比較生理生化学
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35 巻 , 3 号
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総説
  • 濵中 良隆
    2018 年 35 巻 3 号 p. 140-149
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー

    動物は環境シグナルから季節の到来を知り,季節に応じた生活史を形成する。環境シグナルの中でも,日長(光周期)は年ごとの変動がなく,多くの生物が光周期を使って成長や繁殖の時期を調節している。このような光周期に対する生物の反応は光周性と呼ばれる。ルリキンバエはクロバエ科に属する体長約1cmの大型のハエで,日本では青森県や北海道といった高緯度地方に生息する。本種の成虫休眠は秋の短日と低温によって誘導される。休眠に入った成虫は雪の下の落ち葉の隙間などに身を潜めて冬を越すと考えられており,北国の厳冬を生き抜いた個体だけが翌年の春先〜初夏に繁殖して子孫を残す。これまでの研究によって,卵巣発達にみられる光周性に重要な光受容器(複眼の視細胞),内分泌器官(アラタ体),脳内神経分泌細胞(PIニューロンとPLニューロン)に関する知見が蓄積している。さらに,概日歩行活動リズムを駆動する概日時計ニューロン(s-LNv)が本種の光周性に重要な役割を果たすこと,そしてs-LNvを含む概日時計ニューロン群(LNv)が休眠誘導に重要なPLニューロンと神経接続することが,比較的最近の研究によって明らかとなった。また,脳内での概日時計遺伝子periodの発現パターンやLNvでのPERIODの細胞内局在パターンが,光周期条件によって変化することが示されている。複眼で受容した光情報はLNvで長日あるいは短日といった光周期の情報へと変換されている可能性が高い。LNvと神経接続するPLニューロンはLNvからの短日情報に基づいて電気生理学的特性を切り替え,休眠を誘導すると考えられる。本稿では,非モデル生物であるルリキンバエに焦点を当て,昆虫の光周性機構について解説する。

  • 後藤 彩子
    2018 年 35 巻 3 号 p. 150-157
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー

    社会性膜翅目昆虫(アリ,ハチ)では,女王は羽化後まもない時期にしか交尾しないため,この時に受け取った精子を体内の受精嚢という袋状の構造の中に寿命が続く限り貯蔵する。アリ科の多くの種の女王の寿命は10年以上と,昆虫としては例外的に長いため,精子貯蔵期間も極端に長い。他のハチ類と比較して,アリ科の受精嚢は非常に巨大で構造も特殊であることから,精子貯蔵に重要な機能をもっていると予想できる。女王アリの受精嚢内に貯蔵されている精子は不動化されていることから,精子は代謝が抑えられ,休眠状態を保っていると考えられる。貯蔵後5年経過した精子でも,受精嚢の外に出すとべん毛運動をはじめることから,核が収納されている頭部のみならず尾部に到るまで,女王は精子の機能を損なうことなく貯蔵していると言える。アリの精子形態は他の種と大きな差は見られないものの,酸化されにくさなどの細胞学的な性質は全くの不明であるため,今後の研究が進むことを期待している。また,受精嚢で高発現している遺伝子も特定されており,精子貯蔵に関与すると予想していた抗酸化酵素や受精嚢内環境に影響するイオンや糖のトランスポーターをコードする遺伝子のほか,具体的な機能は不明だが,発現量が極めて多い遺伝子も見つかった。今後はこれらの分子がどのように精子の生理状態や生存に影響するかを明らかにする必要がある。

  • 網田 英敏, 彦坂 興秀
    2018 年 35 巻 3 号 p. 158-167
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー

    たくさんのものの中から自分の欲しい餌をすばやく見つけることは動物にとって重要なスキルである。餌の探索に時間をかけると,他個体に奪われたり,自分が捕食されるリスクが高まるからである。そのため,動物は採餌経験をもとに好ましい餌をすばやく見つける能力を備えている。アカゲザルはヒトと同様に視覚を用いて採餌をしているため,視覚手がかり刺激と報酬との関係性(連合)をすみやかに学習することができる。連合学習を繰り返し経験させると,サルは報酬と結びついた刺激に対してすばやく眼球運動(サッケード)を行い,複数の刺激のなかから報酬と結びついた刺激を見つけ出せるようになる。私たちの研究グループは,大脳基底核回路がこの探索スキルに重要であることを見つけた。大脳基底核にあるニューロン群は,報酬と連合した刺激をそうでない刺激と区別して表現していた。さらに,大脳基底核にある直接路と間接路を光遺伝学や薬理学的手法で操作することによって,サルの眼球運動を変えることができた。一連の研究から,直接路は「良いもの」に目を向けるために,間接路は「悪いもの」を見ないようにするためにそれぞれ協調して働いていることがわかった。

技術ノート
  • 冨菜 雄介, Daniel A. WAGENAAR
    2018 年 35 巻 3 号 p. 168-177
    発行日: 2018/12/25
    公開日: 2019/01/21
    ジャーナル フリー

    本技術ノートでは,2台の蛍光顕微鏡を上下に組み合わせて作製した両側型顕微鏡を利用することで可能となった網羅的膜電位イメージング法を紹介する。材料はチスイビル類(医用ビル; Hirudo verbana)の体節神経節である。ヒルの体節神経節はその背腹表面の2層に総計約400個のニューロンの細胞体が分布する。単離した神経節の背側と腹側に分布するニューロン群を膜電位感受性色素で染色し,この2層から同時に膜電位イメージングする手法(両側膜電位イメージング法)を適用した。また,新規な膜電位感受性色素VoltageFluorを用いることで,カルシウムイメージングでは検出の困難な閾値下脱分極性シグナルや過分極性シグナルを良好なS/N比で記録することが可能となった。今後の課題は,褪色を避けながら長時間イメージングを行うこと,セミインタクト標本において膜電位イメージングを行うこと等である。

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