I 背景及び目的
キーヤ川はアムール中流域に位置し,ロシアと中国の国境を流れるウスリー川,アムール川を経てオホーツク海に注ぎこむ。アムール川周辺の湿地帯から流れこむ鉄がオホーツク海のバイオマスを豊かにすると言われており(Shiraiwa, 2005),中でもキーヤ川周辺の湿地帯が鉄生成に寄与していると考えられている。そこで本研究では,衛星データを用いてキーヤ川周辺の地形分類図を作成するとともに,堪水域と湿地の分布を明らかにし,さらに,湿地調査および水質検査を行った。
II 方法
地形分類図は,SRTM (Shuttle Radar Topography Mission)で標高図を作成し,おおまかな地形をつかみ,JERS-1/SAR画像上でテクスチャを丹念に確認することにより作成した。
SRTMにより,当該地域の河川の標高を32mとし,1mずつ標高を高くして,堪水する地域を塗りつぶすことにより,堪水図を作成した。また,湿地の分布図は,JERS-1/SARを用いてMurooka et al. (2007) に従って作成した。
現地調査により,キーヤ川周辺の各地形種上の湿地と,比較のために近隣のホル川周辺の湿地において,微地形と植生を明らかにした。
水質調査は,キーヤ川およびホル川の河川水と周辺の湿地,キーヤ川近くの井戸において,簡易水質検査計(デジタルパックテスト・マルチ,共立理化学研究所)を用いて行った。
III 結果と考察
地形は,河川,氾濫原,自然堤防,低位氾濫原,扇状地性の低位氾濫原,山麓緩斜面,山地に分類できた。近隣のホル川と比較してみると,キーヤ川の方が若干標高が低く,ホル川は低位段丘上を流れているのに対して,キーヤ川は扇状地性の低位段丘上を流れていた。さらに,降雨量が多い時に堪水する面積は,キーヤ川の方が広かった。湿地の分布は,キーヤ川沿いの氾濫原およびキーヤ川周辺の扇状地性の低位氾濫原で多い傾向にあった。
キーヤ川周辺の湿地は平坦でヤチボウズはほとんど見られず,イネ科の植物が優先するのに対して,ホル川はヤチボウズが60cm前後に良く発達しており,カヤツリグサ科の植物が優先し,ウスリータニシの殻も見られた。よって,ホル川の方が,キーヤ川に比べ,流量が多いと言える。
水質検査の結果,湿地に隣接したキーヤ川の河川水からは鉄が検出されたが,湿地に隣接していないキーヤ川の河川水,ホル川およびホル川周辺の湿地からは鉄は検出されなかった。また,キーヤ川近くの井戸からも検出されなかった。
これらの結果から,ウスリー川への鉄供給源の一つが,キーヤ川周辺の湿地である可能性が高い。
引用文献
Shiraiwa, T. 2005. The Amur Okhotsk Project, Report on Amur-Okhotsk Project, No.3, December 2005, Research Institute for Humanity and Nature, 1-2.
Murooka, M., Haruyama, S., Masuda, Y., Yamagata K., Kondoh, A.2007. Land Cover Change Detected by Satellite Data in the Agricultural Development Area of the Sanjiang Plain, China, Journal of Rural Planning, Vol.26, 197-202.
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