霊長類研究 Supplement
第24回日本霊長類学会大会
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自由集会
  • 中川 尚史
    p. 1
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    本集会の目的は、日本各地の猿害地においてニホンザルの保護管理活動を行なわれている調査者の皆さんにご参集いただき、各人が現時点でお持ちのニホンザルの行動に関する情報の提供、および今後収集された情報の提供のためのネットワークへの参加を要請することである。お願いするに先立って、こうした情報の重要性、ならびに具体的事例について、特に文化的変異研究の観点から理解を深めていただくために、以下の4名の演者の方々に発表いただく予定でいる(演題はいずれも仮題)。
    1. 中村美知夫(京都大学・野生動物研究センター)「チンパンジーの社会行動の文化的変異」
    2. マイケル・ハフマン(京都大学・霊長類研究所)「ニホンザルにおける石遊びの文化的変異」
    3. 島田将喜(滋賀県立大学・人間文化学部)「ニホンザルの『物を伴った社会的遊び』の文化的変異」
    4. 中川尚史(京都大学・理学研究科)「ニホンザルにおける緊張緩和行動の文化的変異」
    その後、フロアから発表で対象とされたような事例を含め、地域変異がありそうな行動について口頭で情報を頂くとともに、事前に用意した記名式のアンケート用紙への記入を通じて、情報ネットワークへの参加をお願いする。
    ごく一部の人付けされた自然群や餌付け群と異なり、猿害地での観察条件が悪いこと、さらには悠長に観察している状況にはないことはじゅうぶん承知している。また、うまい具合に行動観察できたとしても地域変異がありそうか否かは情報を集約してみて初めて分かることである。そして地域変異が認められたとしても、遺伝的、生態学的に説明ができない文化的な変異に該当するかは、慎重に吟味する必要がある。しかし、もし断片的であれ各地から情報が得られたなら、ニホンザルの文化的変異研究にとって大きな前進のきっかけとなることは間違いないと確信している。
  • 伊谷 原一
    p. 2
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    多くの野生動物を飼育・展示する動物園は博物館の一つであり、これまでにも飼育動物を対象とした多彩な研究および教育活動がおこなわれてきた。飼育技術や繁殖技術に関する研究が長年続けられ、近年では、希少野生動物の域外保全の舞台として、文字通り「野生動物研究のフィールド」として注目されている。また、動物福祉研究においても動物園は重要なフィールドとして認識されてきた。一方、大学の研究機関においても、野生動物集団やその生息地の危機的状況を受けて、飼育個体群の研究および維持の重要性が認識されてきた。これはまさに域外保全の重要性を指摘するものと言える。また、比較認知科学では、さまざまな動物の認知能力の調査と進化史の再構成という命題が存在し、飼育環境下における動物の行動・認知を詳細に調べることの重要性が指摘されてきた。こうした背景の中、京都大学野生動物研究センターが2008年4月に設立された。「地域動物園や水族館等との協力による人間を含めた自然についての理解」が目標として掲げられ、特に霊長類を含む野生大型哺乳類の研究が京都市動物園と名古屋市東山動植物園との連携で実施される。同センターの設立によって、絶滅危惧種の保全を推進するのみならず、その枠を超えた多様な研究の実現が大学と動物園の連携に期待される。本自由集会では、センターの設立を一つの契機と考え、「大学と動物園との連携によってどのような研究内容が発展してきたか、またどのような新しい研究内容の開拓が今後可能になるか」、「大学と動物園における研究への取り組みの相違点はなにか、大学と動物園の連携における困難をどのように乗り越えるか」をメインテーマとして設定する。開催形式として、特定の話題提供者はたてず、討論参加者を設定し、上記テーマについて議論するラウンドテーブル形式での進行を予定している。
  • 斎藤 成也
    p. 3
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    文部科学省(MEXT)の科学研究費補助金は、霊長類学研究者にとってきわめて重要な競争的研究資金のひとつです。
    この科学研究費補助金は、大きくMEXT担当のもの(従来の特定領域研究および特別推進研究など)と日本学術振興会(JSPS)担当のものに分かれます。
    JSPSの学術システム研究センター(http://www.jsps.go.jp/j-center/)に所属する専門委員として、JSPS担当の科研費(基盤研究、若手研究、萌芽的研究など)およびJSPS特別研究員の審査体制をご説明したいと思います。
  • 西江 仁徳, 中村 美知夫, 伊藤 詞子
    p. 4
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    昨年に引き続き、人間を含めた霊長類の社会について、より幅広く豊かな理解を目指して議論をおこなう。今回はテーマを絞り、「順位・権力・平等性」に関する話題提供をしていただく。現在の霊長類学の標準的な理解では、優劣順位や平等性といった問題は主に社会生物学的背景から、「個体にとってのコストの最小化と利益の最大化」といった問題として一面的に捉えられることが多いと思われる。一方で、人類学や社会学といった学問領域では、古くから平等性や権力の問題は現代霊長類学とはまったく異なる理論的基盤の上に幅広い理解を生み出してきている。そのため一見似たような現象を扱いながら、霊長類学の知見と人類学や社会学といった他の学問領域の理解との間には大きな溝があり、学問領域間の対話が困難になっているという現状がある。
    本自由集会では、こうした問題意識のもとに、霊長類学、社会学、人類学の各領域から話題提供をしていただき、「順位・権力・平等性」という側面から「社会」についてのより深く幅広い議論を展開していきたい。

    〈話題提供・コメンテーター〉
    山田富秋(松山大・人文学部)、寺嶋秀明(神戸学院大・人文学部)、足立薫(立命館大・非常勤講師)、伊藤詞子(日本モンキーセンター)、中村美知夫(京都大・野生動物研究センター)、西江仁徳(京都大・理学研究科)
  • 室山 泰之
    p. 5
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    野生鳥獣の科学的な保護管理を目的として1999年に特定鳥獣保護管理制度が設けられ、各都府県が特定鳥獣保護管理計画を策定するための技術マニュアルが2000年に作成されました.その後、2006年にマニュアル改訂作業がはじまり、ニホンザル編の内容については、2007年霊長類学会大会(滋賀県立大学)自由集会「野生ニホンザルによる被害問題と保護管理マニュアルの改訂」においてすでに概要が紹介されています.本自由集会では、マニュアル改訂案に対するこれまでの日本霊長類学会の対応について紹介するとともに、改訂案の問題点についてさまざまな角度から検討したいと思います.
公開シンポジウム
  • 古市 剛史
    p. 6
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    野生のウマの研究のために宮崎県都井岬を訪れていた若い研究者がたまたま出会ったニホンザルに魅せられたのが、日本の霊長類学のはじまりだと言われる。その年から数えて、平成20年で60年になる。この間、サルとヒトとの間に決定的な違いを置こうとしない日本の文化・思想的な背景のもとに、日本の霊長類学は世界の霊長類学をリードする形で独特の発展を遂げてきた。アジア、アフリカ、南米に一国としては世界でもっとも多くの長期調査地をもち、形態学、系統学、生理学、遺伝学、心理学等の分野でもめざましい成果を上げてきた。
    霊長類学の研究は、単にサルの社会構造や生態を明らかにするにとどまらず、私たち人間の姿を浮き彫りにしてきた。人間は、高い知能や高度な道具使用という点で特殊であるだけではなく、父系的社会構造、集団のサブユニットとしての家族の形成、殺戮をともなう高い攻撃性、近縁の他種をすべて滅ぼした世界の征服者、近年の驚異的な増加率という点でもきわめて特殊な存在であることが明らかになってきたのだ。
    このような人間の特徴は、人間独特の文化や感情の形成に寄与する一方、人口爆発、戦争、環境破壊といった好ましくない問題とも深くかかわっている。さまざまな分野における霊長類学60年の成果を振り返り、自然界の中での人間、地球生命の歴史の中での人間の姿をあらためて見つめ直すことは、今日的諸問題の認識や解決法の模索の基礎となる展望を与えてくれるに違いない。

    13:00-13:05 はじめに
    古市剛史 (京都大学霊長類研究所)
    13:05-13:35 化石の記録から探る
    諏訪元 (東京大学総合研究博物館)
    13:35-14:05 遺伝学・ゲノム科学の視点から
    平井啓久 (京都大学霊長類研究所)
    14:05-14:35 比較認知科学の立場から
    松沢哲郎 (京都大学霊長類研究所)
    14:35-15:05 家族の起源再考:霊長類社会生態学の最近の知見と議論から
    山極寿一 (京都大学大学院理学研究科)
    15:05-15:15 <休憩>
    15:15-15:45 人間的社会性の萌芽
    大澤真幸 (京都大学大学院人間環境学研究科)
    15:45-16:30 総合討論
    司会:古市剛史
口頭発表
  • 東濃 篤徳, 数藤 由美子, 菊池 俊彦, 東濃 佳子, 柴田 宏昭, 寺尾 惠治
    セッションID: A-01
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    【目的】マカクザルのマイクロサテライトマーカー(MSM)の整備が進められているが、染色体上の位置が明らかなマーカー数は未だ十分ではない。我々はカニクイザルの染色体情報を伴う新規なMSMの整備を目的として、BACライブラリーを活用してカニクイザルの全染色体をカバーする122の新規MSMを整備したので報告する。
    【方法】両末端の塩基配列を決定した306のカニクイザルBACクローンについて、ヒトゲノム情報と対応させ、ヒト染色体位置を決定した。MSM候補配列を含むヒトゲノム配列に対応するアカゲザルゲノム配列を参照して、243ペアのプライマーを設計した。10頭の非血縁カニクイザル核DNAを用いて、PCRによるDNA増幅を行った結果、243のプライマーの内162(66.7%)のプライマーで増幅が確認された。これらの162のプライマーについては蛍光プライマーを作成し、GeneScanによって多型解析を行った。
    【結果および考察】今回設計した243のプライマーの内、カニクイザルで多型性を確認できるMSMを増幅させ得るプライマーは122(75.3%)であった。これらのプライマーセットで検出される平均対立遺伝子数は7.06(2〜14)で、平均ヘテロ接合率は0.72(0.18–0.92)であり、平均以上のヘテロ接合率を示す比較的高い多型性を持ったMSMの割合は75個(61.5%)であった。ヒト染色体とアカゲザルの染色体との対応から、これらのMSMが存在するアカゲザル染色体を同定した結果、すべてのマカク染色体をカバーしていることが明らかとなった。今後は今回開発できたMSMが存在するBACクローンからDNAを抽出し、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)によってMSMのカニクイザル染色体上の位置を確認する予定である。
  • 齊藤 梓, 川本 芳
    セッションID: A-02
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    和歌山県大池遊園周辺地域では、1950年代の放逐が原因と考えられる外来のタイワンザル(Macaca cyclopis)とニホンザル(Macaca fuscata)との交雑が確認されており問題視されてきた。2001年からの捕獲除去により交雑群の個体数は減少したが、残りの個体の完全捕獲はさらに難しくなっている。また、交雑群から近隣のニホンザル群へとタイワンザルの遺伝子が移入され遺伝的撹乱が起こりうる可能性も危惧されている。
    今回、Y染色体上のマイクロサテライト遺伝子座(DYS472、DYS569、DYS645)おける交雑群および和歌山・三重県各地のニホンザル群、また他地域のタイワンザル(青森、岩手、伊豆大島、KUPRI)の多型をと比較した。その結果、紀伊半島のニホンザルのY染色体は多様性に富み、多くのハプロタイプが見つかった一方で、タイワンザルの遺伝子は非常に均一性が高く、特に交雑群のタイワンザルでは1種類のハプロタイプしか確認されなかった。また DYS472、DYS645ではそれぞれの対立遺伝子が純粋なニホンザル、タイワンザルを見る限り、種特異的であった。しかし、交雑群の雑種では、紀伊半島内の他のサンプルでは確認されておらず、なおかつ対立遺伝子での分析でタイワンザル特異的に固定していると考えられた遺伝子を3種類の遺伝子座のうち1 種類あるいは2種類持つ7つのハプロタイプが見つかった。
    Y染色体上では組み換えが起こりにくいことを考慮すると、ハプロタイプに特徴づけられるニホンザルとタイワンザルのY染色体は異なっていた。今回のY染色体マイクロサテライト遺伝子は今後種判別マーカーとして交雑群からのタイワンザル遺伝子の流出のモニタリングや新たに他地域で交雑が疑わしい個体が発見された際の初期検査として適用しうるかもしれない。しかし、他のマーカーとの併用やさらに多くのサンプル数が必要そうだ。
  • 樋渡 智秀, 三上 章允, 後藤 俊二, SURYOBROTO Bambang, PERWITASARI-FARAJALLAH Dyah, ...
    セッションID: A-03
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    ヒトを含む狭鼻猿類はLオプシン、Mオプシン、Sオプシンという3種類の光センサーをもつことによる3色型色覚である。これらのうちLとMオプシン遺伝子は塩基配列類似性が高く(~96%)、隣接してX染色体上に位置する。ヒトにおいてはL、Mオプシン遺伝子間の不等交差によって一方の遺伝子の失欠や両遺伝子のキメラが生じる例が多く報告されており、それらが男性の3~8%に見られるいわゆる色覚異常の主な成因となっている。ヒト以外の狭鼻猿類では色覚異常は例がないか極めて低頻度と報告されているが、L-Mオプシンの遺伝子型を多数の個体に対して調査した例はこれまでマカクとチンパンジーのみであった。そこで我々は色覚の知見がこれまでになく、多様な生態を示すテナガザルを対象としてL-Mオプシンの遺伝子型解析を行うことにした。テナガザルにはHylobates pileatusSymphalangus syndactylusのように雌雄間で著しく体色が異なる種や、H. larのように体色の個体変異が大きい種があり、食性も果実食を主としながらS. syndactylusのように葉食を好む種など多様性に富む。我々はテナガザル3属8種(H. lar、H. agilis、H. muelleri、H. klossii、H. moloch、H. pileatus、S. syndactylus、Nomascus leucogenys)168個体分の血液サンプルを、タイ、インドネシア、マレーシアの動物園あるいはペットより収集し、PCRと塩基配列決定によるL-Mオプシン遺伝子型判定を行った。これらにL-Mオプシン遺伝子の欠失やキメラは存在せず、テナガザルもマカクやチンパンジーと同様に色覚異常の頻度は極めて低いことが示唆された。これらのことから、生態学的な多様性に関わらず、ヒト以外の狭鼻猿類には3色型色覚を維持する強力な淘汰圧が働いていると考えられる。
  • 平松千尋 千尋, 河村 正二, 松本 圭史, Amanda MELIN, Fillipo AURELI, Colleen M. SCHAFF ...
    セッションID: A-10
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】霊長類における3色型色覚の進化は一般に、緑の葉の背景から赤みがかった果実や若葉を識別するために進化したと考えられている。しかし、自然集団を対象として3色型色覚の優位性を行動観察により検証した例は少ない。新世界ザルは同一種内に2色型と3色型個体が混在するため3色型色覚の進化と行動との関連を研究する上で優れた観察系である。我々は、コスタリカ、サンタロサ国立公園に生息するチュウベイクモザル(Ateles geoffroyi)1群を対象とし、糞DNAからの赤-緑視物質遺伝子判定により各個体の色覚型を決定し、サルが果樹にいるときの果実採食行動を観察した。これまでに、2色型(n=13)と3色型(n=9)の果実採食効率に違いが見られなかったことを報告している。これは、比較的近距離からでは、輝度シグナルや嗅覚シグナルが有効であるからだと考えられる。今回、視覚シグナルのモデル化、および、嗅覚行動の解析を行い、それらの採食効率との相関を調べることにより、視覚シグナルの重要性を検証した。
    【方法】果実と葉の反射率から3色型にのみ存在するred/greenコントラスト、および2色型にも存在するblue/yellow、輝度コントラストをモデル化し、果実採食効率との相関を調べた。また、果実選択における嗅覚使用頻度と果実採食効率との相関も調べた。
    【結果と考察】全ての視覚コントラストで果実採食効率と正の相関が見られ、どの視覚シグナルも果実採食に重要であることが示唆された。さらなる重回帰分析により、輝度コントラストが2色型と3色型の両者において最も果実採食効率を説明することが明らかとなり、これが2色型と3色型に違いがないことに関連していると考えられた。また、嗅覚使用頻度と果実選択率には強い負の相関が見られ、視覚シグナルが有用でない場合には、嗅覚依存度が高くなることがわかった。
  • 伊藤 毅, 高井 正成, 西村 剛, コッペ T., スニュー B., ブラガ J., ベック A., トレイユ J.
    セッションID: A-05
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    ベトナム北部トゥンランの後期更新世とみられる洞窟堆積物から見つかっていたマカク属のオスの頭骨化石は、現生のチベットモンキーやベニガオザルに近いとされていたが(Jouffroy 1959)、これまで詳細な比較研究がなされていなかったので、その系統的位置に関して再検討の必要がある。近年、コンピューター断層画像法(CT)により非破壊的に骨格標本の内部構造を解析できるようになった。上顎洞は頭骨内部の副鼻腔の一つであり、蓄膿症が生じる箇所としても知られる。マカク属では全ての種に上顎洞が存在し、その大きさや形態に種間変異が確認されている(Koppe & Ohkawa 1999)。したがって、上顎洞やそれに隣接する鼻腔の形態を比較することにより、化石種の系統解析へ応用が可能ではないかと考えられる。本研究の目的はマカク属における鼻腔と上顎洞の形態変異の系統解析への有用性を検討し、トゥンラン頭骨化石の系統的位置を推定することにある。現生11種のマカクの頭骨をCT撮像し、鼻腔と上顎洞の形態を三次元デジタル復元して視覚化した。さらに、吻部の前方と後方での鼻腔の幅・上顎洞の幅を計測した。鼻腔や上顎洞などの内部構造には、性的二型が確認されたため、頭骨化石の系統解析にはオスの頭骨のみを比較した。マカク属は、4つのグループに分類されることが多いが、その中でブタオザルを含むグループは祖先的、ベニガオザルグループは派生的であるとされている。これらの分類体系と鼻腔と上顎洞の形態変異を対比させて見ると、ブタオザルに典型的な幅の狭い鼻腔と大きな上顎洞は祖先的であり、ベニガオザルに典型的な幅の広い鼻腔と幅の狭い上顎洞は派生的な形質であると推測された。トゥンラン頭骨化石は、幅の広い鼻腔と幅の狭い上顎洞という派生的な形質をベニガオザルとのみ共有することが示された。この結果は頭骨化石が現生のベニガオザルと近縁であることを示した。
  • 小薮 大輔, 高井 正成, 樽 創, 遠藤 秀紀
    セッションID: A-06
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    1991年、神奈川県丹沢山地東麓の鮮新世後半(約350-250万年前)の地層からコロブス類のものと思われる化石が発見された(「中津標本」)。コロブス亜科はアジアとアフリカに生息する霊長類であり、アジアに分布する種はPresbytina、アフリカに分布する種はColobinaの二つのグループに分けられるが、この中津標本はアジアのPresbytina グループに属するDolicopithecus leptopostorbitalisとして記載された。しかし、頭蓋骨の上顎洞形態からアフリカのColobinaグループに属する可能性が近年指摘され、その系統的位置は未だ混乱している。我々は中津標本と現生コロブス類43種の頭蓋骨の三次元座標を幾何学的形態測定学的に解析し、コロブス類における頭蓋骨形態の系統的変異パターンの抽出を試みた。幾何学的形態測定学は生物体のもつ複雑な「かたち」を定量的に記述・解析する手法として近年確立されてきた数理統計学的手法であり、特に分子データによる系統解析の困難な化石種の系統推定や種間の形態変異分析において有用なツールとなりつつある。本発表では、コロブス類における頭蓋骨形態の変異パターンを議論するとともに、中津標本の系統的位置、そして推定される食性について考察する。
  • 阿力木江沙吾提 , 宮木 孝昌, 齋藤 敏之, 伊藤 正裕
    セッションID: A-07
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    はじめに;ヒトを含む霊長類における膵臓の動脈供給パターンを検討するために、今回峡鼻猿の中からマントヒヒ、ドグエラヒヒおよびミドリザルの膵臓に分布する動脈を調査しました。
    材料と方法;マントヒヒ1例とドグエラヒヒ2例およびミドリザル10例の腹部内臓を取り出し、膵臓周辺の血管と膵臓に分布する血管を剖出して、描画と写真撮影により記録しました。材料はすべて10%のホルマリン液で固定済みのものを、摘出後、50%のアルコール液で保存したものです。
    結果;1.マントドグエラヒヒおよびミドリザルの膵臓は、ヒトとほぼ同じように、膵頭、膵体、膵尾に区別された。
    2.マントヒヒでは、1)上腸間膜動脈と固有肝動脈の枝が、膵頭に分布して、脾動脈の枝が膵体と膵尾部に分布していたものが1例であった。
    3.ドグエラヒヒでは、1)固有動脈の枝が膵頭、膵体、膵尾部に分布し、脾動脈が膵尾の一部に分布していたものが1例、2)上腸間膜動脈、固有肝動および腹腔動脈の各枝が膵頭に分布して、脾動脈からの枝が膵体と膵尾部に分布していたものが1例、であった。
    4.ミドリザルでは、1)上腸間膜動脈と胃十二指腸動脈の各枝が膵頭に分布し、脾動脈の枝が膵体と膵尾部に分布していたものが7例、2)上腸間膜動脈、総肝動脈および胃十二指腸動脈の各枝が膵頭に分布し、脾動脈の枝が膵体と膵尾部に分布していたものが1例、3)上腸間膜動脈、総肝動脈、胃十二指腸動脈および右胃動脈の各枝が膵頭に分布し、脾動脈の枝が膵体と膵尾部に分布していたものが1例、4)胃十二指腸動脈と固有肝動脈の各枝が膵頭と膵体部の一部に分布し、脾動脈と左胃大網動脈の各枝が膵体の大部分と膵尾部に分布していたものが1例、であった
  • 日暮 泰男, 平崎 鋭矢, 熊倉 博雄
    セッションID: A-08
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    歩行の際に指先だけが支持基体に接触するイヌやウマなど趾行性の動物とは対照的に、霊長類は手掌と足底を接触させる。最近の研究から、霊長類の手掌や足底が四足歩行の効率や四肢にかかる力を修正する機能を担うことが示唆されている(Patel et al., 2008)。しかし、現在までの手掌と足底に関する圧力データは、連続的な平面で取得されたものに限られている(Hirasaki et al., 2008; Patel et al., 2008)。霊長類の四足歩行に見られる特徴の多くは、樹上環境に適応した結果、獲得されたものだと考えられているため、手掌と足底の機能と他の歩行特徴との関連を明らかにするためには、樹上を模擬した支持基体においても実験を行う必要がある。そこで今回は、ニホンザル二頭が三種類の樹上および地上支持基体を歩行するときの手掌と足底への圧力を調べた研究成果を報告する。支持基体は連続的平面(地上)、桟の太い梯子状の支持基体(樹上)、桟の細い梯子状の支持基体(樹上)であった。手掌と足底について、接触面積、ピーク圧力、圧力中心の軌跡などを求めた。また、同時に撮影したビデオ映像から、移動速度や四肢の運び順などを明らかにした。結果、連続的平面を歩行するときは、ニホンザルの手掌と足底の広い範囲が支持基体と接触していたが、梯子状の支持基体ではその面積が減少し、そのためピーク圧力が増加した。足底の圧力中心の軌跡は、支持基体に依って大きな差異が見られた。
    本研究の結果から、支持基体による手掌と足底への圧力と、霊長類の歩行特徴の一つであるコンプライアント歩行との関連性について仮説が得られた。コンプライアント歩行とは、立脚相に前後肢の関節を深く屈曲する歩行様式のことである。最後に、本研究で得られた仮説を検証するための方法を考察する。
  • 深津 武馬, 細川 貴弘, 古賀 隆一, 加藤 卓也, 羽山 伸一, 竹節 治夫, 田中 伊知郎
    セッションID: A-09
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    シラミ、トコジラミ、オオサシガメ、ツェツェバエ、クモバエ、シラミバエなど一生を通じて脊椎動物の血液のみを餌とする昆虫類は、ほぼ例外なく体内に高度な微生物との内部共生系を保有しており、血液中に不足しているある種のビタミンのような栄養素の供給を受けていると考えられている(Buchner 1965)。
    霊長類に寄生するシラミ類には、ヒトとチンパンジーに寄生するヒトジラミ属(Pediculus spp.;アタマジラミ、コロモジラミ、チンパンジージラミ)、ヒトとゴリラに寄生するケジラミ属(Pthirus spp. ;ケジラミ、ゴリラジラミ)、ニホンザルその他のサル類に寄生するサルジラミ属(Pedicinus spp.;サルジラミ、ハラビロサルジラミ他)がある(Durden and Musser 1994)。
    ヒトジラミの中腸腹面に胃盤(stomach disc)という特有の構造があり、その中に共生細菌が存在することは約90年も前から知られていた(Sikora 1919)。しかしその共生細菌の微生物学実体が我々により解明され、”Candidatus Riesia pediculicola”の暫定学名が与えられたのはごく最近のことである(Sasaki-Fukatsu et al. 2006)。その後、ケジラミやチンパンジージラミも近縁の共生細菌を保有することが明らかにされた(Allen et al. 2007)。
    一方サルジラミ類については、中腸後部上皮の輪状の領域の細胞内に細菌が存在するという組織学的報告(Ries 1931) 以来、まったく研究がなされていなかった。今回は、ニホンザル由来のサルジラミ Pedicinus obtusus について、その共生細菌の系統的位置、体内局在、微細形態、微生物学的実体、そしてヒトジラミ類やケジラミ類の共生細菌との関係について明らかにした結果について報告する。
  • 寺尾 惠治, 東濃 篤徳, 柴田 宏昭
    セッションID: A-10
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    これまでにカニクイザルにおける加齢に伴う免疫機能の一連の変化を本学会で発表してきた。今回は、老齢カニクイザルの血中に出現する自己抗体の一つである抗単鎖DNA(ssDNA)抗体の出現頻度、出現時期および性状について整理するとともに、老化に伴う自己抗体産生機序の一端を明らかにしたので報告する。
    【?T】ウシ胸腺由来のssDNAを抗原とするELISA系を確立し、20歳以上の老齢ザルと10歳前後の壮年ザルとで抗核抗体の出現頻度および抗体価を比較したところ、いずれも老齢ザルで有意に高かった。
    【?U】幼児期より数年おきに凍結保存した血清を用いて、三頭の老齢ザルで抗核抗体の出現時期を調査した結果、1頭は15歳前後に、他の二頭は25歳前後に抗核抗体が検出され、以後抗体価は加齢に伴い急激に上昇した。
    【?V】老齢ザルの抗核抗体の等電点を解析した結果、ssDNAと反応する抗体には等電点の異なる二種類以上の抗体が混在していることが明らかとなった。
    【?W】老化に伴うT細胞機能の低下が様々な免疫機能の加齢変化の要因である可能性が示唆されている。最近自己反応性の免疫応答を抑制する制御性T細胞(Regulatory T cells)の役割が注目されていることから、幼体、壮年、老齢の3年齢群のカニクイザルについて末梢のCD25+/CD4+制御性T細胞のレベルを調査した。その結果、幼体と壮年カニクイザルでは有意な差は認められないが、老齢ザルでは制御性T細胞レベルが有意に低下していた。このことから、老齢カニクイザルでは自己反応性の免疫応答の抑制機能が低下した結果、抗核抗体などの自己抗体が出現する可能性が推測された。
  • KIM Hei-Soo, AHN Kung, LEE Ja-Rang, HA Hong-Seok, NOH Yu-Na, KIM Yun-J ...
    セッションID: A-11
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    We examined and characterized the human endogenous retrovirus (HERV-W) family in humans and primates. In silico expression indicated that 22 complete HERV-W families from human chromosomes 1-3, 5-8, 10-12, 15, 19, and X are randomly expressed in various tissues. Quantitative real-time RT-PCR analysis of the HERV-W env gene derived from human chromosome 7q21.2 indicated dominant expression in the human placenta. Within the complete or processed pseudo HERV-W of the human, chimpanzee, and rhesus monkey, several copies of the repeat sequences (SINE, LINE, LTR, simple repeat) were detected. Compared to other regions (5´LTR, Gag, Gag-Pol, Env, 3´LTR), the repeat family has mainly been integrated into the region spanning 5´LTR to Gag (1398 bp) or Pol (3242 bp) region. FISH data indicated that the HERV-W probe (fosWE1) derived from the gorilla fosmid library was clearly detected in the metaphase chromosomes of all primates (five hominoids, three Old World monkeys, two New World monkeys, and one prosimian), but was not detected in Tupaia. This data was also supported by molecular clock and phylogeny data using divergence values of complete HERV-W LTR elements. Further, the data suggested that the HERV-W family was integrated into the primate genome approximately 63 million years (Myr) ago, and evolved independently during the course of primate radiation.
  • 今井 啓雄, 菅原 亨, 松井 淳, 郷 康広, 平井 啓久
    セッションID: A-12
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    霊長類をはじめとする脊椎動物の感覚は、一次感覚細胞中に含まれる受容体蛋白質で特異的な刺激を受容することによって始まる。このうち視覚、嗅覚、味覚(甘味、苦味、うま味)ではG蛋白質共役型受容体(GPCR)によって光や化学物質などの刺激が受容され、それぞれGタンパク質を活性化することによって細胞内情報伝達カスケードを駆動し、細胞の応答に変換する。受容体の種類は視覚、味覚、嗅覚でそれぞれ数種類、数十種類、数百種類にのぼるが、それぞれの受容体の配列の微妙な違いにより受容される刺激も異なる。たとえば視覚受容体では一カ所のアミノ酸の変異により最大約20nmの吸収波長の変化を起こし、細胞の機能分化や環境適応の要因となっている(1,2)。また、味覚や嗅覚の受容体は種や個体によって遺伝子のレパートリーや偽遺伝子の割合が異なり、受容できる感覚刺激の種類に直結している(3-5)。そこで我々は霊長類の感覚受容体を網羅的に比較することによって、それぞれの種内・種間でどのような感覚受容能の違いがあるのか比較するとともに、行動・生理現象との関連を解明することを目指した。まず、主に霊長類研究所内の飼育個体を対象として味覚・嗅覚受容体遺伝子をPCRによって増幅し、塩基配列を比較した結果、味覚・嗅覚受容体共に個体間で様々な遺伝子多型が存在することがわかった。また、興味深いことに亜種間で非同義置換も存在し、遺伝的マーカーとなると共に機能的な差異を生じる可能性があることが示唆された。発表ではこのような受容体遺伝子の多型と行動・生理現象の多様性との相関についても議論したい。
    1. Imai et al., J. Biol. Chem. 282, 6677-6684 (2007)
    2. Sugawara et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 5448-5453 (2005)
    3. Go et al., Genetics 170, 313-326 (2005).
    4. Niimura and Nei, PLoS ONE. 2, e708 (2007).
    5. Nozawa et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104, 20421-20426 (2007).
  • 河合 洋介, 石田 貴文, 斎藤 成也
    セッションID: A-13
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    ヒトを除くすべての種が「絶滅危惧種」に指定されている霊長類は保全生物学的な観点からみて重要な研究対象である。絶滅が危惧されている生物種の保全のためには、系統情報が基礎データとして重要であり、また各種内の遺伝的多様性の把握も重要である。霊長類の遺伝的多様性の解析にはミトコンドリアDNAが分子マーカーとして用いられることが多いが、母系遺伝という遺伝様式のために遺伝子の系図のある側面しか知ることができない。そのため霊長類の系統関係や遺伝的多様性を包括的に理解するためには核DNAの多数の遺伝子座を分子マーカーとして用いる必要がある。そこで霊長類の保全生物学と種内の多様性研究というふたつの目的のために、“Prim-Prim”というデータベースの設立を計画した。このデータベースは既知の霊長類ゲノム配列の比較から、未解読の霊長類のDNA断片を分子マーカーとして増幅させることのできる「霊長類ユニバーサルプライマー」を収める事を目標としている。すでにゲノム配列の解読が終了しているヒト(Homo sapiens)とアカゲザル(Macaca mulatta)のゲノム配列を比較し、変異性の高いイントロン領域をはさんだエクソンが両種で完全に一致している領域を抽出した。この中からPCRプライマーとしてのよい化学的性質を持つ部分配列を”Primer3”により同定し、これら2303組を「狭鼻猿類ユニバーサルプライマー」の候補配列として予測した。
    プライマー予測の妥当性を検証するためにこれらのうち10組を用いてヒト、チンパンジー(Pan troglodytes)、シロテテナガザル(Hylobates lar)、フクロテナガザル(Symphalangus syndactylus)のゲノムDNAの増幅を試みた。その結果いずれのサンプルにおいても期待される塩基配列をもつDNA断片が得られたことが確かめられた。
  • 田中 洋之
    セッションID: A-14
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    京都大学霊長類研究所では、ニホンザルおよびアカゲザルが、出自地域ごとに閉鎖集団として維持されている。これらのマカク集団は、設立されて以来30余年経過しているが、その間に遺伝的多様性や集団の近交係数の経時的変化に関する調査は行われてこなかった。本研究の目的は、このような飼育下マカク集団の集団設立から現在までの遺伝的変化を解明することであるが、今回、現在の遺伝的多様性の状況を明らかにするために、マイクロサテライトDNAによる分析を行ったので報告する。ニホンザル高浜群(個体数 n=51)、嵐山群(n=41)、若桜A群(n=26)、若桜B群(n=38)、アカゲザルインド群(n=48)および中国群(n=47)を対象にして、ヒトマイクロサテライトのホモローグ15遺伝子座の遺伝子型判定を行った。遺伝子座ごとに遺伝的多様性のパラメーターを算出した後、各集団について平均ヘテロ接合率(He)を計算した。群間の遺伝的分化量をFstおよびNeiの遺伝距離によって測定した。分析したマイクロサテライト15遺伝子座の対立遺伝子数およびヘテロ接合率は、ニホンザルにおいて3~14個および0.534~0.869、アカゲザルにおいて4~12個および0.477~0.855であった。各集団のHe は、ニホンザルにおいて0.598~0.657、アカゲザルにおいて0.606および0.706であった。同様のマーカーセットを用いた庄武・山根(2002)の調査結果と比較したところ、当研究所のニホンザルおよびアカゲザルの各群は、ニホンザル野生群(日光群、波勝群、椿群など、0.559~0.646)と同等の遺伝的多様性を保持していることが明らかとなった。遺伝的分化の調査から、ニホンザル高浜群が他の群から分化している傾向が認められ、その大きさは、当研究所のアカゲザル2群間の分化量よりも大きかった。
  • 長田 直樹, 亀岡 洋祐, 高橋 一朗, 寺尾 恵治
    セッションID: A-14
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    カニクイザル(Macaca fascicularis)とアカゲザル(Macaca mulatta)は最もポピュラーな実験用霊長類のひとつであるが、彼らの遺伝的な違いについて詳細な研究はいまだ行われていない。われわれは24個体のカニクイザル、5個体のアカゲザルについて54座位のDNA配列解析を行った。その結果、カニクイザルはヒトのおよそ4~5倍の遺伝的多様性を持つことが示された。また、インドネシア―マレーシア産のカニクイザルとフィリピン産のカニクイザルの間に大きな遺伝的分化が観察された。カニクイザルとアカゲザルの種間の分化は種内の変異を有意に上回ったが、共有されたSNP(一塩基多型)のパターンからは、二つの種は現在観察される狭いハイブリッドゾーンだけではなく、より広い範囲で長期間の(約100万年の間)遺伝子交換を続けていたことが示唆された。しかし、古典的な遺伝学の予測や、近年のゲノム解析の結果は、遺伝的交雑はゲノム上にランダムに起こるものではないことを示している。われわれは7座位のCytochrome oxidase P450(CYP)遺伝子について同様の解析を行った。CYP遺伝子群は薬剤やその他さまざまな物質の代謝にかかわる主要な遺伝子群であり、自然選択の影響を強く受けていると予測される。調査したCYP遺伝子座位はランダムに選ばれた遺伝子領域よりも有意に高い種間の分化を示した。また、その中には種を特徴づける固定した塩基置換も見つかった。この結果は、薬剤への応答性が二種のサルで大きく異なることの可能性を示している。また、このようなゲノム上でモザイク状に観察される種間の分化パターンは、二つの種が並所的種分化によって遺伝的交雑を続けながらそれぞれの環境に適応していったことの結果であると推測される。
  • 川本 芳, 相見 滿, WANGCHUK Tashi
    セッションID: A-16
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    【目的】インドのArunachal Pradesh西部から報告されたマカク新種とアッサムモンキーのmtDNA配列を比較し、新種記載の妥当性を検証すること。
    【方法】Chakraborty et al.(2007) が新種について報告した cyt b とD-loopの部分塩基配列に相当する箇所をアッサムモンキーの西方亜種 M. a. pelops(ブータンで採取した糞と血液試料を分析)ならびに東方亜種 M. a. assamensis(タイ、ラオスで採取した血液試料を分析)と比較した。
    【結果】cyt b およびD-loopの塩基配列を比較した結果、分子系統的に munzala はアッサムモンキーの西方亜種 pelops と区別できなかった。また、これらは東方亜種 assamensis から大きく分化していた。地域分化では、ブータンとアルナチャール地域のサルが示す遺伝子多様性は、インドシナ地域のアッサムモンキーとの比較から、ヒマラヤ山岳地帯の局所にもかかわらず大きいと推定された。
    【考察】munzala の種判定では、アッサムモンキーが南アジアから東南アジアにおよぶ東西地域で大きな遺伝分化を示すことの考慮がなく、西方亜種との比較をせずに分子系統解析から結論を下していることが問題である。今回の評価では、アルナチャールのサルで報告された遺伝子配列はアッサムモンキーの西方亜種 pelops と判定でき、新種を記載する根拠にはならなかった。munzala については形態の違いも指摘されているが、アッサムモンキーの形態に関する地域変異の詳細は不明である。Chakrabortyらが提案した sinica グループの種分化の起点をミャンマーに置く仮説はその根拠を再検討する必要がある。
  • 濱田 穣, SHARMA Narayan, SINHA Anindya
    セッションID: A-17
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    目的:Delson(1980)の進化シナリオによれば、南アジアで最初の適応放散を遂げたマカク属は、東南アジアへ、そして中国へと分散し、各地で種を形成したと推定されている。その後、東南アジアなどで、形成されたマカク種が逆に南アジアへと分散したと考えられている。その際に移住を妨げたものは、インド東北地方にあるヒマラヤ高地やブラーマプートアラ河などの地理的障壁がある。ここには、氷河期におけるレフュジア(避難所)も推定されている。この地方には、インドで起源(種形成)し、ブラーマプートラ河の両岸に分布し(西にはpelops亜種、東にはassamensis亜種)、中国や東南アジアへ放散したアッサムモンキー(Macaca assamensis);東南アジアもしくは中国で種形成され、その後に東北方向へ分散したが、ブラーマプートラ河を越えて西進していない北ブタオザル(M. nemestrina leonina)とベニガオザル(M. arctoides);さらに東南アジアで起こり、その後、いったんインドとその近辺と中国のそれぞれのレフュジア・センターに隔離され、後氷期に両センターから移住分散し連続分布するようになったと思われるアカゲザル(M. mulatta)が分布する。2005年に同地方よりアッサムモンキーに近縁のタワン・モンキーマカク(新種M. munzala)が報告されている。このようにこの地域のマカクの生物学的特徴を明らかにすることは、上記の進化史シナリオを検証し、マカクの進化史解明に寄与すると思われる。
    方法:2007年10月に予備調査(巡回・アンケート)を行った。
    結果:アッサム州のいくつかの地域で4種マカクの分布を確認した。アルナーチャル・プラデシュ州で3群のタワン・モンキーを観察した。
    考察:4種マカクおよびタワン・モンキーの観察と系統地理学的研究は十分可能である。
  • 山田 博之
    セッションID: A-18
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    人類進化(400-150万年前の期間)においてAustralopithecus属、Paranthropus属とHomo属の間にも犬歯形態に違いが存在しているとの印象をもった。彼らは異なる系統であるばかりでなく、異なった生態・社会をもっていたと考えられている。それは犬歯形態に反映されている。この棲み分けのモデルとして、現生11種のマカク属のオスをとりあげる。マカク属は生態学的にも社会面でも変異が指摘されており、犬歯形態に何らかの違いがあることが予測される。歯の比較形態では犬歯に関する研究はほとんどない。それは犬歯の形態にあまり変異性がないとの予断によるものである。霊長類の犬歯形態は性的二型を著明にあらわすことで広く知られている。人類においても犬歯は性的二型が他の歯よりも強く現われ、男性の方が大きい。マカク属の中でもオスの犬歯は他の歯より長くてサーベル状であり、相手を攻撃する武器、あるいは威嚇するサインとして役立っている。このように独特な機能を持っているにもかかわらず、その形態についてほとんど研究されていない。本研究では、マカク属の中で犬歯形態にどのような変異が存在するのかを比較検討する。
  • 清水 大輔
    セッションID: A-19
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    歯は主に二つの構造物から構成されている。一つは内側の比較的やわらかい(骨程度の硬さの)象牙質であり、もう一つはその外側を覆う硬い(人体中もっとも硬い)エナメル質である。その発達由来はエナメル質と象牙質で異なり、前者は外胚葉性で後者は中胚葉性である。エナメル質と象牙質の境界(エナメル象牙境)は外胚葉と中胚葉の境界であるため、エナメル象牙境の形状は古くからエナメル質の外側(エナメル質外表面)の形状より系統分類学的情報が多く含まれる形質であるとされてきた。本研究では、コロブス亜科の霊長類を資料として、下顎第二大臼歯のエナメル象牙境形態を基に、その形態距離を計算し、系統分類にどの程度貢献できるか検討した。また、エナメル象牙境形態の主たる種間差を生み出す要因について議論した。本研究ではColobus、Procolobus、Presbytis、Trachypithecus、Simias、及びNasalisの未咬耗の下顎第二大臼歯を資料に用いた。まず、これらの大臼歯をpQCT(定量的末梢骨骨密度測定装置:XCT ResearchSA+(Stratec Medizintechnik GmbH., Germany)を用いて連続断層像を撮影した。その後、これらの連続断層像からDEJ部分を3次元再構築し、コンピューター上で形態的特徴点の座標を記録した。記録した個体ごとの座標データは最小二乗法により、回転・移動をし、全てのデータをひとつの座標系に変換した。その後、幾何学的形態測定方により分析を行ったので、この結果を報告する。
  • 中務 真人, 國松 豊, 仲谷 英夫, 酒井 哲弥, 沢田 順弘
    セッションID: A-20
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    演者らはケニア国立博物館と共同で、ケニア中部ナカリ地域の古人類学的発掘調査を行っている。この化石産出層の年代は980-990万年前である。これまでナカリでは、大型類人猿ナカリピテクス、遊離歯1本しかないもののナカリピテクスとは異なる第二の大型類人猿、二種の非オナガザル小型狭鼻猿(未記載)、オナガザル科コロブス亜科マイクロコロブス、オナガザル亜科らしい歯牙化石が確認されている。2007年度の発掘では、オナガザル科霊長類の資料が充実し、始めて、歯牙化石と共伴するマイクロコロブスの部分骨格が発見された。マイクロコロブスはこれまで知られている最古のコロブス亜科のメンバーであり、ナカリ以外ではトゥゲン丘陵のンゲリンゲルワ層(およそ950-1000万年前)のみから知られている。ナカリのマイクロコロブスは現生のコロブス類が持つ派生形質を多く示す。たとえば、丸くふくらんだ上腕骨小頭、広いzona conoidea、短く太い大腿骨頸部、幅の広い距骨頭などである。こうした特徴は、マイクロコロブスが現生のコロブス類と同様に、跳躍運動に特殊化した樹上生活者であったことを示している。その一方で、この個体(大臼歯の大きさから雌と推定される)の体重は大腿骨頭のサイズから5.6 kg程度と推定され、現生のコロブス類の中では最小種並である。このことは、コロブス亜科の祖先種は比較的小型の状態で進化し、その運動適応も体重の大型化以前に発生したことを示唆する。この研究は科研費 #18255006、#19107007の補助を受けている。
  • 西村 剛, 高井 正成, SENUT Brigitte, PRIEUR Abel, TREIL Jacque
    セッションID: A-21
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    Paradolichopithecus(オナガザル亜科、ヒヒ族)は、中期鮮新世から初期更新世にかけてユーラシア大陸に生息していた地上性の大型のサルである。ヨーロッパのほぼ全域からP. arvernensis化石が見つかっているが、それ以外にも中央アジアのタジキスタン南部KuruksayでP. sushkiniとされる化石が見つかっている。この属の頭骨外観形態は、マカクとヒヒの中間的な特徴を示しており、その系統位置について議論が続いている。頭骨外観以外で両者を区別する特徴としては、上顎骨内にある上顎洞の有無が注目されている。上顎洞は旧世界ザルの祖先系統で消失し、オナガザル亜科ではマカク系統のみで再獲得されたと考えられている。先に行ったP. sushkiniのCT分析では、大臼歯レベルに上顎洞をみとめ、この属がよりマカク系統に近いことを示唆した。本研究は、Paradolichopithecus属のホロタイプであるフランスSenéze産のP. arvernensis(FSL41336、リヨン第1大所蔵)の吻部化石をCT撮像し、その鼻腔内部構造を分析した。その結果、観察可能であった小臼歯・大臼歯レベルには上顎洞がみとめられなかった。現在まで、上顎洞の有無の属内変異は報告されていない。よって、このSenéze標本とKuruksay標本との違いは、両標本の属間変異を反映しているのかもしれない。一方で、ヒヒ族内で(狭義の)ヒヒ類とマカク類の系統が分岐したのは中新世末期と推測されており、鮮新世後半の化石ヒヒ族は両系統が分岐して間もない頃にあたることから、この違いは同属内での変異であるのかもしれない。いずれにしろ、ヒヒ族内におけるParadolichopithecusの系統位置や進化史上に占める位置については、従来考えられていたほど簡単には定まらないようである。
  • 大石 元治, 荻原 直道, 遠藤 秀紀, 浅利 昌男
    セッションID: A-22
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    【目的】チンパンジー(以下チンプと略す)とオランウータン(以下オランと略す)の上肢における移動様式と関連した筋形態をより定量的に議論するために、凍結標本もしくは固定標本の解剖から筋パラメータ(筋重量・筋束長)を計測し比較を行った。
    【方法】チンプ1個体の左右上肢とオラン3個体の片方の上肢から筋を分離し筋重量を計測した。取り出した筋は筋束を露出させ、その長さを計測した。生理学的断面積PCSAは計算(筋重量÷[筋密度×筋束長])によって求めた。両者の比較は、総筋重量、総PCSAに対する各筋の比率をそれぞれについて求め、解剖学的特徴から機能群に分けて行った。
    【結果】オランの肘の屈筋群は筋重量比、PCSA比において大きな値を示し、チンプでは上腕骨を後引させる筋群が優位であった。指屈筋群では筋重量比において大きな違いは認められなかったものの、PCSA比ではオランの指屈筋群が小さい値を示す傾向がみられた。これは、筋重量が等しい筋同士であっても筋束の長い筋はPCSAが小さくなることを考慮すると、オランの指屈筋群の筋束が相対的に長いことが示唆された。
    【考察】樹上性の強いオランは、懸垂運動や垂直木登りを頻繁に行い、三次元に拡がる枝を正確に把握するために四肢の関節の可動域が大きい。肘の屈曲は体をもち上げるのに重要な動作であり、指屈筋群の長い筋束は手首や指の可動性に貢献する。オランの上肢筋の特徴は樹上での移動への特殊化と一致する。上腕骨の後引筋群は、両者にとって垂直木登り時に推進力を産む重要な筋である。しかし、チンプでより発達したことは興味深い。オランの垂直木登りは体幹が左右に振れるのに対し、チンプでは支持基体に平行のままであるという報告があり、同じ運動でも筋の重要性が異なるのかもしれないが、結論に至ることができなかった。より詳細なポジショナル・ビヘイビアの報告を待ちたい。
  • 加賀谷 美幸, 荻原 直道, 中務 真人
    セッションID: A-23
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    現生ヒト上科では、胸郭が幅広く扁平で、肩甲骨が相対的に背側に位置するため、肩関節が外に向いているとされる。これらの特徴は、類人猿の前肢の運動域が広く、前肢によるぶら下がり運動を行うことなどに深く関わるとして、注目されてきた。しかし、発表者らの先の報告(Kagaya et al. 2008)において、チンパンジーの胸郭の幅は、その体重に比べると、類人猿以外の真猿類と大きくは変わらないことが明らかとなった。一方、テナガザル類では胸郭上部の幅が広く、オランウータンはこれらの中間であった。そのため、胸郭に対する肩関節の位置を規定すると考えられる、相対的な鎖骨の長さについても、チンパンジーと、旧世界ザルや新世界ザルに違いがみられないのかどうか、検討した。真猿類15種70個体の骨格標本を用い、胸椎に関節させた肋骨の画像から、胸郭の幅を計測した。鎖骨の長さは、胸骨端の関節面の中心点から肩峰端の関節面の中心点までの直線距離とした。標本の体重は、Ruff(2003)の回帰式を用いて、脛骨近位端の内外側幅から推定した。その結果、チンパンジーの鎖骨は、体重に比べて、オランウータンやテナガザルよりも顕著に短く、旧世界ザルに近いことが分かった。しかし、胸郭の幅と比較すると、チンパンジーの鎖骨は旧世界ザルよりも長く、テナガザルやオランウータンにみられる傾向と旧世界ザルの中間的であることが明らかとなった。また、この点で、大型新世界ザルはチンパンジーと同様の特徴を示した。このように、鎖骨の長さのプロポーションは、チンパンジーと大型新世界ザル、オランウータンとテナガザルにおいて、互いによく似た傾向を示すといえる。おそらく、木登り、前肢ぶら下がり行動、ナックルウォーキングなどの移動運動における、前肢の体重分担の役割が大きい霊長類ほど、胸郭に対して遠心寄りに肩関節が位置する傾向が強いのではないかと考えられる。
  • 原澤 牧子, 杉浦 秀樹
    セッションID: B-01
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    育児中の母親は、アカンボウの生存維持と、自分自身の生存維持および将来の繁殖のために、限られた資源である時間やエネルギーを分配しなければならない。しかし、どの程度まで育児に資源を費やすべきかは、状況によっても異なると考えられる。したがって、母親はその時々の状況に応じて育児投資の配分を変え、コストと利益のバランスを調整している可能性がある。本研究では、育児投資の中でも親にかかる物理的、エネルギー的な負担が大きなアカンボウ運搬行動に着目した。そして、この運搬行動に影響する物理的、社会的環境要因について検証した。
    [方法] 幸島の野生ニホンザル主群において、2007年に出産したメス全6個体を対象に、個体追跡法による観察を行った。調査期間は2007年6月から2008年2月までとし、アカンボウがそれぞれ7、14、30、60、90、120、180-210日齢のときに、各齢各個体10時間以上を目安にデータを集めた。
    [結果] 樹上か地上か、斜面が急峻か平坦かといった物理的な環境の違いは、アカンボウ運搬率に影響を与えなかった。母親が移動している時と比べると、採食時は運搬率が低かった。また、群れ内の敵対的交渉頻度が高い状況では、運搬率が高かった。給餌場面では、群れ内の攻撃性が非常に高まり、高い運搬率と高頻度の運搬拒否行動が示された。
    [考察] 採食行動は、移動に比べて複雑な動作を必要とするうえ、母親の生存維持に直接的に関わることから、運搬によるコストがより大きいと考えられる。攻撃性が高い場面では、運搬によってアカンボウが他個体から攻撃されるリスクを回避している可能性が示唆された。給餌場面では、質の高い餌をめぐって採食競合が熾烈化するため、群れ内の攻撃性が増すと同時に、母親はより効率的な採食を要求される。そのため、母親にとってコストとリスクの両方が高くなり、葛藤が生じる場面になっていると考えることができる。
  • 佐藤 宏樹
    セッションID: B-02
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    (目的)霊長類は種子散布者として重要な役割を果たす分類群である。植物がその果実の特徴を種子散布者の果実選択に適応させる果実シンドロームが各地で報告されてきた。マダガスカルは、白亜紀後期に大陸から隔離したため、鳥類・哺乳類の多くの分類群が欠如しており、種子散布機能を持つ中型・大型果実食者はキツネザル類、特にVarecia属、Lemur属、Eulemur属に限られる。主にキツネザルに種子散布を期待するマダガスカル森林生態系では果実シンドロームは見られるだろうか?本発表では、マダガスカル北西部アンカラファンツィカ国立公園で最も大型で重要な散布者と考えられるチャイロキツネザルが採食した果実の分析を通して、キツネザル散布型果実シンドロームの可能性について考察する。
    (方法)発信機付き首輪を装着した1群の終日観察を2006年12月から1年間行った。観察で採食が確認された果実は、果実サイズ、色、構造、種子数、散布体(散布される単位、種子や果実)サイズを記録した。散布体サイズは、糞分析から得られるデータも併用した。
    (結果と考察)合計観察時間1252時間のうち、18056分の採食行動が観察された。果実の採食時間は64.6%を占め、87種が利用された。果皮の色は、85.7%が「目立たない色」、14.3%が「鮮やかな色」だった。散布体サイズを長さ、長径、短径の3軸で測定したとき、散布者が飲み込む限界は、2番目に長い軸が決定する。アンカラファンツィカの森林でこの軸が7.8mm以上の散布体を飲み込む可能性があるのはチャイロキツネザルだけである。こうした果実は、31種確認された(55%はマダガスカルに固有)。このうち、種子を保護する構造を持つ果実種は80.6%で、7.8mm以下の種の17.2%より多い。チャイロキツネザル以外に散布者が見当たらない植物の果実は、目立たない色で保護構造を持つ傾向が示された。
  • JAMAN M.F., HUFFMAN M.A.
    セッションID: B-03
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    We investigated two different free ranging rhesus macaque troops, one living in an urban setting and the other in a rural setting in Bangladesh. The main objectives are to compare and quantify the activity budgets of two populations living in different environments to understand how activity patterns correlate with seasonal and other environmental factors. Behavioral data was collected between September and October, 2007 equally across each age/sex class in both troops. Resting time was significantly higher than feeding time. Feeding time was significantly higher in the rural troop than the urban troop, whereas resting and moving were significantly higher in the urban troop. Time spent feeding and resting was significantly different by age-sex class in both troops while grooming varied by sex class and moving by age class. The urban troop mainly subsisted on natural vegetation (77.7% of the total feeding time), mainly figs (28.3% of total feeding time) followed by grasses (11%). In contrast, the urban troop fed on provisioned foods (63.1%), mainly chickpeas, bread and bananas, supplemented little by natural plant foods. Significant variation of time spent feeding on natural plants was more profound in the rural troop than the variation of feeding time for either age or sex classes in the urban troop. Food availability in the two different rhesus habitats is one factor believed to have caused these variations in behavioral patterns between the troops.
  • 張 鵬, 渡辺 邦夫
    セッションID: B-04
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    To understand social organizations of the Sichuan snub-nosed monkey, we studied a free ranging band in their natural habitats from 2001 to 2007. The study confirmed this species live in a multi-level social aggregation. One-male unit, on average 1 male, 4 females and youngsters, is their basic social unit. The band, a higher social structure, comprised of 4 to 8 one-male units that consistently carried out their activities together. Adult females placed high priority of long-term relationships with other females in the one-male units, while adult male were socially peripheral. Among one-male units, clear dominance relationships existed, and the dominance ranks were stable for years. Dominance ranks of one-male units positively correlated with unit sizes and the duration of their stay in the band. I discussed possible evolutionary factors of their multi-level societies, by comparing with several other primate species living in multi-level societies, e.g. Gelada baboon, Hamadryas baboon and Proboscis monkey.
  • 松岡 絵里子
    セッションID: B-05
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    これまでのニホンザルにおける子どもの社会関係の研究は、子どもと母親との関係や子ども同士の関係についての研究に偏っており、子どもと母親以外のオトナとの関係に焦点を当てた研究は少なかった。しかし、子どもは群れという集団の中で生活しており、母親以外のオトナとも何らかの関わりをもっている。子どもの社会関係の全体像を捉えるためには、母親以外のオトナとの関係についても調べることが不可欠と考えられる。本研究では、特に子どもとオトナオスとの関係に着目して、定量的な研究を行った。観察方法は個体追跡法を用い、生後11ヶ月から16ヶ月までの子どもを観察した。オトナとの近接頻度と、オトナオスとの接近と離脱を調べた結果、子どもはオトナメスよりもオトナオスと有意に多く近接しており、その近接は子どもからの働きかけによることが分かった。これまでの子どもとオトナオスとの社会関係に関する研究は、オトナオスの利益に焦点が当てられてきたが、子どもからオトナオスに近寄っていくのならば、「オトナオスとの近接」は子どもにとって有利な効果があるのではないかと考えられる。そこで、子どもにとって有効な効果の一つとして、子どもが受ける攻撃との関係を調べた。その結果、オトナオスとの近接時間の多い子どもほど、攻撃を受ける頻度が低いことと、子どもがオトナオスと近接している時は、近接していない時に比べ、オトナメスや他の子どもから攻撃を受ける頻度が低いことがわかった。つまり、オトナオスとの近接によって、子どもは近接しているオトナオス以外の個体からの攻撃を回避できる、という可能性が示された。さらに、子どもは順位の高いオトナオスと近接する傾向があるが、攻撃頻度が高く自分が攻撃されやすい状況では、オトナオスへの接近を避けるなど、状況によって柔軟に近接の仕方を変えていることが明らかになった。
  • LECA Jean-Baptiste, HUFFMAN Michael A.
    セッションID: B-06
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    Among the various behavioral innovations reported in Japanese macaques (Macaca fuscata), stone handling (SH) is a form of solitary object play consisting of the manipulation of stones by performing various behavioral patterns. We took a comparative approach to chart inter-group diversity in SH. The occurrence and form of SH was systematically compared in four captive troops of Japanese macaques housed at the Primate Research Institute and Japan Monkey Centre, Inuyama, and six free-ranging troops living at four geographically isolated field sites in Japan (Arashiyama, Koshima, Shodoshima, and Takasakiyama). At Arashiyama, we took a longitudinal approach to document the diffusion of SH within the group and across generations at several points in time over a 30-year period. Our results allowed 1) to establish the comprehensive repertoire of 45 SH patterns in Japanese macaques, 2) to reveal substantial variability in SH between troops, referred to as SH cultures; 3) to provide evidence for the social transmission of SH, and 4) to show that in several troops, this behavioral tradition has reached its transformation phase, with an increase in the SH repertoire and an expansion of the contexts in which SH is practiced. This research aims to offer new insights into the role primate behavioral traditions might have played in the emergence of hominid material culture. Sponsors: Lavoisier Grant (Ministere des Affaires Etrangeres, France); JSPS postdoctoral fellowship (No. 07421); Grant-In-Aid for scientific research (No. 1907421, Ministry of Education, Science, Sports and Culture, Japan).
  • 川添 達朗
    セッションID: B-07
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    これまでのニホンザル(Macaca fuscata)のオスの存在様式は群れオス、周辺オス、ハナレオスの3タイプに分類されてきた。本研究を実施した宮城県金華山島に生息するニホンザルの群れは社会性比が小さく、多くのオスが群れから離れて生活しており(Sprague et al,1998)、群れとの関わりが密から疎までのいろいろな段階のオスがいることが予想されている(伊沢,1983)。本研究では近接時間とグルーミングという量的なデータによってオスの存在様式を表す。また、そのようなオスの存在様式がオス同士のグループ形成にどのような影響を与えるのかについて検討を加える。本研究は、宮城県金華山島に生息する野生ニホンザルを対象として実施した。オス12頭を対象として個体追跡を行い、近接個体の個体名と近接の継続時間、グルーミングの交渉相手とその回数を記録した。メスとの近接時間割合からは、特定の群れのメスとのみ近接するオス、メスと近接しないオス、そして、複数の群れのメスと近接するオスが確認された。またメスとグルーミングを行うのは特定の数頭のオスだけであり、近接時間割合の結果と合わせ、オスの個体ごとにメスとの関係の有無がはっきりとしており、境界が明確に認められた。一方でオス同士の近接やグルーミングは様々な個体間で観察され、交渉が頻繁に行われる組み合わせを認めることはできるが、オスとメスとの関係に見られるような明瞭な境界がオス同士の関係からは認められなかった。3個体の近接のパターンと継続時間を分析すると、ある特定の個体がいる時にのみ3個体での近接が見られ、また継続時間も長くなることがあり、2個体の関係を安定させる役割を持つオスがいることが示唆された。このような2個体をより安定した関係に導くという機能によってオス同士のグループ形成が可能になることが考えられる。
  • 藤本 麻里子
    セッションID: B-08
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    チンパンジーは相手の数センチから数十センチという至近距離から相手の顔や手元など体の一部を凝視する、覗き込み行動(Peering behavior)を行なうことが知られている。マハレのチンパンジーも様々な文脈でこの覗き込み行動を行なう。覗き込まれた個体は相手を見つめ返すことはほとんどしないが、文脈によってその後に引き続いて起こる行動は様々だ。本発表では最も頻繁に覗き込み行動が観察された採食場面について、覗き込みの後に食物の移動が見られたかどうかについて報告する。マハレのMグループのチンパンジーで、1個体を終日個体追跡する方法で観察した。個体追跡中に周囲の個体同士で生起した覗き込み行動もアドリブサンプリングにより記録した。本発表では、2005年11月から2006年4月の6ヶ月間に収集したデータについて発表する。この期間に観察された覗き込み行動は543例で、うち329例(60.6%)が採食場面で生起した。また、覗き込み行動は覗き込む個体(以下、Peerer)と覗き込まれる個体(以下、Peeree)が1個体ずつの交渉と、複数の個体が1個体を覗き込む交渉があり、329例中前者が266例(80.9%)で、後者が63例(19.1%)だった。このうち、1対1の交渉266例について、食物の移動について分析を行なった。覗き込み行動の後にPeereeの食物がPeererに移動した例は69例(25.9%)だった。覗き込みの後に、敵対的交渉はほとんど見られなかった。食べ物の移動が見られた69例では、覗き込みの後にPeererがPeereeの口元に手を伸ばす、自分の口を近づけるなどのより強い要求行動が見られた。覗き込んだだけでPeereeから積極的に分配が起こる事例はなかった。チンパンジーの採食場面での覗き込みは、「物乞い」する機会を窺うために、とりあえず近接を許容してもらう機能があると考えられる。
  • 岡本 暁子
    セッションID: B-09
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    本研究は、インドネシア、スラウェシ島南西部のカレンタ自然保護区に生息するムーアモンキー(Macaca maurus)の樹上性、地上性の程度について報告する。地上性、樹上性に関する基礎的データは、生態学的にも形態学的にも重要な意味がある。特にマカク属は長期調査に基づいた生態的基礎データが蓄積されつつあり、種間比較研究が期待できる。ムーアモンキーはマカク属の一種であり、その生態的条件等から比較研究における重要な位置にあるが、生息地の減少と分断により生息個体数が少なくなっており、生態的基礎データの報告が急がれる。本研究の対象は、Bグループと呼ばれる群れである。分析には、1996年4月から5月に収集されたデータが使用された。群れの構成は、オトナオス4頭、オトナメス11頭、ワカモノオス6頭、ワカモノメス4頭、コドモオス5頭、コドモメス5頭の計35頭であった。データは5分間隔のスキャンサンプリングで収集された。5分の間に発見された個体の名前、アクティビティ、位置(地上にいるか樹上にいるか)、近接個体および群れの広がりが記録された。大人オスが樹上にいる割合は平均して22%であった。そのうち、データ収集時のαオスおよびそれ以前のαオスの2頭はそれぞれ14%、18%という低い値であった。また、大人メスが樹上にいる割合は平均で33%、ワカモノオスは平均で26%、ワカモノメスは平均で29%であった。これらの値は、マカク属のサルの中でムーアモンキーが地上性の強い種であることを示唆している。
  • 丸橋 珠樹
    セッションID: B-10
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    ベニガオザルは、新生児の毛色が白い、ペニスの形態が非常に特異的である、シングルマウンターで射精後pair sitが長時間継続する、などの種特異的な行動が多様に見られる種である。また、ベニガオザルの社会はegalitarian societyであると論じられているが、野生状態での詳細な研究は少ない状況である。本報告では、森林内での個体追跡に基づく行動や生態の概要を報告する。Khao Krapuk Khao Taomo non-hunting Area, Pechaburiにおいて、2007年12月5日から2008年2月10日までの乾季に調査を実施した。本地域個体群は、禁猟・森林保護区に生息しているが、隣接する道や寺で餌づいている状態の4群で構成されている。保護区の中央には断崖で囲まれた岩山があり、その周辺の森林が保護区となっている。調査地には、ベニガオザル以外の霊長類は生息していない。4群のうち1群を集中調査対象群として人づけを行い、雄と雌の個体追跡を行った。他の3群については、主調査群との群れ間関係と群れ構成(個体識別)を主に調査した。2008年1月の主調査群の構成は、雄20頭、雌11頭、4歳から1歳のこども20頭、赤ん坊3頭、合計54頭であった。他の3群のサイズは、58頭、38頭、29頭であり、それぞれ赤ん坊が8、3、2頭であった。地域個体群の性比は、4群全体で雄48頭雌40頭であった。群れ間の出会いから群れ間には優劣関係が存在し、すべての組み合わせでの観察が得られたわけではないが、直線的順位関係を想定することができた。その他、遊動域、採食生態、性行動などについても概要を報告する。
  • 半谷 吾郎, Menard Nelly, Qarro Mohamed, Ibn Tattou Mohamed, 清野 未恵子, Vallet ...
    セッションID: B-11
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    霊長類の分布の中心である熱帯に比べ、温帯は気候も食物利用可能性の点でも、より季節変化の大きな環境である。そのような場所で生息するには、どのような生態学的適応が必要なのかを明らかにするため、マカク生息地の東西の端である日本とモロッコ・アルジェリアに生息する、ニホンザルとバーバリマカクの比較を行った。両者の生息環境は、北アフリカのほうが日本よりも種構成が単純で、より厳しい環境であると考えられた。食性は種内での変異が大きかったが、両種とも果実・種子を選好する傾向と、熱帯のマカクに比べれば葉の採食時間が多い傾向が見られた。秋に果実の採食が増え、冬には常緑樹の成熟葉・落葉樹の冬芽などの繊維性の食物を食べる傾向が、共通して見られた。ニホンザルの生息地である屋久島と、バーバリマカクの生息地である中アトラスの間で、食物となる植物の葉、食物とならない植物の葉の化学成分を比較した。食物・非食物に関わらず、中アトラスの方が繊維成分が少なく、脂肪が多く、縮合タンニン・加水分解タンニンが多い傾向が見られた。また、屋久島では縮合タンニンが少ない葉を食物として選択する傾向があったが、中アトラスではそのような傾向は見られなかった。以上のことから、温帯に生息するマカクの共通性として、繊維性の食物への耐性と、果実・種子などの高質の食物への選好性が見られることが分かった。また、繊維性の食物への耐性の程度は、その環境の厳しさの程度によって異なり、北アフリカは、日本より植生の構造が単純で二次化合物(縮合タンニン・加水分解タンニン)を葉に多く含むが、バーバリマカクは、二次化合物を多く含む葉を忌避することなく採食していた。今後、キンシコウなど、温帯に適応を果たした、他の系統群との比較が必要である。
  • 三谷 雅純, GURMAYA J.K., NOVIAR E., 渡邊 邦夫
    セッションID: B-12
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    1997-98年のエル・ニーニョは歴史的にもまれに見る規模で起こり、広範囲な地域に深刻な影響を与えた。インドネシア、ジャワ島南岸のパンガンダランでも被害は甚大で、シルバールトン(Trachypithecus auratus auratus)には、消失(死亡)など個体群への影響が現れた。パンガンダランのルトンはTectona grandis(チーク)とSwietenia macrophylla(マホガニー)の植林跡と古い二次林に住み、採食対象の多くはこれらの若葉や新芽である。1997-78のエル・ニーニョでは、乾燥のさなか、S.macrophyllaをはじめDalbergia latifolia(sonokeling)、Terminalia catappa(モモタマナ)、Schleichera oleosa(kasambi)、Heritiera littoralis(サキシマスオウ、dungun)など、多くは移入種の新芽が採食された。この新芽の生産と栄養が、シルバールトンにあらたな妊娠をうながしたのだろうが、不定期に起こるエル・ニーニョのような現象では、ルトンにとって次の雨季の時期は予想が困難であり、子育てのために栄養が確保できるかどうかはわからない。ではなぜ妊娠したのだろうか?ここでは移入された植物のフェノロジーや植栽された場所と集団の空間分布、ルトンの排卵と妊娠などの生理特性などから理由を探ってみる。
  • 早石 周平
    セッションID: B-13
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    屋久島のニホンザル(Macaca fuscata yakui)は、ポンカン、タンカン、カンショを食害し、一年間の被害金額は2-3千万円を推移している。屋久島町は被害対策として、おもに有害捕獲と電気柵設置を実施している。ここ数年来、一年間に有害捕獲されるニホンザルは500頭を越えており、屋久島個体群を保全する上で、捕獲頭数の的確な管理が望まれる。2007年から発表者の京大霊長研共同利用研究の一環として、屋久島町役場(旧上屋久、屋久両町役場)が記録してきた2004年から2006年度の有害鳥獣捕獲資料を閲覧し、捕獲日、捕獲場所について整理した。各年度の各月捕獲頭数は、70.1±29.5、49.4±23.8、49.7±25.7(平均±SD、以下同じ)であり、ほぼ毎月20頭以上が捕獲されていた。各年度の島内24集落ごとの捕獲頭数は、35.0±29.8、24.7±31.9、24.8±47.8であり、集落ごとに捕獲頭数が大きく異なっていた。また、各年度の各曜日の捕獲実施回数は、43.1±29.3、45.7±10.8、46.4±12.5であり、曜日に関わらず、捕獲を実施する猟友会会員には大きな負担だったと推測される。屋久島は急峻な地形を有する山岳島であるため、住人のおもな生活地域は海岸域にあり、有害捕獲もまた海岸域でのみ実施されている。山域に生息するニホンザルの現況はほとんど把握できていないが、海岸域での捕獲は山域の個体数減少に影響すると推測される。集落は河川の下流域にあるため、集落単位での管理を行うことで上流域=山域のニホンザルを含めた個体群全体の保全に貢献でき、猟友会会員の負担軽減に寄与し、また電気柵設置の費用対効果を検討する際の具体的な根拠として利用できるだろう。今後も集落単位での捕獲記録を継続してもらえるように、屋久島町に提案できる現実的な管理方法について議論を進めたい。
  • 堀内 史朗, 高崎 浩幸
    セッションID: B-14
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    ニホンザルの野生群が農地付近に高密度で分布している。群れのサイズは山に居る群れより大きく、それが猿害群の特徴となっている。農地の資源価値が山の資源価値より高いことが、サルが農地に居つく原因とみなされてきた。猿害対策が失敗する原因として、不十分な農地管理・サルの人里動物化が挙げられてきた。しかし複数の群れが資源をめぐり争う空間構造を踏まえれば、農地に大サイズの群れが現れるのは必然ではないだろうか。この仮説を検証するため計算機実験を行った。サイズの異なる複数の群れが二次元平面上に分布し、資源をめぐって互いに争う。サイズの大きい群れが競争に有利で、競争に敗北した群れは資源を失う。十分な資源を獲得できない群れのサイズは小さくなり、他の場所に移動する。このような設定の下、十分な時間が経過してから、二次元空間の境界域(農地)と中心域(山)に分布している群れサイズ・密度を比較した。計算機実験の結果、農地の資源価値が山の資源価値に比べて十分低い場合でも、農地にいる群れのほうが山にいる群れよりサイズが大きくなることが分かった。この意外な結果が生じる理由は、1)農地の群れは競争相手が少ない。2)マルコフ連鎖の果てに空間の境界である農地には多くの群れが滞留し、競争に敗れる小サイズの群れは山に逃げる。その結果、大サイズの群れが農地に残る、の二つが挙げられる。また農地から山へと人為的にサルを追い上げる効果も考慮して再実験を行った。その結果、山の資源価値が低い(サルの密度が低い)場合、追い上げによって農地の群れサイズ・密度が山に比べて劇的に下がることが分かった。じっさい秋田県八峰町では、ボランティアや犬による追い上げでサルが農地に現れにくくなった。サルの密度が低い東北地方では、農地管理より追い上げが重要な対策であると示唆するものである。
  • 吉田 洋, 林 進, 杉本 志保里, 中村 大輔, 藤園 麻里, 北原 正彦
    セッションID: B-15
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    近年、全国的にニホンザルによる農作物被害が増加し、社会問題化している。そのなかで現在、山梨県富士吉田市において、サルが人里におりて来る度にモデルガンを使って脅かすことで、人里は危険なところだと学習させ、サルの出現頻度を減少させることを目的にした追払い活動に、市民団体「獣害対策支援センター」が主体となって取り組んでいる。本研究では、このニホンザルの追払いの効果を把握することを目的とした。調査は、富士吉田市および富士河口湖町を行動圏とするニホンザル「吉田群」のオトナメスにVHF発信器付きの首輪を装着し、ラジオテレメトリー法で移動追跡を行って位置を特定し、ニホンザルが加害する農作物の種類と分布を、直接観察により把握した。調査期間は2004年4月から2007年11月で、毎月最低5日以上の放探を実施した。なお、「獣害対策支援センター」による追払いは、富士吉田市のみにおいて2007年6月から行われていた。「獣害対策支援センター」が追払いを開始した2007年6月以降の、富士吉田市におけるニホンザルによる農作物の摂食頻度は、それ以前の年の同じ時期の頻度に比べ低下していた。また、「吉田群」が集落地域を利用する出没割合も、追払い開始後においては以前より低くなる傾向が認められた。さらに、追払いの効果がもっともあらわれた秋期における「吉田群」の行動圏をみると、追払い開始前の2004年と2006年には、富士吉田市内の住宅地は「吉田群」のコアエリアに含まれていたが、追払い開始後の2007年にはコアエリアに含まれていなかった。これらのことから追払い活動は、ニホンザルを人里から遠ざけ、農作物の被害を軽減するうえで、有効であるといってよい。ただし本研究を通じて、過去におけるニホンザル群の行動圏や出没頻度、農作物の摂食頻度に大きな年次変動があることが確認された。そのため、被害対策の効果を確認するためには、より長期における調査が必要である。
  • 下村 忠俊, 河野 光治, 但馬 孝光, 村田 美由紀, 種村 将, 江川 順子, 嵯峨 由朗, 栗田 博之
    セッションID: B-16
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    高崎山では1980年頃より断続的にニホンザルのオトナオスの体重測定を行ってきた。これにより1970年代にはじまった餌付け群へ対する投餌の減量からくる体重の変化を調査したところ体重が減少しているという傾向が見られた。また、オスの群間の移動に際して体重への変化はあるのかをまとめて発表する。
  • 友永 雅己, 伊村 知子
    セッションID: B-17
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    これまでの発表において、チンパンジーは自種や他種に限らず顔刺激を他の雑多な対象物の中からきわめて効率的に探索することができることを報告してきた。この効率的探索は倒立提示によって著しく阻害されることから、顔刺激の全体的処理と効率的探索の間の強い関係が示唆された。一方ヒトでは、近年、顔だけでなくからだについても倒立提示による知覚・認知の妨害効果が報告されており、からだのパターンの知覚についても全体的処理が関与している可能性が示唆されている。したがって、顔刺激について見られたような効率的探索が「からだ」についても認められる可能性がある。そこで、本研究では複数個体のチンパンジーを対象に、視覚探索課題を用いてこの問題を検討した。23カテゴリのシルエットパターン(計1450刺激)のうち、チンパンジーのからだ、魚、イス、船、の4カテゴリを標的刺激として、その他の雑多なパターンの中から標的刺激を見つけ出すことを訓練した。標的刺激はセッションごとに固定し、提示される刺激の個数は試行ごとにランダムに変化した。その結果、チンパンジーは、標的となるシルエットパターンを雑多な妨害刺激の中から見つけ出すことが可能であり、そして、特にチンパンジーのからだについては、他の標的刺激のカテゴリとは異なり、比較的速く見つけ出すことができた。つまり、チンパンジーはこれまでに見たことのないかたちであっても、知覚的な類似性によって比較的容易にカテゴリ化することができること、また、既知なカテゴリについては彼らにとってより意味のあるチンパンジーのからだの方がより効率的に検出できること、が今回の実験から示唆された。この結果は顔刺激での実験結果と類似するものであるが、チンパンジーが「からだ」パターンに対しても、顔と同様に全体的処理を行っているのかについては、今後さらに検討する必要がある。
  • 松原 幹, Ridges Phil
    セッションID: B-18
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    ヒトもふくめた霊長類の心身発達の進化的、文化的基盤の研究のために、類人猿の遊び行動が注目されている。遊び行動のバリエーションは、群れやコミュニティの性年齢構成や 遊び道具になりうる住環境の物質に影響される。類人猿の中ではゴリラの遊び行動の研究は少ない。そこでイギリス南東部のハウレッツ・ポートリム野生動物公園にてニシローランドゴリラの行動観察、特に遊び行動の調査を行った。同園の敷地はカンタベリーに近いハウレッツと海岸部のポートリムに分かれ、ハウレッツではゴリラの家族群4群を、ポートリムでは家族群1群とオス群2群を飼育している。今回はポートリムで飼育される家族群(ジャラ群)を対象に7頭の 未成熟個体(1歳雄雌各1頭、4歳雄1頭、6歳雄1頭、7歳雄雌各1頭、8歳雄1頭)を中心に14頭を観察した。飼育環境は室内と屋外(壁面と天井に鉄製 メッシュを張りめぐらせた放飼場と、芝生やシイ類、イラクサ等が生え、木製櫓が建てられたガーデン・エリア)から成る。遊びに使用される物体の種類や遊びをする空間の環境特性は、乳児とそれ以上の未成熟個体の間に違いがみられ、乳児において天井部と壁面利用が長時間観察された。また、独り遊びは乳児に長時間みられ、他個体との社会性を伴う遊びはそれ以上の個体で多くみられた。
    なお乳児の他年齢との社会的な遊びの頻度には個体差がみられたが、発達程度や個性、性別による影響については対象個体数が少ないことから解析困難であるため、観察対象数を増やす必要性がある。
  • 松本 晶子
    セッションID: B-19
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
    会議録・要旨集 フリー
    マハレのチンパンジーでは、メスたちは互いに発情をさけあっていた(Matsumoto-Oda et al. 2007)。本研究の目的は、メスの発情のさけあいが、どのような戦略として働いているのかを明らかにすることである。メスが発情をさけあっていた年とそれ以外の年の間で、出産率に違いがあるかどうかを分析した。メスが発情をさけあっていた年はそれ以外の年に比べて、出産率が有意に低いという結果が得られた。メスが発情をさけあっていた年において、出産率が低くなったことと、そのような戦略をメスがとることの理由について検討した。
  • 小山 直樹, 高畑 由起夫
    セッションID: B-20
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    霊長類の行進の順序については、ヒヒ類やマカク類などで調べられているが、原猿類についてはほとんど報告がない。ワオキツネザルはキツネザル類の中では地上を移動することが多い種で、尾を立てたまま整然と移動する。採食地へ向かって地上を行進してゆくワオキツネザルT1群を対象に、個体毎の行進の順序を計17回調べた。調査期間は1998年9月3日から11月26日であった。10月16日まではT1群の構成はオトナメス(3歳以上)8頭、ワカモノメス(2歳)1頭、コドモメス(1歳)1頭、オトナオス5頭、ワカモノオス1頭、コドモオス3頭の計19頭であったが、その後オトナオス1頭が移出したため18頭になった。9月から10月に計4頭のアカンボウが生まれたが、これらは対象から省いている。T1群の場合、平均値でみて行進の先頭であったのは3歳のオトナメス(HIT90195♀、5位)で、2番目がその母 (HIT901♀、2位) であった。クラスター分析をおこなったところ、上記の2頭に祖母 (HIT、1位) とおば(HIT95♀、4位)が加わった4頭で一つのクラスターを形成しており、血縁による結びつきが認められた。このように、ワオキツネザルT1群ではオトナメスたちが行進の先頭に立つ傾向があったが、やはり地上を移動するマカク類等と比較すると、大きな違いがある。例えば、1963年にインド・ダルワールで観察したボンネットザルE群では、7回の観察のうち先頭に立ったのは1♂(社長)が5回、2♂(専務)が2回と高順位のオトナオスたちであった。行進の最先頭は食物資源の選択や確保に優先権をもつが、捕食や他群との遭遇などのリスクが高いと考えられる。ワオキツネザルの場合、行進の順序にメスの優位性(オスより優位)が反映しているようであり、マカク類などとは違う行進パターンをとっているのであろう。
  • 竹ノ下 祐二, 安藤 智恵子
    セッションID: B-21
    発行日: 2008年
    公開日: 2010/06/17
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    【はじめに】
    ムカラバ国立公園にゴリラと同所的に生息するチンパンジーは、人づけの困難さから、ゴリラより調査が遅れているが、過去9年間の調査でかれらの生態の概略がつかめてきた。それを報告する。
    【調査地と方法】
    調査地はムカラバ国立公園北部である。森を踏査してチンプやその痕跡を探し、チンプを発見したら姿を隠して可能なかぎり追跡した。相手に発見されたら、姿をあらわして人づけを試みると当時にビデオで撮影し、個体識別の助けにした。フンは発見したら拾って、標準的な糞分析手法で内容物を調べた。
    【結果と考察】
    単位集団
    20頭程度のひとつの単位集団がゴリラの調査対象集団(GG)のホームレンジを覆う形で生息していると思われる。遊動域の外縁は未解明。遊動域内には複数のゴリラ集団が存在する。調査域外にもチンプは連続的に分布する。集団の個体数、性年齢構成などは不明。識別個体は2頭のみで、繰り返し観察が少ない。遊動パターンについては、まとまりよく、オーディトリ・コンタクトのとれる範囲に大多数の個体がいるという印象をうける。採食パーティは3~5頭が標準的で、乾期と雨期とで大きな差はない。
    食性
    果実食:恒常的「ripe fruit persuer」である。Cissus dinklageiが年間を通じた重要食物である。イチジクを好んで食べる。糞中の果実の体積割合は年間を通してゴリラより高いが、食べる種数は多くない。果実の多い雨期には、フン中の種数ではゴリラに抜かれる。昆虫食:シリアゲアリ、ツムギアリを食べる。サスライアリやシロアリは糞から出てこない。棒を使ったハチミツ採食がよく見られる。動物食:あるが、頻度は少ない。おそらく獲物となる動物が少ないからだろう。
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