが,2021年から登録対象をChronic Limb Threatening Ischemiaに変更したため,名称もJAPAN Chronic Limb Threatening Ischemia Database(JCLIMB)に変更した.2021年は78施設が1338肢(男性916肢:68%,女性422肢)のCLTIを登録し,うちASOが1323肢(男性907肢:69%,女性416肢)で,全体の99%を占めた.2021年の年次報告書では,ASO症例の登録肢の背景,虚血肢状態,治療,治療後早期(1カ月)の予後を集計し報告する.