新生豚の生理貧血と損耗の関係ならびに子豚の鉄欠乏性貧血の発育阻害を明らかにしようとした。生理貧血と損耗の関係を調べるため, 13腹117頭の新生豚を用い, コンクリート床の豚房で, 10日齢まで母乳のみで哺育し, この関係を追跡した。また, 鉄欠乏性貧血の発育阻害の実験は, 11腹83頭の子豚を用い, 3日齢から60日齢まで行なった。鉄処置区はデキストラン鉄の筋肉内注射ならびにフマール酸第一鉄の経口投与を行ない, 貧血区は無処置とした。その結果の概要は次の通りである。
1 出生時体重の平均値は1.15kg, 分布範囲は0.47-1.95kgであった。出生時体重の正常値を平均値土標準偏差×2とすると, 正常値は0.59-1.71kgの範囲であった。出生時Hb量の平均値は10.7
g/100
ml, 分布範囲は6.5-14.8
g/100
mlであった。正常値は8.1-13.3
g/100
mlの範囲であった。
2 出生時体重の小さい個体は体重増加が劣り, また出生時Hb量が低く, Hb量の減少が大きい傾向にあった。出生時Hb量の低い個体はHb量の低下がきわめて大きく, また, 出生時体重が小さく, 体重増加が劣る傾向にあった。すなわち, 出生時体重の小さい個体や出生時Hb量の低い個体が貧血の影響を受けやすかった。出生時体重の大きい個体と出生時Hb量の高い個体は, 体重増加が良好で, Hb量の減少が少ない傾向にあった。
3 出生時体重による死亡率は, 1.0kg未満の群が30%, 1.0kg以上1.4kg未満の群が16%, 1.4kg以上の群が5%であった。出生時Hb量による死亡率は, 10.0
g/100
ml未満の群が30%, 10.0
g/100
ml以上12.0
g/100
ml未満の群が14%, 12.0
g/100
ml以上の群が12%であった。なかでも, 出生時体重が小さく, かつ出生時Hb量が低い個体の死亡率が43%で, もっとも高く, しかも, その死亡は3日齢以前に多かった。これは, 出生時体重の大きい個体や出生時Hb量の高い個体の死亡が3日齢以前に全く認められなかったのと対照的であった。したがって, 新生豚の生理貧血は3日齢以前の損耗と関係が深いことが明らかとなった。
4 出生時体重と出生時Hb量は腹による差異が明瞭で, しかも, 産子数の多い腹は出生時体重の小さい個体や出生時Hb量の低い個体が多かった。したがって, 産子数の多いことが, 出生時体重の小さい個体や出生時Hb量の低い個体を生産し, 損耗率が高くなる原因である。
5 鉄欠乏性貧血の発育阻害の実験において, 貧血豚の増体量は30日齢以降明らかに低下した。したがって, 鉄欠乏性貧血は長引いた場合, 発育の阻害要因になることが明らかになった。しかし, 発育がこの貧血の原因であるので, 貧血が発育におよぼす影響を早い時期から明確に知ることはきわめて困難である。
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