1.はじめに
近年, 都市のヒートアイランド研究など気象モデルの高解像度計算の一手段としてLESが注目されている. 気象分野におけるLES計算は, 主に理想計算を対象としてきたので, 地形の導入はなく地面は平坦であるものが多い. 地形を表現できるLESとして, 直交座標系を採用したRaasch and Schroter(2001)のモデルや, 地形に沿った座標系を用いたChow et al.(2006)のモデルなどがある. 後者の座標系の場合, 急峻な地形に対しては座標変換誤差が大きくなることが指摘されている. そこで, この研究では一般曲線座標系を導入し地形の効果を取り入れた. また, 大規模計算を想定した計算コードの並列化を行う.
2.モデル概要
基礎方程式は, 主に大気境界層を対象とすることからブジネスク近似方程式を採用する. 座標系は一般曲線座標系を採用した. 格子系はデカルト座標での物理量を格子中心, 反変速度を格子境界に定義するコロケーション格子を採用する. 数値計算アルゴリズムはSMAC法, 時間スキームは移流項に2次精度Adams- Bashforth法, 拡散項にCrank-Nicolson法, 空間スキームは2次精度中央差分を採用する. 圧力に関するPoisson方程式はBi-CGStab法で解く. これらの数値計算アルゴリズム, スキームについては, Iizuka and Kondo(2004)のモデルをベースにしている. サブグリットの乱流モデルは, 標準的なスマゴリンスキーモデルと, サブグリット乱流エネルギーからサブグリットの乱流拡散係数を求めるDeardorff(1980)のモデルを導入している. 側方境界条件は, 周期境界, 勾配0の条件, 放射境界条件のいずれか. 上部境界での重力波の反射を防ぐために, 領域上層にRayleigh damping 層を設ける. 摩擦係数はKlemp and Lilly(1978)に従う.
3.モデルの検証と急峻な地形に対する数値実験
構築したLESモデルの検証として, 中立大気境界層における流れ場, 大気成層を導入し地表面顕熱フラックスを与えた混合層発達の数値シミュレーションを行った. 開発したLESモデルにおいて, 乱流エネルギー収支の特徴がよく再現された. これらの結果, 力学, 乱流モデルが正しく計算されていることが示された. 次にLESとしての検証ではないが, 座標変換, 大気成層, 境界条件の検証のために, 山岳波の再現実験を行った. その結果, 山岳波の周期, パターン, 波面の方向など線形解とよく一致することが示された.
さらに, 山の傾斜角を急にして計算が安定に実行できるかを検証した. 傾斜角を45°, 51.3°, 59.7°と上げていった結果, 一般曲線座標で格子を切った場合はノイズを発生させることなく計算できた. z*座標系の場合, 傾斜がきつくなるほどノイズが目立つようになるが, 山の半値幅に対して10格子以上と高密度に格子を切ればノイズは目立たなくなった.
4. モデルの並列化
大規模演算によるメモリの確保, 計算時間の短縮のために, LESコードの並列化を行った. 並列化はMessage Passing Interface(MPI)を用い, 並列計算はT2K-Tsukubaを利用した. 1024万格子点で, 1024コアまでストロングスケーリングで並列化効率を測定した. その結果, 1024コアで並列化効率0.5程度得られることが分かった.
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