比較生理生化学
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37 巻, 3 号
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総説
  • 山口 和晃, 工樂 樹洋
    原稿種別: 総説
    2020 年 37 巻 3 号 p. 170-179
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    全ゲノム配列情報が整備された生物種が増えてきたが,脊椎動物の中でとくに板鰓類(サメ・エイ類)ではその動きが大きく停滞していた。板鰓類は軟骨魚類の大部分を占め,約1,200種と種数では硬骨魚類に到底及ばないものの,約4億年という哺乳類や鳥類とは比べ物にならない長い時間をかけて地球上の生態系に定着した系統である。筆者らは,水族館との連携により試料を確保し,DNA シークエンスデータの取得および解析の全工程を最適化することにより,サメ3種の全ゲノム情報を読み取り,多面的な解析を行った。全ゲノム情報に基づいて遺伝子の有無を論じる際,その完成度が信頼性を左右する。また,同定した遺伝子について生物種間の対応関係を把握するには,分子系統解析によりオーソロジーを判定する必要がある。こういった点に留意してオプシン遺伝子を調べたところ,サメ類は視覚への依存度が低く,ロドプシン以外の多くのオプシン遺伝子レパートリを失ったことが明らかとなった。ロドプシンの吸収スペクトルの分光測定によって,深海に生息するサメのロドプシンは海水中で減衰しにくい480 nm 付近の波長の光を最も効率良く受容する性質をもつ可能性が示された。 今後,生体組織試料に依存しないこういった手法が,他の希少海棲動物の生態を明らかにする助けになるかもしれない。

  • 志賀 向子
    原稿種別: 総説
    2020 年 37 巻 3 号 p. 180-188
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    概倍日リズムと呼ばれるおよそ2日周期のリズムは,これまでヒトや蚊で報告されており,このリズムは人工的な環境下で体内の概日時計が脱同調することにより生じると考えられてきた。一方,オオクロコガネでは,野外において成虫の出現やフェロモン腺の大きさに2日の周期性がみられる。本稿では,オオクロコガネの概倍日活動リズムを紹介し,その生理機構について議論する。野外で標識再捕実験を行った結果,オオクロコガネ成虫は同じ木にほぼ2日毎に繰り返し出現することがわかった。実験室の明暗条件では2日毎の夜に活動し,そのリズムは恒暗条件において約48時間周期で自由継続した。これより,オオクロコガネは明瞭な概倍日リズムを持って活動することがわかった。 また,光パルスに対する位相反応から,概倍日リズムは概日時計を使って形成されると考えられた。さらに,脳の微小破壊により,視葉内の概日時計と脳間部に存在する一部の細胞群が概倍日リズムの形成に関わると考えられた。オオクロコガネは,おそらく概日活動リズム形成にかかわる神経回路を改変して概倍日リズムを形成しており,そこには概日時計の周期を2倍にするしくみがあると考えられる。

  • 向井 秀仁
    原稿種別: 総説
    2020 年 37 巻 3 号 p. 189-196
    発行日: 2020/12/01
    公開日: 2020/12/24
    ジャーナル フリー

    マイトクリプタイドは,自然免疫系において重要な役割を担っている好中球を活性化する一群の新規生理活性ペプチドです。そしてこれらマイトクリプタイドは,ミトコンドリアタンパク質の生合成ならびに分解・代謝にともなって同時に生成されるペプチド群であることも明らかとなっています。すでに最初のマイトクリプタイドの発見から20 年以上の月日が流れましたが,最近の研究で,ようやくこのマイトクリプタイドが果たす生理的ならびに病態生理学的機能の実像が,おぼろげながら見えてきました。すなわちマイトクリプタイドは,当初,想像もつかなかったほど多様な生体防御反応において重要な役割を担っている可能性が明らかになりつつあります。本稿では,我々が世界に先駆けて発見した,タンパク質構造に隠された生理活性ペプチドであるマイトクリプタイドについて,それらの発見と発見に至る経緯,それらによる好中球活性化機序,さらにはそれらが形づくる新しい生体防御機構について概説します。

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