比較生理生化学
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29 巻, 3 号
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総説
  • 大西 憲幸, 久原 篤
    2012 年 29 巻 3 号 p. 112-120
    発行日: 2012/09/20
    公開日: 2012/10/17
    ジャーナル フリー
     感覚や記憶・学習といった高次神経活動を制御する神経情報処理の基本原理の解明は,現代神経科学の重要な課題である。神経情報処理の解明に向けたアプローチとして,わずか302個からなるシンプルな神経回路を持つ線虫Caenorhabditis elegansC. elegans)をモデル系とした解析が行われている。C. elegansは,シンプルな神経回路をもちいて,様々な外部刺激を感知し,多様な応答行動をとることができる。それらの行動が線虫から高等動物まで高度に保存された神経情報処理メカニズムにより制御されていることが次第に明らかとなってきている。これまで,線虫の神経系の解析は主に分子遺伝学的手法を用いて行われていたが,近年,神経活動のin vivo光学イメージング技術や神経活動をリモートコントロールできる最新の光技術の発達により,従来は困難であった生理学的解析も可能となっている。これらの技術を駆使した解析により,温度走性を制御する分子基盤や回路が明らかになっただけでなく,感覚ニューロンと介在ニューロンの間の情報処理における新しい概念が発見されてきた。本稿では,線虫の温度に対する応答行動に焦点をあて,主に分子生理学的解析により新たに発見された神経情報処理メカニズムについて,最新の論文を中心に概説する。
  • 岡田 龍一
    2012 年 29 巻 3 号 p. 121-130
    発行日: 2012/09/20
    公開日: 2012/10/17
    ジャーナル フリー
     ミツバチの採餌行動において,良質な餌場を発見したミツバチは巣に戻ってから翅を振動させながら尻を振って歩く。Karl von Frischは,この尻振りダンスと呼ばれる行動が巣の仲間に餌場の位置を伝えるコミュニケーションであることを発見した。尻振りダンスによってミツバチコロニーは良質の餌場を効率よく訪問し,急な採餌環境の変化であっても迅速に反応することができる。この行動に関する研究は,Frischが1973年にノーベル賞生理学医学賞を受賞した後40年経ても,今なお論文が発表され続けている「生きた」研究分野である。本稿では尻振りダンスに関する行動観察および実験,ダンス情報の符号化と復号化に関する神経メカニズム,コンピュータによる採餌行動のシミュレーションなどを,筆者らの研究を中心に情報の伝達に着目して,尻振りダンスに関してどれくらい明らかになっているのか,どのように今,解釈されているのかを紹介する。最後には尻振りダンスに関する最新のトピックスを挙げる。本稿によって,生態学的にも,行動学的にも,社会生物学的にも,進化学的にも,神経行動学的にも興味深い,この行動に多くの方が興味を持ってもらえれば幸いである。
技術ノート
  • 定本 久世, 高橋 宏暢
    2012 年 29 巻 3 号 p. 131-134
    発行日: 2012/09/20
    公開日: 2012/10/17
    ジャーナル フリー
     本技術ノートでは,次世代シーケンサーを用いた非モデル動物の全トランスクリプトーム解析について説明する。これまで,非モデル動物のように参照となるゲノムDNA情報がない場合,次世代シーケンサーの配列データを貼り合わせて長い配列情報を得ることが難しかった。また,代表機種であるIllumina社シーケンサーでは,他社機種に比べて安価で大量の配列データが得られるものの,シーケンスデータの配列長が短い。これら技術,費用の両問題により,次世代シーケンサーによる非モデル動物のトランスクリプトーム解析はなかなか進んでこなかった。最近になり,トランスクリプトームデータ解析に特化した,参照配列を必要としない配列貼り合わせ(de novo assembly)プログラムが複数発表されている。我々は,Illumina社シーケンサーとこれらのプログラムを用いて非モデル動物組織のde novoシーケンス,トランスクリプトーム解析を行い,良好な結果を得た。これらの結果を含めて一連のde novoトランスクリプトーム解析手法を紹介したい。
講義実況中継
  • 酒井 正樹
    2012 年 29 巻 3 号 p. 135-150
    発行日: 2012/09/20
    公開日: 2012/10/17
    ジャーナル フリー
     今回はニューロンにおける活動電位の伝導をとりあげる。ここでいう伝導とは,軸索起始部で発生した活動電位が,減衰することなく高速で軸索を伝わって行くことである。伝導のしくみについては,活動電位のしくみがわかっておれば,それなりに理解できる。ただし,十分納得しようとすると実はそれほど簡単ではない。それは,伝導には静止電位や活動電位であまり問題にならなかった空間という要素があるからだ。活動電位の発生では,電位変化は球形の細胞膜全域で同時均等に起こっているものとして扱えた。だから,電位の時間的変化だけに注目しておればそれでよかった。また,イオンの電気的作用についてみても,細胞膜を挟んだ近接領域おそらくナノメータ(10–9m)オーダーの範囲でよかった。これに対し,伝導では活動電位の空間的ひろがりを考えねばならない。そのひろがりは,細い軸索の長軸方向に沿ってミリメートルからセンチメートルオーダーにもなる。そして,そのひろがりにおける電位の時間的変化が問題となるのである。このように時間と空間という2つのパラメーターが同居していると,一方のことを考えていると他方のことを無視してしまいやすい。また,伝導においては,電位の変化速度も問題になってくる。さらに,電流の速度と,電流を運ぶ荷電体の速度は別物であるという“電気の常識”も知っておく必要がある。ここでは,前2回の講義を受けているとの前提で話をすすめていくが,一般解説書にあるような事実の紹介はなるべく避けてイメージによる直感的理解をめざす。今回も,コラムについては読みとばしていただいて結構である。
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