豚の胃食道部潰瘍について1969年5月から1973年4月までの4年間にわたり, 一連の調査および試験研究を行った。
屠場に出荷屠殺された豚の胃を検査したところ, 1,763頭中正常なもの54.7%, 胃食道部に異常を認めるもの45.3% (不全角化31.3%, 糜爛5.4%, 潰瘍8.5%) と, わが国でもいわゆる豚の胃潰瘍が多発していることを確認した。
ことに調査中判明しに興味ある事実は, 敷料を用いず微粉配合飼料のみを与えて飼育されている豚群に高率の発生がみられることで, その発生率は80%以上に達し重度の糜爛や潰瘍の発生は25%以上にも及んだ。またこれらの群での発育不良による淘汰豚の70%程度が潰瘍を主因とするものであった。
肉豚肥育を目的とする養豚場での疾病などによる被害状況を調査したところ, 4年間の総生産頭数27,150頭中胃潰瘍を主因とする死亡数は173頭 (0.63%) で, 淘汰豚1,239頭 (4.5%) の約70%が胃潰瘍を主因とするものとすれば, 総数の約4%が胃食道部病変によっって直接被害をうけたことになり, 豚の疾病その他による経済的損失の主位を占めた。
胃食道部病変のうち不全角化の段階のものでは発育その他に悪い影響を及ぼさないが, 糜瘍や潰瘍にまで病変が進行すると, その程度によって種々の悪影響が認められ大量の出血による乏血死や, 悪急性の衰弱死をまねき, 慢性化すれば発育不良におち入るものが多い。
年令, 季節, 品種, 微生物や寄生虫の感染, 中毒などと潰瘍発生との関係はとくに大きいものとは考えられないが, 性別による発生率の差は著るしく, 去勢豚67.1%, 雌豚32.9%の割合であった。
ストレスとの関係は胃食道部病変の発生に直接関与するものではないようであり, 密飼によるストレス説は, 同密度でも敷料を用いて飼育する場合にはほとんど発生しない事実から考えると甚だ疑わしい。
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